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魔力を見る者

ちょっと短めー

 俺たちに声を掛けてきた双子は、魔力を見ることが出来る者だった。

 

 時々報告として聞かされていた魔力の渦、あれを観測する者達だったのだ。


 左右の目の色が違う銀髪の双子。見た目は非常にキャラが立っている。 

 その双子がいつも通り魔力の渦を観察していたら、細い渦状の魔力が垂れ下がっており、それを見て慌ててやって来たのだという。


 東の御神木が魔王になったユグトレント。

 東側に分離した魔力の渦が出来ていた事は観測していたが、魔王発生を察知することは出来なかったそうだ。


 魔王発生を見極めるのはとても重要な仕事。

 あの一件は、魔力の渦を見て(観測して)、魔王の発生を察知するのが役目の双子にとっては、自分たちの立場を大きく揺るがす出来事だったらしい。


 イレギュラーだったとはいえ、それを察知出来なかったのは大失態。

 だから目の前に居る双子は、垂れ下がってきた細い渦を見て、魔王発生の予兆だと思い、その細い渦の下に居た俺に思わず尋ねてしまったそうだ。


『すいませんっ、貴方は魔王候補ですか?』と――。



 これは対応に困る。

 確かに初代勇者は、俺が魔王化しそうだったと言った。

 だからその質問は間違っていない。

 だがしかし、素直にそれを明かすのは危険。ここは誤魔化すのが吉だろう。


 正直なところ、面倒そうな相手に捕まった気がする。

 だがその一方、初代勇者の発言の裏付けが取れたとも言えた。

 俺が魔王になるかもしれないという話の……。

 ならば次に試す事は――。


「へぇ~~、この辺りに、その渦って言うのがあるんですか?」

 

 寄って来た蠅を遠ざけるような、そんな軽い仕草で出来るだけさり気なく、手に持った木刀で頭上を扇いだ。


「ええ、そうです――って掻き消えた!? あれ? さっきまであったのに……」


 右目が紫色の方の双子、ヒロムが悲鳴染みた声を上げた。


「何で……? まるで木刀を避けるように……散った?」


 左目が紫色の方の双子、ミニムがそう言って俺の木刀に目を向ける。


 ( よしっ、あの話は本当だったんだな )


 現在、俺たちが居る場所は城の敷地内。

 本来であれば、武器の持ち込みや帯剣などは許可されない。

 だが、木刀には刃が付いていない事と、木刀には儀式用という側面があることから、俺は特別”帯木刀”を許されていた。


 ただ、儀式用とはいえ、そう簡単に帯木刀が許されるものではない。

 だが軍人顔の将軍が口添えをしてくれたお陰で特別に許可が下りたのだ。

 もし口添えが無ければ、少し面倒だったかもしれない。

 そんな経緯を経て帯木刀していた木刀を振るったのだ。


「何で? 何で……渦が」


 これは嬉しい収穫。

 世界樹の木刀で、魔王化を防ぐ事が出来るという裏付けも取れた。

 初代勇者の言葉を信用していない訳ではないが、裏付けがしっかりと取れたのは大きい。

 

 俺はこれからも木刀をさり気なく振る事を決める。

 

 そうすれば、守りたい者を魔王化から遠ざける事が出来る。

 そして逆に、避雷針となる者には木刀を近づけない。

 自分でも自分勝手の奴だとは思うが、全てを助けられると自惚れてはいない。


――あとは……、どうやって木刀を振るかだな、

 さり気なく木刀を振るうって言ったって無理だよなぁ、

 あれか? リーマンが傘でゴルフのスイングするみたいに振るか?

 いや、さすがに不自然過ぎるな、そもそもゴルフなんてやってねえし……


 

 他には、『ちょっと俺の木刀を握ってよ』などの案も浮かんだが、これは色々とアウトな気がして却下する。 

 そんな風に、ちょっと思考を飛ばしていたが、双子はまだ前に居た。


「あ、あのぉ~、貴方は魔王ではないんですね?」

「……違います。ってか、俺が魔王に見えますか?」

「…………あの目つきは」


 『そうですよね』と言って引き下がるヒロム。

 折角、魔王化の候補を見つけたと思ったが、それを本人()に否定されたので落胆した様子。

 一方ミニムの方は、俺の言葉を信用せず、訝しむ目で俺を見つめ続けていた。

 俺の目が怪しいと、ブツブツと何か言っている。目は元からこうなのに……。


「あぁ~あ、やっと見つけられたと思ったのに……」

「また探し直しかなぁ」


 しょんぼりとするヒロムと、俯きつつも俺を盗み見るミニム。

 ラティに確認するまでもなく、ミニムの方は俺の事を完全に怪しんでいる。

 だからとはいえ、俺の状況を明かすのは悪手。


 俺は世界樹の木刀があるから、例の魔王化から逃れられている。

 しかし言い換えるならば、木刀が無ければ俺は魔王化する。

 ないとは思うが、魔王化する者を特定する為に、俺から木刀を取り上げようとするかもしれない。

 

 もしくは――木刀を盗む。


「ラティ、行こう」

「はい」

「あっ、待って!」


 これ以上は宜しくないと、俺はこの場を立ち去ろうとしたが、ミニムの方は俺を引き留めようと動いた。

 女の勘とでも言うのか、俺から何かを嗅ぎとって動いた。その時――。


「おう、ここに居たのかジンナイ」

「あ、………………えっと将軍様」


 処刑の指揮を執っていた将軍がやって来ていた。


「ガーイルだ。いい加減名前を覚えて欲しいものだがな」

「……ジンナイ? あっ、あのボッチ・ラインか! 貴方、あのボッチ・ラインなのね。だから……」


 疑惑がより深まった。

 そんな視線を飛ばして来るミニム。


「…………ふむ。ジンナイ、予定した場所に移ろうか。時間が押している」

「へ? ああっ、行こう。ラティ、行こう」

「はい、ご主人様」

「え? あ、待っ……」


 状況を察してくれた将軍の案に乗り、俺とラティはその場を去った。

 何かまだ言いたげなミニムだが、さすがに将軍であるガーイルの用事を妨げる事は控えたようで、それ以上はついて来なかった。

 



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「助かりましたガイル将軍」

「ガーイルだ」


「助かりましたガーイル将軍。では、これで――」

「んん? 何処へ行くんだ? まだ案内してないが?」

 

「へ? 案内って……あれ? さっきのは方便じゃ」

「お前に会いたいって御方がいる。いや、少し違うか、会って欲しい方がいる」


「会って欲しい? ん? まさか姫さま?」


 アイリス王女様から、茶会的なお誘いがあった。

 当然、それに呼ばれたのは俺だけではなく、勇者たちも呼ばれていた。

 葉月、言葉(ことのは)、早乙女の3人も誘われていた。


 だが考えて欲しい。

 ラティは奴隷という事でその茶会には参加出来ない上に、参加者は俺以外全員女性。そんな気まずい場所には行き難い。


 ちょっと斜に構えた見方かもしれないが、俺には控えて欲しいと言っているような気がした。

 

 同行している勇者を誘うが、俺だけ誘わないのは角が立つ。

 だから一応(・・)お誘いはした。だけど控えて欲しい……。

   

 そんな思いが込められている気がしたので、俺はその茶会を辞退したのだ。

 王女様はそう思っていないと思うが、他のヤツはそう思っているだろうから……。


「いや、アイリス様ではない。別の御方だ」

「別の御方? 御方って……まさかあのネズミ顔か?」


「……宰相ではない」

「ネズミ顔で通じるんだ。で、誰です? その会わせたい御方って」


「うむ、会って欲しい御方とは、勇者アラキ様だ。少々荒れておってな、だから一度会って貰えないだろうか? そうすれば落ち着くと思うのだが」


「荒木……」



 俺は、ガーイル将軍の要請を受ける形で、勇者荒木の居る牢獄へと向かうのだった。

次回、発表あります!

そして、感想もお待ちしておりますー


あと、誤字脱字も……

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