スーパーサポーター。
とうっ
例のネタ、秀逸でしたのでちょっと使わせて頂きました。
新エウロス公爵指揮の下、ダンジョン攻略への準備は順調に進んだ。
エウロス領自慢の黒エウ牛肉や、高価な神水までも用意される手厚いバックアップ体制。
あと二日もすれば、東のダンジョン、死者の迷宮へと出発することが出来る。
俺は、その二日間をゆっくりと過ごすことにした。
これからまた暗い穴倉生活が待っているのだ、いま出来ることをやっておく。
具体的に言うと、いつもの日課をこなしていた。
「あ、あのっ、その様に覗き込まれると……あの」
「じ~~」
俺は、ラティの耳と尻尾を撫でつつ、見つめられて困っているラティの表情を堪能していた。
これはマイブームと言うべきか、最近俺は、ラティの困っている表情を見るのにハマっていた。
あまり良い趣味ではないと分かってはいるが、どうしても止められない。
とは言え、当然本気で困らせたい訳ではない。
ただ、普段はクールなラティさんが、頬を染めて困惑の表情を見せるというのは、何とも言えない、本当に何とも言えない悦を覚えた。
と、アホなことをやってはいるが、情報のすり合わせも行っていた。
これからダンジョンに潜るのであれば、このいつもの日課が行えなくなる。
油断なきよう、俺はラティと情報の共有をした。
まず、元エウロス公爵のこと。
ラティ曰く、最初から欲望の感情は強く出ていたそうだ。
なので、元エウロス公爵があんな事をやらかすことは予測出来なかったと話した。
要は、欲望の色が濃すぎたため、ラティの【心感】だと逆に読めなくなってしまったらしい。どれだけ欲望の色が濃かったのか少し気になるところだ。
そして俺はそれを聞いて、ある事をふと思い出した。
九代目勇者の仲間であり、幽霊となったイリスさんの言葉を思い出したのだ。
最初は普通だった。
だが最後の方は、貴族たち、勇者たちも暴走したと話していた。
あれは、今回の件のことを言っていたのだろう。
最初の頃はレベルが低かった。だが今は高レベル者。
CHRの値が最初の頃とは比べものにならない程高くなっている。
そしてその補正が掛かったためか、言葉がより魅力的に見えてしまったのだろう。
しかもあの北半球だ。あとちょっとで赤道といったドレスだった。
あのエロジジイは、公爵という権力によってそれなりの我を通していたはずだ。だから我慢が出来なかったのだろう。
そしてその結果、その地位を追いやられた。
一応分からないでもないが、決して同情はしない。
自制が出来なかったあの馬鹿が悪いのだ。
俺は、ラティの獣耳を食むりながらそう思った。
キチンと自制が効かないヤツが悪いのだと。
勇者とは本当に厄介な存在だ。
初代勇者は、召喚された勇者たちが困らないように配慮したと言っていた。
確かに不幸になる者は少ないのかもしれないが、それでもやはりと思うことが多い。
「あとは……三雲と小山か」
「あの、仕方ない事だと思うのですが……」
俺のつぶやきにラティが反応した。
そしてさり気なく頭を動かし、俺から自身の耳を遠ざける。
「それはそうなんだけど。まあ、簡単には納得出来ないか。――特に三雲は」
勇者三雲は拗ねてしまっていた。
原因は、言葉を囮にした作戦を黙っていたこと。
三雲からすれば、これはとても面白くない話だった。
出来れば事前に話しておきたかった。だがしかし、話していたら三雲は言葉を囮にする作戦を止めていただろう。
俺と椎名が張っているとはいえ、自分の親友が囮にされることを許すタイプではない。
こちらがどんなに理論的に話をしたとしても、三雲は感情論で反対するはずだ。
これは決して悪いことではないし、俺もそれを良しとするタイプだ。
だから三雲が拗ねる理由が解ってしまう。
「言葉に何とかなだめてもらうしかねえな」
「はい、そうですねぇ……」
俺の言葉にラティが同意する。
だが俺たちは知っている、こういった時は言葉よりも――
――アイツなら……
いや、何でもかんでも頼るのは良くないな。
あっちの方がもっと大変だろうし、こっちで何とか……
あっ、そうだ!!
「ハーティさんに丸投げすればイイんだ!――ん?」
「……」
よく考えてみたら、適任者がいたことに気が付いた。
ハーティの所に行こうかと思った時、ドタドタと複数の足音が聞こえてきた。
そしてその足音は、俺の部屋の前で止まり――
「陽一っ! 今日はあたしと――っ! アンタらナニやってんのよ!」
「うわ~ん、陽一くん。エロスちゃんを、エロスちゃんって呼んだら怒られたよ」
「陣内先輩、あの話をもう少し詳しく聞かせてください」
面倒が扉を開けてジェットストリームでやってきた。
どうやら今日の日課はここで終了の様子。
俺は取り敢えず、小山を踏み台にしてその場から離脱した。
早乙女はラティに任し、小山はウザいのでスルー。
霧島の方は、椎名の話を聞くフリをして俺のことも尋ねてくるから逃げておく。
俺は三人を振り切り、三雲のことを伝えるために、ハーティの下へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから二日後。
俺たちは中庭に集まっていた。予定では今日出発。
「これが今回のサポーターか」
「うん、そのようだね。あ、身元はしっかりしているそうだよ?」
俺とハーティは、今回の参加者を確認していた。
今回の探索に同行するサポーターは、エウロス側が用意してくれた。
サポーターへの報酬も、エウロス側が支払ってくれてボレアス並の好待遇。
だがしかし、またヴォルケンのようなヤツが交ざっていては困る。
変なヤツが交ざっていないかと、俺とハーティはチェックしていた。
本来ならば自分たちで集めるのが理想。
しかし新公爵様が張り切ってしまい、自分たちが集めると言い出した。
断っては角が立つので、俺たちは新公爵の最初の仕事として任せることにした。
だが当然、全て任せるのはさすがにマズイ。
俺たちは補佐として、椎名をエウロス側に差し出しておいた。
なのでサポーターの人選には一応椎名が関わっている。
因みに、その件で嫉妬した小山が、勇者なのに嫉妬組へと入隊しやがった。
「――取り敢えず、変なのは交ざっていないかな? 一応は平気そうだ」
「よかった」
不安が完全になくなる訳ではないが、エウロス出身のハーティから見ても、ブラックリストに入っている者はいないようだ。
ラティからも、明確な害意はないとの報告も受けている。
「じゃあ、このまま出発ですね、ハーティさん」
「うん、行けそうだね。……あとは、椎名君が解放されればだけど……」
俺とハーティは同時にある方向を見た。
視線の先では、椎名が一人の少女に迫られていた。
右手を両手で包み込まれ、上目遣いで見つめられている。
「ハーティさん。ちょっと面白いから、あのロリコンは置いていきますか?」
「……陣内君。彼は最奥まで行ったことがある貴重な経験者だよ? さすがに置いて行くって選択肢はないよ。冗談はそこまでにして、そろそろ椎名君を助けに行こう」
「へいへい、仕方ないから助けに――っ!!!」
「うん? どうしたんだい、陣内君?」
「い、いや、何でもない……ちょっと用事を思い出しました。椎名を頼みます」
「…………分かった」
俺は、あるサポーターに目で合図を送り、中庭から少し離れた建物の影へと向かった。そしてその建物の影でヤツを待つ。
「どうだったエルフの村は? もう知ったんだろ。あの話を」
「……てめえ、とんでもねえこと教えやがって。あんなモンを俺に背負わせんなよ。下手したらエルフ狩りが始まるぞ」
「ん、教えた? 勝手に自分で聞いたんだろ?」
「お前が言ったんだろっ! 西に行って聞いてみろってお前がっ!――つか、何でサポーターの中にお前が居んだよ! ”秋音ハル”」
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