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背負うモノを分ける

昨日コミケ逝ってきました。

 心が荒む。

 不安、不安要素、不安材料、不安の種を全て祓ったというのに、心が荒んだ。

 そして――


「ぐっ、イーストン……」


 物言わぬ骸となった息子、涙を堪えながら見つめるメークイン上級男爵。

 その悲痛の表情から、息子に愛情がしっかりとあったことが分かる。


「ぐうう」


 喉から漏れそうになる嗚咽を、必死に呑み込もうとしている。

 他の遺体とは違い、明らかに殺害されたと分かる大きく裂けた肩の傷。 

 そして、赤黒い血がベッタリとこびり付いた俺の槍。何があったのかは一目瞭然だ。


 ( つれぇ…… )


 これから俺は罵られるのだろう。

 自分の息子が殺されたのだ、親として絶対に許さないはずだ。

 どんな罵倒が飛んで来ても良いように、俺は心を萎めるようにして身構える。


「お前の息子イーストンは、見事に自害してみせた」

「ギームルっ!! 何を言って!?」

「――ッ! …………はい、その様ですね」


「は?」


 突然のやりとりに頭が追い付かない。

 俺は予想外の流れに狼狽えてしまった。


「あ、ありがとうございます。ギームル殿、亡骸(なきがら)は……」

「返すことを許す。務めは立派に果たしたのだからな」

「おい、何を言って……?」


「親としては…………(いか)るべきなのでしょうね」

「……」


「ですが、貴族として、父親としては謝罪しなくてはならない。愚息が本当にご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ないっ」

「っな……」

「その謝罪受けよう。そして務めを果たした息子を手厚く葬ってやるが良い」


「はい」

「お、おいっ、それでいいのかよ!? だって――」


 完全に理解が追い付かない。

 俺は自分の目的のためにイーストンを殺したのだ。

 それに対しての後悔はないが、息子を殺された親の気持ちが分からない程人でなしではないし、数発ぐらいなら殴られて仕方ないと思っていた。


 それどころか、何か言われるよりも、そっちの方がマシだと思っていた。

 そう思っていたのに……


「間違っていたのは私です。息子にしっかりと教えていれば……」


 メークイン上級男爵は、涙を堪えながら語り始めた。

 ギームルは興味なさそうにしているが、俺はその話を聞き入った。

 メークイン上級男爵が話したのは、所謂(いわゆる)懺悔だった。


 自分の息子、イーストンを甘やかし過ぎたと言った。

 貴族たるもの、民を導き管理しなくてはならない。支配ではなく、導きと管理。


 だが息子のイーストンは、それを勘違いしてしまったのだという。

 メークインの街は、エウロス()への玄関口となる街。東への流通はまずメークインの街を通る。当然、その逆も同で、東から他へと向かう物もメークインの街を通る。


 何かを生産する街ではなく、流通を管理する街。

 流通を一手に請け負う街なので、メークインの街はとても潤っているらしい。

 しかしそこに驕りが生まれてしまった。

 

 何かを生産するという達成感は無く。悪い言い方になるが、物を右から左に動かすことによって利益を得る街。

 当然、物資の管理や保管などの仕事はあるが、何かを作り出す街ではなく、繋げる街だ。


 売り込む必要などはない、相手の方からお願いしますと言ってくる。

 だから――

 

「本当に申し訳ない。驕るな、謙虚であれと、頼られているのではなく、他が無いから来てくれているのだと、口を酸っぱくして言ったのですが……コイツは勘違いしたままで。廃嫡して変わってくれればと願ったのですが……」


 イーストンの前に、膝をついて泣き崩れるメークイン上級男爵。

 語っているうちに堪え切れなくなったのか、脇目も振らずに涙を流した。


「本当に、申し訳ない。自害をお許しいただき……。息子を墓に入れることが出来ます。捨てるように遺棄されるのではなく、墓に入れることをお許し頂きありがとうございます」



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 


 全ての亡骸が裏へと運ばれた。

 遺体をどうするのか少々気になるが、尋ねても面白くなさそうな返答が来そうだったので尋ねるのを止めた。

 それに問題はまだ残っている。


 綾杉は目立たない部屋へと移動されていた。

 そしてこれから人目につかぬようにして中央へと護送される。

 女性陣には絶対に気付かれてはならない。


 一旦勇者たちを館の中に入れて、その後に綾杉を中央へと護送する予定。

 速やかに事を進めないとならない。

 その打ち合わせをしていると――

 

「――ッ! あの、ご主人様。ハヅキ様がこちらに来られます」

「な!? アイツらは外で待機中だろ? 中に呼ぶのは準備が済んでからじゃ」

「ぬっ?」


「誰か止めてこい! まだ早い。葉月を――」

「誰を止めるのかなぁ? ねえ、陽一君」


「葉月……ちょっと立て込んでんだ。勇者(お前)たちはまだ外で待っててくれ。あれだ、泊まる部屋の用意とか安全確認とか色々とあるらしいんだ」

「本当の理由は綾杉さんでしょ? さっき小山君から全部聞いたんだ」


「っあの馬鹿、絶対に黙ってろって言ったのに……」


――使えねえなアイツは、

 何で話してんだよ、葉月に詰められて吐いた(ゲロった)のか?

 ったく、あとで10発はぶん殴るっ!



「あ~~うん。ごめんね、ホントは何も聞いてないの。ただ、小山君と赤城君の様子から何かあるんだろうなって思って、それでカマを掛けたんだ」

「…………………………………………やられた」


 俺は、小山を殴る回数を8回に減らす事にした。

 アイツが悪いのだ。俺は悪くない。


「何となくだけどね、前の私と似たような状況じゃないかなって思ったんだ。あ、似たようなってのは…………うん、分かるよね? 陽一君」

「ああ……」


 俺は心の中で両手を上げて降参する。

 こういった事には聡いであろう葉月だ。これだけ露骨に遠ざけられていれば気付かれてもおかしくない。いや、むしろ気付かれる。

 だがしかし――


「……葉月、取り敢えず俺たちに任せて欲しい。そして出来ればこのまま何も言わずに引き返してくれると助かるんだが」


 今回の件がバレたとしても認める訳にはいかない。

 とても重い話、女性陣には受け止め切れない問題なのだ。

 いまの状態の綾杉を見せる訳にはいかない。


「…………駄目か?」

「うん、駄目かな」


 俺の考え(気持ち)など分かっているはずなのに、それでも葉月は退かなかった。

 それどころか踏み込んでくる。


「陽一君。それって私たちのことを想って隠しているんだよね?」

「――ッ! だったら」


「だからだよ。誰かに何かを隠し通すのなら、それを隠す相手の中に味方を作らないとだよ? そうしないと……たぶんバレちゃうんじゃないかな?」

「ほう、確かに一理ある。――間違ってはおらん」

「ギームルっ」


 認めようとしているギームルを、俺は強く睨んだ。


「ねえ、陽一君。私に任せてもらえないかな? そして、私にも支えさせて下さい。貴方のことを……」

「…………」


 その後俺は、折れた。

 内容は濁しながらだが、いまの綾杉の状態を葉月に明かし、彼女に協力してもらうことにした。

 

 これは間違いなく葉月への負担が大きい。

 だがしかし、同じような状況に陥ったかもしれない葉月だからこそ、綾杉に寄り添うことが出来るかもしれないと思ったのだった。



 

 それから、あれよあれよと事は進んだ。

 綾杉には、勇者の中からは葉月だけが会い、彼女と一緒に中央へと向かった。

 どのように上手く説明したのかは不明だが、女性陣は全員納得していた。


 結果としては、葉月の協力によって、綾杉の身に降りかかった件を知られることはなかった。

 俺たち男性陣だけではボロが出ていただろう。

 葉月の言うように、知られたくない相手の中に味方を作るという方法はとても有効だった。

 綾杉のことを心配する表情は見せているが、綾杉のことを哀れむような暗い表情は誰も見せていない。


 俺はそのことに心底ホッとする。

 そして同時に、葉月に対して感謝し、とても申し訳ないと思う。

 だがそれを口にするのは失礼。葉月は、俺の力になりたいと言ってくれたのだ。


 こうして男爵連合による暴走は全て終結したのだった。

 

読んでいただきありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なども……

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