陣内の先輩
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「ダンナ。ちょっとイイですかい?」
「はい? 何ですガレオスさん」
今は休憩時間。
俺はバルバスに制裁を下した後、仲間である嫉妬組にさり気なく囲まれ始めたので、即座に逃げ出した。
奴らは本当に油断ならない。
リレー方式で制裁を下していたのだが、その流れで俺にも制裁を下そうとしていたのだ。
もし呑気にその場に留まっていたのならば、次の標的は俺だっただろう。
そんな危険な状況から逃げ出した直後、俺はガレオスさんに呼び止められた。
「遅くなりやしたが、サポーターのメンバーを紹介しておこうと思いやして」
「ああ、そっか。そう言えばまだでしたね」
サポーターの紹介は、本当は出発前の演説の時に行う予定だった。
だが、勇者を一目見ようと予想以上に人が押し寄せて来た為、混乱を回避する為に、予定していた演説やサポーターの紹介などは切り上げて出発したのだった。
「他のヤツらは余所を回っておりやす。取り敢えず彼等を」
「どうも、今回サポーターとして参加させて貰うヴォルケンです」
「……どうも、陣内です」
紹介されて前に出て来たのは、ガレオスさんと同じぐらいの年齢の男だった。
痩せた身体に少し卑屈な印象のタレた目。
何故今回参加出来たのだろうと思う程の覇気のない風貌の男。
俺は探るようにその男を見てしまう。
「あ~~、前にちっと世話になったってか、一緒に組んでいた時期がありやして、そんで……まぁ、そんな感じでさぁダンナ」
ガレオスさんは、訝しむようにヴォルケンを見た俺を察し、今回参加出来た経緯を歯切れ悪く明かした。
( なるほど、そういう事か…… )
このヴォルケンは、ガレオスさんと知り合いという伝手で参加出来たのだろう。正直なところ、あまり仕事が出来るようには見えなかった。
「あ、それとこの人も――」
「こりゃ驚いた。本当にあのジンナイだ」
「――へっ!? ニーニャさん!?」
「あの時別れて以来だな」
「本当にニーニャさんだ」
俺が逃走生活時代にお世話になった人であり、そして木こりの先輩でもあるニーニャさんが、なんとサポーターとして参加していた。
ニーニャさんは子供のように背が低いので、ヴォルケンの陰に隠れていて俺は気付けなかった。
今はひょっこりと俺の前に立っており、そんなニーニャさんを見ながらガレオスさんが俺に言う。
「ダンナの知り合いですよね? そんなんで参加して貰いやしたでさぁ」
そう言ったガレオスさんは、ニヤリと笑みを見せた。
( ……仕方ないか )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「しっかし、本当に驚いたな――いや、当然か。一人で馬鹿デカい魔物を倒せるぐらいなんだから。あのナントーの村に居る方がおかしかったんだよなぁ」
「あ~、オレらもそれをちょっと聞いたけどよ。マジでジンナイって木こりをやってたのか?」
「む! おれもそれは聞きたいな。コイツは槍しか使えないはずだし……」
最後尾が賑やかになっていた。
少し長めの休憩が終わり、再び進行を開始した。
俺は再会したニーニャさんと話がしたい為、彼を最後尾の方に誘った。これだけの戦力で移動しているのだから、仮に魔石魔物が現れたとしても問題はない。
俺はニーニャさんと二人で会話を交わした。
まず尋ねたのは、何故ノトスの街に居たのかという事。
ニーニャさんはナントーの村に居たはずなのに、不思議に思って尋ねたのだが、ノトスの街に居た理由は俺が原因だった。
ナントーの村での騒動の後、俺を呼びに行ったニーニャさんは、村での扱いが冷たくなったそうだ。
あの時の村側の判断は、村娘のリナを差し出してでも俺を確保したかったようだ。
村側の思惑は、リナは奉公に出た事にして、俺はそのまま村の守り人に居続けて貰う。これが村にとって最良とした。
だがしかし、その思惑はニーニャさんの行動によって崩れてしまった。
勿論、ニーニャさんが狙ってやった訳ではないが、それでも村側としては気が収まらなかったようで、村側からの風当たりが強くなったそうだ。
そして村に固執する理由が薄いニーニャさんは、嫁の猫人サーフさんと共に村を出て、仕事がありそうなノトスの街に出て来たそうだ。
そして働いていた酒場で今回の事を知り、サポーター役に手を上げたのだという。
本来ならば、そう簡単には参加出来ないはずだったらしい。
だが俺と知り合いだという事で、上手い事参加する事が出来たそうだ。
俺はそれを聞いて、深淵迷宮に潜るのだから、危険だとは思わなかったのかと尋ねると、元冒険者だから平気だと返された。
そもそも、ニーニャさんが木こりをやっていたのは、元冒険者で、普通の魔物程度なら戦えるから木こりをやっていたのだという。
普通の村人は、見通しの良い畑仕事をして、魔物の姿が見えたらすぐに逃げる。見通しの悪い森に一人で行く事はあまり無く、木こりという仕事は割と危険な仕事だったそうだ。
俺は出会えた懐かしさから、ニーニャさんと会話を弾ませた。
するといつも連中が、何か面白いモノでも見つけたかのように寄って来た。
そして今度はその連中も交えて会話が弾む。
「――本当に木こりをやってましたよ。まぁ、斧じゃなくて槍を使って木を切り倒してましたけどね……」
「ぶっはっ! マジかよ! マジで木こりやってたのかよ! 魔王と戦う前に木こりやってたとか言うから、マジで何言ってんだって思ったけどよ、マジで木こりって、しかも槍で切り倒すってどんだけアホなんだよ」
「……普通は斧を使うよな」
腹を抱えて笑うサイファと、呆れた目で俺を見るドルドレー。
「私もそう思うんですけど、斧だと……ホントに酷くて……。それなのに槍だと――って、魔王と戦ったんですか!? あの中央を襲ったっていう巨大な魔王と?」
「ん? 戦ったぞ。オレらもそれに参加してたし、ここに居る連中は全員その場にいた奴らさ」
「いや~、あん時は何人か死に掛かったっしょ」
サラッと会話に交ざってくるバルバス。
そのこめかみには青い痕が付いており、明らかに凹んで見える。
( もう復活したのか…… )
やって来た冒険者たちの話を聞いて、驚き辺りを見回すニーニャさん。
目を大きく開いて、本当に驚きの表情で周りに目を向けた後――。
「じゃあ、ジンナイも……?」
「ああ、ある意味ジンナイが一番凄かったんじゃねえの? 木の化物みてぇな魔王の攻撃を弾き返していやがったし」
「最後は魔王の……丸いヤツも消し飛ばしていたな」
「でも、そのあと落っこちてヤバかったっしょ」
ゲラゲラと笑いながら話す冒険者達。
「はぁ~、こんな人があのナントーの村に居たなんて……」
「うっ、まぁ、色々とあって……ちょっと旅に出てたから……」
「な~~にが旅だよ。あんなの家出だろ。あの後ラティちゃんがどんだけ心配したか」
「そうそう、コトノハ様も心配してたし」
「私も心配して探し回ったんだからね、陽一君」
「葉月」
「は? え? あ、貴女は聖女の勇者さまっ」
するっと会話に入って来た葉月。
他の連中はともかく、全く慣れていないニーニャさんは慌てて居ずまいを正す。
「お久しぶりですね。あの時はお世話になりました」
「いえいえいえいえいえっ、そんな滅相も……」
葉月に声を掛けられ、これでもかと畏まってしまうニーニャさん。
俺はそれを見て、『あれ?』っと気になって尋ねてみる。
「あれ? 葉月とニーニャさんって会った事があったけか?」
俺の記憶では、ラティと葉月達が来た後、すぐに出立した記憶がある。
言葉の件で急いでいたので、悪いとは思うが軽い挨拶だけしか出来なかったのだ。
「うん、私、お願いされちゃったんだ。彼をどうか頼むってね」
「あ、えっと、あの時は気が動転していて、そ、そんな大それた願いを勇者さまにしてしまって、ホントなんて言って良いのやら……すいませんでした。……しかし、ジンナイが勇者さまと知り合いとは」
ギクリとする。
何か嫌な流れの気がした。
「うんっ、そうなんだよ。彼とはねぇ――」
「うぉいっ!」
葉月は意味深な言葉を発し、そっと俺の空いている方の右手を取った。
とても深い仲だと思わせる行動。
この葉月の行動には、ニーニャさんどころか嫉妬組も過敏に反応を示す。
――おぃいいいい!
何で全員が”鏖”のハンドサイン出してんだよ!
ステイが一個も無ぇぞ!
「葉月」
「うん。――ねえ、ニーニャさん。陽一君ってどんな感じで生活してたのかな? ちょっと興味あるんだ」
「えっ、え、はい。いつも一緒に森に行って、それで――」
俺は葉月に離れるように目で訴え掛けた。
聡い葉月はすぐに察し、呆気ない程簡単に手を離し、何も無かったようにニーニャさんに話し掛ける。
話を振られたニーニャさんは、カクカクと頭を縦に振り、ナントーの村での事を話し始める。
――ったく、
次の休憩も油断出来ねえか……
何時休めるんだか、
俺はこちらに来たそうにしている早乙女を手で制し、これ以上嫉妬組のヘイトを上げないように試みる。
「へえ~~、本当に槍で木とか切り倒しちゃうんだぁ」
「はい、そうなんですよ。もうホントにデタラメって言うか」
退屈だと思っていた今回の深淵迷宮の遠征は、思いの外違うモノとなっていた。
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