さあ、潜ろう
新章、『槍剣乱舞』編の始まりです。
開幕なのでちょっと短め~
レビュー、超感謝です!!
想いは届かなかった。
勇気を振り絞って一生懸命伝えたのに……。
彼には届かなかった――。
そう、ガレオスさんは役に立たなかった。
ベテランとはいえ、冒険者の育成は出来ても、赤子の育成は無理だった。
心の底からの相談は、『ダンナ。他の人に相談してくだせぇ』との切り捨て。
やはりここは、乳母のナタリアさんが言うように、今は様子を見守るしかないのかもしれない。
赤ちゃんの教育に特効薬は無い。
もしあるとすれば、赤ちゃんに熱い物に触れさせて、火傷をさせてトラウマを植え付けるような教育。
そうすれば、これは危険だと認識するようになるらしいが、あれは教育などというモノではなく躾という名の虐待だ。
なのでやはり、赤ちゃんの教育に特効薬は無い。
今はモモちゃんが飽きるのを待つしかない。
俺も小学生ぐらいの時、カンフー映画を観た後は『アチョー』とやっていた気がするし、七日間どっかに立て籠る戦争的なヤツを観た後も、自分の部屋に、誰に向けた罠なのか、無数のトラップを設置した記憶がある。
何故あそこまで夢中になったのか、いま思うと不思議だ。
やはり飽きるのを待つしかないのだろう。
いまも俺の首筋を執拗に狙って来ているが、いつか飽きる時を……
「あぷぁ? あぷぷぷぅ」
「…………モモちゃん、今度は手首を狙ってくるの? ねえ、一体どこからそれを習ってくるの? やっぱり本能か何かなのかな?」
そのうち別の首も狙ってくるかもしれない。
むしろそちらの方は、赤子の本能として狙ってくるだろう。
「…………言葉に預けるのも一手か……」
その後、手首を狙うように教えた犯人が判明したので、顔面を全力で鷲掴みしておいた。
閑話休題
ゴタゴタがあったが、深淵迷宮遠征前に問題は解決した。
モモちゃんの興味が別のモノに移ったのだ。
それは音の鳴る積み木。
ららんさんが特別に作ってくれた、特製の積み木にモモちゃんは夢中になったのだ。
言葉に相談したところ、積み木などはどうかとアドバイスを貰い、たまたまその場に居合わせたららんさんが、たった一晩で作ってくれた。
原理は分からないのだが、積み木を重ねると澄んだ鈴の音が鳴る積み木。
モモちゃんはこの積み木に、乳母姉妹のラフタリナちゃんと一緒に夢中となった。
積み木を重ねて音が鳴ると、『おおおっ』とはしゃぎ声を上げ、また別のを乗せては『おおおー!』と興奮する。
しかもららんさんのこだわりなのか、鳴る音色は何種類かあり、簡単には飽きさせないようになっていた。
もう何の憂いもなく探索に向かえる。
モモちゃん問題と並行で進めていた探索の準備も、問題無く完了した。
長期探索時、ストレスの一番の原因となる食事問題は、勇者達の【宝箱】の中身を全て食材で埋める事で解決した。
本来であれば、食材は保存性を重視するところ。しかしそれでは味や鮮度といった部分に問題が出て来る。
だが【宝箱】に収納された物は腐る事がないので、生モノやパン類、他には菓子類などといった物を詰め込めた。
戦闘要員は十分に足りているので、今回の勇者の仕事は、食材を保存する缶詰役。
当然、言葉の【宝箱】に納められていたテーブルや椅子などの一式は遠慮して貰った。
これによって、探索や行軍時に一番大変な食料という物資の問題が解決した。
後はもう楽だとレプさんは言う。
飲料水などの水は、魔法で作り出す事で解決。
移動時の負担も、移動補助魔法のゴリ押しで解決予定。
部隊の統制なども、事前にガレオスさん、レプソルさん、ハーティでしっかりと決めているようで、指揮系統が混乱する事は無いそうだ。
全体の総指揮はレプさん。
そのレプさん補佐と、今回だけ参加する雑用係であるサポーターの纏め役がガレオスさん。
移動速度や進む方向などはハーティが担当するそうだ。
因みに、明かりなどの光源担当はサリオだった。
今のサリオなら、大量の”アカリ”を作ってもMPが枯渇する事は無いという事と、サリオの”アカリ”の質の良さを知っているメンツからの要望だ。
この配慮も、暗い深淵迷宮探索でのストレス軽減に繋がるそうだ。
思ったよりも細かい配慮や気遣い。
ガレオスさん曰く、長期遠征の一番の敵はストレスらしい。
こうして全ての用意が完了し、俺たちは深淵迷宮を囲う砦に全員集合した。
女性陣の勇者たちは既に到着しており、皆が集まって何かを話し合っている。
そしてそれを、何か尊いモノを見るように冒険者達が遠巻きに眺めていた。
「ん、あれがそうか……」
勇者達を眺めているメンツの中に、何人か初めて見る者達が居た。
「……ラティ」
「はい」
俺はすぐに探りを入れた。
ガレオスさんを信用していない訳ではないが、これから長期間行動を共にする者だ。用心するに越したことはない。
「あの、ご主人様。それなりに何か抱えているようですが、害をなすような悪意や敵意は視えません。取り敢えずは平気かと」
「了解。それなら食事に何かを混ぜられるとかは無さそうだな」
俺はラティに、サポーターのメンバーを探ってもらった。
基本的にラティがいる限り不意打ちなど喰らう事はない。だが今回の遠征は、ガレオスさんに注意されたので、四六時中一緒には居られない。
どうしてもその辺りが不安だった。
それに食事も任せるので、しっかりと調べる必要があった。
疑い過ぎは良くないと思うが、そうでないと寝首を掻かれる事がある。
「はぁ……。ラティ、俺は疑い過ぎかな?」
「あの、その様な事は無いかと。わたしの【心感】でも、料理に混入されたモノは見る事が出来ないので……」
「そうだよな……ん?」
「えっ……?」
ラティと話をしていると、突然辺りが騒がしくなった。
騒がしくなっている方は、勇者たちが集まっていた方だった。
「何だ? 勇者たちに誰か突撃でもかましたのか?」
「あの、それがご主人様……あの……」
「ラティ?」
ラティが珍しく驚きの表情を見せていた。
愛らしい口元をぷくっと開けており、モモちゃんもよくそんな口をしている事を思い出す。
狼人の特徴だなぁと、そんな呑気な事を考えていると――。
「間に合って良かった。ボクもこの探索に参加させてくれるかな? 一度行った事があるからね、足を引っ張ることは無いと思うんだ。食料なんかもしっかりと用意して来たし」
「――っな!? お前は……椎名」
聖剣の勇者椎名秋人が、とても爽やかな顔で姿を現したのだった。
読んで頂きありがとうございます。
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あと、誤字脱字なども教えて頂けましたら……
レビュー、超感謝です!!
重ねたら音の鳴る積み木って売れそうじゃないです?