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言葉様イラスト回

お待たせです!

5月28日、2巻発売予定ですよです!!


 挿絵(By みてみん)


ファンアートが欲しくて仕方ないので、自分で書きました。

言葉さまです。

 俺は、ガーイル将軍と雑談を交わしながら、荒木が収監されている場所へと向かった。


 華やかさなど微塵にもない薄暗い通路を進む。

 すれ違う者は警備の兵士ばかりで、着飾った者は誰もいない。

 華やかで豪奢な表とは違う裏側、城の地下2階、特別な人を収監する場所。


 特別な人、勇者専用の牢獄(エウレカ)へと向かった。




     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 俺を案内してくれるガーイル将軍。城での生活は、このガーイル将軍が俺の面倒や、泊まる部屋などの手配をしてくれていた。 


 勇者ではない俺は、この中央では微妙な立場だった。

 早い話が、どう扱ったら良いのかといった感じ。


 勇者と一緒にいるが、俺は勇者ではない。

 だが、だたの冒険者として扱うのも違う。

 しかしだからと言って、俺を勇者と同等に扱う訳にもいかず、しかも下手に優遇すると、宰相であるネズミ顔の男に睨まれる事になる。


 そんな複雑な理由により、俺の面倒はガーイル将軍が見る事となった。

 適任者が他に居なかったとも言えるが……。


 そもそも、ギームルも中央に来れば良かったのだが、ギームルには(ノトス)での仕事があり、それと――。


 ( 『馬鹿は何をするか分からない』、か…… )


 ふとギームルが言った言葉を思い出す。

 ギームル曰く、自分が中央へと行くと、宰相が己の地位を脅かされると勘違いして、ネズミ顔(馬鹿)が馬鹿な事をする。

 馬鹿は何をするか分からないと、俺を睨むように見つめながらそう言ったのだ。


 俺を見ながら言ったのが少々気になったが、きっと気のせいだろう。

 他意は無いはずだと思う……。




「ジンナイ、ここだ」

「ったく、荒木は捕まっても面倒を掛けてんのかよ」


 地下二階の最奥、鉄格子と鉄の扉で遮られた檻の前に辿り着いた。

 そしてその鉄格子の檻の中には、憔悴し切った男が座っている。


「この人が……世話役の囚人?」

「ああ、そうだ。コイツがさっき話していた囚人だ」


 俺は雑談を交わしながら、ガーイル将軍から荒木の状況を聞いていた。

 勇者荒木は、北で拘束された後、中央へと護送されていた。


 中央へと護送された理由は、城には勇者専用の牢獄(エウレカ)があるから。

 

 勇者は、その地位やカリスマなどから、脱獄を手伝う者が多かったそうだ。

 ある者は勇者に惹かれ、またある者は勇者を利用すべく、脱獄の手引きをする者が本当に多かったのだという。


 ぶっちゃけ、”勇者の楔”の効果だ。

 きっと正常な者であっても、勇者を相手にしているうちに、まるで洗脳でもされたかのように脱獄させてしまったのだろう。

 

 貴族側が、実際にどこまで楔の効果を把握しているのかは不明だが、勇者を牢に入れた後は、その捕らえた勇者の世話を、幽閉されている囚人に任せるのだという。


 基本的に、勇者と直接会うのはその囚人だけ。

 囚人に食事の配膳や、その他の雑務を全て任せるそうだ。


 そうすれば、仮に勇者の言いなりになったとしても、牢獄に隔離されている囚人には何も出来ず、勇者を牢から出す事は叶わない。そして、その外からその囚人を監視出来るのだという。


 しかし今回はその囚人から、勇者荒木が騒ぎ過ぎなので、何とかして欲しいとの願いがあったそうだ。

 当たり散らすように喚かれ、それに晒され続けて囚人が病んでしまったのだという。

 もしかするとその囚人の訴えは虚偽で、実は脱獄を画作している危険性もある。だから迂闊な事は出来ず、俺へと話が来た。


「……で、俺に何とかしろと?」

「あ、いや、無茶を言っているのは十分承知している。だが、何とか……」


 荒木が喚いている内容は、まず出せと、そしてそれが無理なら知っている奴を呼べというものらしい。

 そうでないと自殺すると喚いているだとか……。


 知っているヤツとは、召喚された勇者たちの事。

 そして――。


「……サオトメ様に会わせるか、もしくは謝罪を伝えて欲しいと……」

「っはあああああああ、ったく」


 大きく息を吐いてしまう。

 何と荒木は、早乙女へ謝罪させて欲しいと要求していたのだ。

 しかも、自殺してやると己を盾にして……。


「当然、勇者様を死なせる訳にはいかない。だが……その要求は……」

「ああ、その要求は飲めるもんじゃねえな。絶対に会わせる訳にはいかねぇ」


 ガーイル将軍は、事の顛末をある程度把握しているのか、安易に要求を飲む姿勢ではなかった。

 その事に少しホッとする。


 しかしその一方、心底下らない問題だった。

 正直、勝手に掻っ切って死ねと言いたいが、ヤツには避雷針になってもらわないといけない。

 死ぬ死ぬ詐欺だとは思うが、本当に死なれると困る。


「くそ、心の底から面倒な……」

「すまない、こんな事をシモモト様に頼む訳にはいかず」


「…………」


――俺ならイイってのかいっ

 ……まぁ分からんでもないか、普通に頼みづらい案件だな、仕方ないか、

 一応当事者とも言えるし……。


   

「取り敢えず会ってみます。この牢の中に入ればいいんですか?」 

「ああ、頼む。――おい、この牢を開けてくれ」


 ガーイル将軍が、見張りについている監視役の兵士に声を掛けた。

 『ハッ』っと返事をして、監視役の兵士が鍵を出して牢の鍵を開く。


「ったく、行くか。ラティはここで待っててくれ」

「あの……はい」

「ジンナイ、俺は同行するぞ。一応、念のためにな……」 

 


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 



 案内された牢の中は、思いの外広かった。

 牢の中の扉を開けると、貴族達が住んでいそうな部屋が広がっていた。


 牢屋というよりも貴族が住んでいそうな豪華な客室。

 だがしかし、その部屋は青色の鉄格子で完全に仕切られており、その部屋からは出られないようになっていた。

 一部、料理を乗せたお盆が通りそうな隙間はあるが、それ以外は拳も通りそうにない程。そしてその奥は――。


「うわ、ひでぇなこりゃ」

「うむ、かなり荒れていらしてな……」


 豪華な部屋ではあるが、配置されている調度品や、牢に似つかわしくない壁は破壊の限りを尽くされていた。


 無事な調度品は豪奢なベッドだけ、それ以外の物は全て駄目にされており、一目で、投獄されている荒木が破壊したのだと判った。


 ( この鉄格子って、あの時の金属と同じか…… )


 荒れ果てた部屋とは対極な、何処にも歪みを見せない真っ直ぐな青い鉄格子。

 早乙女を捕らえていた時に使っていた鎖と同じ金属だろう。


「何とも皮肉な……って、おい、起きろ荒木」


 俺はベッドで寝ている荒木に声を掛けた。

 気怠そうに身を起こすが、俺たちの姿を見ると荒木は飛び起きて駆け寄ってきた。

 世話役の囚人は扉の外で待ってもらっている、いつもと違う者がいるからすぐに反応したのかもしれない。


「お、おいっ、お前、オレの言うことを聞け――陣内っ!?」

「…………」


 駆け寄ってきた荒木は、俺の事を確認すると固まってしまった。

 だがすぐに、気が付いたかのように再起動する。


「陣内っ、オレをここから出せ。アイツに、アイツに会わせろ」

「…………誰に、会わせろと?」


「アイツだっ! 早乙女だよ。アイツに会わせ――」

「――っんだと!」


「ひぃっ!」 


 目一杯の力を込めて、鉄格子を足裏で蹴りつける。

 グアンと重く響く金属音と、僅かな振動が周囲に広がる。

 喧嘩キックのように、ゲシゲシと鉄格子を蹴り続ける。


「誰がてめぇに会わすかボケっ! ――っらあ!」

「ぅあ、ああ、ああ……」


 見た目とは裏腹に、らしくない怯え方を見せる荒木。

 どうやら北での、木刀を使った折檻が効いているらしい。

 出来る事なら、鉄格子の隙間から木刀で小突いてやりたいところだが、コイツに世界樹の木刀の恩恵をやるつもりは一切ない。


「……ジンナイ、お前は何をしに来たんだ?」

「あっ……」


「全く、オレが代わろう」



     閑話休題(顔を見たら熱くなった)




「……ふむ、それでサオトメ様にお会いしたいと?」

「応っ。そうさ、オレは筋を通してぇんだ。だからオレをココから出すか、アイツをココに呼んでくれ。頼んだゾ」


「アラキ殿、ここは特別な場所ですので、おいそれと勇者様をお呼びする事は出来ないのです。どうかご容赦を」

「ああんっ? オレが筋を通したいってのに、それを邪魔するって事か?」


「いえ、邪魔をするとかではなく……」

「フユイシのオッサンはどうしたんだよ。アイツに言って――」



 ほう、これは殴りたい。そう思わせる勇者荒木。

 怯えきった荒木を見ていられなくなったのか、ガーイル将軍が荒木の話を聞く事になったが、予想以上に酷かった。

 話す相手が違うだけでこうも変わるモノなのだろうか。



「いいかぁ? 男ってのは筋を通す生きモンだ。だからオレはオレが犯した罪をワビてぇ。だから――」


 だから――うんたらかんたらと、要は、外に出て早乙女に謝罪したいとの事だった。

 同じような話を、同じような角度で何回も語る荒木。

 その姿は、どこか自分に酔っているように見えた。


 ( さて、そろそろぶん殴るか )


 ことわざに、『寝言は寝て言え』というモノがある。

 下らない戯言は、人に聞かせず寝てる時に一人で言えという意味だ。


 そしてそれに続く句で、『寝言を言うヤツはぶん殴れ』というモノもある。

 独り言だろうと迷惑なので、ぶん殴って起こせという意味だ。陣内家にはそういう諺がある。


 ( よくまあベラベラと…… )


 荒木は、自分がやらかした事を完全に忘れている。

 もしくは、あまりにも軽く考えている。

 あの時の早乙女の涙を――。


――ざけんなよっ、舐めてんのかコイツはっ!

 あの時の早乙女を見て、まだこんな戯言を吐きやがってっ、

 泣き出しながら怯えたアイツを見て……



 気が付けば腸が煮えくり返っていた。

 俺がここに来た本当の目的は、荒木に僅かな希望を持たせる事だった。

 牢屋で我慢していれば、魔王発生の前に行われる例のパレードがある。

 その時に外に出られるから、その時に会って謝罪でも何でもすれば良いと言うつもりだった。

 そうすれば自殺などを考えず、生きて避雷針の役目を果たすと思っていた。


 勿論、会わせるつもりなどさらさらない。

 会わせるなど論外。例のパレードの時は、何か箱にでも詰めて運ぶつもり。


 だが、それを教えてやる必要はなく、早乙女と会える機会チャンスがあると思わせたまま、この牢獄で生活をさせるつもりだったが――。

 

「……行きましょう、将軍。コイツの話を聞く必要はないです」

「む? ジンナイ?」

「っんだと! 誰もテメェとは話してねえゾ」


「――っ黙れぇ!!」

「ひぃっ!」


 力一杯木刀を地面に打ち付ける。

 もうトラウマとなっているのか、荒木は大きな身体を丸めて縮こまった。


「てめえはっ、自分が何をやったのか覚えてねえのか!」


――早乙女を監禁してたんだぞっ! しかも一年以上、女の子を……。


「あの早乙女がっ、あんなに怯え切っていたんだぞ、分かってんのか、オラッ!」


――ふざけんなっ、ふざけんなっ、ふざけんなっ、ふざけんなっ、ふざけんなっ、ふざけんなっ! あの早乙女を見て、どの口が言うっ。


「てめえがやった事はぜってぇに許される事じゃねえ」


――っがああああ! コイツは自分のやった事を理解してねえのか?

 お前がやった事は、やった事は……それなのにコイツはっ。


「ああっ!? 筋を通したいだぁ? アホかっ! 何だよその筋ってのは! ドコにそんな通す筋ってのがあんだよっ!」


――ふざけやがって、誰が会わせるか! なめてんじゃねーぞ。


「ああ、分かったよ。そんなに筋ってのを通してえなら、その首筋でも掻っ切って詫びろっ! それが一番喜ばれるってんだ! 二度と姿を見せるなっ! そこで独りで朽ち果てろっ!」


 俺は吐き出すだけ吐き出し、その部屋を後にしようとした。

 どうせコイツには自殺する勇気などない。

 仮に自殺したとしても、もうどうでも良いと思えた。


「ま、待てっ! オレはアイツに――ってか、そもそも何でテメェの許可がいるんだよ。アイツは――」

「早乙女は俺たちと一緒にいる」


「は?」


 心底意外そうな顔を晒す荒木。

 全く何も理解出来ていない、そんなマヌケ面で俺を見た。


「早乙女は……俺が保護してる。だから俺たちと一緒にいるんだよ。じゃあな」

「待てっ、おい、どういう事だよ! アイツは北の貴族に――って、おいっ陣内! 待てドコに行くんだ。まだ話は終わって――」



 俺は、後ろで喚いている荒木を無視して部屋を出た。

 頭を掻きながらガーイル将軍も部屋を出て来た。


「全く、ジンナイは……まぁ良いか。あの様子ならきっと大丈夫だろう。勇者アラキ様は自殺をすることはないだろうな……」


 『お前の所為でな……』と、いった視線を向けてくるガーイル将軍。


 俺もそう思えた。

 ヤツは、希望とは別の形、黒い負の感情を抱いて生き残るだろう。

 俺に復讐してやるといった、そんな動機で……。



「ラティ、お待たせ」


 世話役の囚人が居る牢も出て、俺は外で待っていたラティに声を掛けた。

 ととっと駆けてくるラティ。そして――。


「へ?」

「…………」


「あの、ラティさん?」


 ラティは、俺の服の袖口をちょんと摘み、おずおずと上目遣いで俺をみた。

 躊躇い気味に口を小さく開き、彼女は俺に尋ねてくる。

 

「……あの、ご主人様。ご主人様は、サオトメ様の事を大事になさるのですねぇ」

「あ、いや、あれは……一応、知り合いだし……」

「ジンナイ、そろそろ出よう。あまり長居するとあの男が変に動くかもしれない。何が出来るって訳じゃないが、何もない方がいいからな」


「あ、ああ、分かりました」



 こうして俺は、ラティからの心地良い嫉妬を感じながら、地下牢獄(エウレカ)を後にしたのだった。


読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら凄く嬉しいです!!


誤字脱字も……



 挿絵(By みてみん)


あ、言葉様のキャラデザイラスト公開です!

めっさ可愛いですううう!!

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