宴
すいませんっ激務だったため投稿遅れました;
新章、『男爵連合編』のスタートです。
君はアキイシ家誕生の秘話を知る。
「待っておったぞジンナイ」
「へ? 何でギームルがここに……?」
地上へと戻った俺たちの前に、巌のようなジジイ、元宰相であるギームルが待ち構えていた。
俺は思わず身構えてしまう。
地上には、転移魔法で椎名が先に戻っていた。
だから俺たちがいつ戻るのかは知らせていたが、それでもこの場にギームルが居るのはおかしかった。
ギームルはノトスで仕事をしていたはず。椎名が戻ってから伝えたとしても到底間に合わない。ノトスからボレアスに来るには一週間以上は掛かるはずだ。
ギームルは椎名のように転移魔法は使えないのだから。
確認の為に椎名の方を見たが、椎名は軽く首を振って否定した。
そうなるとやはり不自然。
困惑する俺に、ギームルが淡々と用件を伝えてきた。
「貴様の出番じゃ。”ブレイヴカウンター”として働いてもらうぞ」
「は? へ? え?」
「貴様が言ったのだろうが、『全部寄こせ』と」
「あっ」
「寄越すのは勇者アヤスギ様だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『どういう事かな?』という空気の中、ギームルは夜になったら部屋に来いと告げて去っていった。
現ボレアス公爵であるドライゼンもそれに同行しており、これから何か話し合いがあるのだろうと察する。
一体に何があったのかは判らないが、勇者絡みだという事は判る。
葉月と早乙女にジト目で問われたが、俺は知らないと答える。
合わせて『全部寄こせ』の件も尋ねられたが、それも知らんと誤魔化した。
正直、そっちの件は照れ臭すぎて彼女たちには言えない。
テンションが高まって言ってしまった言葉。何でも来んかい、全部俺が解決してやる的な勢いで吐いた宣言だ。
とても本人たちには言えない。
取り敢えず俺は、地上に戻れた祝いが先だと誤魔化し逃げる。
冒険者たち恒例の祭り。
ダンジョンで仲間が死んだら、その亡くなった者を偲び大騒ぎする宴。
飲んで喰って馬鹿をやって、もう会えぬ仲間を弔う恒例の祭り。
このしきたりは何処でも同じらしく、俺たちはドライゼンが押さえてくれている店へと向かった。
無事に生還が出来た祝いと、出来なかった者を悔やむ為に……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁっ!? そんな理由で勝てたってのかよ!」
「動きが単純だったからな」
一人の男が目を剥いて声を張り上げる。
現在俺たちは、百人は入れる規模の酒場で恒例の祭りをしていた。
そして俺は、ストライク・ナブラの連中に囲まれていた。
だが囲まれていると言っても、悪い方の意味ではなく、好意的な方の意味で囲まれていた。
俺とシャチ型の戦いを見ていたストライク・ナブラの一人が、どうやってあんなヤツに勝てたのかと訊ねてきたのだ。
手と足が付いていて、地面に立っているのが相手なら、その予備動作から次の動きが読める。特にあのシャチ型の動きは単調で読み易かった。
そして観察が出来れば精度はもっと跳ね上がる。
あの時、最後に押し切れたのも、相手の動きを完全に見切ったからだ。
だが、俺は手の内を明かすつもりはない。
俺は相手の動きが単調だったから上手くいったと話す。
『そうだったのか』と、安堵の声を漏らすストライク・ナブラの男。
訊ねてきた者は、周りに同意を求めるように笑顔を振りまいている。
ただ、椎名だけは苦笑い。
アイツとは二回ほどガチでやりあっている。だから俺が嘘を吐いているのを分かっている。
だが、全部嘘という訳ではない。
あのシャチ型の攻撃は本当に分かり易く単調だった。
不可視の斬撃は厄介だが、攻撃自体は単純な振り下ろしばかり。
はっきり言って、あの場に居たのがシロゼオイ・ノロイだったらヤバかった。
アレを相手に正面から単独で戦うのは不可能。
足を止めてアレと対峙したら1分も持たない自信がある。
( 運が良かったのかな…… )
「しかしよう、だからってよく勝てたよな。まあ、つい魅入っていたオレが言うのもなんだけどよ」
「だったらとっとと降りて来いっての」
「いいだろ~、倒せたんだしよぉ~」
「喧しいっ、本気でやばい相手だったんだぞ」
わっちゃわっちゃと生還祝いの宴は続く。
ラティは俺の隣でチビチビと果実水を飲んでいる。
フードをしっかりと被り、顔と髪は出さないように気を付けている。
こればっかりは仕方ない。
ノトスではちょっかいを掛けてくる馬鹿は減ったが、ここはノトスではなく北のボレアス。何が起きるか分かったものではない。
( ちょっと窮屈だな…… )
女性陣の勇者たちにはボレアスの宮殿に戻ってもらっていた。
彼女たちも参加したかっただろうが、勇者が集まり過ぎるとあまりよろしくない。暴走する馬鹿がきっと出てくる。
実際に今も、権力者らしき者が辺りをキョロキョロと見回している。きっと勇者たちが目的だろう。
野郎共ならどうなっても構わないが、女性陣の方はそういう訳にはいかない。
こればっかりはノトスでもそうだった。
早乙女が少々ぐずったが、葉月に諭しあやされ連行されていった。
だから今は、隣のラティだけを注意していれば良い。
小山が調子に乗って酒を飲んで色々とやらかしているが、ヤツは知り合いでも何でもないのでスルー。
周りにワッショイされる形で酒をイッキし続けている。
椎名と霧島の方は、押し掛けて来た女性と会話を交わしていた。
普段から慣れているのか、とても自然な笑みで対応している。
俺だったら間違いなく引きつった顔で対応した事だろう。
グイグイと迫る女性がどんどん増えていく。
美形に群がるご婦人方。イケメンが二人もいる為か、女性の方は誰も小山の方に行かない。行くのは野郎ばかり……。
( あっちはあっちで大変か )
「お嬢さん、どうです一杯?」
「あ、酒は駄目だ」
こういった場の定番というべきか、酔った男がラティに酒を勧めに来た。
当然、飲ませる気はない。
ラティは酒を飲むとモモちゃん化して甘えてくる。
それ自体は別に構わない。むしろばっちこいなのだが、酔った状態のラティを他の男に見せたくない。見て良いのは俺だけだ。
「ラティはジュースだけで」
「はい、ご主人様」
「お? ここでも女性は庇うってか? ”ボッチ・ライン”」
「へ~~、こんな時でも庇うのかぁ」
「サオトメ様だけじゃなくて、他の女も守るか~」
「誰でも守るんだな~ボッチは」
酒を勧めに来たのは、ストライク・ナブラに所属する者たちだった。
よく見てみれば、酒を勧めに来たヤツ以外はあの場にいた者たち。
これはまた揶揄いに来たのだとすぐに分かる。
「散った散った! 散れっ」
俺は揶揄いに来た連中をシッシと追い払う。
酔ってはいるが、それ以上絡んでくる事はなく素直に引いてくれる。
あの一件が奴らの琴線にでも触れたのか、シャチ型との死闘以降、何かを”庇う”とすぐにやって来て俺を揶揄うようになった。
「ったく、何が面白いんだか……」
こうやって揶揄うのは一種のノリだと思う。これもコミュニケーションのひとつだとも言える。やり過ぎれば不快になるがまだその域ではない。
「……取り敢えずは受け入れられたって事かな? ――っん?」
突然黄色い悲鳴が上がった。
やや非難染みた声音だが、「キャー、キャー」と女性の声が広がる。
俺は何が起こったのかと顔を向けるが、それをすぐに後悔した。
「ラティ、あっちは見ないように。目が穢れる」
「はい、ご主人様」
「さっすがコヤマ様!!」
「素晴らしい脱ぎっぷりです」
「まさか一気にいくとはっ! よしっ、我らも続けえええ!!」
「「「「「「了解っ、パージっ!!」」」」」
「「「「「「――――――――――ッ!!!!」」」」
黄色い悲鳴がただの悲鳴に変わった。
「どうだっ!オラのクレイモアは、ご立派様だろ! WSヘリオン!」
悲鳴を上げて逃げ出すご婦人方。
椎名と霧島に縋るようにして残っている者はいるが、店内に押し掛けていた女性のほとんどが逃げていった。
「最低だアイツ、なにやってんだよ……」
「今宵のムラマサは血に飢えているぜっ」
「クレイモアじゃねえのかよ! ってか、何だよあれは」
「え? あれですか? あれは――」
俺は近くにいるストライク・ナブラの者にアレを尋ねた。
アレとは突如発生した全裸の集団。
少なくとも少し前までは服を着ていたはずだ。
だがいつの間にか、ほとんどの者が全裸になっていた。
「――って、事ですよ」
「……………………荒木が遺した負の遺産か」
全裸になった理由は、勇者荒木の所為だった。
あの馬鹿は、飲みの席では途中から全裸になるものだと広めたらしい。
要は酔っ払いの悪ノリ。元の世界だったら即通報案件だ。
ストライク・ナブラの連中にとってこの全裸になるはいつも事で、それに小山が馬鹿みたいに乗った様子だ。
自分のナニを大剣に見立て、ブルンブルンとWSを放つ真似をする小山。
「葉月たちが居なくて良かった――へっ!?」
「おっしゃああああっ! いっちょ冒険にでも行ってみっかっ!」
地獄絵図は終わりでは無かった。まだ先があった。
ナニを思ったのか、小山はストライク・ナブラを率いて冒険に向かうと言い始めた。
勇者には逆らえないのか、それとも元からそうなのか、ストライク・ナブラの連中はそれに追随する。
何故か霧島が巻き込まれ、全裸小山にヘッドロックを掛けられ連行されている。
目で助けを求めているが、当然そんなモノはスルー。
ヤツとは知り合いだが、同時に敵とも言える。
霧島の所為でモモちゃんの教育に深刻な影を落としている。
悲鳴が外へと広がっていく。
ガチで全裸で店の外へと小山が歩いて征く。
「……だから赤城はいなかったのか」
この場に赤城がいなかった理由が分かった気がした。
赤城はストライク・ナブラのノリについていけなかったのだろう。
だから事前に避難しておいた。俺たちには教えずに……。
「すいません、ウチの連中が……」
「あ、ガルマンさん」
「あとの事は私に任せてください。ハメを外すような真似はさせませんので、どうか御安心を」
「え? あ、ああ……」
既に外しているような気がするが、彼の中ではまだセーフらしい。
どの程度がアウトなのか少し気になるが、俺はガルマンに促される形でその場を後にする。
俺は次の場へ、冒険という浪漫に前尻尾が引かれる思いだが、ギームルが待つボレアス公爵家の宮殿へと向かった。
読んで頂きありがとうございますっ
宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです<(_ _)>
あと、誤字脱字のご指摘頂けましたら……
グラウ様、誤字ご指摘ありがとうございます。
重版の方、誤字修正をお願いしておきました。
7月に出回る分は修正されるはずです<(_ _)>