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ジンナイ×ガルマン2

勇ハモ2巻発売しましたー!

宜しければお手に取って頂けましたら幸いです。

 よく解らん視線を送り続けていたヤツが、よく解らん提案をしてきた。


 感想としては『なんじゃそりゃ』だ。

 しかし周りを見る限り、根回しの方は既に完了済み。


 そしてラティの表情を見るに、彼女はこの状況を察知出来なかった様子。

 敵意の有無は判断出来ているが、その先の真意が掴めていない感じだ。


「どうかお願いします。ジンナイヨーイチ殿」


 下げていた頭を上げて、俺の目をじっと見ながら大男がそう言ってきた。

 かなり暑苦しいがとても真摯な目。

 ガルマンという男の目を見る限り、敵意と言った感情は見えない。

 純粋に手合わせをしたい様子。


――あっ、そっか、だからか……

 敵意が無かったから、何か企んでいたとしても……

 そうか、だからラティでも、



 唐突に気付く。

 ラティの【心感】は、感情(・・)を色として視ることが出来る。

 だがしかし、尻尾を触れさせない限り相手の思考(・・)までは読めない。 


 だから、何かを企んでいる色が視えたとしても、そこに敵意や害意がない限り無害と判断してしまう。


 元から何かしら企んでいそうな赤城だ。

 そこに悪意のようなモノが無ければ察知し切れない。


 要は、『ちょっとしたお節介』とでも言うべきか、本人に悪意がないのだから、ラティと言えど把握することは出来なかったのだろう。


「…………ふう、わかった。――受けよう」

「かたじけないっ」


 これは断れる流れではない。

 俺にも思うところがあるので引き受ける。が……。


「ただその前に一つだけ聞かせてくれ。何で手合わせなんかを? 俺の実力が知りたいとかそんなバトル漫画みたいな理由じゃないだろうし」

「? ばとるまんがとは……何か知りませんが、いま仰った実力が知りたいのです」


「マジでか、ってか何で実力なんて知りたいんだよ。あれか? 勇者と一緒に居るのに相応しくないとか、そんな感じのヤツか?」


 脳裏によぎるのは、そう言った態度を露わにした連中。

 嫉妬組の連中も似たような目は向けてくるが、あれは純粋に嫉妬心だけ。

 蔑みの色などは一切ない。


 ふと、レフト伯爵にそういった目を向けられた事を思い出す。


「違います。真実を知りたいのです。何故ジンナイ殿がアラキ様に勝てたのか、それが知りたいのです」


 ふるふる頭を振って否定したガルマン。

 だが、続く言葉に、荒木の名前が出てきたので俺は身構える。


「失礼だとは思うが、貴方はWSを放つ事が出来ない。それなのに何故アラキ様に勝てたのか、それが知りたいのです。そうでないと……」

「んん? よく分からんけど、要は納得が出来ないって事か? 俺が荒木に勝った事が」


 何となくそう思ったから口にした言葉だった。

 ふと浮かんだから口にした言葉。

 だが――。


「――ッ!? そうか……そうだったのか。自分は納得したかったのか……」

「ん?」


「ジンナイ殿っ、どうか、どうかっ自分と手合わせをっ!」


 もの凄い喰いつきを見せるガルマン。

 何を思ったのかは不明だが、どうやら彼のスイッチ的なモノに触れたらしい。


「だ、だから受けるって」

「かたじけないっ」


 どんな意図が込められているのか不明だが、これ以上謎の視線を貰うはごめんだった。

 この手合わせを受ければ何かが分かる。

 もしくは何かが変わると思い、俺はガルマンと戦う事にした。


 ヤツの真意を探るために……。




  ――――――――――――――――――――――――




 彼の言葉を聞いて”腑に落ちた”。

 間違った言葉のような気がするが、何故かそれが一番しっくりとした。

 

 モヤモヤとしていたモノが、ストンと納得出来た気がしたのだ。


 勇者アラキ様の強さは本物だった。間違いなく最強の一角だと思う。

 しかし、そんなアラキ様が欠陥品のような者に負けた。

 

 『では、アラキ様の強さは偽物だったのか?』


 そんな思いが自分の中に知らず知らずのうちに燻っていた。

 それがモヤモヤの原因。他の者全員そうだろう。


「自分は見極めたい、そしてしっかりと納得したい……」


 武器を構えて前を見る。

 自分が希望した立ち合い。

 距離を15メートルほど取りジンナイ殿と対峙する。

 

 相手の得物は槍と木刀。

 こちらは大剣と腰の片手剣。 

 

 ( 槍か木刀を投げてくるか? )


 まだ開始の合図は入っていない。

 今は相手が仕掛けてくるであろう戦法を予測する。

 近接しか持ってないジンナイ殿。間違いなく距離を詰めてくる。

 

 ( 確か、孤高の独り最前線(ボッチライン)だったかな )


 彼の情報を集めていた時に出て来た二つ名。

 たった一人で、数十匹の魔物を同時に相手にした事からついた二つ名らしい。

 

 普通ならば、放出系のWSなど放って距離を取って戦う。

 だがこのジンナイ殿はWSが無い。だから足を止めて迎え撃つようにして戦っただとか……。


 ある者から聞いた話によると、WSが無いから、防衛戦時に魔物が蠢く巨大な堀の中に降りて行っただとか。


 正気の沙汰ではない。

 普通ならば魔物に群がれて圧殺される。


 だが彼は生き残った。

 その理由は、その時に居合わせた勇者サオトメ様が下に降りて助けたから。

 これは劇にもなっている逸話だったので知っていた。

 

 この地底大都市(オーバーバックヤード)では戦っている所を見ていないが、情報を統合する限りやはり近接しか手段はない。


 ( ならば―― )


「いざ尋常に――始めっ!」


 この場を仕切っているアカギ様が、腕を降ろし開始の合図を発した。


「両手剣WS”シルブレ”!」


 先手必勝、放出系WSを放つ。

 距離があるうちにこちらから一方的に攻める。

 白刃の斬撃が、音を鳴らし目標に向かって飛来し――。


「――っは!? 馬鹿な!!」


 幅1メートルほどの斬撃(WS)が、木刀によって叩き割られた。

 そしてそのまま最短距離を真っ直ぐ詰めてくる。


「くそっ! WS”カリバー”!」


 自分は再び放出系WSを放つ。

 WS”カリバー”を選択したのは、発動の速さと、木刀の一振りではカバーし切れない範囲だから。


 狙った通り光の奔流が、迫りくる黒い疾風のような男を呑み込む。


「ファランクス!」

「ぬあっ!?」


 突如目の前に出現した幾何学模様の障壁。

 荒れ狂う波が防壁に打ち当たったように、光の奔流が激しく飛沫を上げた。


「視界がっ、だが――」


 己の放ったWS(カリバー)で視界が遮られた。

 しかしそれは相手も同じ事。

 相手の次の一手は十分に予想が出来る。

 

 距離を詰めて来たのだから、このまま距離を置くはずがない。

 間違いなく距離を詰めてくる。

 ならば次の一手は、目の前の光の飛沫に隠れる形で二択を仕掛けてくる。

 右か左か、自身が展開させた障壁と光の奔流を避けて踏み込んでくるはず。


「来い……」


 大剣を投げ捨て、腰の片手剣を手に取る。

 どうしても大振りになってしまう大剣では間に合わない。

 使い勝手の良い片手剣に切り替える。


 右か左。顔を出したところに片手剣WS”ヘリオン”を叩き込む。

 相手が魔物だったら少々火力不足だが、相手が人なら十分に通用する。

 むしろ勢い余って殺してしまう可能性の方が高い。


 だが、許可は貰っている。

 仮に殺してしまったとしても、聖女様と女神の勇者様がいる。

 だから最悪の事態は回避出来ると、アカギ様から言われている。

 そして加減など要らないと……。


「さぁ、どっちだ」


 重心を下げてさらに身構える。

 十字に斬りつけるWSヘリオンならば、仮に一撃目を防がれたとしても二撃目が相手を弾く。

 それに上手くいけばそのまま倒す事も……。


 ( 見えたっ )


 右側から槍の穂先が見えた。

 全身を研ぎ澄ますように集中させる。

 少しでも身体が見えたら、迷わずにWSヘリオンを放ち――。


「っがはぁ!?」


 壁となっていた光の奔流の中から腕が伸びてきた。

 伸びてきた手に喉を鷲掴みされる。


 息が詰まる中、視線を何とかそちらに向けると、飛び散る光の奔流の先にあった障壁が砕け散っているのが見えた。


「っだっらあっ!」

「ぐがっ!」


 激しい衝撃と共に背中に激痛が走り、肺から空気が逃げていく。

 一瞬にして自分は地面へと叩き付けられていた。


 彼は全て最短距離で詰めて来ていた。

 WSを弾き、自身で張った障壁さえも破壊して直進してきたのだ。


「――ッ」


 肺から空気が出て声が出せない。

 自分を叩き付けたジンナイ殿が、右手に持った木刀を振り上げている。


「そこまでだよ、陣内君」

「陽一君、もう勝負はついているぜ」

「ちっ、ちゃんと止めるつもりだったっての」


 右腕を振り上げていたジンナイ殿は、束縛系の魔法と、鉄壁の勇者コヤマ殿に右腕を押さえられていた。

 もし止められていなかったらと思うとぞっとする。


「陣内、その殺気で止めるつもりだったってのは……どうなんだろ?」

「気のせいだ。ちゃんと寸止めするつもりだった。赤城、この蔓みたいな解除しろ」



 自分はあっという間に負けていた。

 戦闘時間は10秒にも満たないだろう。まさに秒殺。


 ( これが彼の強さ…… )


 認めたくなかった思いがあっさりと消えていく。

 自分でも驚くほど納得し、そしてそれを受け入れられている。


 絶対的に信頼出来るWS(モノ)が全く通用しなかった。

 ぐうの音も出ない、清々しいほどの完敗。

 

「大丈夫ですか? すぐに回復魔法を掛けますね」

「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと背中を打っただけですから問題ありません」


 回復魔法を掛ける為に、聖女の勇者様が横に来ていた。

 聖女様に回復魔法を掛けて貰える事はとても光栄だが、今はこの痛みを噛み締めたい気分だった。


 とても不思議な気持ち。

 この痛みが、何かを取り除いてくれているような……。


 ( 納得出来たな……。確かにこれならアラキ様といえど…… )



「おいっ! どうしたんだ! 何があったんだ」


 少々呆けていたが、突然響いた慌ただしい声に引き戻される。

 その酷い焦り声から緊急事態だと察する。


「突然どうした赤城、何かあったのか?」

「ああ、あった。多分、いや何か起きたんだ」


 全員の視線が勇者アカギ様に集まる。

 

「緊急事態だ。最下層にいる部隊が何かに襲われた」

「は? なに言ってんだ赤城。だって最下層の部隊って確か、ベースキャンプの設置中だってさっき……」



「そうだ。そのベースキャンプが襲撃された。そして、連絡が途切れた」  

   

 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字も……


挿絵(By みてみん)


 ヨムヨム様からファンアート頂きました!!!

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