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わがま~ま

遅れてすいませんっ


 シロゼオイ・ノロイを撃破した後、俺と椎名は急いで広場へと戻った。

 互いに傷だらけだが、今は本隊との合流を急ぐ。


 魔石魔物との戦いに慣れているとはいえ、6体を超える魔石魔物の強襲。

 もしかするともっと増えているかもしれない。

 そんな不安を抱き、俺と椎名は戻ったのだが……。


「はは、彼女は本当に凄いね」

「ああ……そうだな」


 俺たちの視線の先では、ラティが獅子奮迅の働きをみせていた。

 なんとたった一人で、3体の魔石魔物のタゲを取り続けている。


 ( 確かに迅盾をって言ったけど……やり過ぎだろ )


 久々に見るラティの迅盾。

 魔物を上手く煽って誘導し、他の者に注意が向かぬように動き続ける。

 【心感】の事を知らない者には、ラティの先を読むような動きは、予知能力でもあるのではないかと思うだろう。

 ラティはそれだけ凄い働き見せている。


 そしてラティが魔石魔物を3体もキープしているのだから、冒険者たちの負担が激減したようで、もう完全に立て直していた。

 俺と椎名が駆け付ける必要などはなく、程なくして、魔石魔物は全て討伐されたのだった。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 魔石魔物を倒し終え、皆が安堵の息を漏らす中、ホークアイだけは、魔石がまだ落ちていないか辺りを調べている。

 そして回復役以外の者は、ほとんど地面に座り込んでいた。

 葉月や言葉(ことのは)などの回復持ちだけがせっせと動いている。


 ( ちょっとヤバかったな )


 今回の戦闘で負傷者はいるが死者は出ていない、これが普通の冒険者連隊(アライアンス)だったら間違いなく半壊していただろう。

 むしろシロゼオイ・ノロイの強さを考慮すると全滅する可能性の方が高い。


 だがこの冒険者連隊(アライアンス)は、勇者の恩恵によって鍛えられた猛者たちばかり。

 最初は浮き足立っていたが、立て直してしまえば呆気ないモノだった。

 むしろ、最初押された方がおかしかったのかもしれない。

 俺がそう分析していると――。


「ごめんね、私たちがすぐに出れば……」 

「私も……」

「仕方ないですよ勇者様。勇者様達はもうお休みでしたのですから。それよりもこちらに落ち度があります。初動の指示が混乱してしまって――」


 葉月と伊吹が謝罪をしてきたが、それは違うとハーティは言った。

 そして今度はそのハーティが、初動の対応の不備を謝罪する。


 俺は両方から事情を聞いた。

 まず、葉月や伊吹などの女性陣だが、彼女達は寝間着だった為に出遅れたらしい。

 どんな寝間着で寝ていたのかは分からないが、その辺りは乙女の秘密なのだろう。


 いま思えばラティの着衣は乱れていた。

 しかし深紅の鎧は、一度着てしまえば身体に張り付く仕様だ。だから彼女の場合はすぐに駆け付けられたのだろう。

 そしてテイシに至っては、アマゾネスのような薄着姿で戦っていた。

 この辺りのプロフェッショナルな部分を勇者達(彼女達)に求めるのは酷だろう。

 

 次にハーティの話を聞いた。

 そしてこっちの方が大きな問題だった。


 なんと初動の混乱は、一人の男が好き勝手叫んだのが原因だった。

 冷静な指示が飛ばされる一方で、喚くように指示を出した者がいたのだ。


 その男の名はヴォルケン。

 なんとヴォルケンは、自分たちサポーターを守れとひたすら叫んでいたらしい。


 当然、そんな指示には冒険者側は従わない。

 だがしかしサポーター組は違った。彼等は、自分たちを守れと動いてしまったのだという。

 それが間違っているとは言わないが、冒険者が守る(・・)のではなく、冒険者に守れ(・・)では動きが違ってくる。


 こちらに避難して来いというところを、こっちに来て守れと言うのだ。

 そしてその初動の(つまづ)きが響き、そのままゴタゴタ(混戦)へと……。

 

 もう溜め息しか出ない。

 碌な事をしないヤツとは思ったが、邪魔までしてくるとは……。

 そう思っていると――。


「ジンナイ。ちょっと報告したい事がある」

「え? ニーニャさん?」


「今回の魔石魔物の事なんだけどな。実はヴォルケンが――」


 神妙な面持ちでやって来たニーニャさんは、ある事を俺に告白した。




    ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

   

 

「ヴォルケンっ! お前は、お前は……」


 全員が見守る中、ガレオスさんの怒声が響き渡る。

 周囲を警戒する者以外、この広場に居る全員が集まっていた。 

 そしてそんな状況下にも拘らず、叱責されているヴォルケンは……。


「うるせぇな、ガレオス。倒せたんだから別にイイだろう。あっ! あの巨大な魔石はちゃんと貰うぜ? なんてたってオレが置いた魔石から湧いた魔石魔物なんだからな」

「お前は……」


 怒りを露にしつつも、悲し気に顔を歪めるガレオスさん。 

 そしてそれを横柄な態度で対するヴォルケン。

 俺たちは、ガレオスさんがケリをつけると言うので、黙ってそれを見続ける。

 


 ニーニャさんから明かされた話は、常識を疑う内容だった。 

 なんとヴォルケンは、稼ぎを増やす為に魔石を隠れて設置して、あの複数の魔石魔物を湧かしたかもしれないと言ったのだ。


 ニーニャさんはそれを直接目撃した訳ではないが、こっそりと奥の通路に向かうヴォルケンを見たそうだ。そしてその後にほくそ笑む姿も……。


 多少は不審に思ったそうだが、ヴォルケンと関わり合いたくないので問い詰める事はしなかったそうだ。


 そしてそれを聞いた俺達がヴォルケンを問い詰めると、ヤツは特に悪びれる様子もなく白状した。


 湧かす為に置いた魔石は、ガレオスさんから貰った物。

 ヴォルケンがあまりにも騒ぐので、ガレオスさんが先払いとして、倒した魔物から得た魔石を渡していたそうだ。

 あの正座の時に、妙に静かだったのは、その先払いとも言える魔石を貰った直後だったから。

 

 そして俺達が調査から戻って来た今なら、戦力が、勇者達が全員揃っている状態なので、魔石を通路に置いたのだと言い放った。


 しかもその後ヴォルケンは――。


 『全員揃っているから問題は無い』

 『聖女様が居れば怪我など問題無い』

 『仮に何かあったとしても蘇生が出来る』

 『そもそも、約束の巨大な魔石が無いのがおかしい』


 そんな身勝手な事を垂れ流したヴォルケン。

 俺は、ヤツの顔が変形するぐらい殴ってやりたい衝動に駆られたが、今は『任せてくれ』と言ったガレオスさんに任す。


「ヴォルケン……お前は自分のやった事が判っているのか? なあ、何をやったのか判っているのか? 魔石魔物だぞ? あの魔石魔物を勝手に湧かしたんだぞ?」

「ああんっ!? 今どきは”魔石魔物狩り”ってのをやってんだろ? だったら問題無ぇじゃねえか! 実際に倒せたんだし、なんか文句があんのかってんだよ」


 自分の正当性を口にするヴォルケン。

 だが当然、そんな正当性(モノ)は無い。ヤツが行った事は絶対にやってはならない事だ。誰の許可もなく、自分の判断で勝手に魔石魔物を湧かすなど、絶対にあってはならない事だ。

 

 最初は、ヴォルケンの事を欲にまみれただけのヤツだと思った。

 だがコイツはそんなモノとは違う、もっと別の価値観や感情で動いているように思えた。


 それが何なのかハッキリとは判らないが……。



「……そうか。それならもうオレは……」

「ああん? 何だよ偉そうに。大体お前は――ん? 何だよその顔は、何か文句でもあんの――っぎゃあああああ!! 腕がっ! 腕があああああ!!」


 それは唐突だった。

 ガレオスさんが表情を消し、無言で距離を詰めてヴォルケンの左腕をへし折った。鞘に収めたままの剣を叩き付けて、ヴォルケンの左腕を叩き折ったのだ。 


 そして、鞘に収めたままの剣で右腕を指しながら――。 


今は(・・)切り落とさない。だが上に戻ったらその腕は貰う。よく聞け、 それ以上(わめ)いたらそっちもへし折る」

「ぁぁあああああが、てめぇ何をしやがる。このクソがぁ」


「聞こえなかったのか?」

「ひぃ! クソッ、何でてめぇがそんな偉そうにしてんだよ! 村では漏らし野郎って呼ばれてたお前が。何で百戦のガレオスなんてふざけた二つ名で呼ばれてんだよ! このクソ漏らし野郎が調子に乗ってんじゃねえぞ」

  

「……ヴォルケン。オレが偉そうだとかそんな事は関係ねぇ。いいか? お前はやっちゃならねえ事をやったんだよ」


 普段のガレオスさんとは全く違う口調。

 飄々したところは一切なく、いま目の前に居るのは、一度も見た事の無いガレオスさんだった。

 俺はそんなガレオスさんに気圧されるが、ヴォルケンの方は――。


「だから何だってんだよ! そのやっちゃならねえってのは! ふざけんなよ、人の腕をへし折りやがって! クソ漏らし野郎がっ!」


 ヴォルケンは引く事なく、腕を押さえたまま喚き散らした。


「いいか、ヴォルケン。魔石魔物狩りにはちゃんとしたルールがある。一度に置いていい魔石の数や、それを行う前の準備とか、そういった決まり事がある。そしてそれを破った者にはそれ相応の処罰があるんだよ」

「は……? なんだよそれ、そんなの聞いた事ねえぞ! 前はそんなの……」


「ヴォルケン。問題はそこだけじゃねえんだよ。お前が本当にやっちゃあいけなかったのは、魔石魔物を湧かして妨害(・・)をした事だよ」

「は? 妨害……?」


「ああ、そうだ、妨害だ。お前は稼ぐ為に魔石魔物を湧かしたつもりだろうが、お前のやった事は立派な妨害行為なんだよ。勇者様の調査を邪魔したんだよ。これは絶対に許される事じゃねえ。腕を切り落とされるだけじゃ済まねえ。ヴォルケン、お前は地上に戻ったら投獄だ。もしかすると死刑かもな」

 

 『そしてオレも……』と、そう呟いてガレオスさんは俺たちの方を向いた。


「すいやせん、イブキ様。俺は……」


 誰もが息を呑んで静まる中、ガレオスさんは寂しそうに口を開く。

 彼が何を言おうとしているのか、この場に居る誰もが見当がつく。ガレオスさんは責任を取って辞めようとしていると。


 判らない事があるとすれば、それは何を辞めるのかという事だけ。

 伊吹組を辞めるのか、それとも冒険者を辞めるのか、それとも――。


 止めたい。

 俺はガレオスさんを止めたい。

 ヴォルケン(こんなヤツ)の為にガレオスさんが辞める何てのがおかしい。

 

「オレは……オレは責任を取って――」

「――ガレオスさんっ、辞める何て言わないよね?」


 伊吹がガレオスさんの言葉を遮って止めた。

 だが――。


「……イブキ様。駄目なんです、これは負わなくてはならない事なんです。オレがコイツを呼んでしまい、そして全員に迷惑を掛けました。下手をしたら全滅だってあり得ました。ですから責任を取らないと示しがつきません。だから――」


 ガレオスさんの言い分は判る。まさにその通りだろう。 

 だから俺も安易に止める事は出来ない。


――くそっ、何でこんな事に、

 止めてえ……、こんなんで終わるなんておかしいだろっ、

 でも……今回の件は……。



 どうしたら良いのか分からない。ぐるぐると感情が回る。

 止めたいが止められない。

 仮に止めたとしても、この件は間違いなく溝が残る。

 両方とも正解ではなく、両方とも間違いだと感じる。

 

 止めればガレオスさんは残ってくれるかもしれないが、もう今までのようにはいかないだろう。

 だが止めなかったらガレオスさんは居なくなる。


 だからとは言え、俺に止める権利はない。

 ガレオスさんに残って欲しいという思いは、ただの我が侭だ。

 仮に俺が止めたとしても、周りが納得しない。

 そして何より、ガレオスさん自身が納得しないだろう。


 ( どうしたら…… ) 


 歯噛みする思いでガレオスさんを見つめた。

 ガレオスさんらしくない、諦め切った顔が俺の心を締め付ける。 

 頼りになる父親のような、そんな思いをガレオスさんに抱いていた。だから余計にそんな顔は見たくなかった。


 ( くそっ、もうこうなったら―― )


「駄目だよ、ガレオスさん。私はイヤ」

「え……、イブキ様……」


 俺が言う前に伊吹が前に出た。

 そしてガレオスさんの手を取って顔を覗き込む――。


「ガレオスさん、ガレオスさんの言う『責任を取る』って、まさか辞めるって事? そんなのが責任を取る事になるの?」

「え? で、ですが……そうしないと示しが付きませんし……」 


「ううん、示しとかそんなモノは知らない。ガレオスさん、辞める事が責任を取る事になるの? 私は違うと思う。そんなのは『責任を取る』じゃなくて、『無責任に投げ出す』だよ」

「イブキ様……」


「ガレオスさん。責任を取るって言うのなら、私を支えてよ。私達の事を助けてよ。もし納得がいかないって人が居るのなら、私が頭を下げるよ。だからお願い、ガレオスさん辞めるなんて言わないで。これは私のワガママだけど、どうかお願いします」


 空気が変わるとはこの事だ。一気に何かが軽くなった気がする。

 後はもう、何も問題が無いとすら思えてきた。


 あとはガレオスさんの返事を待つだけだと……。


「イブキ様………………わかりやしたイブキ様。ええ、了解しやしたぜ。任せてくだせぇ、これからは荷馬車の馬のように働きやすんで、オレの事をこき使ってくだせえでさぁ」

「荷馬車の馬のようにって……。そこまで酷くないよ。でも、これからもお願いします、ガレオスさん」


 ペコリと頭を下がる伊吹。

 頭を下げられたガレオスさんは、ポリポリとアゴを掻いてから周りを見回し口を開いた。


「さて次はと……。――すまねえ! 全部オレのミスだ! だが辞めるって訳にはいかねえ! だからよう、上に戻ったら全員に酒を好きなだけ奢ってやる。だからそれで勘弁してくれっ!」


 ガレオスさんは全員に向かってそう声を張り上げた。

 一瞬の沈黙、だが次の瞬間。


「アホか! 酒だけで済むと思うなっ!」

「ああ、そうだな。酒だけじゃ足りねえな」

「階段――っとと。あれだ、あれを奢れ、それでチャラだ」

「久々に全員で行くか! ガレオスの奢りで大冒険でもすっか」

「はっ、戻った後にまた冒険とかイイな。乗ったぜ、みんなで大冒険だ」


 波紋のように声が広がっていく。

 本当に涙が出そうになる程ノリの良い連中だ。

 先程まで漂っていた悲壮感などはもう欠片も無い。


 唯一反論でもして来そうなヴォルケンは、この雰囲気を察したラティによって眠らされていた。


 そしてその横には、ヴォルケンの腕に回復魔法を掛けようか悩んでいる言葉(ことのは)が居るが、俺は目で掛けるなと伝える。

 葉月に至っては、空気を読んで回復魔法を掛けるつもりは無さそうだった。


「は、はは……、本当に……。ダンナ、ダンナも一緒に行きやしょうね、冒険に。オレの奢りですぜ」

「ああ、ガレオスさんの奢りで行きましょう。冒険に」


 ガレオスさんはいつもの顔でそう誘って来た。

 断る理由など存在しない。だから俺は、それを快く承諾した。



 こうして、伊吹の鶴の一声によって問題は解決した。

 ヴォルケンの処遇は地上に戻ってからになるが、ガレオスさんが辞めるという事態は回避する事が出来た。


 そして俺は、ラティからの(´・ω・`)(ちょっとお話あります)とのアイコンタクトを貰ったのだった。

読んで頂きありがとうございます。

すいません、返信が滞ってしまっていて。

感想はモチベや励みにさせて貰っています(感想下さいっ!(切実


あと、誤字脱字も教えて頂けましたら嬉しいです。

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