仮説が崩れる?
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「どういう事だ、何でズレるんだ」
黒い霧となって霧散していく魔物を見つめながら、ハーティが眉をひそめて愚痴を零す。
「ハーティさん、今のアスレートが、最下層魔石魔物なんだよな?」
「ああ、レベルもアスレートの方が高い。……なのに何故」
魔石魔物を湧かす事で、ダンジョンの最奥を判定する方法は、現在暗礁に乗り上げていた。
最奥へと続く道には上位の魔石魔物が湧く。
この方法によって深淵迷宮では最奥へと辿り着けた。
深淵迷宮よりも複雑な構造の地底大都市。
しかも斬殺者、”刃持ち”が徘徊しているかもしれない、警戒を最大まで上げて探索しなくてはならない。
とてもではないが、全ての道を調査して進むのは現実的ではない。
「……おかしい、何でまた変わったんだ?」
ハーティが忌々しそうに言葉を吐く。
「取り敢えずもう一回湧かしてみましょう。そんでそれで進むか進まないか……。赤城、お前もそれでいいか?」
「ああ、それでいいよ。僕も闇雲には進みたくないからね」
現在俺たちは、どちらに進むべきか決めかねていた。
昨日までは、アスレートという名の上位種が湧いていた道にアスレートが湧かなくなり、格下であるカベゼオイだけが湧いていた道にアスレートが湧くようになったのだ。
早い話が昨日とは逆。
最奥へと続くと思われていた道がハズレに。
そしてハズレだと思っていた道が正解に変わった。
これは俺たちが立てた仮説が間違っていたのかもしれない。
そう思わざるを得なかった。
「くっ、きっと合っているはずなのに……。次の魔石を置いてくれ」
「了解」
俺達はこの日、14体の魔石魔物を湧かして倒した。
湧いた魔石魔物は、普通の魔物が大きくなったタイプが3匹。ゼオイ系のカベゼオイが7匹。
そして、上位種であろうアスレートという魔石魔物が4匹だった。
魔石魔物アスレート、サメに手足を生やしたような魔物。
濃い青色と灰色のツートンカラーで、腕に背びれのような形をした刃を付けている。
なかなかの素早さで、地を這うような動きで襲ってくる。
魔法で対抗するなら厳しい相手。
しかし素早さ重視の為か、分厚い外皮は持っておらず、容易に攻撃が通るタイプ。囲んで袋叩きにすれば全く問題のない相手。
一応強いが、一応がつく程度の相手。
ベースキャンプのメンツを全滅させられる程ではない。
仮に複数で襲って来たのだとしても、駆け付けた時に魔石は一個も落ちていなかった。
この倒しやすい魔物を一匹も倒せなかったとは考えづらく、他にもっと強力な魔物がいると結論付けた。
そう、例を上げるならばシロゼオイ・ノロイのような亜種。
アスレートの腕には刃が付いているので、このアスレートにもノロイのような亜種がいるのではと睨んだ。
魔石魔物を湧かすことで最奥を探ると同時に、ベースキャンプを襲撃した斬殺者、通称”刃持ち”を特定しようと俺たちは考えていた。
因みに、切り裂き魔のような魔物だということで、当初小山が、”リーパー”という名にしようと言ってた。『ジャック・ザ・リッパーっぽくない?』と。
そしてその容姿に合わせて名前を付け足そうとも提案した。
トカゲみたいだったらリザード・リーパー。
ヘビのような容姿だったらスネーク・リーパー。
骸骨のようなだったら……。
結果、危険が危ないという事で”刃持ち”に決定した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「参ったね、これは……」
「……ああ」
俺たちは再び集まって話し合いをしていた。
何かを決める為の話し合いではなく、現在の状況の確認の為の話し合い。
持ち込んだ食料の残りや、魔石魔物の湧き方に何か気付いた点はないかなど、そういった事を確認し合っていた。
「取り敢えず、食料はまだ持つんだよね?」
「はい、沢山入れて来たからまだ平気ですハーティさん」
「私の方もまだ余裕はあります」
「それならまだ問題は無いな」
ふむりと頷くハーティと、頭の中で何かを計算している赤城。
現在差し迫った問題はない事を確認する。
問題があるとすれば、”刃持ち”が襲撃してくる危険性。
これに関しては、【索敵】持ちだけでなく、視認による警戒も行われていた。
もしかすると”刃持ち”は、【索敵】の察知に引っ掛からないかもしれないとの話が上がったのだ。
魔物ではまだ会った事はないが、冒険者の中には【索敵】を掻い潜る能力を持つ者がいる。だから魔物にも、そういった能力を持つ魔物がいるかもしれないと。
この件によって、三雲が行っていた正座にてホールドアップは無くなった。
信用する訳でないが信用してやると、よく分からない事を言ってそれは無くなった。
ただ、女性勇者達が使用中の簡易浴場に近寄った場合は、『あたしが斬殺してやる』と……。
そんなこんなもあり、俺たちは最下層手前で足止めとなった。
そして何か打開案はないかと話し合いは続く。
「むう、最悪の場合は、この場に300人ほど集めてローラー作戦で虱潰しでルートを探らせるか?」
「いや赤城、それはマズいだろ……」
「ああ、分かっている。まだ刃持ちがいるんだからな、無駄に犠牲者が出るって言いたいんだろ? だがどうしたら……」
「やっぱ魔石魔物を湧かして……」
「それはやっているっ」
提案が出てはその提案が否定される。
そんな流れが続いていく。
よくある話で、否定をするなら代案を出せというモノがあるが、そういった流れで出る代案は大体が酷い。そして代案はどんどん出なくなっていく。
話し合いは良くない方へと煮詰まっていく……。
「くそっ、何で湧き方が変わるんだよ。最奥がどんどん変わっているってか? 何で湧き方が時間が経つと変わんだよ……」
俺はつい愚痴を口にしてしまった。
だがどうしても愚痴りたい気分だった。
上位種の魔石魔物は、毎回散って湧くのではなく同じ道に湧き続ける。
だが時間が経った次の日になると湧かなくなる。
そして今まで湧いていなかった道に上位種が湧くようになっていた。
まるで最奥が移動しているような、そんな感じで湧いているのだ。
「――ッ!? 陣内君、僕達が目指している最奥って何だと思う?」
「へ? そりゃあ一番奥なんじゃ?」
ハーティが突然真面目な顔をして、そんな当たり前の事を言い出した。
最奥とは何か、そんな誰でも分かるような質問を――。
「陣内君、僕たちの目指している最奥とは、要は精神の宿った魔石がある場所だよね? 一番奥に魔石があるから最奥を目指している、そうだよね?」
「あ、ああ、そうだよ。精神の宿った魔石は一番深い場所にあるって聞いたから……最奥を」
「もし、もしだよ? もしその魔石が移動していたりしたら……どうだろう? 例えば奥には水脈があってそれで流れて移動しているとか、そんな感じで移動しているとしたら……」
「あ! そうかっ、もしかしたら魔物に引っ掛かっている可能性もある」
「ああ、もしそうだとしたら、今までの方法では探れない。だから――」
次の日俺たちは、ベースキャンプの設置を諦めて探索する事にした。
かなり危険であり無茶でもあるが、そうしないと最奥を探し出せない。上位種が湧いたらその道をすぐに進むという方法を選択した。
最奥が移動するのであれば、それをひたすら追い続ける。
そんな無茶な方法を……。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字脱字も……