到着
お待たせしました。
勇ハモ再開です。
「さて、準備は万端か」
俺は辺りを見回す。
今回は勇者を小隊のリーダーとして、隊をいくつにも分けた。
女性の勇者は全員後方待機、そして――
「ギームル、マジでアンタも行くのか?」
「当然だろう。貴様らだけでは落し所を見極められんだろうからな」
「……守り切れないかもだからな」
なんと今回の突入部隊にはギームルが入っていたのだ。
確かに今回の件は複雑だ。『えいえい』とやって終わりではない。
非常にデリケートな落し所が必要な案件となっている。
ある意味、北原がやらかした王女を誘拐してからの勇者召喚。あれに匹敵する案件だとギームルが馬車の中で言っていた。
そう、俺とギームルは一度馬車を同乗した。
その理由は言葉と同乗した後、土下座まではしていないが、ハーティに一緒に乗って欲しいと頼み込んだ。
そしてそれが切っ掛けとなり、同乗する相手を毎回変えて行こうという謎の流れになった。
それを提案したのは赤城とギームル。
最初は、『お前は何を言っているんだ?』と思ったが、彼らには一応目的があった。
それはとても単純なこと。要は、その時に今回の綾杉の件の話を煮詰めておこうというモノだった。
今回の綾杉の件は、女性陣には全てを伝えていない。
どういう戦い方で進めるかなどの話なら良いが、その後の話となると違ってくる。彼女たちには絶対に聞かせられない。
なので俺たちは、女性の勇者が乗っていない馬車の中で、その辺りの話を進めた。
まず周囲からの協力を得る為に、ギームル、葉月、言葉にはフユイシの街に行ってもらった。
聖女と女神の勇者の威光をバックにギームルが話を進め、情報収集、物資の提供、相手が逃亡してきた時の対処など、戦闘行為以外のことを固めた。
仮に男爵連合の者が逃げて来たとしても、これによって街に入り込まれることはなくなった。
ただ、事がコトなだけに、フユイシの街から戦力を借りることは控えた。
統制の取れていない者から情報が流失しては意味がない。
今回の件は、迅速に叩き潰すと同時に、綾杉のことを知られてはならない。
俺の中ではむしろそっちの方が困難に思えた。
因みに困難だったと言えば、一度だけ同乗することになった早乙女の時。
ギームルと同乗した後、早乙女が乗り込んで来たのだ。一応想定はしていた。このポンコツは絶対に来ると……。
だがしかし、俺にはラティさんがいる。
だから今回もきっと、早乙女は乗り込むと同時に寝てしまうものだろうと踏んでいた。いつも通り何故か寝てしまうだろうと。
だが――
『あれ?』
『あん? 何だよ陽一。なんで不思議そうにあたしを見てんだよ」
『い、いや……あれ? あれぇ~? 眠くないの?』
『なに言ってんだ?』
何故か早乙女は寝なかった。
どういう事なのかとラティを見れば、『あの、何でしょうか?』といった顔。
ラティの意図は分からないが、彼女はいつもの事をしてくれなかった。
撫で過ぎなのがマズかったのか、それと早乙女に気を遣ったのかは不明だが、俺はこれに困惑した。イージーゲームだと思ったら違ったのだ。
そして、起きたままの早乙女は、ある意味葉月並に大変だった……。
『最近さぁ、『階段』ってのを聞いたんだけど、それって何?』
『――ッ!!!????! 階段は階段だろ? 普通に二階とかに――』
『そっちじゃねえよ。……ってか、何だよその狼狽え方は』
『い、いや。えっと、あれかな? ひゅ~ドロドロって感じの話の――』
『その怪談でもねえ。なんかよ、三雲組の連中がそんな話をしてたんだよ。階段がどうたらこうたらって』
『そ、そうなんだ』
『――でだ、何となくそれを聞いたんだ。『階段がどうしたんだ』って、そうしたらお前に聞けって言われたんだよ』
『はあ? 俺に? ってか誰だよ、そんなことを馬鹿に吹き込んだ馬鹿はっ。……しかし、人見知りのお前がよく聞けたな?』
『おい、誰が馬鹿で人見知りだ! ふざけんなよ。……あの二人だよ、前に酒場で話し掛けてきた……えっと』
『コマンダとストライカか……』
『ああ、そいつらだ。――で、その階段ってのは何だ?』
『ラティ、コイツを寝かせ。……………………あれ?』
『あの、何でしょうか、その寝かすとは?』
『ちょっとおおおお! うええっ? あれ? いつも寝かしてたよね?』
『何を騒いでんだよ。だから階段ってのは――』
そう、超大変だった。
階段に行ったことはあるが、入ったことはない。
だから説明のしようもないし、もし説明するならロマンとしか言えない。
だがロマンの部分が説明しづらい。
最終的には、あまりの惨状を見かねたラティが寝かしてくれた。
もしラティが寝かしてくれなかったら俺が寝ようと思っていた。早乙女に狸寝入りが通用するかどうかは不明だが……。
こうして多少わっちゃわっちゃとあったが、俺たちは――
「陣内君、僕達は予定通り中央にいくよ」
「あいよ、任したぜレッドリーダー」
「はは、裏は任せたよブラックリーダー」
俺たちはお互いのコードネームを呼び合う。
小隊を色で呼び、隊長がリーダー、隊員はワン、ツーといった感じだ。
因みに、ジジイはシルバーワンだ。
「ねえ、陽一クン。何でオラの隊だけはカレーなんだ? 普通はイエローだよね? 何でカレーなの? しかも何故か隊員は全員それを納得してるし……」
「知るかっ、文句があるなら歴代共に言え。アイツらが広めたようなもんだし。それにカレーは美味しいだろ?」
とても不満げな顔で言ってくる小山。
しかしこれはもう決まったことでもあるし、心底どうでも良いことなので俺は突っぱねる。
「うるせぇ、さっさと配置につけ小山。あと、俺を下の名前で呼ぶな」
「ぎゃぼう (>_<)」
閑話休題
赤青緑カレーが配置につく。
今回の目標は、勇者綾杉いろはの救出と、男爵連合に烏合する貴族の息子たち全員の捕縛。
まずは投降を呼び掛け、それに応じない者は全員容赦なく行く予定。
冒険者との戦闘はそこまで大変ではないと予想しているのだが……。
「ラティ、やっぱり見えないか?」
「あの、はい。――やはり見えないです」
「そうか、その辺りはちょっと厄介だな」
一つだけ厄介なことがあった。
それは綾杉の操る戦闘人形が索敵に引っ掛からないということ。
そしてゴーレム自体には感情がないため、ラティの【心感】でも見えない。
あちらは索敵系の物が使えるが、こちらにはそれがないのだ。
「隠密の魔法がどこまで通用するのかが知りたいところだね」
「一応、”見つかっている”を前提で動く方がいいかもですね」
ハーティの言葉に俺が答える。
「うん、それが無難だね」
俺たち黒チームには、隠密系の魔法担当としてハーティが同行していた。
ハーティのコードネームはシルバーリーダー。今回の作戦の肝となる部隊。
赤城、椎名、霧島、小山がバラバラに散って攻め込み、綾杉の操るゴーレムを出来る限り誘き寄せる。
ゴーレムを操るのは綾杉一人。いくら【並列】の【固有能力】があろうと、数多くのゴーレムを同時に操るのは容易ではないはず。
そうやって綾杉の注意を分散させ、俺たち黒チームと銀チームが裏から突入。
これが俺たちの作戦だった。
周囲の地形に関しては、フユイシ伯爵の元別荘の中の図面はさすがに手に入らなかったが、周囲の地図はギームルがフユイシの街から奪ってきていた。
「ジジ――ギームル、坂道が続くが遅れるなよ?」
「貴様、いまジジイと言い掛けなかったか?」
「陣内君、ちゃんと僕がギームルさんに移動系補助魔法を掛けるよ」
上手いこと会話をカットしてくれるハーティ。
俺はギームルを無視して、伝令に開始の合図を出す。
「よし、作戦開始だ。姫ワン、ツーを投入!」
こうして、勇者連合対男爵連合の戦いが開始されたのだった。
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あと、誤字脱字なども……