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ちょっと取って……

投稿!

「――がはあぁ、ハアァ、ハアァ……」

「あゔぅ、ゔゔぅぅ……よういぢぃ。ご、ごめん、あたしがまた、また……」


 もう立っていられず後ろにバタリと倒れこむ。

 酸素を求め、俺は大きく呼吸を繰り返す。

 今の戦闘は本当に息を吸う暇がない程の戦いだった。

 雨のように降り注ぐ斬撃、まさに限界ギリギリ寸前。

 

 そんな厳しい戦いだったので、後ろにいる早乙女へ逃げろと言う余裕もなく、俺は足を止めてヤツと打ち合うしかなかった。


「ごめん、ごめんよぉ、よういぢぃ……」

 

 倒れこんだ頭の方、後ろからポンコツ(早乙女)のつっかえつっかえの泣き声が聞こえてくる。


 動けなかった事を謝っている様子で、泣きじゃくりながら謝っている。

 確かに怯えて動けなくなるなど致命傷。遊びではない、命のやり取りをしているダンジョンの探索では尚更だ。

 

 だが分からないでもない。

 こんな薄暗い場所で、大口を開けた魔物が突然現れたのだ。

 驚き怯えてしまったのは仕方のない事。


 早乙女は普通の女の子なのだから……。


「よういぢぃ、よういぢぃぃ……」


 涙をボロボロと流しながら、まだ腰が抜けた状態なのか、早乙女は手を使って這うようにしてやって来る。

 その姿はとても戦えるような状態ではない。


――くそっ、

 周りに魔物は居ねえよな? まだ動けねえぞ俺は、

 くそっ痛ぇ、肺まで軋みやがんぞ……



 戦闘のダメージが深刻過ぎる。

 いくら呼吸しても酸素は足らず、身体もそこら中に激痛が走っている。

 派手な出血などはないが、このままでは非常にマズい。


 ( まさかWS(ウエポンスキル)を放つ魔物がいるとは…… )


 シャチに似たアスレートはWSを放っていた。

 刃は光っていなかったので、もしかするとWSとは別のモノなのかもしれないが、少なくとも何かを放出していた。


 あの斬撃には、放出系WSのような力が込められていた。

 魔物の刃を槍で受け止めても、斬撃のようなモノが槍をすり抜けて俺を斬りつけていた。

 少しでも被弾を少なくする為、俺は打ち返したり受け流しをしていた。

 本当は横に避けたかったが、それをすると背後に背負っている早乙女が切り裂かれてしまうので出来ず。


 黒鱗装束でなければ本当に危なかった。

 斬撃や衝撃には滅法強い黒竜の鱗。これのおかげで俺は何とか生きていられた。

 鱗で覆われていない所は浅くだが切り裂かれている。


 不可視の斬撃、あれがヤツの本当の恐ろしさだったのかもしれない。

 鎧などを纏わずにアレと対峙したのならば、あの不可視の斬撃によって訳も分からぬうちに切り刻まれていただろう。


 ( だからストナブの連中は……あっ! そうか、だからか…… )


 唐突にある事が思い当たる。

 それは荒木が持っていた刀身が真っ白な大剣。

 あれはWSを強化するとかどうとか吠えていた。


 あの大剣の素材となったのは、精神が宿った北の魔石の片割れ。

 そして、いま倒した魔石魔物(シャチ型)にはそれらしきモノが埋め込まれていた。

 突き立てた木刀が弾くのではなく黒い霧を吸収した事から、やはり埋まっていた石は精神の宿った魔石だったのだろう。


 今は燃え尽きた炭のようになって床に転がっているが……。

 

――これが核になって魔石魔物が湧いたんだよな、

 って事はやっぱり……



 魔石からは意思が感じられなかった。

 他の魔石のように、石に宿った者が姿を見せなかった。

 

 荒木によって割られた際に精神が消えてしまったのか、意思のようなモノは一切感じ取れなかった。

 

 だから魔石魔物の核となってしまったのだろう。

 本来であれば湧くことのなかった。精神の宿った魔石からの魔石魔物が。

 

「よういぢぃぃぃ」

「あぁ、わかったわかった。俺は平気だから取り敢えず泣き止め」


「あゔぅ、でもぉ」


 あまりこんな事はしない方が良いのだが、今は緊急時という事で早乙女を慰め。

 赤子をあやすように優しく、俺は早乙女の頭を撫でてやった。

 目を細め、俺の手のひらを受け入れる早乙女。


「あんまり泣くな、泣き声で魔物が寄ってくるかもしれないだろ? それとちょっとわりぃけど、腰にある薬品(ポーション)を取ってくれ。これ以上腕を動かすのはしんどい」

「う、うん。わかった」


 腰の留めてあるホルダーからポーションを取ってもらう。

 ダンジョン突入前に、赤城から支給された物資の中にポーションがあった。

 エリクサーエキス入りの上級ハイポーション。

 

 だったらエリクサー(神水)を寄こせと思ったが、さすがにそれは高価過ぎだとか。


 早乙女の手を借りて、俺はポーションを口へと流し込む。

 

「よういち、平気?」

「ああ、だいぶ楽になった」


 思いの外痛みが引いていく。

 このポーションは優秀な物なのか、前に飲んだ事がある物よりも効果はしっかりと現れた。


「ぐっ、っと」


 痛みを堪え、俺は身体を起こす。

 正直、もうちょっと横になっていたいが、このまま寝そべっているのはあまりにも危険だ。


「へ、平気……?」

「ああ、大丈夫だ」


「ご、ごめん、あたしが回復魔法を使えれば……」

「いや問題ない。取り敢えず皆と合流するぞ早乙女。このままじゃ危険だ」


 ポーションを全部飲み干し、俺は何とか動けるようになった。

 このまま留まった方が良いのか、それとも移動した方が良いのか判断つきかねないが、まずは本隊と合流する事を決める。が――。


「あれ? そういや俺たち以外にも落ちたよな?」


 当たり前の事に遅れて気が付く。

 あの瞬間、俺たち以外にもほぼ全員が落ちていたはずだ。

 

――落ちたヤツはどうなったんだ?

 ラティと葉月たちは落ちてないよな、

 むっ、何人落ちたんだ? 俺たち以外に……ん?



「……早乙女、どうした?」

「…………」


 何故か早乙女が、俯いたままで俺の前に立っていた。

 僅かに震えているようにも見える。

 

「早乙女……? どうし――」

「陽一っ! あたし、あたし……」


 瞳を潤ませ、グッと力を込めて俺の名前を呼んできた。

 同じ目線の高さ、熱を帯びた視線が俺を射貫く。


「あたし、ね……、あたしアンタの事をっ」

「早乙女……」  


「アンタの――」

「良かった~、無事だったんだね。心配したよ陽一君と早乙女さん」

「葉月!?」


「――あ、アンタ……」


 明るい声が上から降ってきた。

 上を見上げるとそこには、結界を階段にして葉月たちが降りてきていた。

 葉月の後ろには、ラティと言葉(ことのは)、三雲たちも居る。

 『よっと』言って地面に降り立つ葉月。満面な笑みでこちらを見る。


「陽一君、いま回復魔法を掛けるね」

「あ、ああ、助かる」


 意外にも早く合流する事が出来た。

 そして”アカリ”の数が増えて行くと、いつの間にかストライク・ナブラの連中も集まって来ていた。

 中には思いっきり落下したのか、血を流して肩を借りて歩いている者もいる。


「いま回復魔法を掛けますっ」

「助かるよ言葉(ことのは)さん。僕の方はMPが切れてしまっていてね」


 怪我人を見て言葉(ことのは)が駆けて行く。

 赤城は特に怪我をした様子はないが、疲弊し切った表情を浮かべている。


 

「ふう、良かった……」


 全員の無事を確認した訳ではないが、ほぼ全員が集まっているように思えた。

 小山と霧島も、椎名が発動させた聖剣の結界に乗って降りてくる。


「……アンタ」

「ん?」


 底冷えするような声が聞こえ、そちらに目を向けると、何故か早乙女が葉月を睨んでいた。

 涙は完全に引っ込んでおり、いつものキツイ瞳で葉月を射殺さんとばかりの視線(ガン)を飛ばしている。


 昔の俺だったら迷わずに謝罪する。

 そんな視線に晒されているにもかかわらず葉月は、とても涼しげな笑顔でそれに対峙している。


「ねぇ、早乙女さん。勢いだけだと後悔するよ?」

「はぁ!? アンタ何を言って」


「うん、絶対に後悔するよ。もし――を伝えるなら、ちゃんと自分で決めて納得して、それで言わないと。――きっと後悔するよ」

「――ッ!?」


 凛としてとても聞き心地の良い声音が響く。

 だが、真剣でも突きつけられたかのような不思議な感覚がする。

 

「うるせえよ。――ふんっ、邪魔しやがって……」


 踵を返して早乙女が去っていく。

 さすがに何処かに行くという事はないが、明らかに葉月から距離を取る。


「あの、ご主人様。ご無事で良かったです」

「ラティ、ありがとうな、葉月たちを助けてくれて」


「いえ、ご主人様が声を掛けてくれたお陰です」


 そう言って頭を下げるラティ。

 そして頭を上げた後は、とても難しい表情を浮かべながら、葉月と早乙女の方へと視線を向けた。




 その後、俺たちは全員の無事を確認し合った。

  

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです<(_ _)>


あと、誤字脱字も教えて頂けましたら。

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