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エロスと踊れぃ

レビューありがとうございますっ!

嬉しいイイイイイイ!!!


 夜会はつつがなく進行していった。

 主役である次期公爵の紹介が終わり、次はダンスタイムとなった。

 特に指示された訳でもないのに、ホールの中央から人が引いていき、踊ることが出来るスペースが出現した。


 そしてファーストダンスは誰が、そんな牽制に似た空気が広がる。

 俺とラティが、壁を背にしてそれを見守っていると、一人の少女が動いた。


「勇者シイナ様。私と踊って頂けませんか?」

「――ッ! いや、ボクの方から誘わせてもらうよ。――どうかボクと踊ってください、次期公爵様」


 『ハイ、ありがとうございます』と言って、片膝をついて差し出された椎名の手を取るエロス。


 最初からそういった手筈だったのか、エロスと椎名は共に中央へと歩む。

 そしてそれに追随するかのように、何組かのカップルも中央のスペースへと向かった。

 俺は、椎名はダンスが出来るのかと思って見ていると――


「ん?」


 椎名が俺に目で合図を送ってきた。

 目で示した先は言葉(ことのは)

 椎名は、自分の代わりに言葉(ことのは)を守れと目で言っていた。


「ラティ、後ろを頼む」

「はい、ご主人様」


 俺は、ラティと一緒に言葉(ことのは)の下へと向かう。

 

「……へぇ」


 俺たちが壁から離れた瞬間、警護の兵士たちが一瞬だが強張った。

 一体どれだけ注目されているのかと、そう思っていると、別の者からの視線も突き刺さる。


「ん? 何だあの連中は?」

「あの、ご主人様。たぶんですが……男爵連合の身内の方かと」


「ああ、なるほど……」


 明確な悪意という訳ではないが、何とも言いようのない視線。

 俺はとても複雑な視線をもらっていた。

 

 複雑な視線の理由は分かる。

 メークイン上級男爵のように、男爵連合の件を割り切れる者ばかりではないのだ。しかしだからと言って、あからさまな悪意をぶつけるのはマズイのだろう。

 

 あの一件の顛末を否定することは、勇者を否定することへと繋がる。

 少なくとも、”自害”という終わりで許されたのだ。

 だから複雑な顔をしているのだろう。


 俺はそれを察しながら警戒する。

 あの一件は、”勇者連合”が収めたことになっている。

 それなのに俺の方を見ていたということは、それなりの情報を得ているということ。


 まだそんなに出回っていないはずの情報なのに……。

 

 もしかするとメークインが話した可能性もあるが、あまり楽観視は出来ない。

 下手をすると、綾杉の件も掴んでいる危険性もある。


「そこまで馬鹿ばっかりじゃないってことか」

「あ、陽一さん」

「陽一、やっと来たのかよ」

「陣内先輩、後ろの方をお願いします」

 

 俺は『おう』と返事をして、言葉(ことのは)と早乙女の後ろにつく。

 彼女たちの前は霧島が守り、俺が後ろを守る。

 当然、横から来る者もいるが、それは俺たちが睨みつけて引いてもらう。


 お行儀が良いというべきか、それとも貴族のマナーなのか、余程の馬鹿でない限りはそれ以上やってくる者はいなかった。


 ただ、離れた場所からガン見しているヤツらは大勢いた。

 しかしこれは仕方ない。マジで仕方ないっ。


 何人かのチャレンジャーが、言葉(ことのは)と早乙女をダンスに誘いに来た。

 だがそれらは全て断る。

 一つを受ければ他も受けなくてならなくなる。

 マナー違反なのかもしれないが、本人が嫌がっているのだ。

 俺と霧島は防波堤役を全うする。

 

 そもそも、俺たちが要請されたのは夜会の参加というより、次期公爵との顔合わせ。そして次期公爵には勇者がついていると誤解させること。


 椎名がエロスと次の曲も踊っている。

 一応椎名はエウロス所属。

 その椎名の方からエロスを誘い、そして連続で踊っているのだ。

 やるべきことはやっている。


 ( これで問題ないな――ん? )


 三雲の方にもダンスの誘いが行っていた。

 どうすべきかと一瞬悩んだが、彼女は自分で断っていた。

 申し訳ないとは思うが、三雲は自身で守れるタイプなので任せる。


 小山の方は、三雲からの折檻の影響か、いまだに起動出来ていない。

 席に座ったまま呆けている。

 椎名とエロスのダンスを眺めたままなのが気になるが、アイツのことはもうほっておくことにする。



 そしてラティは、俺の背後を守り続けていた……。

 


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「陣内君、ちょっといいかい?」

「ん? 椎名……?」


 3回連続エロスと踊ってきた椎名が、戻ってくるなり俺に話し掛けてきた。

 その表情は、いつもの爽やかな笑みを浮かべているが、瞳の奥に怒りの炎の色がハッキリと見える。


 何かがあったと、容易に察することが出来る。

 椎名がチラリとエロスの方を見た。


「わかった。小山っ! コイツらの後ろを頼む。ラティ、あとを頼めるか?」

「はい、ご主人様」

「おうよっ、やっとオラの出番だな」


 俺は、小山に言葉(ことのは)たちのガードを頼み、ラティに小山が馬鹿なことをやらないようにと見張りを頼む。


「あの、ご主人様。最悪の場合は落としても?」

「構わん、酔って寝たってことにすればいい。やらかしそうだったら止めろ」

「えっ、陽一? どっか行くの?」


「すぐ戻る。言葉(ことのは)とここに居ろ。霧島も頼んだぞ」

「はい、陣内先輩。ごゆっくりどうぞ」


 霧島の妙な言い回しが気になったが、俺は煌びやかなホールを後にして、椎名と一緒にバルコニーへと消えた。


 しっかりと姫様から貰った髪飾りをチェックする。

 色は変わっておらず、周囲に誰かが姿を隠していないことを確認してから、椎名の話を聞く。


「椎名。で、何があった?」

「陣内君、実は――」



 ――――――――――――――――――――――――


  

 夜遅くまで続いた夜会は先ほど終わった。

 男は、ゆっくりと鍵を回し、小気味よい音を立てて錠を解く。


 誰にも見られぬよう部屋の中に忍び込む。

 

「…………」


 耳を澄まし周囲を探る男。

 物音一つしない部屋。

 男はホッと胸を撫で下ろすが、心臓の鼓動はあり得ない程脈打っていた。

 こんなに気持ちが昂ぶるのはいつ以来か、男はもう思い出せない程歳を重ねていた。少しだけ脚に震えが走っている。


 男は薄暗い部屋の中、目をこらして奥の扉の位置を確認する。

 その奥には彼女がいる。

 本当は諦めていた。手に入れるのは諦めたつもりだった。


 ある失態により、完全に消えてしまって諦めたはずだった。

 つい最近も、彼女たちを求め身を滅ぼした者が大勢出たと、そんな報告を受けたばかりだ。


 だから男は、諦めるつもりだった。

 手には入らない。そもそも手に入れようと思うこと自体が烏滸(おこ)がましい。


 それなのに。理解しているのに。分かっているのに。どれだけ無謀なことかと知っているのに、諦めることが出来なかった。


 以前よりも圧倒的に輝かしい。惹かれる、惹かれてしまう。

 暴走をして身を滅ぼしたという例をいくつも聞いたことがある。

 それを聞くたびに男は思った。


 『馬鹿なヤツら』だと――


 だがその認識は間違っていた。

 男は知らなかっただけなのだ。身を滅ぼすことになったとしても、欲してしまうモノがあるということに……。


「ふっ、青臭い小僧のように自制が効かぬな」


 自嘲の声が漏れる。

 いまから無謀なことをしようとしている。

 だが、ただ無謀に動いた訳ではない。


 出した料理や飲み物には薬を盛っていた。

 すぐに眠くはならないが、それでも深い眠りに陥りやすくなる薬。

 あれから幾分か時間が経っている。

 誰もが深い眠りについているはず。 

 

 彼らの部屋の前には見張りが付いている。

 部屋の中に入ったのは確認済み。

 邪魔立てする者はもう誰もいない。目の前の扉を開けばあと少し。



「はぁはぁ……」


 あれを貪ったらどれだけ心地良いか想像がつかない。

 理想の果実が生っていたのだ。

 あれを見てしまったが最後、もう止まるのは不可能。

 

 そもそも、上手く行けば良いのだ。 

 そうすればあんな者に譲る必要はない。いまから譲る者を作れば(・・・)良いのだ。


 このドアノブを回せば――


「は~~い、そこまでだジジイ。いや、エウロス公爵さんよ」

「エウロス公爵。その扉を開くことは絶対に許さないよ。ボクは絶対に許さない」

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら、幸いです。


あと、誤字脱字も教えて頂けましたら、有り難いです(_ _)

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