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心重ねて

「ラティ注意しろ、コイツら足以外の何かでも動いてんぞ。あとWS(ウエポンスキル)は控えた方がいい。隙をモロに狙われる」

「はい、心得ました。……それにしてもやり難そうですねぇ」


「ああ……」


 ラティの参戦により状況は良くなったが、戦い辛さが無くなった訳ではない。

 人数においての不利は軽減されたが、このゴーレム達は俺たちにとって一種の天敵ともいえた。


 まず、俺の基本戦術である相手の先読みが出来ない。

 このゴーレム達は、まるでワイヤーアクションのように予備動作無しで飛び掛かってくるのだ。


 普通ならば、バネを溜める重心を落とすなどの予備動作がある。

 だがゴーレム達にはそれらが無いので、先読みに慣れてしまっている俺にとってはとてもやり難い相手だった。


 そしてラティの方もそうだ。

 ラティは相手の感情を見て、相手を惑わすような動きと、【全駆】による回避力がラティの強みだ。

 だがこのゴーレムからは感情が見えず、3体からの視点があるので、相手の目の前での急降下や飛び上がるなどのフェイントの効果が薄い。あれは相手の目の前で行うから効果があるのだ。


 多分だが、このゴーレム達に有利なのは椎名だろう。

 アイツならば【予眼】があるので事前に動きが見える。

 しかも守護聖剣の結界があるので、2体の攻撃を予知して事前に防ぎ各個撃破が容易だろう。

 

 しかもこのゴーレム達はフェイントの類いは使ってこない。

 椎名にとって苦手となるモノがほぼ無い。

 

――あれ? 椎名でいいな?

 って、言っても椎名は陽動役だしな。……俺たちがやるしかねぇ、

 


「ラティ、行くぞ!」

「はい、ご主人様」


 俺とラティは同時に前へと出る。

 狙うは中央の剣持ち。軽く踏み込み槍で穿つ。

 狙われた剣持ちは即座に防御態勢、剣で槍を弾き、腕から光る盾を展開させてラティの攻撃を防ぐ。


 そして反撃とばかりに、左右のゴーレムが俺たちを横から狙ってくるが――

  

「っしゃあ!」

「――ふっ!」


 俺とラティは一体ずつを相手にして攻撃を切り払う。

 二体のゴーレムに同時に来られるとキツイが、一体だけなら十分に捌ける。

 こうして2対3の戦いが始まった。




「この犬ッコロめええ!」

「あの時、アンタが素直に来てればっ」

「邪魔ああああ」


 剣斧杖が休むことなく襲い掛かってくる。

 髪は光の粒子を撒き散らしながら輝きを放ち、薄らとだが背には光の翼を展開させている。

 そしてその光の翼が展開しているからか、【天翔】のように空中で方向転換して攻撃を避け始めていた。


――おい、これ絶対にパワーアップしてるよな?

 絶対におかしいよな? 何か光り過ぎだし飛びすぎだろ?

 しかも何だよ、結界の小手みたいなあの盾は! それに……



「ラティっ! 避けろ眼からビームが出るぞ!」

「――ッ!? 放出系に近いモノですねぇ?」


 次の瞬間、黒いバイザーグラスから光の光線が放たれた。

 誰がどう見てもビーム光線。しかしラティはそれをヒラリと避ける。


「本当に出ました……」

「何でよ! 何で分かったのよ!」

「勘かな」


 俺は適当に返答する。何となくだが確信があったのだ。

 これだけ趣味全開のゴーレムなのだ、見た目からいって間違いなくソレ系(・・・)のモノがあると睨んだのだ。

 黒いバイザーグラスが光った瞬間、『きっと来るっ』と思った。きっと他にもギミックがあるだろう。


「ラティ、手首にも気をつけろ! たぶんだけど手首だけが飛んで来るぞ」

「はい、注意します」

「きいい!」


「あと、スカートの中から爆発物を大量に落として来るぞ!」

「はいっ」

「無いわよ! そんなの自分も吹き飛ぶでしょうが!」


「あと、おっぱいも飛ばしてくるぞ」

「死ねッ、セクハラ野郎!」


 斧持ちのゴーレムが俺をかち割りに来る。

 俺はそれを避け、即座に前へと距離を詰める。

 いま初めて攻撃がズレた。3体同時ではない完全に単独の攻撃。

 同調攻撃の僅かなズレに俺は踏み込む。


 ターゲットは中央の剣持ち。

 剣持ちは小回りの良さからフォローに回ることが多い。

 俺はフォローに回ることが出来ぬように剣持ちを狙った。

 

「ウザいっ!」


 剣持ちがツインテールを振り乱しながら槍の穂先を弾き、ラティの隙を突くような刺突を光の盾で防ぐ。

 

「まだっ!」

「ぐっ」


 ラティは止まらずに右手に持った刀で、剣持ちの首を刈りにいった。

 俺はラティを横から襲いに来た杖持ちを押し返す。

 剣持ちはラティに気圧されて後ろに大きく下がるが、ラティが再び距離を詰める。

  

 戦況が大きく動いた。

 ラティが剣持ちを追い、それを俺と2体のゴーレムが追う形へと変わった。


「行けっ、俺が食い止める」

「はいっ」


 俺は反転し、斧と杖持ちを迎え撃つ。二体のゴーレムが合流することを妨害する。

 斧を振り下ろすゴーレムと、杖を突き出してくるゴーレム。

 今までだったら回避の一択だった。だが今は違う。

 相手はいつも以上に踏み込んで来ていた。俺を倒すか、もしくは剣持ちと合流する為に動いていたのだ。

 誰か一体を犠牲にして俺を討つ作戦ではなく、俺を倒しにきた(・・・・・)踏み込みだ。

   

「もらったあああああっ!」

「「――ッ!?」」


 全力の横薙ぎ一閃。

 二体のゴーレムが薙ぎ払われ吹き飛ぶ。

 さすがに武器で防がれて仕留める事は出来なかったが、二体のゴーレムを完全に後ろへと下げさせた。


「――ファスブレ!」

「このっ!」


 二人の声に引かれ俺が背後に目を向けると、丁度ラティが剣持ちに飛び上がってWS(ウエポンスキル)を叩き込む瞬間だった。

 咄嗟に光の盾を展開させてそれを防ぐ剣持ちのゴーレム。

  

「短剣WS”ヴィズイン”!」


 ラティのもう一つの十八番(オハコ)、単独での”重ね”。

 最初のWS(ファスブレ)が作った力場に、次弾のWS(ヴィズイン)が重なる。魔剣ミイユは強い輝きを放ち光の盾を砕き貫いた。

 そしてそのまま剣持ちの左肩に突き刺さりそうになるが――


「ウザいっ!」


 寸前のところを剣で弾き、剣持ちは飛ぶようにして再び後ろへと下がった。

 そして後退すると同時に、バイザーグラスから光線を放とうとする。


 バイザーの中心に光が集まり、いままさに光線を放とうとした瞬間。


「させっかっ!」

『――きゃっ!?』


 俺は木刀を投げつけてそれを妨害した。

 物理ならともかく、形のない魔法のようなモノには滅法強い木刀。

 期待通り光線をゴーレム(剣持ち)の眼前で暴発させ、マグネシウムに火をつけたような強い光が広がった。


 目の前に発生した光から逃げるようにして、剣持ちが更に後ろへと退く。

 今ので視界に光が焼き付いたのか、剣持ちは手で顔を覆っている。

 一見無防備(チャンス)に見えたが、両腕から光の盾を展開させて闇雲ながらも防御態勢を取り、ラティからの追撃に備えていた。


 剣持ちをフォローすべく、斧と杖持ちが合流を試みようと前に出て来る。

 

「させねえよ!」


 俺は二体のゴーレムの前に立ち塞がる。

 いま完全にフォーメーションが崩れているのだ。このチャンスを潰すつもりはない。


「退いてよ!」


 斧持ちが振り下ろしにて俺の頭を狙ってくる。

 俺はそれをバックステップで避け、地面に叩き付けられた斧の上に足を置き、斧持ちを完全に()った状態になる。


 あとは俺が槍を振るえば良い。

 だがそんなに甘くはなく――


「こんのおお!」


 杖持ちが俺と斧持ちの間に割り込んできた。

 攻撃はさせまいと、今度はゴーレム達の方が妨害してくる。

 

 俺は槍で杖をいなし、押さえていた斧から足を離して後ろに軽く下がる。

 そして割り込んで来た杖持ちは――ラティによって切り裂かれた。


『――えっ!?』


 杖持ちのゴーレムから呆けた()が漏れる。

 きっと何が起きたのか理解出来ていないのだろう。棒立ちとなって動きを止めている。


 ラティは暴発によって視界が奪われた剣持ちを追撃するのではなく、俺を陰にして戻って来ていたのだ。斧と杖持ちからは見えていないはず。


 そして俺の上を転がるようにして飛び越え、独楽のように回転しながらWSを連続で放ったのだ。

 高速思考の【速考】持ちであろうと、予期せぬ奇襲は反応出来ない。

 いくら【速考】があろうと、見えていないモノには対処が出来ないのだ。

 

 ラティの”重ね”をまともに喰らい、肩を大きく裂かれた杖持ちのゴーレム。

 身体がぐらりと傾き、青いポニーテイルが横に揺れる。

 ゴーレム(綾杉)には理解出来ないだろう。

 同一の意志による攻撃は確かに脅威だが、俺とラティは、信頼を超えた繋がりによる連携でそれを退(しりぞ)けたのだ。


「まず一体」


 俺は杖持ちの首を刎ねた。

 首を飛ばされ、肩も大きく裂かれたゴーレムは、放っていた光の粒子を収め後ろへと倒れた。


「このっ!」

「死ね!」


 残った二体のゴーレムが光線を放ってきたが、俺とラティはそれを横に避ける。


「このこのこのっ、何よいまの! 何でいまの……」

「何で動きが分かるのよ! アンタら何で相手の動きが分かるのよ!」


「……分かるから」


 俺にとっては当然の事。

 ラティがどう動くか分かっていた。そしてそれはラティも同じだ。


「はぁ? アンタ馬鹿にしてんの!」

「ああん? 人の気持ちなんて分かるはずないでしょ!」

「恋人だって何だって分かるはずないでしょ!」

「分かったら苦労なんてしないわよ」

「人が人のことを分かるはずないでしょ!」

「上辺だけよ!」

「心なんて見えないっ」

「わかったら……」

「………………こんな事に」


 『なっていない……』とつぶやくゴーレム達。

 俺はそれを見ながら引導を渡すべく、ラティへと声を掛ける。


「いくぞ、ラティ」

「はい、ご主人様」

「「――ッ!」」



 2対2となった戦いはすぐに決着がついた。

 綾杉はゴーレムを上手く操ることは出来るようだが、明らかに実戦経験が足りなすぎた。

 困ったら下がるしか手のない綾杉は、俺とラティの連携の前に、二体だけとなったゴーレムを呆気なく破壊されたのだった。


 その後俺は、ラティの【心感】によって案内され、綾杉が居るであろう部屋の前に到着した。

  

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想などなどいただけましたら(_ _)


あと、誤字脱字も

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