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インスニ

投降!

 戦いが開始された。

 今頃は葉月(プリンセスワン)言葉(プリンセスツー)が降伏勧告をしているはず。

 まずは相手の出方を見る。


 相手の御旗となっているのは勇者綾杉だけ。

 しかし降伏勧告するのは聖女と女神の勇者の二人。しかも他にも北では有名な赤城と早乙女など多数の勇者を有している。

 

 ギームルの予想では、この降伏勧告で大半の雇われの冒険者は下ろうと。

 もし残る者がいるとしたら、それは雇われて参加している者ではなく、貴族の息子に元からついていた従者か仲の良い知り合い。そういった者は残るかもしれないと言った。


 そしてそういった者には、全員にそれなりの処罰を課すとも……。


「――頼んだぞ」

「はい、ギームル様。では――」


「ん? ギームル。今のは?」


 ギームルが知らないヤツと話をしていた。

 スッと退いていく去り際からは、ギームルが裏で指示を出している”影”のようだが、当然気になりそれを尋ねた。


「必要な指示を出しただけじゃ。あとで貴様にも会わせるかもしれぬが、それは貴様の判断次第じゃな」

「……会わせる? 誰を?」

「貴様の判断次第じゃ……」


 ラティが反応しないということは、今の指示には害意などはないのだろう。

 どうにも気になったが、ギームルはそれ以上語らなかった。


 そして作戦が開始されてから約30分が経過した。

 降伏勧告をした葉月と言葉(ことのは)はもう退いている頃合い。

 予定通りであれば、そろそろ合図が来るはず。突入開始しろとの……。


「あの、上手くいっていると良いですねぇ」

「ああ、だけどその辺りは希望的観測もあるからな……」


 俺たちが予測したこと。それは戦闘人形(ゴーレム)を複数操ることによる綾杉への負荷。 

 いくら【並列】があろうときっと負荷が掛かるはず。

 包囲するように戦い、出来る限り操縦者である綾杉に負荷を掛ける。

 そしてゴーレムの操作に陰りが出始めたら、林に潜んでいる俺たちが突入する。

 

「そろそろ……あっ」

「伝令が来ました! あと五分後に突入を開始せよと」


「よし、各自用意! ハーティさん、隠密系の補助魔法を」

「ああ、じゃあ掛けて回るよ」


 俺たちはハーティに、隠密魔法系闇魔法”スニイン”を掛けてもらった。

 スニインとは姿と足音が消える魔法。

 走ったり激しく動くと効果が消えてしまうが、ゆっくりと動く分には効果が継続する。

 

 因みに、このスニイン係としてハーティに来てもらったには理由があった。

 ラティの装備している雪の結晶に似ているネックレス。弱体魔法を完全にカットする付加魔法品アクセサリーがあるので、並の術士ではそのネックレスに打ち勝てなかったのだ。

 

 弱体や強化魔法に特化しているハーティだからこそなんとかなったのだった。



   

      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 

 ゆっくりと林の中を進む。

 前を歩くラティの姿は見えないが、足下の草や土がへこむので、それを追うように少しずつ歩く。

 離れた方から何かの爆発音や煙が昇っているのが見えた。

 あれはきっとわざと派手に戦っているのだろう。

 綾杉の注意を引くために、出来るだけ派手に戦うと決めていた。

 あのモクモクと立ち昇る煙も、少しでも視界を潰してゴーレムを操る綾杉に負担を掛けるための策。


 俺は心の中で上手くいくように願う。

 陽動である4つの部隊は一斉に進軍し、ひとつの部隊が正面から、もうひとつが正面の側面を突くように、残りの二つが裏を突くようなルートで進んでいた。


 戦闘のシチュエーションもバラバラにした。

 攻めを重視した赤チーム。

 赤城の指揮の下、統率のとれた勇者同盟レギオンが烈火の如く攻めたてる作戦。


 バランスよく戦う青チーム。

 椎名の守護聖剣の結界を軸に、犠牲者を出さずに立ち回る戦法。


 ヒットアンドアウェイの緑チーム。

 放出系WS(ウエポンスキル)で、遠くから牽制しつつもしっかりと攻める。


 カレーは防戦。


 ゴーレムの強さを知っている身としては、犠牲者なしで行くのは厳しいと分かる。

 ただ、以前戦ったゴーレムは、それなりの財を投じたゴーレムだと言っていた気がするので、あのレベルがゴロゴロいる事はないはず。

 

「……あの、合図のようですねぇ」

「――ッ!」


 潜入のため声を控えていたが、合図の狼煙が上がった報告をラティが小声でする。 

 林の中なのでしっかりと確認が出来る訳ではないが、少し色の付いた狼煙が上がっていた。

 派手に撒き散らした爆煙をカモフラージュにして、色の付いた狼煙が二本三本と増えていく。そして――


「……四本目です」

「よし、上手くいった様子だな」


 色の付いた狼煙の合図の意味は、ゴーレムの動きに陰りが出てきた合図。

 明らかに動きが鈍くなってきたら、作戦が上手くいっている合図として狼煙を上げることにしていたのだ。

 

 そして動きが鈍くなってきたら、ゴーレムの数は減らさずに戦いを長引かせることも事前に決めていた。

 出来る限り引き付け、俺たちに注意が行かぬようにする。


「よし、出来る限り速度を上げて行こう」

「はい、ご主人様」


「ジジイ……ギームルもしっかりとついて来いよ」

「……貴様」

「よし、一度魔法をかけ直そう。そして一気に行こうか」


 俺たちは魔法をかけ直す。

 俺たちの黒チームは俺とラティだけ。ハーティのシルバーチームは、ハーティとギームル、そしてギームルの護衛として6人がついていた。


 魔法を掛け直す際に姿を現してしまうが、ここで掛け直さねば途中で途切れる危険性が出てくる。

 俺たちはスニインの魔法を掛け直し、要塞(別荘)へと潜入を再開した。



 

 別荘への潜入は呆気ない程簡単に成功した。

 一応門番は居たのだろうけど、葉月たちの降伏勧告によって既にもぬけの殻だった。

 素通りで開け放ったままの正門を潜り、これまた開け放ったままの扉を通り館へと入る。

 注意すべきは隠密系や隠蔽系を見破る付加魔法品アクセサリー

 普段は自分たちの方がお世話になっているが、今回は珍しく逆であった。

 

「……壁際で動くのを待ちましょう」 

「了解」


 俺たちは小声で話し、中に入ってからは左側へ壁沿いに移動した。

 かなり大きな別荘なので、入ってすぐのエントランスとなっている所はとても広く、そして大勢の者がいた。


 俺たちの姿を消しているのでヤツらに見つかることはない。

 だがしかし、ヤツらが身に着けている付加魔法品アクセサリーは別。離れているのでしっかりと見えた訳ではないが、青い石の付いた付加魔法品アクセサリーを何人かが身に着けていた。

 少なくとも一人はそれ系の物を身に着けているだろう。


 隠蔽系や隠密系の魔法を察知する付加魔法品アクセサリーは、姿を隠している者が近くに居ると青から赤に変わる。

 10メートルぐらい離れていれば恐らく平気だが、5メートルぐらいだと察知されるだろう。


 ( さてどうしたモノか。……どっか行ってくんねえかな )


 そこに居る者達はその身なりから、全員が冒険者などではでなく貴族の息子だと判る。――そして奴らは全員がお互いを罵り合っていた。


 こんなはずでなかったや、話が違う騙されたなど、全員が全員誰かの所為にして喚き散らしていた。とても醜いやりとり。


 そしてそんな中、いまからでも投降しようという者が出た。


「ボクはここを出るぞ! ボクは貴族に、男爵になれると聞いたからここに来たんだ。それに家の金だって持ち出して……。それなのにこのままじゃ保護法違反で捕らえられるかもしれないんだぞ! 聖女の勇者様ならきっと許してくれるはずだっ」

「「「――ッ!!」」」


 その者の発言により、その場に居た全員が息を呑み黙り込んだ。

 何を考えているのか誰にでも分かるぐらい考えている事が顔に書いてある。 

 コイツらは葉月たちに泣きつくつもりなのだろう。

 

 ( ……面白くねえな )


 葉月たちに縋り、見っとも無く喚きながら彼女たちに泣きつくのが想像出来る。そしてコイツらに心を砕くことに……。


 一瞬頭に過ぎる。ここにいる連中を叩きのめすことは出来る。

 だが折角潜入出来たのだ。

 

 ( どうする…………――ッ!? )


『――ダレもニがさないっ』

『――ウラギルることはユルさない』

『――だから、ジね』


 突如3人のメイドが姿を現した。ガシャンと金属音を立てて上から降ってきた。

 

( 今の音って、まさかゴーレム? ――って!?)

「――わあああああああああああああああああ!」


 最初に逃げようと言った者が首を刎ねられた。

 首を刎ねたのはピンク色のツインテールのような髪型をしたゴーレム。

 かなりの速度で踏み込み、相手に全く気が付かれることなく刎ねていた。

 自分たちの仲間を殺されて、貴族の息子たちが悲鳴を上げて腰を抜かす。


――殺気が一切感じられない?

 いや、ゴーレムなんだから当然か? しかしそれにしても……



 ゴーレムの強さは知っているので、今の踏み込みの速度は想定内だった。

 しかし、ここまで躊躇いがない事には戦慄した。

 今ので人が死んだのだ。首を刎ねられたのだ。どう考えても即死。 

 それを躊躇いもなくやってのけたのだ……。


――マジかよ……今のを綾杉が?

 いや、案外他の誰かが操作しているとか?

 でもさっきの声は綾杉だったよな……



 機械から発せられたような音だったが、あの声は綾杉だと思えた。

 少なくとも男の声ではなかった。

 

 どうすべきかと逡巡する。

 ここでやり過ごすべきか、それともこれを好機と打って出るべきか――


『――――ナンかいるね』


 ガシャンと音を立て、青い色のポニーテイルのゴーレムが周囲を見回した。


 

読んでいただきありがとうございます。

宜しければ感想やご質問などを……それと誤字脱字も教えていただけましたら幸いです。

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