十枚の金貨と王女(改稿版
ハズレ勇者認定をされた陣内陽一
ほぼ無視される形で、勇者支援政策の説明が続く、
嘲笑の笑い声が響く王の間。
周囲からの不躾な視線、呆れられた視線、見下す視線、困惑した視線、哀れんだ視線、ニヤつく視線。
どこにも好意的な視線は無かった。
(俺がなんか悪い事でもしたのかよ?)
俺は少し前のことを思い出す。
この異世界に召喚される前、元の世界の事。
いつもと同じ流れ日常、いつもの時間に学校に行って、いつもの教室でいつも通り過ごしていた。
もし少し違うところがあったのだとしたら、それは近いうちに学園祭があるから、それに対しての少し浮かれた空気が漂っていたぐらい。
なんとか喫茶が良いや、お化け屋敷が良いなど、各々が希望を無責任に口にしていた。
休み時間の教室をふと見渡すと、二つの|スクールカースト最上位《リア充組》が群れを形成していた。
一つの群れは、可愛らしいの黄金比を体現したような女の子、クラスメイトの葉月由香の周りに多くの男子が集まってできていた。
聞こえてくる話の内容は、今度の学園祭でミスコンに投票するよなどの、応援のようなモノを葉月に話し掛けていた。
そしてその隣では、葉月と仲が良い橘風夏が、『シッシッ』っと必要以上に寄って来る男を追い払い葉月を守っている。
俺の聞いた下馬評では、葉月は3年の先輩とミスコンで一騎打ちになると言われており、俺はそれに何となく納得していた。
そしてそれを眺めていると、もう一つの群れがそれに合流する。
葉月が困っているように見えたのか、熱血と正義感の塊のような男、八十神春希が庇うようにしてやってきて、葉月を守るように動く。
そして次に、学校一のイケメンとか呼ばれている男、椎名秋人までも参戦し、俺のようなモブ連中が退いていった。
俺は心の中で、俺達はモブなのだから『巣へお帰り』と、そう呟いていると――
突然、女子の悲鳴が聞こえ、声の方へ目を向けると教室の中に光の柱が複数立っており、そして、俺もその光に飲まれていた。
そんな非現実的な事に巻き込まれ、今度は酷い理不尽な状況に――
(俺が悪いってのかよっ! )
突き刺さる視線の中、特に宰相のギームルは怒りを込めた視線で俺を睨んでいる。
勝手に召喚してきて、何故こんな理不尽な目に遭わねばならないのだろうと、そう思っていると。
「オレのステータスを見せてやるよ、お前は【鑑定】が使えないみたいだからな!」
ドヤ顔で荒木冬吾が、青いステータスプレートをこちらに見せ付けてくる。
【名前】荒木 冬吾
【職業】勇者
【レベル】1
【SP】75/75
【MP】120/120
【STR】20
【DEX】9
【VIT】12
【AGI】7
【INT】5
【MND】4
【CHR】2
固有能力 【宝箱】【鑑定】【狂戦】【脳筋】【強打】【回復】【爆笑】【道化】【猛者】【対打】
【魔法】水系 火系 雷系 土系
「どうよ? このSTRの高さ! ダントツだろ? 他にもWSは五十種類くらいあるぜ」
ステータスプレートは、他人にも見せるのが可能なので、荒木は調子に乗って他の連中にまで自慢をし始めた。
――う、うぜぇ、チラッと見れたけど固有能力?
なんか半分ぐらいハズレっぽいの混ざってなかったか?
そんな自慢できるモンだったか?
荒木のステータスの残念な部分を見れて、俺の心はちょっとゆとりが出来て、宰相ギームルの説明の続きを聞ける気力が湧いて来た。
(気分が病んでる時って、他の人の駄目な所を見るとちょっと心が晴れるな……)
完全に駄目人間な発想をしつつ、俺はギームルの説明に耳を傾ける。
「少し脱線しましたが、説明の続きを致します」
ギームルは先ほどの怒りの表情を、能面のような無表情に変えて説明の続きを再開した。
「【固有能力】の説明を致します。【固有能力】はWSや魔法と違って発動方法が複数に御座います」
ギームルの説明によると、【固有能力】には常時発動型・任意発動型・条件発動型・無意識発動型などがあり、代表的な条件発動型でいえば、手を輪にして覗く【鑑定】、他には、空中に飛び出してる状態限定のモノもあるそうだ。
そしてその効果などは、昔の勇者史料などで確認出来るという。
――ああ、【爆笑】と【道化】の効果が気になるなぁ……
まぁ碌でも無い効果だろうけど、
「では次は、【宝箱】の使い方を説明を致します。この固有能力は勇者専用能力であり、勇者以外では誰も取得したことの無い固有能力です」
俺はその固有能力を持って無い、その劣等感からか悔しさが心を蝕む、腹の底の方に、何か黒い物が溜まるような不快な感覚。
しかし、説明を聞くだけならば損をする事も無いはず。俺は前向きな気持ちで説明に耳を傾ける。
「勇者様、こちらの金貨を手の平に載せて下さい」
控えていた手伝いの兵士達から、勇者達に一枚づつ金貨が手渡されて行く。そして俺はスルーされる。
この時も宰相のギームルから、何故かまた怒りを滲ませた視線をもらう。
「金貨は行き渡ったでしょうか? では、手の平を上に向けて、その上に金貨を乗せ、その金貨を手に吸い込むようなイメージをしてみて下さい。難しく考えずに行うのがコツらしいです」
勇者達は最初はどこか疑いながらも、言われるままに行動を開始する。
そしてすぐに勇者達から、歓喜と驚きの声があがった。
「すっげぇ金貨吸い込まれて? マジでどこ行った?」
「なんだコレは手品か?」
「ちょっとぉ~、これぇ体に害無いわよねぇ?」
「わ、わわっ! 面白い! なに今のぉ~!」
驚き騒ぐ勇者達を諌める事もなく、そのまま次の説明をギームルは続けた。
(くっそ! なんか楽しそうだな、羨ましい)
「今度は手の平を下へと向けて目を瞑り、金貨を出すようにイメージしてみて下さい」
興奮したまま勇者達は、言われた通りに掌を下へと向けて、瞑想でもしているかのように目を瞑る。
すると――
チャリンチャリーンと一斉に金属が落ちる音が響く。
落ちていたのは先ほどの手渡された金貨。
すぐに拾い直す者や、驚き呆気に取られる者、他には練習でもするかのようにまた金貨を手の平で吸収する者もいた。
そこにすかさずギームルが説明を再開する。
「その金貨の取り込みが【宝箱】の効果で御座います、取り込める広さはコレくらいで御座います」
取り込める広さを説明する為に、兵士達四人を使って表現する。その容量は、大体六畳くらいの広さに高さが二メートルくらいだろうか。そして、その後は取り込めない物の説明も続けた。
「【宝箱】に取り込めない物は、生きているもの、水などの液体、火や魔法といった物、激しく動いて居る物、例えば落下してくる岩などは取り込めません。しかし、液体などは瓶などで閉じ込めているのなら取り込めるようです」
――ちょっとおぉ! 性能凄すぎませんかソレ!
むしろ異世界勇者には絶対に必須のような……。
その後も説明は続いた。取り込んだ物は重さも無くなり、時間の流れも限りなく緩やかに、大きな物でも【宝箱】の許容量を超えない限りは取り込めるのだという。
説明を聞くだけなら別に損する事は無いと思っていたが、
『聞かなければ良かった』と、そう思えてしまう程の嫉妬の感情を抱える事となった。
「次は勇者様に備わっている、勇者様と勇者様以外にも絶大な効果をもたらす恩恵の説明を致します」
ギームルは恩恵の説明を、勇者達を見回しながら淡々としていった。しかし何故か、俺にだけは一瞥もくれずに。
そしてその恩恵の効果は、【宝箱】に負けない中々のモノであった。
それは、勇者はステータスの成長速度が速いということ。成長に必要な経験値が通常より大量得られるらしい。
また、ステータスの上昇率が通常の四、五倍程高いらしい。
そして、勇者と共に行動する仲間にも、それと同じ恩恵が発生するらしい。勇者一人に対して五人を超えると効果が減るらしいが。
この効果があるおかげで勇者達だけではなく、他の異世界人も戦力の超強化が見込めるようになるため、勇者達だけで固まらずに異世界人も積極的にパーティを組んで欲しいとのことだ。
それと、成長に必要な経験値は、外を徘徊する魔物を倒す事で得られると教えてくれた。
そして恩恵の説明を終えると、宰相のギームルは俺達の方ではなく、周りにいた兵士以外の者達に声を掛けた。
「では支援者方は、支援する勇者様をお選び下さい。勇者様の【鑑定】や、勇者様に所持している魔法やWSなどのご質問もどうぞ」
場が一斉に動く。
最初は遠慮気味であったが、勇者に対して質問や【鑑定】での見極めで熱気を帯びたように王の間が騒がしくなる。
(まるで、芸能レポーターが押し寄せてるみたいだな)
「トウゴ殿、WSの正確な数は?」
「んあ、解放されてるのが十六で、未解放が三十二かな?」
「ヤソガミ殿! 得意武器の種類を今一度詳しく」
「ハイ、えっとですね……」
「ハズキ様! 固定能力に【聖女】、あと【範囲】お持ちですよね? あと聖系魔法の内容も出来ましたら」
「はい、持ってますね。あと魔法は、聖系が結構凄そうなのまで取得しているのかな?」
「アキト殿! 得意武器で聖剣お持ちですね! あと【勇覇】も‼」
「ボクですか。両方ありますね、ステータスプレートを見る限りは。後はどんな効果か楽しみですね」
「【勇覇】なら僕もっ」
大人数の貴族らしき人達が、群がるようにして勇者達に質問攻めを開始した。
どうやらコレは、有能な勇者ほど手厚い支援を受けられる仕組みのようだった。きっとスポンサー的な物なのかもしれない。
勇者が活躍した時に、『この勇者はワシが支援で育てた』と言うように、貴族としての格でも上がるのだろうか。それとも、他に何か思惑があるのかは分からないが。
もしかしたら、自身の領地が魔物に襲われても、優先的に勇者を呼べるなどの特典があるのだろうか。
――そして俺の所には誰も来ない……
ハブられ感でちょっと涙目になるなぁ、ちくしょうっ。
情けない気持ちで涙目になっていると、同じ涙目の王女が視界に入る。赤く泣き腫らした瞳で勇者達を見つめている王女は、何かをやり遂げたような、そんな表情をしている。
きっと優秀な勇者を召喚出来た事で、王女は安堵でもしているのだろう。
両親を犠牲にしてまで行う、世界を救う為の勇者召喚。
この異世界の王族は、もしかしたら百年周期でやって来る危機に対しての、生け贄か人柱のような存在なのかもしれない。
王女が残ったのも、子孫を残すのに都合が良い事や、勇者に対してのウケが良くなるようになどの配慮であり、実際のところ、髭のおっさんよりも、目麗しい少女の方が勇者達に好感が持たれるはずだ。
――この辺りも勇者扱いマニュアルなのかもな……
はい、実際に王女様にちょっと惹かれました。チョロいな俺は。
そんなことを考えながら、綺麗な王女様を眺めていると、偶然に俺と目が合う。
そして何故か、とても悲しそうな表情をされ、そして目を逸らされる。
――ッ!? いや、そりゃそうだな……
両親が命懸けて召喚したのに、ハズレな俺が召喚されたんだから。
俺が悪い訳ではないはずだが、無性に申し訳なく、そして誰にも見向きもされないこの状況に心が歪んでくる。
劣等感が心を腐らせ、絶望感が心を凍りつかせる、そして王女の悲しそうな表情に心が軋んだ。
(マズイ、ネガティブになる……)
それから時間が経ち、王の間での勇者支援政策の説明が終わった。
その後、勇者達を国民へのお披露目と、勇者歓迎の意味でのパレードを行うらしい。
……ただそれは、【ゆうしゃ】である俺には関係の無い話であった。
◆◆◆
いま俺は、少し遠く離れた位置から勇者歓迎のパレードを眺めている。
今代勇者を一目見ようと、街の住人達が、城の正門から直線の幅広い道に溢れかえっており、その幅広い道の真ん中を、オープンカーのようになっている馬車に乗せられた勇者達が進んでいた。
きっと百年前の前回も、そしてその前もこのパレードを行っていたのであろう。
流石は信頼と実績の十三回の勇者召喚マニュアル、馬車に乗せられた勇者達は満更ではない表情を浮かべいる。
(お前ら勇者の扱い慣れすぎだろ!)
俺は城からは解放され、王女様から支援の名目で貰った金貨十枚を手の平に乗せて考え込む。
支援は毎月一回金貨五枚を貰える事となった。
だが貴族からは、『税金の無駄使いだな』と陰口を言われていたのだ。出来ることなら――
――陰口ならもう少し気を使って言えってんだっ。
俺に聞こえてるよ? ワザとなの? ワザとなんだろうな、
ちくしょう……
この十枚の金貨が、俺への支援などではなく、惨めな俺への施しのように感じた。
もしかすると、本当に施しなのかもしれない。俺を異世界に召喚してしまった王女からの、謝罪のような意味も込めた施し。
本当ならきっと、両親を犠牲にしてまで召喚したのだから、能力の低いハズレ勇者の俺に対して色々と思うところがある筈なのに。
――そういや、
宰相のギームルは俺への支援は無しにしようとしていたなぁ……
なんでかギームルには恨まれているな、
くそっ、俺が悪い訳じゃないのに……。
歓迎パレードを眺めつつ、召喚された時の事を再び思い出す。
学校の教室に居たら、問答無用でこっちに召喚され。クラスが別の奴も召喚されていた。
学校全体からランダムで二十一人召喚されたのか、それとも何かの適正で召喚されたのだろうかと考える。
――ん~、確かに八十神と椎名は勇者っぽいな、
でも荒木は絶対に勇者っぽく無いよなぁ……
学校でもよく俺に突っかかってきた荒木、クラスが同じだったら、きっと俺はイジメのターゲットになっていたであろう。
こちらの異世界に呼ばれた直後、日本語が通じるのも驚きであった。伊達に十三回も勇者召喚をしてないということだろうか。
――取り敢えず装備とかそういうの揃える所から始めるか、
宰相とか他の奴らはともかく、王女様には感謝しているからな、
彼女だけは俺を見捨てなかったし……
俺は勇者ではないが、王女の想いに応えてみたいと思った。
少なくとも、ここで不貞腐れているよりは百倍はマシだと思い、『落ち込んだりもしたけれど、私はなんたらで――』という、前向きな気持ちで行動を開始した。
ファンタジーの定番だろうから、きっとそこら辺で営業しているだろうという安易な考えで武器屋を探した。
そしてそれはすぐに見つかった。看板が日本語で書いてあるので武器屋は、案外すぐに見つけられた。
最初は中世のヨーロッパのような街並みに、いかにもファンタジーな感想を思い浮かべていたが、よく見ると看板などの文字はほぼ日本語だった。
今更だが、もしかするとこの異世界の言葉や文字は、日本語かもしれなかった。
俺は見つけた武器屋の前へと行く。王女から支援の名目で、金貨以外にも武器として木刀を貰えたが、さすがに実戦を木刀で戦うのはキツそうだ。
――木刀だけくれてもなぁ、
出来れば槍を寄越せよ槍を、そうゲイボルク的なのを!
アレ? まさか嫌がらせとか……?
少々人間不信気味になりながら、俺は石材で出来た武器屋へ扉を開けて中に入る。入った店内は少し薄暗い感じで、天井には二個の光が漂っている。
(これが照明設備か? これはファンタジーっぽいな!)
店内は薄暗く、刃物類が多く展示されている為か、何処か冷たい印象を感じる店内を見て回った。
ただ、探し物の槍は品数が少なく、店に置いてあるのは竹ヤリとショートソードの柄を一メートル程伸ばしたような槍の二本だけだった。
「すいませ~ん、槍って他には置いてないんですか?」
(竹ヤリなんて伝説の勇者以外使わないだろう……)
俺は他に槍がないか、そう店員の男に尋ねたのだが。
「はぁ? 槍なんていう勇者様が使わねぇダセェ武器は、その二本しかねえよ」
(槍が不遇扱い……)
俺は仕方無しに普通の方の槍をカウンターに持って行き、ついでに防具も無いか聞いてみる。
「すいません、この槍と自分のサイズに合う防具とかありませんか?」
愛想悪い店員から、面倒臭そうに皮っぽい物で出来た装備一式を受け取り、店の隅にある試着室案内される。
「折角勇者パレードがあるのに、なんだって武器を買いに。もう少ししたらパレードを見に行くんで、着替えるの急いで下さいねぇ」
やる気の無い店員が、やる気の無さそう仕草で、くすんだ茶色の革の鎧を手渡して来る、そしてその店員からは、買い物を済ませてさっさと帰れオーラが半端無い。
実際には、鉄の鎧系を着れる程の体力は無いので、ある意味では丁度よかった。
俺は金貨で会計の支払いを済ませる。金貨一枚は銀貨百枚分であり、銀貨一枚は銅貨百枚分。
その結果、俺の制服のポケットは銀貨と銅貨でパンパンとなり、何か財布的な袋が必要となった。
正直なところ、【宝箱】の固定能力が無いのは痛すぎた。次は雑貨屋にでも行って、財布の代わりになる物を探す必要が出て来た。
ただ、お釣りの銅貨の量に悪意を感じた。
その後すぐに雑貨屋を見つけ、こちらでも嫌そうな顔をされつつ、皮で出来た巾着袋と傷薬用にポーションと毒消しを購入、まるで一昔前のRPGでもやっている感覚で買い物を済ませた。
そして高い城壁の門を潜り、俺は城下町から外へと飛び出した、誰もが憧れるファンタジーの世界へと。
「……いきなり戦闘とか出来るのかな俺?」
結果から言うと無理だった。
体長七十センチ位の六本足の緑色な豚のような魔物に襲われ、槍を使って戦ってはみたが、ある程度の傷を負った魔物が逃走してしまい、結局倒し切れずに逃げられた。
「仕留め切れない……」
元の世界でいうと、中型犬と戦っている感覚。振り回す攻撃は当たるのだが、槍にとって最大の殺傷能力である突きは綺麗に当たらず、とどめが刺せなかった。
その後、辺りを見渡し魔物っぽいモノを見つける事は出来たが、一メートルを超えるの熊のような魔物は居たが、流石にちょっと倒せそうにないので、さっきの緑ブタか他の倒せそうな魔物を探す。
【鑑定】でもあれば敵の強さが判断出来たかもしれないが、俺には無いのでどうしよもなかった。
結局、魔物を一匹も倒せないまま、日が落ちてきたので城下町へ帰ることにした。その際に気になったことが一つ、沈む太陽? らしきモノに時計の針が見えた事。
太陽が何故かそこまで眩しく無く、普通に針が時計のように見えたのだ。
――なんだろうあの時計の針みたいなのは、
針は十七時を指しているけど……マジで時計とかなのか?
そこで俺はハッとなって気が付いた。あまりの情報の少なさに。
何も解らないままで放り出された異世界。絶望や不遇などで不貞腐れているよりかはマシだと思い飛び出してはみたが、冷静になってみるとトンデモないこと。
碌に戦えないハードモードな勇者をやっているのは危険だと気付いた。安全の為に、クラスメイトの勇者に混ぜて貰おうかと考える、せめて最初の方だけでも。だが――
――いや駄目だな、
クラスの奴とはほとんど話をしたことが無いし、
助けて貰えるほど交友があった訳じゃないない、
それに、なにより……あの王の間で俺は切り捨てられたんだっ。
だがしかし、この状況を打開するには仕方ないというところもある。しかし――
――ああ‼ でも断られたらヘコむな……
よしやっぱ止めよう! 拒否られたら俺の心が折れてしまう。
俺は心の中で、とても情けない自問自答を繰り返す。他に何か良い方法がないか、やはりここは勇者達に頼るしかないかなどを。
もっとも心に負担の掛からない方法を考える、誰かを頼るにしても、その相手を誰にするのか。
(決して俺の心が弱い訳ではない! そう決して……)
そして悶々と考えているうちに、ある建物の前に到着する、喩えるならば少し汚れたペットショップのような店に。
――ああ……異世界で仲間を探すと言えばここしか無いな、
冒険者ギルドなんて行ったってどうせ絡まれて終わりだ、
それなら……
そして俺は目の前の建物、【奴隷商の館】に入って行くのだった。