ナニが
短いでs
俺たちは三日ほど馬車に揺られ、目的地であるエウロスの街に辿り着いた。
本来なら二日もあれば辿り着くのだが、今回は大人数での移動。少しだけ時間が掛かった。
同行したメークインと共に、俺たちはエウロス家の館へと案内された。
ただ、三雲組や小山組のメンツも居るため、さすがに総勢40名近くがエウロスの屋敷に厄介になることは出来ず、半数は外の宿へと泊まった、
各自部屋を用意され、不満の無い時間を過ごす。
予定されている夜会は五日後。それまでにエウロス中の全貴族が集まるそうだ。
短い期間での準備とあって、屋敷中は中々慌ただしく、しかもダンジョン攻略用の物資を集めているらしく、どこぞの会場のようだった。
そしてそんな中、俺たちは中庭に集まって話し合いをしていた。
「おい、椎名。本当に息子連中は居なくなっているのか?」
「ああ、本当にそうらしいね。全員と面識があるわけじゃないけど、周りからも話を聞いた限りそうみたいだ」
「椎名先輩、先輩のことを騙している可能性は?」
「そうそう、騙しているかもよっ」
「いや、その可能性は低いかな? 根拠はボクの勘になっちゃうけど、嘘は吐いていないと思うんだ。ただ、本当のことを知らない……と言う可能性はあるかもね」
「あ~~それだと、観ても見抜くことは出来ないなぁ」
「あちゃ~、それだと無理だあ~」
「小山、お前はうるせぇ。あと、その末の姫ってのは?」
俺は小山を黙らせつつ、次期公爵という少女のことを尋ねてみた。
しかし椎名は首を横に振る。
「いや、見たことはない。それっぽい子も見たことないかな」
「そうか……」
――椎名も知らない子……
公には出てないって感じか? もしくは深い訳があるとか?
「う~ん、本当に公爵の子なのかな? 急遽用意したとか定番じゃない? 物語じゃあよくあることだし。あ、でも劇とかじゃあまり使われない展開かな」
「テンプレっ! テンプレだねっ!」
「喧しいっ!」
俺は小山を凹ます。
確かな手応えを感じるが、ヤツは全くこたえた様子はなく、『いてて』程度。
こんな馬鹿でも一応は勇者。しかも盾役。小山のタフさに戦慄するが、いまは大事な話を進める。
「椎名、用心しておけよ」
「……どっちの意味でだい?」
「もちろん言葉の方だ。まだ狙われているかもしれないからな。あと、お前の方は知らん。仮にお前が喰われたとしても、俺たちはお前のことをロリコン野郎って罵るだけだ」
「酷くないかい陣内君? そこは君たちにフォローしてもらいたい所なんだけど……。あと、表現が喰われる…………えっ? まさか陣内君……」
椎名が気付いてはいけない事に気付きそうだった。
俺は強引に話を逸らすことにする。
「ああ~、そういやここに来るのって二回目だな~。あの時は忍び込んで来たらゆっくりと見れなかったけど、なかなか趣のある庭だな~」
「え? 陣内先輩、この庭がですか? 外国人が拗らせて作った和風テイストの庭園のようなんだけど……」
「オラもよく分かる方じゃないけど、確かにムチャクチャだよねコレって……」
「…………」
俺たちが居る中庭は、皆が言うように斬新な作りをしていた。
池のようなモノがあるが、木で縁取られていて風呂場にも見える。
石で作られた道も、敷かれている石の形がハート型や星形などなかなかファンシーな石畳。
あやふやな言い方になるが、所謂”わびさび”が全く感じられない。
正直言って酷い作りだが、いまは誤魔化すことが出来たので良しとして、脱線した話を修正する。
「取り敢えず言葉には三雲とラティが付いてて、あと外には三雲組の連中もいるな……まあ安全か」
「それなら確かに問題ないね」
「んん? あれ? 早乙女先輩には?」
「あ~~~、京子様もおっきいからね。うん、超怖いけどドンって感じでおっきいから危ないね。京子様も余裕で狙われるんじゃ?」
早乙女と小山の間に何があったのか知らないが、どうやら格付けだけはしっかりと済んでいる様子。
「早乙女も言葉と一緒に行動させている。アイツは言葉に負けないぐらいの人見知りだから、勝手にフラフラとその辺を歩いたりはしないだろ」
「えっ!? 京子様って人見知りなの? あんなに圧を掛けてきて人見知りなの? 首筋に刃物を突きつけられるような圧なのに? うそでしょ?」
小山の言いたいことは解る。
見た目は確かにそんな感じだ。
だがあれは、怯えた子猫が『フシャー』ってやっているようなモノだ。
やたらと目力があるからそんな誤解を与えるが、あれは獅子の皮を被ったポンコツなのだ。
「ったく、また脱線しそうになったな。取り敢えず話を続けるぞ――」
その後も俺たちの話し合いは続いた。
ただ話し合いといっても、いまのエウロスの状況を椎名に確認しているようなモノだった。
屋敷に詰めている兵士の人数や、何か気になったことはないかなど、そういったことを尋ね続けた。
俺と霧島が質問し、それに椎名が答えて小山が合いの手を入れる。
正直いって小山は要らなかったが、コイツを野放しにすると不安しかない。
何かをやらかしたりはしないと思うが、ナニかをやらかしそうなので目の届く位置に置いておきたい。
小山が昨日言っていた、『タンスを調べるのは勇者の仕事だよね』という台詞が頭から離れない。
『そろそろ唯ちゃんのWSにも耐えられそうだ』という言葉には、嫌な予感しかしない。木刀の出番が近いかも……。
こうして俺たちは、出来る限りのことを想定しつつ、五日後の夜会を迎えたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
ドンドン投稿しますので、感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字なども……