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ヒートデルタショックエンド

 人が軽々と散らすように投げ飛ばされた。

 突如現れた三体のゴーレムは、その場に集まっていた貴族の息子たちを掴んでは投げ、掴んでは放るなどをしてエントランス中に散らばらした。

 

 藪の中に石を投げて、藪に潜んでいる何かを探すように……。


 

「うあああああ!?」

「――ッ!?」


 一人の貴族の息子が投げ飛ばされてきた。

 俺はそれを咄嗟に避けた。が――


「ぬぐっ」

「ギームル!」

『――……ソコか』


 俺たち冒険者はともかく、そうではないギームルは避ける事が出来なかった。

 投げ飛ばされた者と接触してしまい、姿を隠していた魔法(スニイン)の効果が解けた。


 三体のメイド型のゴーレムが同時にこちらを見る(ロックオン)

 ピンク色のツインテールのゴーレムが、ショートソードを下段に構える。

 蒼い髪のポニーテイルのゴーレムが、錫杖のような杖を前に構える。

 緑色の髪をしたハーフアップのゴーレムが、巨大な戦斧を肩に担ぎ構える。


 三体とも姿や背格好が似ており、黒いバイザーグラスとゴシック系のメイド服。これでもかと思うほどの趣味丸出しのデザイン。

 

 床にひざをついて動けないギームルを庇う為、俺は姿を現して前に立つ。

 ヤツらの速度それなりにある。少なくとも非戦闘員であるギームルでは避けることは出来ない。

 

「ハーティさん、ジジイを連れて外に逃げてくれ! ここは俺が引き受ける」

「ご主人様っ!」


「ラティっ、お前も行け! 周りに敵がいないか【索敵】(見る)ヤツが必要だ」

「すまん陣内君。行きましょうギームルさん」

「う、うむ」

「ご主人様、すぐに戻ってきます」


 エントランスは一気に修羅場と化した。

 ゴーレムによって投げ飛ばされた貴族の息子たちは、次は自分たちが殺される番だと思い逃げ惑う。そしてそれに紛れながら撤退するハーティとギームルたち。


 貴族の息子たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う中、3体のゴーレムはゆっくりと俺だけ(・・・)を囲む。


 俺はギームルを逃がす事が出来るならばと、外へと続く扉とは逆の方へと摺り足で移動する。


 3体のゴーレムは互いに一定の距離を取り、同時に攻撃を仕掛けられることがない位置取りをしていた。

 一方俺の方は、壁を背にしているので背後こそは取られていないが、どれか一体に攻撃を仕掛ければ、間違いなく裏か側面を取られる状態。


 ( やりづれぇ )


 意外にも3体のゴーレムはすぐに飛び掛かって来なかった。

 しかもしっかりと間合いを取り、槍が届く範囲には踏み込んでこない。

 

 膠着状態がしばらくの間続く。

 エントランスに居た貴族の息子連中はほぼ全員が逃げ出して姿を消していた。

 まだ残っているのは、首を刎ねられたヤツと、壁に叩き付けられて気絶している者だけ。


 広いエントランスで、俺と3体のゴーレムが対峙し続ける。


 ( くそっ、マジでやりづれえな…… )


 戦いの最中(さなか)で大事なことは、戦いの流れ、主導権を握ることだ。

 ボクシングで喩えるならば、ジャブを放って距離を測ったり、相手にガードを促すなど、こちらが何か(・・・・・・)をする事で相手に行動をさせる。

 そうやって流れを作り、戦いの主導権を握る。

 

 待ちの究極、居合切りだってそうだ。 

 じっと待つことによって相手を間合いに踏み込ませるのだ。

 相手の武器が飛び道具や、逃げることが目的の場合では成立しないが、相手が倒しに来るという意思があれば成立する。


 そして俺にとっての主導権の取り方は、相手の動きを読むこと。

 腕あって足が地に着いていればある程度は読める。

 そして読み切り、全てをいなし大振りを誘ってその瞬間に穿つ。


 ゴーレムといえど人型だ。何かしらの予備動作や駆動の際の振動など、未来()が視える情報があると思ったのだが、ヤツらは俺に主導権を与えなかった。


 SFに出て来そうなアンドロイドに似たゴーレム達からは、呼吸による身体の揺れも無い、緊張による硬直も何も見えなかったのだ。

 

 本当に無機質な何かが目の前に立っているだけといった感じ。

 武器を向けられていることから敵意を感じる事は出来るが、そうでなかったら石像が立っているような認識だ。

 

 本当にやり難い相手。

 なまじ手足があるだけに余計に気が散ってしまう。

 

――くそ、無駄に油断がねえな、

 綾杉さえ押さえればいけると思って甘く見過ぎたか?

 いくら何でも楽観視し過ぎたか……



 俺は心の中で自分に愚痴る。そう、俺たちの作戦には雑な所があった。

 それはギームルを連れて突入するという事。

 普通ならば非戦闘員を連れて敵陣に乗り込むような真似はしない。

 

 しかし今回は、綾杉さえ押さえれば勝ちという特殊な案件。


 貴族の息子(ボンクラ)などはどうとでもなる。

 居たとしても20人は居ないはず。戦力としては俺一人で制圧出来るレベル。

 降伏勧告と陽動作戦によって戦力は外に出るはず。この別荘の中には大した戦力は残らないだろうと踏んでいた。


 そしてラティがいれば、すぐに綾杉を見つけ出すことも可能。

 その後の事はギームルに任せる予定だった。

 

 仮に発見されたとしても、綾杉の位置さえ特定出来ればごり押しで行くことも可能だと思っていたのだが、まさか入ってすぐに見つかるのは予想外だった。


 しかもこちらが不意を突かれる形となり、ギームルの身の安全を確保しなくてはならなくなった。


 状況はあまり面白くはない。

 だがここで俺が踏ん張ればまだひっくり返せる。

 そう思い、今はこのゴーレム達をどうすべきかと考えていると――


「――――ッ」


 離れた所から息を呑む音が聞こえた。

 外はまだ騒がしいが室内は静まり返っており、その息を呑む音が響いたのだ。


 俺は僅かに視線を動かし、その音の元の方を見ると、そこには気絶から目を覚ました貴族の息子がいた。

 壁に叩き付けられて気絶していた者が目を覚ましたのだ。

 状況をすぐに理解して息を殺しているが、残念ながらそれは遅かった様子。


 俺の方を見ていたゴーレムのうち一体が、その貴族がいる方へと首を向けた。

 

『――ニげるの?』

「ひぃっ」 


 感情の抜けきった女性の声が聞こえる。 

 3体のゴーレムは一斉に滑るように移動して、目を覚ました男を取り囲んだ。

 そして顔を突きつけるようにして尋問する。

  

『――アナタもニげるの? ねえ ?』

「あああ……だって、いま投降すれば聖女の勇者様がいるっ。きっと聖女の勇者様ならお救いしてくれる。だから見逃してくれぇ……」


『――アイしているとイってくれたのに? アナタもニげるの?」

「ま、待ってくれ! いや、待ってください。逃げるつもりではなくて違うんですそう言うんじゃなくて……せ、聖女様がいる今なら――――――ッ」

「なっ!? ……お前」


『―― アイしているってイっていたのに、あのオンナのトコロにイクなんてユルさない。あたしぃをダいておいてユルさない』 


 綾杉が操っているであろうゴーレム達が同時に武器を振り下ろした。

 首を刎ねられ、肩を抉られ、腕を潰されて男は死んだ。

 返り血でメイド服を赤黒く汚す3体のゴーレム。

 ゴーレムからは感情を読み取れるはずがないのに、俺は狂気を感じ取ることが出来た。

 

『――ナンでこんなコトに……なったんだろ。おかしい……よね? あたしぃはユウシャで、ダレからもモトめられ、ダレよりもホメられて、ダレよりもアイされて……あのオンナよりもウエだってイってモラえたのに……』


 このゴーレムを操っている者は正気ではない。

 何を考えて動いているのか分からない。が――


「俺を逃がすつもりはないか……」


 再び俺を取り囲む3体のゴーレム。その動きには僅かのズレもなく、本当に3体が同時に動いていた。

 しかもバーニアでも吹いているかのような動き。

 動作に足の動きだけではない、何かしらの補佐(アシスト)があるような動きを見せた。


『――オマエがあのトキ、スナオにシタガえばヨカったんだ。オマエが、あのドレイをヨコせばヨカったんだ』

「…………」



『――ジンナイ。アンタがあのトキ……………………もうシね』


 

読んでいただきありがとうございます。

すいません、返信が滞っており……

この綾杉編はアレなので、ネタバレしそうなので返信を控えております(_ _)


でも、感想が欲しいですー;



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[良い点] 第1話からここまで、3週間ほどかけて夢中で読み進めてしまいました! めっっちゃ面白いです!! 今まで小説家になろうでたくさんの作品を読ませていただきましたが、感想を書き込んだことはありま…
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