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それはまるで、ラスボス戦のような……

凄い絶壁でしたね

 椎名からは、死者の迷宮(ミシュロンド)の最奥は谷底だと聞いていた。

 だが辿り着いたその場所は、予想通りだったと言うべきなのか、それとも聞いていた話とは違うと言うべきなのか、そんな壮絶な風景だった。


 まず、行き止まりと聞いていた谷底が無くなっていた。

 そこには、谷()ではなく険しい谷が広がっていたのだ。

 分かり易く言うならば、谷底だった場所が崩壊でもしたかのようになっていた。


 だがしかし、何故か一ヵ所だけは崩壊することなく残っていた。

 崖と崖の間に、学校の校庭ぐらいの広さの足場が残っていた。それはまるで、ゲームのラスボス戦のときの舞台(ステージ)のようになっていた。


 横からの見た目は、深い谷底に超高層ビルが建っているような状態。

 そして超高層ビルの屋上のような足場には、細い道が続いており、俺たちはその細い道を渡り、屋上のような足場へと向かった。


 辿り着いた足場には、他に続いている道などはなく行き止まりとなっていた。

 

「まいったな、魔石が見当たらねえ」


 俺は辺りを見回しながらそう独りごちる。

 精神の宿った魔石があるのならば、そこには幽霊のように初代勇者の仲間が浮かび上がっているはずだった。

 だが、その幽霊の姿はどこにも見えなかった。


「うん、いないね……一応探してみよう。もう精神が維持出来ていないのかもしれない」

「……もしくは、魔石魔物化してどっかに行ったか」

「ごめん、ボクが斬ってしまったから……」


「椎名様、落ち込むのは後にしましょう。いまは魔石を探すのです」

「はい」


 俺たちは地面に魔石が落ちていないか探す。もし見つからなければ、屋上のような足場から下へと降りる必要がある。

 そのための長いロープは用意してあるが、魔物が襲ってくるかもしれない場所を、ロープを伝って降下するというのは非常に危険だ。

 出来ることならそれは避けたい。そんな思いで精神の宿った魔石を探す。


「無いな……ってか、ここって何か落ち着かねえな」 

「お、陣内君もかい? 僕もここは何故か落ち着かないね。何かラスボスとか上から降りて来そうな感じで……」


 そう言ってハーティは見上げた。

 俺もそれに釣られて見上げる。


 ハーティが言うように、本当にラスボスなどが舞い降りて来そうな場所だった。

 四方は切り立った崖で、通ってきた細い道だけが唯一の道。

 これがゲームなどであれば、あの細い道が崩れて戻れなくなり、真っ暗な上空からラスボスが降りてくるか、もしくは谷底から何かが這い上がって来るかの二択だ。


 そんなテンプレ(ベタ)場所(シチュエーション)


「ラスボスとか来そうな場所だな~」


 小山が少し離れた場所から、俺たちと同じ感想を口にする。

 この異世界(イセカイ)人である冒険者とサポーターたちは、小山の発言にイマイチピンと来ていない様子。


「あの、ご主人様。上手くご説明出来ないのですが、何か良くないモノが……沈澱していると申しますか……」

「へ? 何か良くないモノが?」


「はい、明確に気配を感じる訳ではないのですが……」

「陽一さん。私も同じようなものを感じます。何か重いものが横たわっているような……そんな感じがします」


 二人の話を聞いて、俺たちはすぐに辺りを調べ直した。

 だが何も見つからなかった。

 しかしラティや言葉(ことのは)以外の者も、ここは淀んでいると言った。


 パッと頭に浮かんだのは、よくある霊感などのオカルト話。

 ここは丁度そういった場所だ。そういったことが無い訳ではない、むしろある方だろう。あれだけ霊体が飛んでいたのだから。


 俺たちはすぐに検証した。浄化によってそれが払えるか。

 あと、木刀でもそれを払うことが出来るのかと検証した。




「あの、ご主人様。淀んでいたモノが薄まった気がします。特に世界樹の木刀で払われた所が」

「陽一さん、私も同じです。重さがなくなったというべきなのでしょうか、息をするのが楽になった気もします」

「あ、オラも! オラも楽になった気がするっ!」


 小山はどうでも良いが、ラティと言葉(ことのは)の言葉に確信する。

 このラスボス戦のような場所には、何かが絶対にあると。

 足場をよく見てみれば、いままで通ってきた石畳のような素材ではなく、とても頑強そうな岩肌だった。

 

 試しに木刀で突いてみたが、その岩肌は少しも欠けなかった。


「ハーティさん、どう思います?」

「そうだねぇ…………ちょっと思ったんだけど、魔石を置いてみないかい?」

「え? それは少し危険なのでは?」


「うん、僕もそう思うよ。だけど、ちょっとある仮説が浮かんでね。みんな聞いてくれるかい――」


 ハーティの立てた仮説とは、精神の宿った魔石が何かしらの原因があって霧散し、形のない霧状のような状態となって漂っているのではないかというモノだった。

 だからここは重苦しく感じるのではないかと、ハーティはそう語った。


 言われてみるとそうかもしれないと感じた。

 しかし【索敵】持ちは、ラティや言葉(ことのは)の言う、淀んでいて重い何かを察知出来ないと言っていた。 


 ならば【索敵】では引っ掛からない何かがある。

 だからここに魔石を置いてみれば、その何かが魔石に入り込んで形を得るのではないかと、ハーティはそう言って仮説の続きを話した。

 

 俺はそれを聞いて――


「ハーティさん、やっぱ危険な賭けなんじゃ?」


 ハーティの仮説を否定するつもりはない。

 正直なところ、その仮説は正しいと思う。ここには間違いなく何かが漂っている。

 実際に木刀で見えない何かを払うことが出来たのだから。


 だがしかし、魔石を置くというのは軽率な気がした。

 勘が告げている、きっとヤバイのが湧くと。

 しかしその一方で、魔石から湧かすことで何かが判る気がした。


「そうですね、陣内君の言うように少し危険な気がしますね。何か嫌な予感がして……」


 俺の意見に椎名も同意する。

 椎名の方も、俺と同じで何か良くないモノを感じている様子。


「うん、だけど手がかりが無い状況だからね。打てる手は打ちたい」

「んん? オラは別に良いと思うけど? こんだけのメンツがいるんだから何とかなるさ。それに、何が湧いてもオラが押さえてやるさぁ」

「小山君、その考え方は危険だよ。もしかしたら、あの時の魔王のようなモノが湧いたりするかもしれないんだよ? 正直、ボクはそんな気がするんだ……」


「ひぃっ!」


 椎名の言葉を聞いて、小山は怯えながら自身の左腕を抱え込んだ。

 身体を丸めて顔は酷く引きつっている。


 ( まあ、分からんでもないか…… )


 小山は、魔王(ユグトレント)に腕を2回ほど潰されている。

 一回目は腕を切断され、二回目は叩き潰されてグチャグチャになっていた。

 あれはトラウマになってもおかしくないレベル。

 そんな酷い怪我だったはずだが――


「ぐううううっ、こ、今度も押さえてやるっ。何度だってオラが押さえて止めてやるさ! 魔王だろうがなんだろうが!」

「小山君……」

「凄いね、彼は」

「……小山先輩」


 無駄に熱さを見せる勇者小山。

 己を鼓舞して、震える足で踏ん張っている。


「ほう、あの小山清十郎が……」

「……秋音」


「噂には聞いていたが……ふむ、それなりの修羅場は潜ってきたということか。あの時のアイツは本物ということか……」


 いつの間にか俺の隣に来ていた秋音は、感情は一切見せず、見極めるような視線で勇者小山を見ていた。

 

 ( コイツ…… )



        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「じゃあ置くよ?」

「はい」

「各自配置に就け! サポーターの撤退は済んだか?」

「おうよ、全員あっちに行ってもらった」


「よし、置くぞ」


 足場の中央に、ひとつの魔石が置かれる。


 切っ掛けは小山だった。

 小山が無駄にやる気を見せ、それに感化された冒険者たちが、ハーティの提案である魔石を置くことを支持したのだ。


 勇者からは低評価な小山だが、冒険者たちからは高評価。

 そしてそんな小山の熱意に押され、なんと椎名までも同意に回った。 

 こうなってしまうともう止められず、嫌な予感がするという主張だけではどうにもならなくなった。


 仮にヤバイのが湧いても倒せば良いという流れ。

 そもそもハーティの仮説では、置いた魔石に集まるのは、霧散しているであろう初代勇者の仲間の精神。


 鬼が出るか蛇が出るか、そういってハーティが魔石を置くと――


「なっ!?」

「早いっ、もう始まったのか!!」

「わわわわ――」


「ふと思ったんですけど陣内先輩。『鬼が出るか蛇が出るか』だと、不穏なモノしか湧かないってことですよね?」

「冷静に言ってる場合か霧島、いいから構えろ! 湧くぞ」


 魔石を置いた瞬間、周囲の空気が魔石に殺到でもするかのように集まった。

 陽炎のように景色を歪ませながら、何かが魔石に集結し――


「うおっ、なんだ? デカい傘? いや、クラゲ?」

「魔石魔物なのか……?」


 小山は分かり易い感想を口にし、ハーティは冷静に分析を試みる。

 突如出現したのは、白いクラゲのような姿をした魔物だった。

 霊体の魔物らしく、半透明な姿で宙をふわふわと浮いている。


――おいおいおいおいおいっ、

 なんかアレって、アイツにすげぇ似てるよな?

 ってことはもしかして……



 湧いた魔物の姿は、ある魔石魔物を俺に思い出させた。

 垂れ下がった触手のような長い紐状のモノが、あの魔石魔物を彷彿させる。


 俺は白い姿と、その長い触手を見て、ある種の確信を得て声を張り上げた。


「全員注意しろ! そいつは魔物を喚ぶぞ! ノトスの深淵迷宮(ディープダンジョン)にいる白いケーキ野郎と同種だ!」


 俺の発した警告と同時に、無数の死体魔物(グール)が一斉に湧いたのだった。


 挿絵(By みてみん)

このクールビューティーさんが実はポンコツは……

思わず胸が熱くなりますね。

クリックするとアップで見れるはずです。




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