表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

403/690

ハーティの仮説

すいませんっ!

遅れてしまって本当にすいません。

 呆気ないほど簡単に収束した。

 どうしようもないと思っていた事態は、一人の少女のワガママによって解決してしまった。


 『一人の少女のワガママ』

 言葉にすると良くない響きだが、これ以上はないという結果だった。

 伊吹の真っ直ぐな想いがしっかりと伝わり、頑なに諦め掛けていたガレオスさんを解きほぐし、思い直させる事が出来たのだ。


 世の中は時々、少女の真摯な言葉で全てがひっくり返る。

 本当に、そう思わせる出来事だった。そして――。


「――私は、ワガママに行こうか……か」


 あの時の伊吹の宣言は、ガレオスさんが辞めるというのを予想していたからなのだろう。そう思い、ふと独り言ちると。


「おや? 独り言ですかい、ダンナ」

「あっ! いや……ああ、まあそうですね……」


 思考から漏れ出た呟きを、同じ天幕(テント)に居るガレオスさん聞かれ、俺は自嘲気味に返事をした。 


 いまこの天幕にいるのは、俺とガレオスさんだけ。本来であれば次の調査に向かう予定だった。

 だが、先の魔石魔物との戦いでMPとSPが消耗した為、今日の調査は延期となった。

 

 何があるか分からないダンジョンの下層エリア。

 まずは万全を期す、俺にはMP(魔法)SPスキルも無いが……。



「ダンナ、ヤツの件では本当に申し訳なかった。まさかアイツが――いやっ、これは言い訳ですね。すいやせん」

「いや、もう済んでしまった事ですし……あっ、そういやガレオスさんって、ヴォルケンと同じ村の出身だったんですか?」


 俺はヴォルケンが言っていた事をふと思い出し、それを尋ねてみた。

 尋ねた理由はちょっとした暇つぶし――と、少しだけ興味があったから。


「あ~~~、ええ、そうでさぁ、同じ村でしたね。一緒に旅立ったって訳じゃないですが、村を出てそんで街で再会してって感じでさぁ」

「へぇ、それで一緒に組んだとか?」


「ええ、そんな感じです。それで――」


 ガレオスさんは寝転がったまま、天井の方に目を向けて思い出すように昔の事を語り始めた。

 村に居た時の少年時代の事や、ヴォルケンが冒険者を辞めた青年時代の事など、時系列はバラバラだが、思い出すままに語り続けていた。

 俺はそれを黙って聞き続ける。



「――って訳でさぁ。もしかするとオレは……無意識に誇りたかったのかもしれませんねぇ。……アイツに」

「…………」


 ガレオスさんは、まるで懺悔でもするかのように吐いた。

 ヴォルケンを参加させた理由は、ヴォルケンの為だけではなく、自身の優越感の為に参加させたのかもしれないと、少し自嘲気味にそう仄めかした。

 

 俺はこの話を聞いて、ヴォルケンのやさぐれた悪態の理由が何となく分かった。決して納得は出来ないが、何となく分かってしまった。

 

 ヴォルケンは、ガレオスさんの事が羨ましくて仕方なかったのだろう。

 ヤツにとってガレオスさんは理想のひとつ。

 オーバーアライアンス級のパーティを纏め、勇者からの信頼も厚い。

 

 一方自身は、怪我によって冒険者をリタイヤ。

 ひょっとするとヴォルケンの横暴な態度や要求は、ガレオスさんを貶めたいが故にだったのかもしれない。

 自分とは違う、順風満帆のガレオスさんへの――”拗れた嫉妬”。

 

 そしてガレオスさんは、何となくそれを感じ取っていたのかもしれない。

 だから庇い許してしまっていた。


 だから、アイツはオレだと――。


「ガレオスさんっ」

「――ッ!? ……何でしょうダンナ?」


 強く名前を呼ばれた事に驚いたのか、ガレオスさんはぎょっとした顔でこちらを向いた。

 俺はそんなガレオスさんから視線を外し、今度は俺が天井を見ながら言う。


「断言します。アイツじゃ絶対に無理です。アイツじゃ、ガレオスさんにはなれないですよ。だから……」


 言葉の続きを、何と言ったら良いのかわからない。

 だけど否定したかった。

 ガレオスさんは、ヴォルケンの心境が理解出来ると言った。

 そして共感してしまっているから苛まれている。


 だからガレオスさんは、彼らしくない事をしてしまったのだ。


「ガレオスさん、上手く言えないけど……いや、上手く言う必要は無ぇな。――ガレオスさん、アイツじゃガレオスさんにはなれないですよ。仮にアイツが怪我をしていなかったとしても、アイツじゃ無理です! 全然無理です、どう考えても無理です、アイツじゃ絶対に無理です」


 何とも言えない気恥ずかしさから、俺は視線を天井から外せないままでそう言った。

 いまガレオスさんが、どんな顔をして聞いているのか分からない。


「は、はは……ええ、そうですねえ。アイツじゃ無理ですねえ」

「そうです、アイツじゃ無理ですよ。絶対にっ」


 少しまだ固いが、いつもの口調で同意してくれるガレオスさん。

 それからしばらくの間、俺とガレオスさんは同じ内容の会話をループさせた。

 俺が否定し、それにガレオスさんが同意してくれる。それをただただ繰り返す。


「ええ、オレはアイツとは違いやす……」

「そうですよ」


 ヴォルケンは現在、拘束されて罪人扱いとなっている。

 一応、折れた腕は魔法で治してはあるが、骨折などは魔法で治したとしても激しい痛みは残る。もっと回復魔法を掛ければマシになるそうだが、そこまでの処置はしなかった。  


 今は拘束されて、小さいテントの中に放り込まれている。

 最初はぎゃいぎゃいと喚いていたが、沈黙の魔法を掛けて強制的に黙らせた。


 俺も沈黙の魔法を掛けられた事があるので解る。

 あの沈黙状態はとても不快なのだ。

 息は出来るのに声が出せない。喉の奥に何かが詰まっているようになるのだ。


 喩えるならば、喉に餅が詰まったような感覚。

 言葉を発しようとすると、喉の奥に餅が詰まったような感覚に見舞われるのだ。

 喋ろうとすると息が詰まる。だが息だけは出来る。

 息だけをしようとすると喉の違和感が和らぐが、何かを喋ろうとすると違和感が大きく広がる。


 今頃ヤツは腕の痛みにうなされているはず。だが、呻き声を上げようモノなら喉が詰まり、ちょっとした呼吸困難に陥るだろう。


 死にやしないとは思うが、それなりに苦しい責めだ。

 しかも奴には、地上に戻ればそれなりの処罰が待っている。

 魔石魔物を許可無しで湧かした罪と、勇者達に対し妨害行為をした罪。


 魔石魔物を湧かした件はまだ良いが、妨害の方は重い罪になるだろうと聞いた。

 もし勇者保護法違反と判定されれば、ヴォルケンは全てを奪われる事となる。

 所持品や財産、そして自身の身も……。


 気の毒とは思うが同情はしない。

 それだけの事をヤツは行ったのだから。


 ヴォルケンの事を思い出していると、再びある事を思い出した。

 今度は好奇心だけでそれをガレオスさんに尋ねる。


「ガレオスさん。ガレオスさんって、”百戦の”ガレオスって呼ばれていたんですね。いや~知らなかったな~、そんなカッコいい二つ名があったなんて。ホントウニ、カッコイイナー」

「ああっ、くそっ! やっぱ聞こえていましたか……。聞き逃してくれりゃあ良かったのに……。大体、あれはそんなにいいモンじゃないですよ」


「え? 結構いいと思うけど? 百戦でしょ? 百式とか百連ガチャとか百戦百勝とか……」

「それですよ。百戦であって百勝じゃない。ただ多くの戦場に居たってだけでさぁ」


 照れ隠しからか、頭を掻きながらガレオスさんは否定した。

 

「でも、そんだけ多くの戦場? 要は戦ったって事でしょ? そんだけの経験があるって事だから……」

「………笑わないで下さいよ? 戦場ってのは……………………………………………階段の事でさぁ」


「――ぶふっう!!」


 無理だった。耐える事が出来なかった。 

 俺は耐え切れず盛大に吹き出す。


「ったく、笑わないで下さいって言ったのに。まぁあれです、当時のオレは稼いではつぎ込んで、稼いではまたつぎ込んでいたんですよ、階段に……」


 苦笑いでそう明かすガレオスさん。

 俺に知られないように、周りの連中には口止めをしていたとも明かした。


「あ~~笑った。――でも、ガレオスさん。今はもう立派な”百戦”では? 今のガレオスさんなら、本当の意味での百戦じゃ?」 

「ふっ、ダンナも口が上手くなりやしたね。外に出たら一緒に行きやしょうね、男の冒険に」


「あ、ああ……どうだろうな~」


 ラティさんが怖いので、俺はしっかりと返事をする事が出来なかった。

 俺が引きつらせるような曖昧な笑みを浮かべていると、外から声を掛けられる。


「陣内君、起きているかい?」

「ん? ハーティさん?」

「どうしたんですハーティさん、もう出発って訳じゃないですよね?」


「起きてましたか、良かった。ちょっと陣内君に話したい事があって――」


 俺とガレオスさんが居るテントにハーティがやってきた。

 そして俺に話があると、テントの外、誰もいない場所まで連れられる。


「ハーティさん、話って何です? それに俺だけって……」

「ああ、ちょっと話し難い内容でね。実は、元の世界でのゲームの話が含まれているんだ。だからおいそれと話せなくてね――」


 ハーティは俺に、ある仮説を語った。

 その仮説とは、魔石魔物を湧かす事で、最奥に向かう通路を判定するというモノだった。


 ハーティがやっていたゲーム(ユグドラシル)では、ダンジョンの奥に向かえば向かうほど敵が強くなっていたのだという。


 よくあるエンカウント式のゲームではなく、敵がその場に配置されていたそうで、奥へと向かうルートには、他のルートよりも強い(魔物)が配置されていたのだという。


 そこで今回の魔石魔物騒動。

 湧いた魔石魔物は、見た事がある魔石魔物と、見た事のない魔石魔物が居た。

 ハーティはそれを見て、最奥へと続いているルート(通路)から、見た事のない魔石魔物が湧いたのではないかと考察したそうだ。


 当然、ただの偶然という可能性もある。

 だが、試してみる価値はある。

 魔石魔物を湧かす事で、最奥へと向かうルートを判定する方法。


 しかしそれにはそれなりの危険が伴う。

 狼男型なら問題はない。

 クマとゴリラが合体したようなシロゼオイも問題はない。


 だがしかし、クマとゴリラが合体したような魔石魔物、シロゼオイの上位種とも言えるシロゼオイ・ノロイだけは問題だった。


 ハーティは俺に、あのシロゼオイ・ノロイはどれだけ強かったかを尋ねてきた。

 あの魔石魔物を安定して倒す事が出来るのならば、この仮説を試してみたいと言って来た。


 正直、あのシロゼオイ・ノロイはヤバイ。

 その場の勢いで挑んだが、あれは二人だけで戦って良い相手ではない。

 もう一度やれと言われれば、『嫌です』と答える。だが――。


「メンツ次第なら問題は無い。あとは通路で戦う事が必須かな? 安全の為に」

「ふむ、他には?」


 俺はハーティにシロゼオイ・ノロイと戦った感想と、自分なりに考えた対処法を話した。


 ヤツはとても危険だが、今の戦力で挑めば何とかなる。

 まず、ヤツは束縛系魔法に反応した。

 魔法に対してリアクションを取るという事は、相手の注意を引かせるのに使える。

 そしてその隙があれば、俺と椎名、そして伊吹が居れば十分に差し込める。

 魔法でヤツを牽制し、俺と椎名が前に出る。

 ヤツの腕は2本だけ、飛来する棘は確かに厄介だが、あれは椎名の結界でどうにかなる。

 切り札的な尻尾の攻撃も、事前にそれを想定していれば十分に避けれる。 

 【瞬閃】と【高速】を持つ伊吹なら余裕だろう。


 あとは俺と椎名が片腕ずつ押さえ、そこに本命の伊吹が斬り込めば倒せる。

 厄介な白い毛皮も、黒竜を切り裂いた伊吹のWS(でぇぇぇい)ならば間違いなく通用する。

 多少の不安はあるが、そこは葉月や言葉(ことのは)のフォローがあれば何とかなる。


 少し問題があるとすれば、遠隔持ちの三雲と早乙女に出番が無い事。

 あとは、同時に複数の魔石魔物が湧かない限り問題は無いと話した。


 

 少々皮肉な話だが、ヴォルケンが魔石魔物を湧かした事によって、最奥へと通じる道を見つけられるかもしれなかったのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

感想、本当にありがとうございます。

全部モチベにさせて貰っています~。


あと、誤字脱字報告、本当に助かっています<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ