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デットリータンドリートライアングラー

台風すごっ!?

 三体のゴーレムと再び対峙する。

 絶妙な距離加減、俺の槍がギリギリ届かない距離に立つゴーレム達。

 木刀ならばひょっとしてゴーレムの機能を停止出来ないかと考えるが、槍が届かない距離だというのに木刀ではなおさら不利と諦めた。


 俺は槍を前に構え、自分から見て左側のゴーレムに穂先を向ける。

 左側のゴーレムは斧持ちのタイプ。

 斧を担ぐようにして構え、いつでも振り下ろせるようにしている。

 

 ( 一番火力が高そうなのはコイツだよな )


 俺なりの分析では、この斧持ちが一番ヤバイと思えた。

 (ショートソード)(錫杖)なら、黒鱗装束で上手く凌げるかもしれない。

 だが斧だけはキツそうだと感じた。首さえ守れば良さそうな剣とは違い、斧は一発で致命傷にまで持っていかれると……。


 そう思い、斧の方を警戒する。

 すると、剣持ち(ツインーテイル)杖持ち(ポニーテイル)が俺の後ろを取る位置に移動した。

 先程までは囲む位置取り(ポジショニング)だったのだが、いまは斧持ちを囮にする形で、俺の背後を取ろうとする配置へと変わっていた。


『――ナンでよ。ナンでみんなあっちにイっているのよ』 

「? 何が?」


 唐突にゴーレムから音声が聞こえてくる。

 音声が聞こえたのは、斧持ち(ハーフアップ)のゴーレムの方から。

 

『――何でみんなあの子の所にイくのよ。あたしぃを置いて、何で葉月のところに行くのよ! これじゃあ、ガッコウの時と変わらないじゃないのよ!』

「……お前何を言って」


( ん? 髪が光っている? )

 

 ゴーレム達の髪が僅かに光を放っていた。

 薄らとだが、3体のゴーレム達は髪から淡い輝きを放っていた。


『椎名君まであっちで……何で椎名君まであの子の方にっ!』

「あっ、そっか……」


 言葉を聞いて何となくだが理解出来た。

 綾杉はきっと外の状況が見えているのだろう。

 よく考えてみれば、綾杉はゴーレムを操っているのだから、そのゴーレムを通して外の状況が見えてもおかしくはない。


 葉月がどんな風に降伏勧告をしたのかはしらないが、どうやら綾杉的にはなかなか屈辱的だった様子。

 きっと綾杉は、自分と葉月の差を見せつけられたと思っているのだろう。


 確かに価値で言えば、聖女と呼ばれる葉月には一歩どころか五歩ぐらいの差がある。

 しかし今回はこちらには複数の勇者がいる。

 だから葉月VS綾杉という、そんな単純な形ではないのだが――


「なんでよっ! なんでなんでなんでなんで――」

「……」


 少々下種い考察になるが、綾杉は葉月に対して対抗意識を持っているのかもしれない。ふと思い出すと、レフト伯爵は葉月に粉をかけていた。


「……まさかな」

「やっと勝ったオモっていたのに……」


 ぶつぶつと呟き続けるゴーレム()


「尽くしたのにっ」

「操作の練習だってやったのに」

「何だって受け入れて……あんなことだって……」


 三体のゴーレムが同時に言葉を発する。

 ここでちょっとした違和感を覚える。どんどん音声がクリアーになっていく。


「はは、やっぱりあの時にあの奴隷が手に入らなかったのがいけないんだ」

「――そうすればあの街を出ることはなかったっ」

「はあ? この盾持ってんのウチのクラスの小山?」

「アンタがドルアーガを壊すからっ」

「ドけよ根暗女っ、何でアンタが椎名君に魔法を掛けてんのよ!」

「何で比べられるのよ! 同じ勇者だってのにっ」

「全然寝れないし、ネかしてもくれない」

「ふざけないでよっ、何でアイツらはあんな目であの女を見てるのよ」

「椎名君、ナンで邪魔をするの?」

「あたしぃの方が上だろっ! そいつよりも上だろ!」

「あああ小山がウザいっ、コイツしぶとすぎっ」

『あ~~イライラするっ』

「レベルあげ? そんなのしらないわよ」

「小山がキモいっ。髪がキモい顔がキモい、必死過ぎてキモい」

「あのナメクジ野郎がっ」

「はあ? あれってチビの三雲? なんでアイツまで!?」

「うざ、生徒会のヤツうざったい」

「ああ、そっちにいくなよっ、なめんてんの!」

「もうもうもうもうもうもう、いい加減にしてよ」

「シイナくん……」

「くそがああ――あたしぃに触んな小山ああああ! 重いんだよ」

「――ニげんなあ! あんたらぁああ」

「なんでよっ、なんでよおおおお」

「邪魔邪魔邪魔っ」

「こっちに来てよ……シイナ君」

「あたしぃを助けてよぉ……」


 三体のゴーレムが一斉に喚き散らす。

 しかも全部同じ声。


「並列の【固有能力】だからか……。だけどこれは……」

 

 正直ドン引きだ。

 一人の人間が同時に複数の不満を吐き出している光景はなかなかくるモノがある。

 【固有能力】の無駄使いというべきか、見ていて薄ら寒くなる。


「あああ、全部全部」

「コイツが悪い」

「底辺のコイツがあの時」

「そう、あの奴隷を渡していれば」

「そうすればこんな事にならなかった」

「こんな苦労しなかった」

「こんな思いをしなかった」

「あんな真似をさせられなかった」


「「「陣内、アンタが悪いっ」」」

「――っちいい!」


 3体のゴーレムが一斉に襲い掛かってきた。

 一糸乱れぬ同時の踏み込み。斧、剣、杖が俺へと振り下ろされる。

 横に飛び退きそれらを回避する。

 

 そして即座に反撃に転じようと向き直ったが、小回りの利く剣持ちのゴーレムがフォローに入り、俺の反撃を牽制していた。

 

 僅かに躊躇うと、すぐに杖と斧持ちも体勢を立て直し、再び三体と対峙する形に。


「避けんな陣内」 

「死ねよ」

「このっ底辺野郎が」


 再び3体が同時に襲い掛かってくる。

 しかも上中下と武器で受け流すことが出来ない攻撃、俺は再び飛び退いて避ける。


「くそっ」

「「「逃げんなっ!」」」


 コンマ1秒もズレがないと思える攻撃。

 一切ズレのない同時攻撃はとても脅威だった。


 何か本で読んだことがあるが、突入時などの同時攻撃はとても難しいモノらしい。タイミングを合わせるというのは大変らしく、指定の時間になったら突入ということは出来ても、そうでない場合はほぼ不可能。

 だがそれが出来るととても有効である為、隊ではその訓練を重視するというのを読んだことがある。


 サッカーでもそうだ。

 一糸乱れぬオフサイドトラップなどは強い。相手の攻撃パターン潰すのだ。

 だがどうしてもズレあるし、遅れが出てしまう場合もある。

 どんなに練習したとしても、人と人は別人なのだから差が出てしまう。


 しかしこれは――


「一人の強みか――って、っらああああ!」


 3体のゴーレムは死角の無い攻めをしてくる。

 お互いがフォローし合い、死角を潰して攻めてくる。

 しかも嫌らしいことに、大きく踏み込んでは攻めてこない。


 常に一歩退いた、決してカウンターをもらわない戦い方。

 

 ( ――やりづれぇ )


 杖がアゴを目がけて突き出される。

 側面から剣が脇腹を刺突してくる。

 足を薙ぐように斧が振るわれる。 


 俺は飛び退きつつも槍で杖を払い、相手の攻撃をズラす。が――

 剣・斧持ちは、杖持ちが立て直すのを待ってから攻撃を仕掛けてきた。


「……駄目か」


 3体のゴーレムは、3体が同時に動ける時のみ攻撃を仕掛けてくる。

 一応こちらから打って出ることも出来るが、こちらから攻撃するにはそれなりに踏み込まなくてはならない。

 しかしそれを行った場合、まず間違いなく側面か裏を取られる。


「かかって来いよ陣内」

「はっ、このビビりが」

「手も足も出ないの?」


 ゴーレム達が俺を挑発してくる。それはあまりにも露骨過ぎる挑発。

 綾杉の狙いは簡単に分かった。

 ヤツの狙いは、一体のゴーレムと引き換えに俺を倒すことだ。


 距離を取られているので、有効打となる攻撃を当てるのはそれなりに踏み込む必要がある。

 前のゴーレムほどではないと思うが、このメイド型のゴーレムもそれなりに堅いだろう。だとすれば、やはりそれなりに踏み込む必要がある。


 踏み込んだ攻撃は威力があるが、その分隙が大きい。

 どれか一体のゴーレムを貫けば、間違いなくそのゴーレムを犠牲にして残りの二体が俺を取りにくる。

 

 ならばそうならない位置取りをしたいが、三対一ではどうしようもない。

 ゴーレム達は常に俺を囲む位置取りをしてくる。 


 ( ……いっそ退くか? )


「――逃げたらさっき庇ったジジイを殺しにイク」

「ちぃ」


 不利ならば退くのも一手かと考えたが、その案はすぐに潰された。

 それにこのゴーレムが護衛としてここに残っているのだから、綾杉を確保する為にも倒さねばならない。だが――


「「「死ね!」」」

「――ッ!?」


 寸前のところで躱しきる。ゴーレムの動きは確実に良くなっていた。

 最初よりも速く鋭く、そして洗練されていく。


 ( 確実に強くなってんぞ? 何でだ? )


 3体のゴーレムは、髪の輝きに比例するように強くなっていた。

 避けきるのがどんどん厳しくなる。

 斧は最優先で避けるが、小回りの利く剣だけはかすめる事が増えていた。

 今も腕の辺りを切っ先がかすめる。

 黒鱗装束だからどうという事はないが、これが他の装備なら違ったのかもしれない。

 

 ジリジリと追い込まれていくのが分かる。

 気持ちがどうしても焦る。しかしだからといって、今の俺には突破口がない。

 

 一体だけなら倒すことは出来る。

 そしてその一体を倒すことが出来れば、戦況は一気にひっくり返せる。が――


「絶対にそれを狙ってるもんな……」

 

「あはは、逃げるだけ?」

「黒いからGみたいねアンタ」

「底辺なアンタには似合っているわね」


 露骨な挑発が逆に俺を冷静にさせる。

 この挑発は、綾杉にも決め手がないことを示しているように思えた。

 3体同時の攻撃は確かに厄介だ。だがそこには連携と呼べるモノがなかった。

  

 一度避ければ追撃が来ない。

 もし追撃があればもっと厳しい戦いかもしれない。

 しかし一方、上手いことカウンターを当てるチャンスでもある。

 

 綾杉はそれを恐れ、連携を取って追撃してくることはなかった。

 単発ともいえる、3体同時の攻撃にこだわっている。 

 誰かと力を合わせるといった、そういったモノがなかったのだ。


 そう、誰かと力を合わせる――


「――お待たせしました、ご主人様」

「待ってたぜ、ラティ」


「「「…………」」」


 俺はただ逃げ回っていた訳ではない。

 ラティが来るのを待っていた。

 彼女が来ることは判っていたのだ。

 


「んじゃ、第二ラウンド開始だ」

  


読んでいただきありがとうございます。

すいません、返信が滞っており……

全て目を通して、読んで、モチベにさせてもらっていますー!




あの、誤字脱字などを教えていただけましたら……



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