表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

404/690

ゼオイ

「よし、最奥を目指す調査組はこのメンツで行く」


 そう言ってレプソルさんが腕を横に振る。

 腕を横に広げて示した先には、俺達がいた。


 そしてそれ以外の者は、この上へと繋がる広場で待機となった。

 

 最奥を目指す調査組は、葉月、言葉、早乙女、伊吹の4人の勇者と、レベルの高い順で選ばれた冒険者達。

 そして、同じくレベルの高い順で選ばれたサポーター達だった。


 選ばれたサポーターの中には、ららんさんとニーニャさんが居た。

 二人はそこまでレベルは高くなかったはずだが、ある理由によって爆発的にレベルが上昇した。


 そのある理由とは、ハーティが唱えた仮説の、魔石魔物を湧かす事で最奥へと通じる道を探る方法。


 要は、下層エリアでの魔石魔物狩りだ。


 経験値とはパーティの人数によって分散する。

 そして勇者の恩恵(ギフト)も、6人を超えるとその効果は薄くなる。


 なので、大人数の冒険者連合連帯(オーバーアライアンス)で魔石魔物狩りを行っても、そこまで極端にレベルが上がる事は無い――はずだったのだが。ある例外があった。


 それは俺。

 俺の恩恵ギフトは人数に左右されない。

 何人居ようと俺の事を信頼(・・)している限り正常に発動する。

 高レベルの冒険者でもそれなりにレベルが上がる魔石魔物狩りを、そこまでレベルの高くない二人が参加したのだ。


 育成チートとでも言うべきか、二人は一気にレベル40台に達してしまった。

 30台でも高レベル者と言われるこの異世界(イセカイ)で、たった一日でそこまで上がってしまったのだった。


 当然、不審に思う者は居た。特にサポーターのメンツが訝しむ。

 陣内組なら知っている事だが、他の者は知らない事。

 これは色々と面倒ごとになると思ったので、ここは『流石は勇者様』で誤魔化した。


 少しだけだが、歴代共の負の遺産に感謝する。

 そして初代勇者はこれを危惧していた。

 俺が居る事で想定数以上の高レベル冒険者が誕生し、それが異世界(イセカイ)の決壊に繋がる事を……。


 今回のように二人だけなら問題は無いが、これがもっと大人数だとマズイ。

 あまり知られてはならない事だ。


「よし、各自用意。準備が完了次第出発だ。広場の指揮はガレオスで、勇者様のお二人もお願いします」

「ああ、ここは任せろ。汚名挽回ってヤツだ」

「皆も気を付けてね」

「沙織、無理はしないで」


 レプソルさんの指示に従い準備を開始し、俺達は出発した。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




「しかし凄いよねぇ、こんな通路とかが勝手に出来ちゃうんだから」

「ああ、確かにそうだな……」


 横を歩くハーティに話し掛けられ、俺は相槌を打ちながら辺りを見回す。

 現在俺達が歩いている場所は、複数の通路の中から、魔石魔物狩りによって決定した通路だ。


 この横幅3メートルほどの通路には、狼男型などの見た事がある魔石魔物は湧かず、下層で初めて見たシロゼオイだけが湧いた。それにあれから一回だけだが、白い悪魔シロゼオイ・ノロイも湧いた。


 ハーティはそれを見て、この通路が最奥へと続く通路だと判定した。

 それが本当に合っているかどうかは判らないが、この通路が最奥へと続く道であれば、魔石魔物を湧かす事で、最奥へと続く道を調べる事が出来る。


 この深淵迷宮(ディープダンジョン)だけではなく、他のダンジョンでも使える方法かもしれないのだ。


 試してみる価値はある。

 それに他に方法がないのだから、これで良いのだろう。

 こうして俺達探索組は最奥を目指す。



「――それにしても、まさかここに来れる事になるとは……」

「うん? それはどういう意味で?」


 ハーティのその言い方には、何か引っ掛かるモノがあった。

 何とも言えない違和感を覚える。


「実はさ、元の世界でゲームをやっていた時に、ダンジョンの奥に新エリアが実装されるって情報が出てたんだよ。要はアプデかな」

「アプデ、アップデート?」


「うん、新エリア解放って触れ込みでね。まぁ……それなりにはワクワクはしたかな~」

「あ~~、そうでしょうね。新しい敵とか、新装備とかありそうですもんね」


「そうなんだよっ。だけど……実装前に死んじゃってね。だからさ、何だか感慨深いんだよね、こうやってここに踏み入るってのは……」


 ハーティは、そう言って視線を上に向けた。

 彼の言っている未実装だった新エリアと、いま歩いているこの場所は別のモノだが、それでも彼にとっては思うところがあるのだろう。


 そしてそんな事を考えていると、俺は大事な事を思い出した。


「ハーティさん。ちょっと聞きたいんだけど、ゲームの時と魔物は同じなんですよね? 確かそんなような事を言っていた気が……」

「ああ、全く同じって訳じゃないけど、ほぼ同じだね。この異世界(イセカイ)では初めてだったけど、ゲームの時は何回もシロゼオイを倒した事があるよ」


「……じゃあ、あの白いヤツは?」

「いや、あれは居なかったかな。もしかすると新エリアに居たのかもしれないけど、僕がゲームをやっていた時は居なかったかな」


「なるほど、シロゼオイ・ノロイは居なかったのか……」

「ああ、居なかったね。あれはゼオイ系の亜種なのかもね」


 ( ん? ゼオイ系? )


「ちょっと待った。ゼオイ系って事は……」

「あれ? 気が付いてなかったのかい? 中央のハリゼオイ。南のシロゼオイ。北はカベゼオイ。そして東はダンゼオイって、ゼオイ系ってのは何種類も居るんだよ? あ、西には何故か居ないんだよね」

 

「はあ!?」


 俺はハーティから、そのゼオイ系の事を教えて貰った。

 普通の魔物とは違い、魔石魔物として湧くゼオイ系。

 その特徴は、名前の由来となっているモノを背負っている事。


 ハリゼオイは針を、シロゼオイは白色を、カベゼオイは壁を、そしてダンゼオイは、何と階段を背負っているそうだ。


 カベゼオイは壁を背負っているので、ゲームの時は背後からの攻撃が無効だったそうだ。

 

 そして何となく気になるダンゼオイは、階段を背負って擬態化しており、うっかりその階段に乗ろうモノなら、ダンゼオイは実体化から半透明化に代わり、階段に乗った者を落下させるのだという。


 東のダンジョン死者の迷宮(ミシュロンド)は、深い谷を下るような作りになっているそうで、足を踏み外すと真っ逆さまらしい。

 ゲームの時は、初見殺しの階段と呼ばれたそうだ。


 唯一の救いは、魔石魔物なので簡単には湧かない事。

 もし普通の魔物のように湧いていたら、そこら中がトラップだったと。


 何となくだが、本当に何となくだが、俺にとって天敵な気がした。

 もう嫌な予感しかしない。

 東のダンジョンに潜る時は、命綱を常に結んでおこうと密かに誓う。

 

 その後も、俺はハーティと話し続けた。

 下らない話や大事な話、様々な事を聞いたり話したりした。

 後ろめたい感情を隠すように……。




      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




俺には、誰にも話していないある目的があった。

 守りたいモノを守る為に、それ以外を切り捨てる。

 実際に効果があるか不明だが、俺は三雲と椎名を切り捨てた。


 どちらかが魔王になっても構わないと……。


 世界樹の木刀にどれだけ効果があるか分からないが、少なくとも俺には効果があった。

 俺は木刀のお陰で魔王化する事を避けられたと初代から聞いた。

 もしかするとそれはデマなのかもしれないが、あの時の、ナントーの村で木刀を握った感覚はそれだった。


 何か(・・)が引いて行く感覚。

 その時は分からなかったが、初代の話を聞くと合点がいった。


 だから俺は、守りたい()を守る為に、他の勇者達を避雷針代わりにする。

 誰にも気づかれぬよう、木刀を使い。

 

 

 俺は最奥へと辿り着くまでの間、さり気なく木刀を振るったのだった。



読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字なども……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 着眼点がすばらしい!最高! [気になる点] 名誉を挽回して、汚名は返上です。 [一言] という細かいことはあっても面白すぎる!
[一言] 汚名挽回? 汚名返上、名誉挽回が正しいのかな? 汚名挽回って使い方ありましたかね? 疑問だらけですんません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ