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お? また来たんだね?

お待たせしてしまって申し訳ないです。

しかもポエム回です。

 俺の心の中はともかく、最奥へと向かう行軍は順調だった。


 ハーティの移動補助魔法などで移動は苦にならず、遭遇する魔物との戦闘も、壁や天井などの足場がある場所では無敵に近いラティと、超強力なWSを放つ伊吹がいるお陰で、魔物との戦闘は本当に楽だった。


 もうこの二人だけでイイんじゃねえかな? と思う程に……。


 それから俺達は調査組は、約三日程掛けて、深淵迷宮(ディープダンジョン)の最奥へと辿り着いた。どうやらハーティの仮説は正しかったのかもしれない。小部屋のような行き止まりで、青白く光る青年が浮かんでいた。


「お? また来たんだね? ――と言うことは西のアイツに会って……いや、ヒデオーにも会えたのかな? 何となくそんな気がするよ」


 道端で偶然出くわしたから声を掛けて来た、そんな風な気軽さで話し掛けてくる初代勇者の仲間のライエルさん。そして次に、俺達がこの場を訪れた事情を察する。


「流石ですねライエルさん。――って言うべきなのかな? はい、会いました。初代勇者御神木英雄に。そして、終わらせに来ました」 

「そうか……俺は解放されるんだね。とうとうその時が来たんだね……」




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「――これで……良かったのかな? 陽一君」

「ああ、問題無い。これが目的だったんだから」


 不安そうにそう尋ねてくる葉月。

 彼女が不安に思うのは分かる。

 俺は、呆気ないほど簡単にライエルさんを木刀に取り込んだ。

 正確には、魔石に宿っていた力を回収したのだが。


 心なしか、世界樹の木刀から言い様の無い手応えのようなモノを感じる。

 何かが脈打っているというべきか、いつもとは明らかに違う。

 きっといま木刀は、取り込んだ力を咀嚼でもするかのように馴染ませているのだろう。右手に持っている魔石からは、もうライエルさんの気配を感じない。


「伊吹、この魔石を使って武器を作れってさ」

「うん、だけどホントに良いのかな? その、私が貰っても……」


「ああ、それが最後の願いだったからな。ライエルさんの……」

「うん……分かった」


 伊吹は俺から魔石を受け取ると、その魔石に視線を落とした。

 少し悲しそうな目で、手に持った魔石を見つめる。


 初代勇者の仲間であったライエルさんは、詳しい事は尋ねずに受け入れた。

 まるで全てを察しているかのように、特に何も聞かずに、ただ終わらせてくれと……。


 終わらせてくれとは、この精神体を終わらせてくれという意味なのか、それとも、魔王の脅威を終わらせてくれという意味だったのか――もう分からない。


 前に会った時は、よく話をする印象の人だった。

 面白そうな事や、面倒や厄介ごとに首を突っ込みそうなタイプ。

 そして人当たりが良く、とても好感の持てる人だった。


 初代勇者に見せられた映像(記憶)では、ライエルさんは俺の想像通り、お日様のような笑顔で人々と接していた。人懐っこく、誰構わず話し掛けにいく姿を何度も見た。


 だから俺は、俺達がここに来た目的や、他にも様々な事を根掘り葉掘り尋ねてくると思っていた。

 しかしライエルさんは、特に何か尋ねてくる事はなく、『さぁ、サクッと終わらせてくれ』と言って来た。

 そして最後に、彼は伊吹の方を見つめ、これを使ってくれと自身が宿っている魔石を指差した。


 俺はそれに肯き、一言告げてから木刀をかざした。


 ベタな言い方だか、ライエルさんは引き際を心得ていたのだと思う。

 理解も納得もいらない。

 役目は終えた。あとはただ消えるのみ。


 何かを尋ねる必要はもう無い。

 そして何かを話せば、それはどうしても棘となる。

 己が消え去る事によって、俺達に影を落とさぬようにとライエルさんは気を遣ってくれた。


 彼は千年以上の時を過ごしたはず。

 精神体となったライエルさんに、感情と呼べるモノがあるのかどうかは分からないが、この暗いダンジョンの中で独り使命を全うしていた。

 

 この異世界(イセカイ)を支える為に……。

 そして――あの人の為に。


 だから俺は、お疲れ様でしたと告げて、彼を終わらせた。



 

        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 何とも言えぬ空気の中、俺達は撤収を開始した。

 正直なところ、もうちょっと何かあると思っていたのだが、そんな事は特に無く、速やかに撤収する。


 帰り道の中、俺はライエルさんの事を思い起す。

 彼は、世界樹を失い魔物が無秩序に湧くようなったイセカイを守る為に楔となった。


 激痛の中で見せられた記憶では、彼が真っ先に賛同していた。

 この異世界(イセカイ)を守る為に。――そして、王女アリスの為に。


 彼もまた、一人の女性の為に動いた者だった。

 初代勇者と同じで……。

 しかも、同じ女性の為に。


「っはあああぁぁ」


 深く息を吐き、俺は重くなった感情を整える。

 心なしか指先の方が冷たくなっている。

 

――ふう、男はみんな同じなのか、

 惚れた相手の為に……、守りたいと思った人の為に……



 俺はそっと周りを見回す。

 ラティ、葉月、言葉(ことのは)、伊吹、早乙女が視界に入る。


 惚れた相手はラティだけ。だが、他の4人も守りたいと思う。

 少々欲張り過ぎなのではと思う。

 

 しかも俺は、このメンツに三雲や椎名までも入れようかと頭に過ぎっていた。

 三雲にはイートゥ・スラッグの時に、椎名にはここ最近の戦闘で世話になっている。だからと、そう考え始めていたが――。


――駄目だな、

 全く駄目だな、考えが甘すぎる、多くを望み過ぎれば絶対に取り零す、

 締め直さないと…………きっと後悔する事になる……



 初代勇者の仲間ライエルさんは、異世界(イセカイ)と王女アリスの為に楔となった。


 その選択を否定するつもりはない。

 だが俺は――。


「守るんだったら、俺は自分の手で守る……」


 当時はそれしか選択肢が無かったのかもしれない。

 だがそれでも、守りたい人がいるのなら、その人の近くに居て守ってやりたい。

 何か(・・)に任せるのではなく、自分で守りたい。


 俺はもう一度決意する。

 守りたい者を守る為に、守る者を間違えぬように……。


 

 ふと気が付くと、冷たくなっていた手が温もりに包まれる。

 俺に寄り添うように、ラティ(守りたい者)が俺の手を握っていたのだった。

   

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……。

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