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ジト目VS切れ長の目


「くっ!? こ、この状況は!」


 俺は無駄に追い詰められていた。

 柔らかくて良い匂いがして身動きが取れない状況。

 サリオに助けを求めようにも、あのイカっ腹はスキヤキを喰らうのに夢中。

 卵を6個以上は使っていそうな溶き卵が入った器を抱え、とても幸せそうな顔で肉をほおばっていた。


 声を掛けられない訳ではないが、ららんさんが俺を見ている。

 あれは声を掛けるなという事だろう。


 味方を求め視界を彷徨わすが、味方になってくれそうなニーニャさんも見当たらない。確か嫁のサーフさんの元へと帰ったと聞いていた事を思い出す。

 味方プリーズ……。



「退きなさいよ、アンタ。大体、何でアンタが座ってんだよ」

「…………」


 睫毛が長く、切れ長の瞳できつく睨む早乙女。

 それを無表情無言にて返答を返す(・・・・・)ラティ。


 そして、そんなラティさんを膝に乗せている俺――。


――くそっ、

 どうしてこんな事になった……

 さっきまで普通だったのに、



 そう、少し前までは普通だった。

 深淵迷宮(ディープダンジョン)からの帰還を、ガレオスさんの奢りで祝い労う宴だった。


 ダンジョンから帰還後、俺たちは一度ノトス公爵の館へと戻った。

 事前に報告は行っているが、俺や勇者達はアムさんに会い、今回の件の報告を済ませたのだ。


 ギームルからは、明日話す事があると言われた。

 もう嫌な予感しかしない。何か悪だくみをしていそうな顔と態度(オーラ)

 しかしよく考えてみると、ギームルからはいつも嫌な予感しかしない。

 俺はそれ以上考える事を止めた。

 

 報告の後は、即座にモモちゃんの元へダッシュ(急ぐ)

 ずっと会えて居なかった。寂しい思いをさせていたと思い、モモちゃんが居る部屋へと向かった。だが、モモちゃんは眠っていた。

 モモちゃんの寝顔を確認後、俺はそっと部屋を出て風呂へと向かう。

 

 鎧を脱ぎ普通の服へと着替え、もう飲み始めているであろう仲間の元へと向かった。この時、俺はモモちゃんの元に留まるべきだった……。



 ダンジョンからの帰還を祝う会には、今回の参加者がほぼ全員集まっていた。

 ただ、勇者たちだけは不参加の予定だった(・・・)


 勇者達が、特に人気の高い女性陣が一堂に集まるとなると、一目見ようと人が殺到するので、女性陣は控える事となった。

 下手をすると店どころか、その周囲一帯が大混雑となる可能性がある。


 その辺りは本当に弁えていた。

 葉月と言葉(ことのは)と伊吹と三雲の4人は……。


 そう、4人は混乱を招く恐れがあるので、参加を遠慮してくれたのだ。

 だが――。


 早乙女だけは参加してきた。

 もう本当に空気を読めないポンコツさん。


 早乙女の参加に、野郎陣は歓喜した。苦笑いをしたのは俺と椎名だけ。

 それはもう大いに盛り上がった。ダンジョン内では近寄るのを控えていた連中も、酒が入ったこの場では別だった。盃を持って挨拶をする者の行列が出来た。中には、ちゃっかりと紛れて挨拶をする一般人もいた。


 ヒートアップする店内。

 しかも全部ガレオスさんの奢りとあって、誰もが容赦なく酒や料理を注文し続けていた。高い物だろうと躊躇いなどはなく。

 特にサリオは、一個銀貨1枚はする生食用の卵を容赦なく注文していた。


 普段であれば即座にアイアンクローだが、今回はガレオスさんの奢りなのでスルー。今はどこぞの握手会のような光景をぼんやりと眺める。


 早乙女への行列を仕切っているのは、陣内組の人事などを担当しているファミさん。長ったらしい挨拶をしようとしている者を捌いていく。


 意外と言うべきか、予想通りとも言うべきか、押しに弱い早乙女は素直に挨拶に晒され続けていた。

 見た感じでは、断る機会を失ったように見える。

 時折、俺の方へと助けを求める視線を飛ばしてくるが、助けに入ると嫉妬組がギルティしてくるので気付かない振りをする。


「……ダンナ、助けてやらないんですかい?」

「陣内君、早乙女さんが……」

「知らんっ。ここに来たアイツが悪ぃんだ」 

 

 そう、早乙女には、この場に来てしまった己の迂闊さを反省して欲しい。

 俺は早乙女を見捨てる事を選択する。


「ダンナは容赦ないですねぇ」

「ん? ガレオスさんは伊吹に言ったんです?」


「ええ、ちゃんと言いやしたよ。来ると大変な事になるって……。まあ、イブキ様は言われなくても分かっている様子でしたが」

「なるほど…………良かった、ガレオスさんが残ってくれて……」


 思わず出てしまった言葉だった。

 伊吹の事をしっかりと見守ってくれているガレオスさんが、ヴォルケン(あんな奴)の為に居なくならなくて良かったと……。


「はは、ええ、もう平気ですよ。夢でアイツに説教までされましてねぇ……。ホント、夢にまで出て来やがって……」

「アイツ? ヴォルケンの事?」


「いえ、何でもありやせん。それよか、そろそろ時間ですね。あんまり遅いと待たせる事になっちまうんで」


 ガレオスさんは、そう言ってある方向に目を向けた。

 勘が鋭く、察しが良い俺にはすぐに分かった。

 ガレオスさんが目で示した先は、階段がひしめく方角だという事に。


 ガレオスさんが冒険の時間だと暗に告げてきた。

 そして即座にハンドサインを送り始めた。


 サポーター組は別だが、それ以外の者は修羅場を潜り抜けた猛者達。

 浮かれていようと、ハンドサインを見逃す事はなく、直ちに次のフェイズへと移行しようとする。


 そして俺も、出来る限りさり気なく席を立とうとしたのだが――。


「な……んだと!?」


 俺が立ち上がろうとするのを、まるで妨害するかのようにラティが俺の膝上に腰を下ろしたのだ。俺はラティによって椅子へと釘付けにされる。


 ( まさかっ、読まれていただと…… )


 膝上がとても柔らかく、目の前の亜麻色の髪からはとても良い香りが鼻の奥をくすぐる。


「…………ダンナは不参加と」

「えっと、そろそろ僕は帰るかな。それじゃぁまたね陣内君」

 

 因果応報と言うべきか、俺の事を即座に切り捨てる二人。

 視界の隅の方では、嫉妬組の連中が慌ただしくハンドサインを送り合っている。


――ちぃっ、マズい、

 このままじゃ狩られるぞ、くそっ、身動きが取れない、

 一体どうしたら――あっ!



 早乙女と目が合ってしまった。

 そして、視線にて射殺さんと俺を睨む。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





「いいから立って退きなさいよ。陽一、アンタからも言ってやって」

「………………」

「いや、これは……」


 早乙女は『退きなさいよ』と言っている。

 『退け』とは、その場所を譲れという意味だ。

 もしラティが立ったら、今度は早乙女が座って来そうな気がする。

 

 挨拶の際の酒でも注がれたのか、早乙女は顔が赤くほてっており、間違いなく酔っている。

 そして、俺の膝に座っているラティも酔っている。

 先程から俺の首筋にコシコシと額を擦り付けてくる。

 ハンドサインの合図が、どんどん物騒なモノへと変わっていく。

 合図の内容が、魔石魔物を相手にするモノと変わらなくなってきた。


 ( くっ、どうしたら…… )


 ラティにはちょっと立ち上がってもらいたい。

 言うならば、スタンド・バイ・ミー(傍に立って)ってヤツだ。

 だがしかし、俺の方もスタンド・バイ・ミー。

 

 もしくは、スタンド・マイ・ミー?。

 ラティの柔らかさと香りがとてもヤバイ。ダンジョン内での禁欲生活が長かったのだから、これはどうにも抑えられない。


 もしラティが立って、次に早乙女が座ろうものなら……。


「つ、詰んだ……」


 状況はレッド。

 立たれても困るし、立っているから困る。

 ポンコツ(サリオ)はこの窮地に気付く事はなく、夢中でスキヤキを貪っている。

 早乙女(ポンコツ2号)は、いまだに『ぐぬぬ』とラティを睨んでいる。 


「さあって、そろそろ行くぞ? 大枚を叩いて綺麗どころを予約してっから、早いもん勝ちだ。確かぁ、兎人が5人は居たはずだ」


 もう駄目だと思った時、ガレオスさんが注目を集めるように声を上げた。

 ガレオスさんの兎人という言葉に、全員が一斉に反応を示し駆け出した。


 ノトスの街には兎人は少ない。少し前はミミアしか居なかったはずだ。


 兎人は、エロ本から抜け出して来たような肢体を持つ種族。

 階段の世界では間違いなく一番人気。野郎共は全員店から出て行った。


 ガレオスさんはニヤリと笑みを浮かべ、俺を見てから外へと消えた。


 きっと俺を救ってくれたのだろう。

 この場に嫉妬組を残さぬように、上手く誘導してくれたのだと判る。

 もしかすると、兎人の事は嘘なのかもしれない。


 出来れば早乙女も――と思うのは贅沢だろう。

 俺はガレオスさんに感謝する。彼は俺を見捨ててはいなかったのだ……。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

  

 


 ラティと早乙女の攻防は続いた。

 早乙女が吠え、それをラティがスルーする。

 店側の配慮か、簡易衝立のような物が用意され、こちらの姿が周りから見え辛くなっていた。


 そしてそんな中、俺は自分を鎮める事に務める。

 心地良い感触から少しでも気を逸らすべく、意識を他の方へと向ける。

 今は欲望の嵐が過ぎ去るのを待つ。すると――。


「へぇ~中央で?」

「ああ、そうらしいな」


 ( ん? 中央? )


 会話が聞こえてきた。

 ガレオスさん達が去ったので、他の客が来店し始めていたのだ。

 そしてその来店してきた客から会話が聞こえてくる。

 俺は、『中央』という言葉が少し気になった。


 中央で何かあったのだろうかと、そんな事を考えつつ会話を盗み聞きする。

 

「……驚きだけどな……」

「……まさか、本当に?」


 ( む、ちょっと聴こえ辛い…… )


 早乙女の声が邪魔でしっかりと会話が聞こえない。

 離れた会話に意識を集中する。


「マジらしいぜ? オレもさっき聞いたんだけど……」

   

 ( 何が……? あ、 )


 丁度早乙女の声が途切れ、離れたテーブルの会話が聞こえた。



「なあ、本当なのか? 中央でフユイシ伯爵の公開処刑が行われるって」

 

 ( はい? )

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字も……。

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