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エウロスバトンサーガ

お待たせしました、新章、『下克上のエウロス』編がスタートです!

 とても見慣れた光景が広がっていた。

 長い黒髪を、まるで零すかのように広げて寝ている勇者早乙女。

 彼女は馬車へと乗り込むとすぐに寝てしまった。きっと余程疲れていたのだろう。

 

( まぁ、ラティが手をかざしていたが…… )



 安定(お約束)の光景から目を背けつつ、俺は日課をこなす……。


 男爵連合鎮圧後、ギームルと赤城は(せわ)しく動いていた。

 彼らがまず行ったのは、投降した冒険者たちへの聞き取り調査だった。

 綾杉の事や、どうやって男爵連合を運営していたのか、要は資金源を詳しく取り調べたのだ。


 綾杉は、聖母という意味を込めてビッチと呼ばれていた。

 どういった経緯でそうなったのかは分からんでもないが、何故”聖母”をビッチと呼ぶのかは不明だった。


 そして、綾杉と貴族の息子が行っていた行為を知っていた冒険者たちは、全員がボレアス公爵の名の下に処刑されることとなった。


 罪状は勇者保護法違反。

 綾杉の状況を把握しておきながら助け出さなかったからだ。

 ただその数は思いの外少なく、全体の一割程度であった。

  

 次に資金面をどう補っていたのか、これはある程度予想は出来ていた事だが、綾杉の協力によって成り立っていた。


 普通ならば、それなりの物を持ち出せばすぐに足が付く。

 だが勇者の場合は【宝箱】がある。綾杉の【宝箱】を利用して金品を持ち運び、もしくは持ち込むことで資金を得ていたのだ。

  

 この【宝箱】を利用した資金調達だったため、男爵連合の動きを掴みきれなかったとギームルが愚痴をこぼした。


 要は、貴族の息子が実家から物を持ち出し、綾杉がそれを【宝箱】に入れて街の正門を突破。これの繰り返しだったのだ。


 色々と情報が出てくるたびに思う、勇者は本当に厄介だと……。


 その後は、葉月、綾杉、ギームルは中央へ向かい、赤城以外の勇者たちは、東のダンジョン攻略のためにエウロスの街へと向かった。当然俺も。


 しかしギームルからは、まずメークインの街で待機せよとの指示が出ていた。

 まだ調整は完全に済んでおらず、まずはメークインの街で待機してくれと。

 

「あ、あの、そろそろ見えて来そうですねぇ。メークインの街が……ですから、あの、そろそろ……」

「……ああ、懐かしいな」


 ノトスの街よりも立派な外壁に守られたメークインの街。

 その外壁の重厚さから、街が潤っているであろうことが察せられる。


 この馬車の隊列の先頭には、メークイン上級男爵が居る。

 そして、亡骸となったイーストンも……。


 俺は最初、メークイン上級男爵を警戒していた。

 自分たちの街で俺に何か仕掛けてくるかもしれないと考えた。

 だがしかし、メークイン上級男爵の顔を見て、その危険性は薄いと感じられた。

 当然、ラティの【心感】による判定も行った。そして結果は白。

 メークイン上級男爵は、私情にとらわれることなく、己の責務、感情をしっかりと抑えられる(コントロール出来る)人物だった。


 息子を殺した俺に思うところがない訳ではないが、息子を自害として扱ってくれた俺たちに対し敬意を払ってくれた。


 本来であれば、保護法違反で裁かれた者はうち捨てられ、まるでゴミのように扱われるらしい。

 重罪人ということで、基本的には弔うことが出来ないらしい。


 もし手厚く弔ったりしようものなら、爵位は剥奪。そして家を取り上げられてしまうのだとか。

 思い返してみると、エウロス公爵家の嫡男も酷い最後だった気がする。


 だが潔い自害の場合だと、尊厳ある最後を迎えることが出来る。

 墓に入ることを許されるのだという。

 

 親としてはその差はとても大きく、あの時、自害であることを感謝していたのはそういった理由からだったのだ。


 そしてギームルが用意した毒杯の毒は、あれはランハ毒と言う特別な毒薬らしく、普通の解毒魔法では解毒が出来ない毒。

 購入するには身分(ステータスプレート)を提示する必要があり、あれを購入するという行為自体が、誰かを自害させる主張になるのだとか。


 俺にはイマイチ理解出来ない習わしなのだが、自害とは、それを見届ける人と、それを行うために必要な毒が決まっているのだとか。

 その二つが無い場合、自害として認められない事があるらしく、後々難癖をつけられる危険性があるのだという。


 因みに、もっと強力なシーザンという毒があるらしく、それはあらゆる解毒を受け付けないらしい。 

 俺はギームルに、間違っても飲むなよと注意された。


「――誰が飲むかっての。お前が飲めっ」

「あの、ご主人様? どうかしましたか?」


「いや、何でもない……あと少しだな」 


 俺は独り言を誤魔化して外を眺める。

 少しずつ近づいてくるメークインの街。あと10分もすれば到着する

 俺は街を眺めながら、ふとウルフンさんのことを思い出した。


 このエウロス領で迫害されていた狼人のウルフンさん。

 耳と尻尾を切り落とし、子供たちのために住む場所を確保した偉大なる狼人。

 

 耳もそうだが、狼人にとって尻尾はとても大事なモノ。

 生きていくためだけだったら必要の無いモノなのかもしれないが、誰かと共に生きるのであれば……。


 俺は撫でていたラティの尻尾を、より愛しんで撫でた。

 絶対に手放さぬように、強い意志を込めて。

 

「あ、あの………………もう、仕方ないですねぇ」


 俺は、メークインの街に到着するまでの間、全力で撫で続けた。

 そしてモモちゃんに会いたいと、軽いホームシックにかかったのだった。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「あ~~さっさと帰りてぇ。まだ連絡は来ねえのかよ」

「えっと、陽一さん。まだ二日も経っていないのでさすがにまだ早いのでは?」


 俺たちはメークインの街に到着後、メークイン上級男爵に用意してもらった宿に泊まっていた。

 しっかりとした作りの宿は要人用であり、勇者たちが泊まっていても押し掛けてくる者は皆無だった。

 なので、外からの煩わしい騒音は無かったのだが――


「陽一クンっ、折角なんだしゆっくりしようよ。ほら、夜になったら階段とかもあるし。みんなを誘って行こうぜ!」


「ざけんなっ、行けるわけねえだろっ!」


――行こうぜじゃねえよっ、逝くっての!

 マジで怖いんだぞ? つか、堂々と言うなよ……あと、


 夜は夜でポンコツが襲撃してくるのだ。

 昼は昼でやることが多々ある。物資の補給や打ち合わせなどがあり、俺はそこそこ忙しい。

 だからだろうか、早乙女は夜にやってくる。そして――


「後な、階段のことを言うな小山。アイツが聞いたら――」

「陽一っ、やっぱ階段ってエロい事なんだろ! そうなんだろっ」


 やっぱり面倒くさいヤツがやってきた。

 コイツの抑え役であった葉月が不在であり、無駄に無双状態。


「ああ、葉月早く帰ってこないかな……」


 いま支えて欲しい。そんな気分。

 葉月には素直に感謝していた。綾杉のことは、彼女のお陰で隠し通せている。

 あの時の俺は、レフトとイーストンを手に掛けており、正直とても荒んでいた。あのまままともな判断が下せたとは思えない。


 しかしそれを葉月が肩代わりしてくれたのだ。


 本当に助かった。

 いま考えてみると、綾杉の件を隠し切れたとは思えない。

 俺だけでなく、小山だっているのだ、ポロッと出てしまう場合だってある。

 そういった場合もあるので、葉月がこちら側に来てくれたのは大きい。

 隠さねばならない相手側に味方がいる、これはとても心強かった。


 葉月が上手く言ってくれたためか、綾杉の件を尋ねられることもなく過ごせた。


「陽一っ! アンタ話聞いての? ねえ!」

「あ~~、うん。小山に聞け、じゃあちょっと外に行ってくる。あ、お前は外に出るなよ。勇者が居ると騒がしくなるから」


 強引に誤魔化して逃げる。

 俺は勇者ではないので、外にふらっと出ても問題ないのだ。

 こうして五日ほど経過したある日、ギームルからの連絡がやってきた。 


 その内容は、死者の迷宮(ミシュロンド)攻略の支援をする代わりに、エウロス公爵が開催する夜会に出席して欲しいというモノだった。


 出席者は――当然勇者たち。

 勇者たちに、次期エウロス公爵を紹介したいとのことだった。


読んでいただきありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……

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