斬殺者?
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何卒、何卒ー!!
手合わせは速攻で終わった。
飛んで来たWSを叩き落として距離を詰める。
初手を予想外の方法で防がれた動揺が見て取れたので、俺は距離をさらに詰めて揺さぶる。
すると相手は、こちらの狙い通り急かされる形でWSを放った。
その予備動作から、WSの種類は”カリバー”だと判断。
WSを放とうとすると必ず刀身が光るので、こちらからすれば本当に読み易い。刀身が光ったのだからWSを放つのは確実。
結界の小手を発動させてWSを防ぐ。
光の奔流が、小手の障壁によって塞き止められて激しく渦巻く。
相手の気配は、”待ち”。
目の前の障壁を避けて、左右のどちらからか仕掛けて来るのを待っているのが判った。
ならば俺は槍を囮に使い、木刀で障壁を破壊して正面突破を試みる。
激しく渦巻くWSの残流は少々キツイが、黒鱗装束ならば耐え切れる。
その後はいつもので終わったのだが……。
「よし、準備完了だ。出発しよう」
赤城の指示により、俺たちはベースキャンプで休む事なく出立した。
ガルマンとの手合わせが終わった直後、先行している部隊からSOSがあったのだ。
そしてその後は反応が無し。
ガルマンに聞きたい事が何個かあったが、今はそれどころではない。
正直、間に合うとは思えないが、それでも向かわない訳にはいかない。
ベースキャンプの設置や、ベース内での雑務が無かったため体力に余裕がある俺たちは、出来る限り急いで目印のマーカーを追った。
複雑に入り組むダンジョン内を駆け足で急ぐ。
先頭はガルマンとラティの二人。
ガルマンは盾役、ラティは索敵役。そしてそのすぐ後ろに俺がついた。
地面に書かれているマーカーに従い突き進む。
何度目か角を曲がると――。
「あっ、あれは、ベースキャンプを示す目印だ」
先頭を走っているガルマンから声が上がった。
そしてその瞬間、ラティが眉をひそめた。
「ラティ」
「あの、ベースキャンプがある方から……気配が一切しません」
「……え、それって魔物がいなくて、そんで……」
俺の言葉にこくりと頷くラティ。
辿り着いた先は、予想通りの惨状となっていた。
血で埋め尽くされた部屋。
薄暗くてしっかりとは見えないが、そこら中に身体の破片が散らばっていた。
吐き気が込み上げてくる、むわっとした悪臭が充満している。
「ぐっ」
「赤城……」
追いついた赤城が歯を食いしばり、呻くように言葉を発する。
「生存者を探そう……」
「ああ、そうだな。ラティ、葉月達とあっちで待機しててくれ」
「……はい」
状況が状況なので、ベースキャンプに向かったのは半数だけだった。
女性陣、葉月達には手前の方で待機してもらった。
当然、蘇生が可能ならば言葉に蘇生してもらう事も視野に入れていたのだが、遺体の損傷は激しく、蘇生はとても望めそうにはなかった。
そう、ほとんどの死体が人の形を保っていなかったのだ。
現場検証のように惨劇の場を調査する。
死体はどれも切り刻まれており、襲った魔物は鋭い刃持ちだと判る。
襲われた先行部隊の装備品を見る限り、どうやら奇襲を受けた様子だった。
ベースキャンプなら襲われないと油断していたのか、鎧といった装備品を身に纏っている者は少なかった。
応戦する間もなく、あっという間にやられてしまったのだろう。
「くそ、油断するなと言っておいたのに……」
赤城が、血で染まった地面を睨みつけ、吐くように呟いた。
「……それでも油断してしまったのだろうね」
辺りを見回しながら、ハーティが感情を殺した声でそう言った。
きっとそうなのだろう。
この地底大都市を熟知しているからこその油断。
相手は待ち構えているタイプだ、ベースキャンプに大勢居れば襲ってこない。そういって油断をしてしまったのだろう。
「遺品は回収する。僕の【宝箱】に収納しよう……他は……」
「わかった、僕達も手伝うよ。陣内君、周囲の警戒を頼む」
「あ、ああ、わかった」
「お~い、三雲組はこっちに来てくれっ、赤城様を手伝うぞ」
本来であれば遺体は全て回収し、地上へと持ち帰って埋葬したいのだろう。
しかしここは危険なダンジョン。
とてもではないが、全てを回収する事などは出来ない。
「赤城君、私に任せて。私が彼らを送ってあげる……」
「葉月?」
「…………すまない葉月さん。彼らを、彼らを送ってやって欲しい」
「はい、任せてください」
ぽわっと白い火が点く。
その白い火は炎となって瞬く間にふわりと広がり、並べられた遺体を全て包み込んだ。
「これが……オクリビ?」
「はい、聖系魔法”オクリビ”です」
「すまない葉月さん、こんな……事を頼んでしまって……」
「ハヅキ様、本当に、本当にありがとうございますっ。アイツ等もきっと喜んでいると……」
「気にしないでください赤城君、ガルマンさん。この時のための魔法なんですから。さぁ見送ってあげてください」
聖系魔法オクリビ。
遺体を聖なる炎で浄化するように送る魔法。
煙や臭いなどといったモノは一切発生せず、白い炎が解きほぐすように浄化していった。
そしてそれを、赤城とガルマンが見送るように見つめ続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
火葬の後、俺たちはいったん引き返した。
惨劇の場となったベースキャンプを使える訳がなく、休む為に引き返す事にしたのだ。
最下層に新たなベースキャンプを設置するという案もあったが、ベースキャンプを襲撃してくる魔物がいるのだ。とてもではないがそれでは落ち着けないとなって却下された。
当然、上に戻ったから安全という訳ではないので、ベースキャンプに戻った後警戒を強めた。
最下層の惨劇の後だったので、全員が気を引き締めて配置に就く。
そしてそんな中、勇者やリーダー格が集まって話し合いが行われていた。
その内容は当然、今後の事。
最奥の目指し方や、ベースキャンプを襲撃した魔物について話し合った。
まず最奥の目指し方。
これは深淵迷宮でも使われた、魔石魔物を湧かす事で判定する方法を採用した。
複雑に入り組んだ地底大都市。
深淵迷宮よりも複雑なのだから、当てもなく歩き回る訳にはいかない。
そして次に襲撃した魔物の事。
この件は取り敢えず保留となった。
ガルマンからは、敵討ちの為に討伐したいとの意見もあったが、そもそも何処にいるか分からない魔物だ。
探し回る訳にはいかないし、そもそもそれは今回の目的ではない。
心情的に解らない訳でもないが、やはりリスクが高過ぎる。
赤城が堪えてくれとガルマンを諭し、探し出してまで討伐する案は無くなった。
そしてこの時俺は、赤城のことを見直した。
少し上から目線な言い方になってしまうが、赤城は本当に成長していた。
昔の赤城ならば、人気取りの為に討伐すると言い出すか、もしくはリスクに見合わないと却下するだけだった。
だが今の赤城は、相手の心情を汲んだ言葉遣いで諭し納得させていた。
説得されたガルマンの方は、感情的になって申し訳ないと謝罪した。
本当に、本当に……。
「変わったな、あいつ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日から、魔石魔物狩りが開始された。
湧く魔石魔物は、他のダンジョンと同じで、通常の魔物が大きくなったタイプと、ハーティが言っていた壁を背負ったカベゼオイ。
カベゼオイは、ハーティ曰く、背後からの攻撃を無効にする厄介な奴。
だったのだが……。
「WS”グラットン”!」
「「「「おおおおおおおっ!」」」」」
テンプレのような驚き声が上がる中、椎名の放ったWSが、背中の壁ごとカベゼオイを砕いた。
『さす勇』といつもの称賛が響く中、黒い霧となって霧散するカベゼオイ。
複数ならともかく、単体では全く問題にならなかった。
それを見ながらハーティが呟く。
「ふむ、やっぱりコイツじゃないね。ベースキャンプを襲った魔物は」
「ああ、だろうな。刃っぽいモノは持ってねえし、それにそこまで強くない」
イワオトコのような無機質な表面を持つカベゼオイ。
石のゴーレムが壁を背負っている、そんな姿の魔物だ。
そして攻撃繰り出す両の手は、イワオトコと同じ素手。
魔物に対して素手という表現も変だが、カベゼオイの攻撃方法は原始的な殴り掛かりだった。
そしてその攻撃方法では、とてもあの惨状のような状況を作り出せない。
ならば――。
「深淵迷宮の最下層で湧いた、シロゼオイか、シロゼオイ・ノロイ級の魔石魔物が……湧いたと考えるべきか」
「だろうな」
ハーティが言葉を躊躇った理由を察する。
彼は湧かした可能性があると考えたのだろう。
ちょっとした小遣い稼ぎで魔石魔物を湧かす……。
実際に深淵迷宮でやらかしたヤツがいる。
だからその可能性を疑ってしまったのだろう。
だが――。
( その可能性は無いな…… )
ベースキャンプで襲われた者は装備を身に纏っていなかった。
しかもあの場にいた面子は、ストライク・ナブラでも精鋭のはず。
そんな彼らが、小遣い稼ぎで魔石魔物を湧かすとは考えにくい。
しかしその一方、魔石魔物級の魔物が徘徊しているという事実。
もしかすると違うのかもしれないが、他の可能性はとても低いと思えた。
やはり魔石魔物が湧いたと考えるべき……。
様々な仮説を立てながら、俺はその日、魔石魔物狩りを続けた。
最奥を示す魔石魔物、最下層魔石魔物を求めて魔石魔物狩りを続けたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども教えて頂けましたら<(_ _)>