ゼオイ
「よし、最奥を目指す調査組はこのメンツで行く」
そう言ってレプソルさんが腕を横に振る。
腕を横に広げて示した先には、俺達がいた。
そしてそれ以外の者は、この上へと繋がる広場で待機となった。
最奥を目指す調査組は、葉月、言葉、早乙女、伊吹の4人の勇者と、レベルの高い順で選ばれた冒険者達。
そして、同じくレベルの高い順で選ばれたサポーター達だった。
選ばれたサポーターの中には、ららんさんとニーニャさんが居た。
二人はそこまでレベルは高くなかったはずだが、ある理由によって爆発的にレベルが上昇した。
そのある理由とは、ハーティが唱えた仮説の、魔石魔物を湧かす事で最奥へと通じる道を探る方法。
要は、下層エリアでの魔石魔物狩りだ。
経験値とはパーティの人数によって分散する。
そして勇者の恩恵も、6人を超えるとその効果は薄くなる。
なので、大人数の冒険者連合連帯で魔石魔物狩りを行っても、そこまで極端にレベルが上がる事は無い――はずだったのだが。ある例外があった。
それは俺。
俺の恩恵は人数に左右されない。
何人居ようと俺の事を信頼している限り正常に発動する。
高レベルの冒険者でもそれなりにレベルが上がる魔石魔物狩りを、そこまでレベルの高くない二人が参加したのだ。
育成チートとでも言うべきか、二人は一気にレベル40台に達してしまった。
30台でも高レベル者と言われるこの異世界で、たった一日でそこまで上がってしまったのだった。
当然、不審に思う者は居た。特にサポーターのメンツが訝しむ。
陣内組なら知っている事だが、他の者は知らない事。
これは色々と面倒ごとになると思ったので、ここは『流石は勇者様』で誤魔化した。
少しだけだが、歴代共の負の遺産に感謝する。
そして初代勇者はこれを危惧していた。
俺が居る事で想定数以上の高レベル冒険者が誕生し、それが異世界の決壊に繋がる事を……。
今回のように二人だけなら問題は無いが、これがもっと大人数だとマズイ。
あまり知られてはならない事だ。
「よし、各自用意。準備が完了次第出発だ。広場の指揮はガレオスで、勇者様のお二人もお願いします」
「ああ、ここは任せろ。汚名挽回ってヤツだ」
「皆も気を付けてね」
「沙織、無理はしないで」
レプソルさんの指示に従い準備を開始し、俺達は出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「しかし凄いよねぇ、こんな通路とかが勝手に出来ちゃうんだから」
「ああ、確かにそうだな……」
横を歩くハーティに話し掛けられ、俺は相槌を打ちながら辺りを見回す。
現在俺達が歩いている場所は、複数の通路の中から、魔石魔物狩りによって決定した通路だ。
この横幅3メートルほどの通路には、狼男型などの見た事がある魔石魔物は湧かず、下層で初めて見たシロゼオイだけが湧いた。それにあれから一回だけだが、白い悪魔シロゼオイ・ノロイも湧いた。
ハーティはそれを見て、この通路が最奥へと続く通路だと判定した。
それが本当に合っているかどうかは判らないが、この通路が最奥へと続く道であれば、魔石魔物を湧かす事で、最奥へと続く道を調べる事が出来る。
この深淵迷宮だけではなく、他のダンジョンでも使える方法かもしれないのだ。
試してみる価値はある。
それに他に方法がないのだから、これで良いのだろう。
こうして俺達探索組は最奥を目指す。
「――それにしても、まさかここに来れる事になるとは……」
「うん? それはどういう意味で?」
ハーティのその言い方には、何か引っ掛かるモノがあった。
何とも言えない違和感を覚える。
「実はさ、元の世界でゲームをやっていた時に、ダンジョンの奥に新エリアが実装されるって情報が出てたんだよ。要はアプデかな」
「アプデ、アップデート?」
「うん、新エリア解放って触れ込みでね。まぁ……それなりにはワクワクはしたかな~」
「あ~~、そうでしょうね。新しい敵とか、新装備とかありそうですもんね」
「そうなんだよっ。だけど……実装前に死んじゃってね。だからさ、何だか感慨深いんだよね、こうやってここに踏み入るってのは……」
ハーティは、そう言って視線を上に向けた。
彼の言っている未実装だった新エリアと、いま歩いているこの場所は別のモノだが、それでも彼にとっては思うところがあるのだろう。
そしてそんな事を考えていると、俺は大事な事を思い出した。
「ハーティさん。ちょっと聞きたいんだけど、ゲームの時と魔物は同じなんですよね? 確かそんなような事を言っていた気が……」
「ああ、全く同じって訳じゃないけど、ほぼ同じだね。この異世界では初めてだったけど、ゲームの時は何回もシロゼオイを倒した事があるよ」
「……じゃあ、あの白いヤツは?」
「いや、あれは居なかったかな。もしかすると新エリアに居たのかもしれないけど、僕がゲームをやっていた時は居なかったかな」
「なるほど、シロゼオイ・ノロイは居なかったのか……」
「ああ、居なかったね。あれはゼオイ系の亜種なのかもね」
( ん? ゼオイ系? )
「ちょっと待った。ゼオイ系って事は……」
「あれ? 気が付いてなかったのかい? 中央のハリゼオイ。南のシロゼオイ。北はカベゼオイ。そして東はダンゼオイって、ゼオイ系ってのは何種類も居るんだよ? あ、西には何故か居ないんだよね」
「はあ!?」
俺はハーティから、そのゼオイ系の事を教えて貰った。
普通の魔物とは違い、魔石魔物として湧くゼオイ系。
その特徴は、名前の由来となっているモノを背負っている事。
ハリゼオイは針を、シロゼオイは白色を、カベゼオイは壁を、そしてダンゼオイは、何と階段を背負っているそうだ。
カベゼオイは壁を背負っているので、ゲームの時は背後からの攻撃が無効だったそうだ。
そして何となく気になるダンゼオイは、階段を背負って擬態化しており、うっかりその階段に乗ろうモノなら、ダンゼオイは実体化から半透明化に代わり、階段に乗った者を落下させるのだという。
東のダンジョン死者の迷宮は、深い谷を下るような作りになっているそうで、足を踏み外すと真っ逆さまらしい。
ゲームの時は、初見殺しの階段と呼ばれたそうだ。
唯一の救いは、魔石魔物なので簡単には湧かない事。
もし普通の魔物のように湧いていたら、そこら中がトラップだったと。
何となくだが、本当に何となくだが、俺にとって天敵な気がした。
もう嫌な予感しかしない。
東のダンジョンに潜る時は、命綱を常に結んでおこうと密かに誓う。
その後も、俺はハーティと話し続けた。
下らない話や大事な話、様々な事を聞いたり話したりした。
後ろめたい感情を隠すように……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺には、誰にも話していないある目的があった。
守りたいモノを守る為に、それ以外を切り捨てる。
実際に効果があるか不明だが、俺は三雲と椎名を切り捨てた。
どちらかが魔王になっても構わないと……。
世界樹の木刀にどれだけ効果があるか分からないが、少なくとも俺には効果があった。
俺は木刀のお陰で魔王化する事を避けられたと初代から聞いた。
もしかするとそれはデマなのかもしれないが、あの時の、ナントーの村で木刀を握った感覚はそれだった。
何かが引いて行く感覚。
その時は分からなかったが、初代の話を聞くと合点がいった。
だから俺は、守りたい者を守る為に、他の勇者達を避雷針代わりにする。
誰にも気づかれぬよう、木刀を使い。
俺は最奥へと辿り着くまでの間、さり気なく木刀を振るったのだった。
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あと、誤字脱字なども……。