表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

401/690

白い悪魔

ノロイってどんだけ凄いヤツなんだw

白面の者にも似てるよね。

「強化は済んだが……本当に二人だけで?」

「ああ、俺たちだけでやる」

「ありがとうございます、レプソルさん」


 俺たちはレプソルさんから強化魔法を掛けて貰う。

 魔法を掛け終えたレプソルさんは、この強敵を俺たちだけに任せる事に対し思うところがあるのか、この場を離れようとしない。


「レプさん、こっちは俺たちに任せてあっちを頼む。ラティも行ってくれ、迅盾の出番だ」

「はい、ご主人様。――ご武運を」

「……ああ、分かった。すぐに終わらせて戻ってくる。だからそれまで耐えてくれジンナイ。ヤツをここから出さなければ良いんだ」

「あっ! 確かこういう時は、『別に倒してしまっても構わんのだろう?』って言うんだよね?」


「椎名、それは死亡フラグだ。俺をそれに巻き込むな」


 俺たちの役目は、白亜の魔物(シロゼオイ・ノロイ)を止める事。

 当然、倒せれば一番良いが……。


 ラティとレプソルさんが向こうへと駆けて行く。

 白い悪魔のような魔物は、こちらに向かってくるのを止め、俺たちのやり取りを通路の奥でジッと見続けていた。


「……何て言うか、凄みのある魔物だね」

「ああ、間違いなく強ぇだろうな」 


 仁王立ちで待ち続ける白亜の魔物は、まさに強者の風格。

 陳腐な喩えだが、目の前にいる白い魔物は、剣豪と称えられる武人のような雰囲気を醸し出しており、不用意に前に出れば一刀両断。そう感じさせるプレッシャーを放っていた。


「……やるしかねえよな」

「うん、そうだね。じゃあボクはフォローに回るよ。飛んで(・・・)来るのは全部止めてみせるよ。それ以外は避けてくれ」


「了解、それじゃあ行くぜっ!」

「咲き誇れ守護聖剣ディフェンダー! ファランクス改!」


 俺の合図で戦いの火蓋が切られる。

 前へと駆け出す俺と、そのすぐ後を追う椎名。

 

 俺は普通のヤツと違って、遠隔攻撃が出来る手段(放出系WS)がない。

 戦うならば距離を詰めるの一択。

 一方椎名は、近接も放出系も使いこなし、無数の結界を自在に操る。

 だから俺がメイン()で椎名がフォロー(後ろ)となった。 


 そして迎え撃つ形となったイタチに似た白亜の魔物は、腕を大きく振って肘の棘を飛ばしてきた。

 

「させないっ!」


 椎名の操る結界が前に出る。

 カっと渇いた音を立てて、俺に降り注ぐはずだった棘を全て受け止め切る。

 無数の赤黒い棘が結界に突き刺さっている。


「ナイスだ椎名っ! あとは――っだっりゃああ」

『――シャアアアアッ!』


 俺の渾身の一突きは、肘の棘によって薙ぐように弾かれた。

 そして返す刃が俺を抉りに迫りくる。


「シィッ」


 全力のバックステップ(緊急回避)

 すんでの所で抉りにきた棘による薙ぎ払いを避けた。

 しかし、追撃の棘が飛来する――が、椎名の結界が再び防いでくれる。


「ちぃ、やっぱ甘くねえな」

「うん、動作に隙がないね。さてどうやって崩すべきか……」


 お互いの初手は防がれた。

 一合切り結んだだけだが、白亜の魔物が予測通り強い事が分かった。

 そして攻撃方法も厄介だった。


 肘の棘を、刃のようにして飛ばしてくる攻撃。

 ちょっとしたWSのような攻撃だ、この攻撃を見切るのは困難。

 面のような攻撃であり、範囲も広く速度もある。


 荒木の使ったEXカリバー程ではないが、近接がメインの俺にとっては非常に厄介な攻撃だった。


 普通だったら無傷では済まない。

 そう簡単に直撃をもらう事はないが、全て捌き切るのは難しい。

 だが一緒に戦っているのは聖剣の勇者椎名。椎名の【予眼】と【直感】がそれらを防ぎ切ってくれた。


 【予眼】は遠隔攻撃には滅法強い。

 何処に何が飛んでくるのか事前に判る(視える)のだから、それを待ち構えている限りは防ぎ切るだろう。


 しかし――。


「陣内君。あの直接の棘だけは避けてくれ。きっと結界は切り裂かれる。あれは防ぎ切れないと思う」

「ああ、小手の結界でも無理だろうな」


 白い魔物の攻撃には、魔王(ユグトレント)のような重さは無いが、魔王には無い鋭さがあった。


 しかも魔王ような単調な攻撃ではなく、的確に俺を切り刻みにきていた。

 剣豪のようだと喩えたが、まさにそれだった。


 だが一方、手と足が生えていて、地面に立っている相手なので、予備動作を読む事は出来た。

 体勢を崩されると厳しいが、そうでない限りは避ける事が出来そうだった。


 ( でも、これで何か隠し玉があると厄介だな…… )


「――だが、退く訳にはっ!」


 俺は再び前へと出る。

 相手のヤバさは解るが、ちんたらやっている場合ではない。

 コイツを速やかに倒し、俺はラティたちの援護に向かわねばならないのだ。

 死亡フラグを口にするつもりはないが、コイツは倒すと心に決める。


 任せられるところは椎名に任せて、俺は切り裂きに来る棘を身を低くして掻い潜り、強引に間合いへと踏み込んだ。


「もらったああっ!」


 腹を狙うと見せかけてからの脚狙い。

 槍の穂先を叩き落とそうとした相手の攻撃を空振らせ、俺は魔物の足を狙った。


 穂先は軌道を変え、無骨な刃が脚へと突き刺さるが――。


「ぐっ!?」


 予想とは異なる手応え。

 布団を鉄の鎖でぐるぐる巻きにして、その鎖で覆われている部分を槍で突いたような鈍い感覚。

 表面は堅いが割れる事はなく、衝撃を吸収して刃を通さない。

 この白亜の魔物の毛皮は、まるでチェーンメイルのような役目を果たしていた。


 この白い毛皮を貫こうと思ったら、しっかりと溜めを作った突きでないと駄目だと解る。

 今のような、フェイントからの一撃では、白い毛皮は貫けなかった。 

 

「くそがっ!」


 振り下ろされる棘を避けながら、俺は一旦距離を取る。


「硬いのかい?」

「ああ、しなやかで硬いってヤツだ」

 

 一瞬、目か口の中を狙えないかと脳裏をよぎる。

 だが、高い位置はヤツの制空権。

 不用意に飛び上がれば間違いなくズタボロにされる。足場だって必要だ。


『ッシャアアアアア!!』

「来たよ陣内君」

「応っ!」


 今度は白い魔物の方から攻めて来た。

 猛獣が駆けるように四つん這いの姿勢で駆けて来て、熊のように上体だけ起こし、その剛腕を鋭く振り下ろしてくる。当然、棘もしっかりと放ってきた。

 

「マズい!? もっと下がって」 

「――なっ! 跳弾かよっ!」


 放たれた棘は、地面や壁に突き刺さるのではなく、跳弾するように襲いかかってきた。


 多角的に降り注ぐ棘。

 これには流石の椎名も間に合わず、全てを防ぎ切る事は出来なかった。

 黒鱗で覆われている部分は何とかなったが、そうでない場所が抉られる。 

 

「てええっ」

「ゴメン、今のは防ぎ切れなかった」


「いや、今のは仕方ねえ。つか、お前も……」


 しっかりと確認した訳ではないが、今の攻撃は椎名にも届いていた。

 今の攻撃を繰り返し喰らえば、近いうちに俺たちは追い詰められる。

 戦いが長引けば絶対に不利。


『シャアアアア!!』

 

 白亜の魔物は、毒蛇の警告音のような咆哮をあげて襲い続けてくる。

 一合、二合と切り結ぶ。

 距離を取り過ぎれば先程の攻撃が再びやってくる。

 しかしだからとは言え、このまま攻撃を捌き切る事は出来ない。


 広場まで下がれば楽になるかもしれない。少なくとも跳弾のような棘による攻撃はなくなる。しかしその棘は周囲の冒険者に突き刺さるだろう。


 きっと死者が多く出る。

 そしてその死者を蘇生しようと、絶対に言葉(ことのは)が無理をする。

 自身の身を削るようにして助けてしまう。

 だから――。

 

「椎名っ! このまま退かずに戦うぞ。踏ん張れっ」

「ああ、分かってる。彼女にもう負担は――」


 気合いを入れ直し、俺と椎名はその場に踏み止まる。

 しかし気合いだけではどうにもならず、俺と椎名は防戦一方へと押し込まれる。


「っがあああ!」


 刹那の三連撃。

 俺はギリギリのところで魔物の腕を弾く。

 だが、そこから先が無い。次が続かない。

 相手を攻め切るには、手数と、白い毛皮を貫ける一撃を溜める時間が足りない。


 そして椎名の方も、飛来する棘を防ぐので精一杯。

 被弾覚悟で斬り込むべきかと、そう考えた瞬間――。


「いっけええ陣内君! 攻撃はボクが押さえる!」


 椎名が一気に前に出た。

 守りを捨て、俺の前に躍り出る。


『シャアアア――』


 白亜の魔物が、俺に弾かれた両腕を振り下ろそうとする。

 上からの圧殺。

 仮にその手(攻撃)を避けたとしても、次は肘の棘が爆ぜるように襲ってくる。

 はずだったが――。


WS(ウエポンスキル)”グラットン”!」


 剛撃一閃、椎名のWSが白い魔物の右腕を弾き上げた。

 そしてもう片方の左腕には、椎名の結界が覆うようにして纏わり付いていた。

 勢いが無ければ切り裂かれる事はない。

 椎名は、振り下ろされる前に攻撃(左腕)を止めてみせた。


 椎名が作り出した千載一遇のチャンス。

 俺は溜めを作る為に左半身を半歩引く。両手を上げて晒している腹を狙う。


「陣内君っ! 蹴りが来る!」


 (未来)を視た椎名が俺に警告を飛ばす。

 腕が弾かれた白い魔物は、棘を纏わせた足で蹴り上げて来た。

 だが俺はそれを見越し、蹴りが届かない位置に身を引いている。

 

 ヤツの蹴り(・・)が届かない位置。

 俺は左肩を引いた状態からさらに身体を捻り、くるっと横に回転する。

 回転した事によって、俺の身体の位置は右にスライドする。


 俺が居た場所を、棘の付いたフレイルのような尻尾が通過する。


「はっ、俺を舐めんなよ。俺は尻尾に関しちゃ第一人者だぜ!」


 白亜の魔物は、サマーソルトキックのようにバク宙し、人の胴体程ある尻尾で俺を打ち上げようとしたのだ。


 四つん這いになって襲ってくる時に見えていた、棘で覆われた凶悪な尻尾が見えていたのだ。

 そして的確に攻撃を繰り出していた白亜の魔物が、足が届かない目測を見誤った攻撃を繰り出してくるはずがない。


 だから瞬時に読めた。あの蹴り上げが本命で無いと。


 3メートル近い巨体が華麗に宙を舞う。

 そして重力に引かれるように、足から地面に着地しようとする白亜の魔物。


「っらああああああ!」


 遠心力を乗せた一撃を、着地寸前の白亜の魔物の腹に叩き込む。

 鈍い手応えの後に、ズッと槍が突き刺さる。


『――ッギシャアアアアアア』

「足りないか!?」

「退いて、陣内君。”グラットン”!」


 椎名は、無骨な槍の石突にWSを叩き込んだ。

 釘を打ち付けるように、突き刺さった槍をさらに押し込む。


「これで――なっ!? まだ!?」

『っギ、シャァァ――』


 白亜の魔物は黒い霧にならず、まだ生きていた。

 普通の魔物ならとっくに黒い霧となって霧散している。

 しかし白亜の魔物は腕を振り下ろし、俺と椎名を狙おうと足掻いてくる。


「しつけえええええ! これで爆ぜろ!」


 俺は突き刺さった槍を足場にして駆け上がり、腕を振り下ろされるよりも早く、白亜の魔物の口の中に両手を突っ込み――。

 

「ファランクス!」   

 

 蝶が羽ばたくように広がる幾何学模様の魔法陣。

 そしてその魔法陣に引き裂かれ、白亜の魔物は黒い霧へと色を変えたのだった。

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……教えて頂けましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ