灰となった
全員が揃い、いったん落ち着いたあと、俺たちは状況を整理した。
まず最初に、最奥にあると思われていた精神が宿った魔石は、魔石魔物の核になっていたと話した。
これにはハーティさんが合点いったと納得する。
同時に、”力”の回収の件も無事に終えたと告げる。
そして魔石はもう使い物にならなくなっていた。
ハーティがそれに触れると、風化するように崩れてしまったのだ。
初代勇者の仲間と会話をする事は出来なかった。
何か聞きたい事が特にあった訳ではないが、千年以上の時を守り続けた存在。
感傷に浸るつもりはないが、一言伝えたかった。
今までお疲れさまでしたと……。
次は、倒した魔石魔物がベースキャンプを襲撃した魔物だろうと報告した。
不可視のWSと、人の身の丈はありそうな長大な刃。
もう黒い霧となって証明出来るモノは無かったのだが、なんと赤城たちは、あの魔物との戦闘を目撃していたらしく、疑う事なく納得してくれた。
だったら援護に駆け付けろと言った。
しかし赤城は、落ちた者を助ける為に魔法を連発した事によりMPが枯渇した事。それと駆け付ける前に戦闘が終わったと言いやがる。
魔法によって宙づり状態。戦闘も約1~2分程度。
確かに思い返してみると、呼吸する暇もない戦闘だった。
それならば赤城が言うように短い時間だったのだろう。
個人的にはとても長く感じていたのだが……。
その後は、落下によって重傷を負った者も居たが、回復魔法によって全員が傷を癒し、誰一人欠ける事はなくその場を後にした。
ちょっとした余談では、ストライク・ナブラの連中から称賛された。
孤高の独り最前線を見せてもらったや、本当の”谷底の弓乙女”を観させて貰いましたなど、そんな事を言われる。
どうやら落ちた連中のほとんどが、俺とシャチ型の戦闘を見ていたらしい。
閑話休題
目的を達成した俺たちは、地上への帰路に着く。
最近結界の使い方がチート染みてきた葉月の結界階段で上へと戻り、俺たちは目印に従って来た道を引き返す。
MPが消耗しているので、本当は休憩をしたいところだが、要石となっていた魔石が完全に消失した状態。どんな事が起きるか分かったものではないと今は急ぐ。
しかし何故か、何故か皆が俺から距離を取っている。
早乙女とラティだけは俺の横にいるが、野郎陣は全員俺から離れていた。
あれだけ讃えていたストライク・ナブラの連中も、いざ行軍が始まると離れていった。
何人かは足元を確認するような仕草を見せる。
――ったく、また床が崩れるってか?
さすがにまた同じ事は起きないだろう、
…………ってか、俺の足元をガン見すんじゃねえっ!
「陽一。あっ、ありがとう。また助けてくれて……」
「ん? ――ああっ、そっか……それでか……」
俺は『ああっ』と気が付く。
ストライク・ナブラが言っていた事に気が付いた。
彼らの言っていた本当の”谷底の弓乙女”とは、二年近く前の防衛戦の事なのだと。
確かにあの芝居では逆になっていた。
俺が助けられ、早乙女が助ける方だった。
だから『本当の』と言ったのだろう。
「……陽一?」
「あ、ああ、何でもない。ってか早乙女、ああいう時でも少しは動けるようになっておけよ。ちょっと厳しいことを言うようだけど、あれはマズいぞ早乙女」
俺は早乙女に、咄嗟の時にも動けるようにと注意をした。
普通の女の子にそんな事を求めるのは酷だが、また似たような状況に遭遇するかもしれない。むしろその可能性の方が高い。
ダンジョンについて来るというのであれば、いつまでもあの様なままではいけない。
パニックになって動けないなど大問題。
ましてや、怯えて動けなくなるなど論外だ。
俺は、丁度横に居るラティを例に出して諭す。
ラティならばどんな時であろうと決して止まる事はない。早乙女もラティのようになれとは言わないが、動けなくなるは無くせと忠告した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「陣内君、ちゃんと反省したかい?」
「……ハーティさん。ええ、口が滑ったって言うか、ちょっと言い過ぎました」
「うん、全然反省していないし、全く解ってもいないね」
大きく溜め息を吐き、ヤレヤレといった仕草をするハーティ。
現在俺たちは休憩中。
一息ついたらまたすぐに出発する予定。
そんな中、俺はハーティさんから注意されていた。
その理由は早乙女が大変ご立腹な件。
俺の注意に対し、早乙女がとてもとても怒ってしまったのだ。
俺から離れ、周りが怯えてしまう程の苛立ちを撒き散らし始めた。
分かっている。判っているし、解っている。
きちんと注意したのは間違っていない。
アレはしっかりと言わなくてはならない事だった。
だがしかし、俺の言い方と、ラティを比較に出したのは良くなかった。
競技ではないのだから、誰かと比較するのは良くない。それなのに俺はそれをしてしまった。
特にラティを引き合いに出したのは……。
俺はラティの方を見る。
何とも居た堪れない様子を見せているラティ。
いつも通り凛としてはいるが、視線が僅かに揺らいでいる。
「…………わかっていますよ」
「へぇ、なるほどね。一応は解っているんだ」
そう言ってしたり顔を見せるハーティ。
これはとても口に出せない事。早乙女からの好意は、何となくだが分かっている。
あんな熱を帯びた目で見つめられたのだ。勘違いという可能性もあるが、そうではないと思っている。ラティからもそう聞いた事がある。
そして、俺とラティが互いに想い合っている。
そんなラティを比較に出して早乙女を注意したのだ。
「…………………………そりゃ機嫌も悪くなるよな」
どこぞのハーレム野郎だったのならば、ばっち来いと言うのだろう。
だが俺にはそんな甲斐性はないし、ラティも絶対に許さない。
「はぁ……」
これはきっと贅沢な悩みのようなモノなのだろう。
もしこんな悩みを持っているヤツが横に居たら、即座に嫉妬組に報告してアライアンス級の戦力で制裁を加える。
「陣内君、刺されないように気を付けてね」
「止めてくださいハーティさん。……そんな事は起きないですよ」
「だと良いけどね」
ハーティはチラリと霧島の方を見る。
「…………勘弁してくれ」
それから六日後、俺たちは地上へと帰還した。
そしてそこには、何とギームルが待っていた。