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凄腕冒険者ルーハ

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、ご指摘や誤字なども……

 死者の迷宮(ミシュロンド)の探索は順調だった。

 このダンションに湧く魔物は大体が、霊体タイプか脆い身体の死体魔物(グール)


 霊体タイプの通常攻撃が効き難い点は厄介だが、魔物の攻撃力と防御力は低く、他のダンジョンよりも魔物の脅威度は格段に低かった。


 そして俺たちは高レベル者。

 ハッキリと言って、このダンジョンで恐ろしいのは滑落事故の方だった。

 

 霊体タイプは神出鬼没で奇抜納刀。 

 【索敵】などで事前に分かっていれば大したことはないが、そうでない場合は、いきなり足下から湧き出る魔物(霊体)に驚いてしまう。


 そしてそういった時に、驚いて後ろに下がったりなどをして足を踏み外し、崖や橋から落ちてしまうそうだ。

 

 当然俺たちはそれを未然に防ぐため、索敵に気を遣った。

 疲れて集中力が切れてしまわぬように、しっかりとローテーションも組んだ。

 椎名もそうだが、ハーティもこの死者の迷宮で育った冒険者。彼ら経験者のおかげで探索は驚くほど順調に進み、何の問題もなく野営の時間を迎えた。


 適度な場所を見つけ、周囲を浄化してから結界を張り、索敵持ちのサポーターが見張りにつく。


 食事の用意が出来るまでの間、俺は設置された簡易天幕の中で横になった。

 本当はラティとの日課をこなしたかった。そして彼女に、【蒼狼】(フェンリル)持ちが魔王化したことがあることを話しておきたかった。


 だがタイミング悪く、三雲に連れていかれてしまった。 


 葉月が不在のためか、女性陣は三雲が仕切っていた。

 そして男性陣抜きでの話があるようで、女性だけを集めていた。

 きっと風呂などの取り決めでも話し合っているのだろう。


 出来れば日課をこなしたいところだが、三雲がへそを曲げると少々厄介。

 先日の、エロジーを釣るために言葉(ことのは)を囮にした件があるので、あまり強く言えずラティさんはドナドナされていった。


 今日の日課は諦めるしかない。そう思っていると――


「陣内陽一。お前、勇者たちに話したな」

「……秋音か?」


 天幕の外から、感情の欠片も感じられない声で尋ねられた。

 

「……中に入ってこい。そこだと目立つだろ」

「わかった」


 秋音ハルは、俺が横になっている天幕へと入ってきた。

 俺は身体を起こして彼女を迎える。


 俺からの視点では秋音は女性だが、他の者からは細身の青年に見えるはず。

 中に招いても他の連中から勘違いされることはない。


「やっぱ気付かれたか」

「ああ、小山清十郎が挨拶をする振りをして胸を触ってきたからな」


「なるほど、アイツが胸を――へ? え?」

「だから小山清十郎が、挨拶をする振りをして触ってきた」



 閑話休題(それからそれから)



「えっと、マジでスマン。それは……悪かった」


 俺は秋音ハルに謝罪した。そして小山をぶん殴ることを決めた。

 グーで数発いく予定だ。


「まあ、別にいい。お陰で早く気が付けたからな」

「だが……」


 あの小山(馬鹿)は、サポーターのルーハが秋音ハルだと聞いて、ある馬鹿な事を行っていた。

 それは、細身の青年であるルーハが、本当に同級生の秋音ハルなのかと、胸を触って確認しようとしたと言うのだ。


 実際に、革の胸当ての上から触れられたらしい。

 『どう、頑張っているかい?』と、気さくに声を掛ける振りをして、漫才のツッコミのように胸元をトンと叩いたそうだ。


 男が相手なら別に珍しくない行動だ。

 だから秋音は、最初はあまり違和感を覚えなかったらしい。

 だが次の行動は、とても看過できないモノだったそうだ。


 その行動とは、革の胸当てがズレているねと言って、革の胸当てを直す振りをして、手を中に入れてこようとしたらしい。


 これも全くない訳でもない。

 仲間同士で装備品をチェックするなどよくある事だ。


 だがここで、秋音は小山の指先の動きが気になり身を引いたそうだ。

 そしてその時に、とても残念そうな小山の顔を見て、俺が正体をバラしたことに気付いたのだという。


 あの馬鹿は何をやっているんだと思う。

 思い返してみると、伊吹のときも鷲掴みにいった。

 

「本当に……スマン」


 直接俺がやった訳ではないが、何とも言えない申し訳なさから、俺は再度秋音ハルに頭を下げた。

 俺はあの馬鹿の行動力を舐めていた。


「陣内陽一、私は別にいいと言ったが? それにこの程度のことだ」

「――なっ」

  

 秋音は、俺の右手を取ると自身の胸元に引き寄せた。

 俺の右手が秋音の革の胸当てに触れる。

 当然、革は硬く胸の柔らかさなど感じない。しかし胸に触れているという気まずさから、俺はすぐに手を引き戻した。


「お、お前は突然なにをっ」

「ふむ、別に大したことではないと証明したかっただけなのだが……何とも初心(うぶ)な反応を見せるのだな」


「――あったりまえだろっ、いきなりでびっくりするわっ」

「ん? お前は葉月や言葉(ことのは)と乳繰りあっているのだろ? 何を今さら――」


「うぉい! とんでもねえこと言うな。何で俺がアイツらと……」

「ほう? 陣内陽一、お前は気付いていないとでも言うつもりか? 彼女らの好意に、それに気付いていないとでも言うつもりなのか?」


「――ッ」

「…………ふむ、気付いてはいると……言うことか」


 言葉に詰まる。

 肯定も否定もしてはいけない。

 何か言ってしまえばそれは言質となる。そう思えた。

 だから俺は――


「あ~~、小山がやらかしたことの()びだ。お前が気になっているコレのことを教える」

「ほう、世界樹の木刀か」


 俺は、話の流れを変えるために木刀を秋音に見せた。

 そもそも、元から木刀のことは秋音に話すつもりだった。

 秋音ハルは世界樹の木刀に興味を示していた。だから何か下手なことをされる前に、俺以外の者では木刀を碌に持てないことを教えるつもりだったのだ。


「持ってみろ、秋音。両手でしっかりと持てよ」

「……わかった」


 俺は木刀を秋音に手渡す。


「――ぬっ!? これは」

「ああ、どうやら俺以外は認めないって感じらしい」


「なるほど、ユーザー認証みたいなモノがあるのか。私ですら持つことが精一杯とは……。普通の者では持つことは出来ぬな」

「そうらしいな。あと、その木刀が魔王を消滅させられる唯一の物らしい」


「……初代勇者の話か」

「そんな感じだ。だから――」


「分かっている。これに手を出すような真似はしない。そもそも、これを持っては動けんからな」


 秋音は、そう言って両手を使って俺に木刀を返してきた。

 俺はそれを片手で軽々しく受け取る。

 両手ですらキツそうだった秋音は、それを見て少しだけ目を見開く。


「ふむ、STRにはそこそこ自信があったのだがな」

「ん? 力とかそういったモンで持つ訳じゃねぇからな。――そういや、秋音ってどこでレベルを上げてたんだ? お前と会ったことって……あれ? ないか?」


「一度すれ違った程度だな。それと、レベルは中央の地下迷宮ダンジョンで上げていた」

「中央……って」


――あっ、そういや全然行ってないな、

 最後に居たのって……げっ、町中の冒険者に追い回された時かっ?

 そうか、あれから一度も行ってないのか俺は…… 



「あのダンジョンは丁度良かったからな。どこのパーティも欠員が出ていて、どのパーティにでも入れた。一ヵ所のパーティに留まると……恩恵(ギフト)の効果が強くてな。だからと言って防衛戦だけでは効率が悪くてな」

「あ~~ぁ、なるほど。そういうことか」


 話の流れからある程度察することが出来た。

 秋音は、自身が勇者であることを隠してパーティに参加していたのだ。

 姿はいくらでも偽れるかもしれないが、恩恵によってパーティメンバーが驚異的な成長をしてしまっては不審に思われる。

 

 そうなると一ヵ所のパーティやアライアンスに留まるのはよろしくない。

 だからパーティを転々と渡り歩いていたのだろう。

 ノトスでは半固定化しているパーティばかり、他でも似たようなモノなのだろう。


 そしてそういった点では、中央の地下迷宮ダンジョンは都合が良かったはず。

 

 だがここで、ひとつ引っ掛かることがあった。

 俺はそれとなくそれを尋ねた。


「なあ、どのパーティも欠員が出てたって言ってたけど、そんなに出てたのか? パーティの解散とかはよくあったみたいだけど」

「ふむ、そうか。陣内陽一、お前は知らないのだな。お前達が去った後のルリガミンの町のことを……」


「へ……?」


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