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勇者連合

 あちらにはあちらの大義名分がある。

 ちょっと擦れた話だが、正義とは人や立場によって変わる。

 極端な話、人を殺したとしても正義と呼べる場合がある。

 

 正義とは、人を、世間を、世界を納得させる為のモノなのかもしれない。

 よく知らんけど。



「取り敢えず、リーダーと言うか代表は僕でいいのかな?」

「ああ、任せる」

「うん、ボクもそれで構わないよ」

「しゃあねえ、譲ってやるぜっ!」

「どうぞどうぞ」


 赤城の言葉に、俺、椎名、小山、霧島が同意する。

 ギームルと赤城の提案により、俺たちは一時的に勇者連合を組む事となった。

 

 男爵連合の御旗は勇者綾杉。

 勇者保護法によって勇者の人権は過剰に守られている。


 貴族が勇者を討つのは保護法違反。

 今代の男爵連合は、勇者(・・)を有する連合となっていて、他の貴族達が全員二の足を踏んでいる状態。


 どんな形であれ、貴族達は勇者に矛を向けるのを躊躇っている。

 しかも旨味はほとんどなく、下手をすれば他の勇者との関係が悪くなるかもしれない。もう火中の栗を拾うようなものだと。



 ならば勇者が動くしかないという流れ。


 しかしこの構図にも問題がある。

 勇者同士が争ってはいけないという決まりがある。

 ここで赤城が提案したのが、”争い”にならなければ良いというモノ。

 争いは、同じ土俵、同じレベル、対立する思想がないと成立しない。


 ならば、争いが成立しない圧倒的なモノで押せば良いとなったのだ。

 相手が勇者を有する連合ならば、こちらは勇者で組んだ連合。

 格が違うと見せつけ、強引に世間を納得させるという方法。

 

 争いにならないのだから保護法違反に該当しない。

 何とも赤城らしいやり方。苦笑いと草しか生えない方法だ。


 だがこれならば、後から難癖を付けられる事もない。

 仮に次男・三男(身内)が死んだとしても何も言わせない。

 ボレアス奪還の時のような大義名分はないが、勇者の威光という力押しとした。



「もう少し話を詰めよう。それと小山君。そろそろ服を着ろ」

「いや~~、どっかいっちゃってて……。それにギームルさんがこのままで居てくれって……」

「へ? どういう事だ?」


「ふむ、今は話を進めよう」

「? ああ、わかった」


 ( ――って、この小山(半裸)をスルーし続けろと!? )


 朝帰りしてきたという小山は半裸だった。 

 具体的にいうとパンツ一丁(パンイチ)。白のブリーフ姿でこの場にやってきたのだ。

 思い出してみれば、確かに全てパージして冒険に出ていた気がする。

 

――あれ? って事は、

 あん時の服は脱ぎ捨てたままなのか?

 ちゃんと誰か回収したのか? それとも……。



 勇者至上主義な異世界(イセカイ)

 ひょっとすると脱いだ小山の服は、聖遺物として祭り立てられているかもしれない。

 そして、宴では全裸になって服はそのまま置いていくなどの負の遺産が……。


――あ~~なるほど、

 こうやって歴代(馬鹿)共は負の遺産を遺していったのかもしれないな、

 馬鹿がやった馬鹿な行動が馬鹿みたいに遺って……



 見てはならない闇を垣間見た気がしたが、今は話を煮詰める事にする。

 小山(半裸)がいるので女性陣はこの場にいない。

 先程女性陣が来たが、ゴミを見るような目をした三雲がすぐに扉を閉じた。


 そして、『ちょっと弓を取ってくる』と聞こえた気がしたが、ギームルが部屋を出て話をつけていた。

 ギームルが戻った後、取り敢えず女性陣は抜きで話を進めたのだ。


 

「勇者様、これはまだ伏せてある事なのですが。早朝、男爵連合からある書状が届きました」

「ん? 書状? それに伏せてあるって?」


 当然話を切り出すギームル。眉間の皺がいつもよりも深くなっている。

 最初俺は、書状と言う言葉を聞いて降伏などの話かと思った。

 

 今回の件はどう考えても不利。

 奴らに勝機があるとは思えない。だから男爵連合は今になって冷静に戻り、減刑の嘆願書でも出して来たのかと思った。


 だがギームルの様子から、その書状の内容が良くないモノとだと察しれた。


 考えたくない可能性が頭を過ぎる――。



「それでギームルさん。その書状には何と?」

「う、うむ、アカギ様。それが――」






 心の底から吐き気がする。

 何故小山が半裸で呼ばれたのか、その理由が分かった。

 とてもではないが、この場に女性陣を呼ぶ訳にはいかなかった。


 考えたくない可能性を遥かに超えていたのだ。

 下衆な方向で……。


「そ、そんな事を……」

「綾杉さん……何て事に」 

「なるほど、それでか……」

「これはボクでも無理だな。とても劇には出来ない」


「あのクズがっ」


 この場にいる全員が憤っていた。

 ギームルから新たに知らされた内容は、勇者アヤスギ様のお腹には、我々男爵連合の子供がいるかもしれない。だから我ら男爵連合を認めよとの事だった。


 最初は何を言っているのか解らなかった。

 だが説明を聞いているうちに、解りたくないが分かった。


 女性勇者には子供がとても出来難い。だから男の勇者が現地の者に産ませる子供よりも、女性勇者が産んだ子供の方が価値が高いと教えられた事があった。


 納得したくはないがその理由は分かる。

 子供が出来難い上に、勇者が子供を産むのだから人数も少ない。


 だからとても価値があり、そしてそれは貴族にとって最高のステータス。

 自分の子供を女性勇者に産ませる。

 その最高の栄誉ともいえるモノをレフト伯爵は利用したのだ。


 これが不可解な求心力の正体。

 勇者に子供を産ませる事が出来るという、そんな反吐が出るような権利を餌に誘ったのだ。

 勇者が居るとはいえ、全てを投げ捨てて次男や三男が集まるのは不可解だった。いくら何でも割に合わない。

 だが、自分が勇者の子供の親になれるかもしれないとなると話が変わってくる。


 レフト伯爵は、そうやって人と金を集めたのだ。

 そして綾杉を次男や三男に……。


 吐き気しかしない話。

 レフト伯爵にとって綾杉は自分の女だったはず。

 それを差し出すようにして利用したというのだ。


 そして、全員が父親となる可能性がある。

 だから全員を勇者の子供の親と認定し、自分達を認め、フユイシ領を寄越せと再度主張してきたのだ。

 

 しかも、全て同意の上なので、保護法違反には該当しないと。


 それが今朝届いた書状の内容。


 ギームルの判断は正しかった。

 こんな内容を彼女たちに明かす訳にはいかない。

 明かすにしても最大限の配慮が必要となる。

 

 だからギームルは、小山(半裸)を使って一時的に遠ざけたのだ。

 間違っても彼女たちがやって来ないように。


 そしてこの話は、ある特定の勇者に話す事も出来ないと言った。

 正義馬鹿の八十神はきっと暴走する。

 こういった女性軽視を嫌う橘の場合は、立て籠っている別荘にイートゥ・スラッグを撃ち込みかねない。

 それと、いま子供が居る上杉もマズイだろうとも話した。


 この話は明かす事は出来ない。

 綾杉の名誉のために、そして勇者たちから無用な不信感を抱かれぬように、出来るだけ内密に終わらせようとなった。


 

 この後俺たちは話を纏めた。

 まず勇者連合だが、これにはボレアスに滞在している勇者は全員参加。

 葉月と言葉(ことのは)の知名度は正当性の為に外せない。

 だが二人は後方待機で前線には出さないとし、早乙女と三雲も、二人の護衛として後方待機にした。


 連合に参加してもらうが、戦闘には参加させず男だけで戦う事にする。


 そして戦闘要員は精鋭のみとした。

 ギームルが放った密偵によると、相手が雇っている冒険者はどうとでもなるが、勇者綾杉が操る戦闘人形(ゴーレム)が危険だとか。


 冒険者の方は、俺たち(勇者)が勇者連合として行けば下るか逃げるかの二択。間違っても残るような奴はいないとの事。

 

 だがゴーレムは違う。


 密偵の報告によると、綾杉の操るゴーレムは数十体以上。

 次男などが持ち出した金で買い漁って集めたそうだ。


 そしてゴーレムは一体一体が歴戦冒険者クラスの強さ。

 索敵などの察知能力も高く、何人もの密偵が囚われただとか。


 その事から忍び込むのは難しく、基本的に正面から行くしかない。

 もしくは囲うように攻める事で、操縦者である綾杉に負荷を掛ける戦法だ。


 一応、物量による人海戦術という方法もあるが、奴らが立て籠もっているフユイシ伯爵の別荘とは、要は街から追われた時の為の避難所であり、別荘とは名ばかりの要塞のような所らしい。


 その為、単純な人海戦術はあまり有効ではなく、むしろ大人数を指揮する負担の方が大きいとの事だった。

 しかも下手をすると、指揮の届かない場所を奇襲される危険性がある。


 俺たちはそれらを踏まえ、再びストライク・ナブラと組む事になった。

 俺、勇者達、三雲組、勇者同盟レギオン、そしてストライク・ナブラによる少数精鋭の勇者連合。

 

 ダンジョン探索は一時中断し、俺たちは男爵連合を討伐する為に出立したのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想などなど……


スイマセン、忙しくなってちょっと更新と返信が滞るかもです;

ごめんなさいー

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