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400/690

白い……

激務の為に更新が遅れてすいません。

この勇ハモもそろそろ終盤、あと50~200話ぐらいで終わりです。

もう何人もお気付きでしょうが、魔王発生までの3年と、この小説の3年がリンクしているという事に……

たぶんですが。

「ふうぅ……」


 設置された簡易天幕(テント)の中で横になり、俺は大きく息を吐いた。

 風呂に入って疲れを抜きたいところだが、現在風呂場は大混雑中。

 勇者達が浸かった残り湯の争奪戦が始まっており、とてもではないがゆっくりと風呂に浸かれる状態ではない。


 本当はもうサリオによって湯は張り替えられているというのに……。


「ったく、アイツ等は…………ってか、それよりも今はヴォルケンか」


 こぼれ出た愚痴の後に、その流れでつい悩みの種を口にする。

 ヤツは完全に嫌われていた。もう修復など出来そうにはない程避けられていた。 

 前までは、厄介なヤツだという感じで見られていたが、先程見た様子では、厄介を超えたもっと厳しい視線を向けられていた。もう近くにいるのも避けられている様子。


 ただ、窘められて多少は反省しているのか、ヴォルケンは正座の時は静かにしていた。

 あの馬鹿の事だから、『風呂覗きの前には何をやっても――』などと歴代に毒された主張を掲げ、三雲に射貫かれるまで騒ぐのではと思ったが、ヤツは不気味なほど静かだった……。


 あの静けさは何だったのだろうと、そんな事を考えていると人の気配を感じる。


「ダンナもこのテントでしたか…………」

「ガレオスさん」



 布を押し退けてテントの中に入って来たのは、憔悴し切った表情のガレオスさんだった。一瞬、外へと戻る仕草を見せたが……。


「……隣を失礼しやす」

「ああ」


 意を決したような顔をして、ガレオスさんは隣の寝床へと寝転がる。


「……ダンナ、本当にすいやせん」

「ガレオスさん、それはもうさっき聞きましたよ」


「……そうでやしたね」


 強く言うつもりは無かったが、苛立ちからか棘のある声音で言ってしまう。 

 とても弱々しい、ガレオスさんらしくない声に罪悪感を感じる。


 そしてこのままでは気まずい、何か言わないと、そう思っていると……。

    

「……もう平気ですかねぇ。もうオレが……」


 ガレオスさんの方が先にポツリと呟いた。

 何かの許可を取るような、そんな響きを感じさせる声。


「……平気、とは?」

「ええ、あれです。何て言うか…………いや、何でもありやせん。すいやせんダンナ、ちょっと夜風に当たってきやすでさぁ。ダンナは先に休んでいてください」


 誰にでも分かるような、そんな嫌な予感がする。

 とても良くない流れを。


「ちょっとガレオスさん」

「……」


 ガレオスさんは返事を返す事なく、無言でテントの外へと出て行った。


「ガレオスさん、まさか……」


 無いとは思う。

 無いとは思うのだが、ガレオスさんが居なくなってしまう気がした。

 所謂、責任を取って辞めるだ。

 

 ヴォルケンの件は確かにガレオスさんの落ち度だ。

 利権などで下手に拗れないようにと、ガレオスさんは知り合いからサポーターを選ぶという方法を取ったが、それは完全に裏目に出た。


 その方法自体を否定するつもりはないが、その人選は完全に失敗だった。

 態度が多少悪い程度なら良いが、ヴォルケンは完全にミス。


「――だからって、辞める程じゃないよな……」


 ヴォルケンは確かにマズいが、だからと言って辞める程ではない。

 そんな事で伊吹組か冒険者を辞めるというのは違うと思う。


 だが、ガレオスさんが話してくれた昔話。

 あの話でガレオスさんは、大怪我という切っ掛けがあってヴォルケンは冒険者を辞めたと言っていた。


 あの時、まるで噛み締めるようにそれを言っていた気がする。

 

「切っ掛けか……」


 言い様のない不安が忍び寄ってくる。

 これ以上何か(・・)を口にすると、それが本当に起きてしまいそうな気がしたので、俺は言葉(それ)を呑み込んで無理矢理眠りに就いた。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


 


「――――ッ!!」


 俺は一瞬にして覚醒する。

 飛び起きるように身を起こし、即座に耳を澄ます。

 外から聞こえてくる怒声と轟音が尋常ではない事を告げている。

 脇に置いてある槍と木刀を手に取り、黒鱗装束を着たままで寝ていたので、俺はすぐに外へと飛び出した。


「なっ!?」


 俺は目の前の光景を疑った。

 実はまだ寝ていて、いま見ている光景は夢なのではないのかと。

 見た事のない巨大な魔物らしきモノと、見た事のある魔石魔物が暴れ回っているのだ。


「ご主人様っ、夢ではありません」

「くそっ、マジなのかよ」


 俺の横に駆け寄ってくるラティ、脇には眠りこけているサリオを抱いている。

 慌てて深紅の鎧を着た為か、衣類が少々乱れていた。


「ラティ、これはどういう事だ!? 何で魔石魔物が」

「分かりません。ですが突然湧きました。いえ、まだ湧き続けて――ッ!?」


 俺に状況の報告をしていたラティが、何かに気が付き、ばっと顔をそちらに向けた。


「……ご主人様、とても禍々しいモノが湧きました」


 ラティがきっと睨む先は、まだ調査に向かっていない未調査の通路。

 彼女はサリオを下に降ろし、その通路へと駆けて行った。


「ラティっ! チィッ! 起きろサリオ! だっらあああ!」

「ぎゃぼぼおおおおおお!」


 俺は、まだ眠っているサリオの顔を鷲掴みにして、彼女を強制的に目覚めさせた。

 効果は抜群、サリオは絶叫を上げて目を覚ます。


「起きたかサリオ? じゃあ俺は行くぞ。誰か、馬鹿を頼む」

「ほぇ? はれぇ?」


 サリオは寝ていた為か、いつもの結界のローブを纏っていなかった。

 ほへっと辺りを見回すサリオ。本当に危機感の無いヤツ。

 俺は近くにいるヤツにサリオを任せ、すぐにラティを追う。


「ったく、何だよあの魔物は、下層の魔石魔物か?」


 暴れ回っている魔石魔物は6体。

 見慣れた狼男型が2体と、一度も見た事の無い、熊とゴリラを合わせたような魔物が4体いた。

 熊ゴリラの魔物は背中が白く、背の高さ3メートルほど。

 奇襲だった為か、冒険者達は陣形が上手く組めておらず、迅盾役が奮闘する事で何とかなっていた。

 サポーターを避難させろと、怒声じみた声が聞こえる。


「クソがっ、どうなってん――ッ!??」


 やはり魔石魔物は侮れない。

 魔石魔物を相手にする場合は、しっかりと陣形を組むなど事前に準備が必須。

 強化系の魔法も掛けておらず、完全に不意を突かれたであろう状態なので、完全に押されている。


 だがしかし、こちらはただの冒険者ではない。

 勇者の恩恵によって鍛えられた猛者たち。今は浮き足立って押されているが、すぐに立て直して押し返すだろう。


 だから今はラティを追う。

 彼女はこの浮き足立った状況よりも、新たに湧いた魔物の方を重要視した。

 この危機的状況よりも、もっと脅威となるモノがいるのだろう。


 ラティの元に辿り着いた俺は、彼女の視線の先を見て言葉を失う。

 

「ご主人様、ご注意」

「……あ、ああ、解ってる。コイツは絶対にヤバイ」


 頭にはヤギのような二本の反った角。

 体長は3メートル程で真っ白な毛皮。ハリゼオイをスラっと細くしたようなイタチに似た姿。そして肘から生えている無数の棘が、スズメバチの黄色と黒(警告色)のような警戒感を煽る。


 目の前の魔物は間違いなく危険。

 ハリゼオイと初めて対峙した時のような、息の詰まるプレッシャーに晒される。

 

「……【シロゼオイ・ノロイ】、レベル138です」

「下層の魔石魔物の上位ってか? もしくはハリゼオイの亜種……」


 天井に届きそうな角を揺らしながら、その魔物はゆっくりと歩いて来た。

 怪しく光る赤い眼が、俺とラティを捉えるように射貫く。


「ジンナイっ、何をやってる。お前もこっちに来て――ッ!? な、何だアレは? 何であんな奴まで……」

「ああ、俺の担当はこっちだな。そっちは任せたレプさん」


 俺の元にやってきたレプソルさんは、まだ通路から出て来ない魔物を見て絶句した。

 しかしすぐに我に返り――。


「おい、アレをやれんのか?」

「やるしかねえだろ、アレを見ろよ。アイツは絶対にこっから出したら駄目なタイプだ。もし通路から出したら……」


「ああ……解る」


 シロゼオイ・ノロイは、肘だけでなく背中のほうにも刃のような棘がチラリと見えた。


 その風貌と名前からいって、ヤツはきっとハリゼオイと同じタイプだろう。

 

 ハリゼオイの特徴の一つに、背中の剣山のような刃を伸ばしたり飛ばしたりするというのがある。 

 その攻撃方法があるので、相手を囲んで戦うという定番は悪手とされている。

 そして魔物(ヤツ)の動物的なフォルムからいって、きっと尻尾もあるだろう。

 当然そんなモノを振り回されたら、周囲への被害は甚大だ。


「アイツをこの通路から出したら何人も死ぬぞ」

「ああ、分かってる。――だったら土系拘束魔法”シバリ”!」


 魔物の足元から、蔦のようなモノが絡め取らんと伸びる。

 ハリゼオイと戦う時の定石、まずは動きを縛りにいったが――。


「ッシャアアアア!!」


 毒蛇の警告音に似た雄叫びを上げ、シロゼオイは自身に迫る束縛魔法を、肘の棘を使って切り裂いた。

 

 無残に切り裂かれ、ただ土くれへと戻る束縛魔法の蔦。


「……だろうな」


 レプソルさんは予想をしていたのか、魔法を切り裂かれた事に動揺する事なくそう言った。


「ラティ、下がってろ。コイツは俺がやる」

「ご主人様っ!」


 拒否をするように声を上げるラティ。

 だがラティを参戦させる訳にはいかない。

 ハリゼオイ系の魔物はラティにとって天敵だ。どんなに翻弄するような動きをしても、無作為に放たれる刃は【心感】であっても読み切れない。

 前もそれで捉えられていた。


 だからここは俺が――。


「ボクも手伝うよ。ボクの結界ならきっと役に立つ」

「……お前はまた出待ちか?」


「そんなつもりは無いんだけどね」


 苦笑いを見せながら、俺の隣に聖剣の勇者椎名がやって来たのだった。


読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……。

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