ポンコツかも
お待たせしました。
レビューありがとうございますっふ!
『へぇ、それが……ボッチ・ライン?って呼ばれるようになった切っ掛けなんだ。それでその時の子が、あの赤ちゃんなんだ……』
『ああ、そうさ。マジで凄かったらしいぜ? 300体を超える魔物を相手に一歩も退かず、たった一人で倒し切ったって聞いたな』
『聞いた聞いた。『こっから先は指先一つ通さん! モモちゃんは俺が守るっ!』って言ったんだっけか? そんで暴風みたいに槍を振ってデカブツごと全滅させたって』
『おいっ、それ盛り過ぎだからっ! あとお前も信じんな! それに100体も居なかったから。300ってのは話が盛られただけだから。あとそのセリフ絶対に捏造だろ! なんか微妙におかしいし』
『あれ? さっきの脚狩りの話も……誰かを守ってたって?』
『ああ、あの子だろ? 陣内組の飯炊きやってた』
『あれは遠征の時に偶然一緒になったからだぞ。普段は親父さんの手伝いをしてんだってさ』
『リーシャの事か? あれは俺たちが巻き込んだようなモンだから』
『陣内っ、誰よその女。あたしの知らない子がまだいるの』
『お嬢ちゃん、もっと凄いのがあるぜ。なんたってあの聖女様も助けた事があんだから』
『おいおい、それを言ったらウチのコトノハ様なんて2回も――』
『――おいっ、アンタらそれをあたしに詳しく聞かせろ!』
こうして俺は軽く詰んだ。
閑話休題
「へぇ~陣内。アンタ、女なら誰でもいいんだね」
「うぉい! すげぇ人聞きが悪いぞ! 困ってたから助けただけだろっ
」
何処をどう斜めに聞いたらそうなるのか、とんでもない事を言い出す早乙女。俺は思わず反射的に声を張り上げてしまう。
だが早乙女は、怯む事無くだから何だとばかりに言い返してくる。
「はっ、女を助けに行ったのは間違ってないんだろ」
「いや、あ、そうだけど……男で困ってたヤツなんて居なかったし。大体、男なら自分で解決しろだし、普通助けるだろ……」
「それでアンタは、助けてやったからお持ち帰りしたってか?」
「誤解を招く言い方すんなっ!」
「……だって、あの二人を連れて帰って来たんでしょ……」
「ぐっ」
急にしおらしくなる早乙女。
先程から落差が激し過ぎて調子が狂う。
そしてそれをニヤニヤと見守る情報提供者の野次馬ども。
この野次馬どもがニヤニヤとする理由は分かる。
それは早乙女のこの反応。
学校の時は会話らしい会話をした事が無かったので分からなかったが、どうやら早乙女はとても分かり易いヤツだった。
そしてギャップがとても激しい。
素の状態、誰かと話す時は男っぽいぶっきらぼうな口調と態度になるが、一度落ち込んだりすると、とてもしおらしい弱気な一面が顔を出すのだ。
思い起こしてみれば、防衛戦で堀に落ちた時もそんな感じだった気がする。
( ボレアスで救出した時もそうだったな…… )
俺でも気付けるレベルの変化。
当然、コマンダーさんとストライカも気付いている様子で、早乙女のコロコロと変わる口調と態度を楽しんでいる。
――ったく、何で気が付かねぇんだコイツは?
完全にオモチャにされてんぞ早乙女……
こうやって話さなければ気付かなかったが、早乙女は案外ポンコツなのかもしれない。
早乙女自身は、野次馬たちから話を聞き出しているつもりなのかもしれないが、今ではもう、早乙女の反応を見たさに野次馬の方からどんどん話を振っている。
しかも、早乙女が俺に気があるという事も見抜いている様子で――。
「お嬢ちゃん、それがちょっと違うんだよ。お持ち帰りにしたってより、”俺の所に来い”って感じだったんだよ」
「え? それってどういう意味で……?」
「あれですよ、お持ち帰りってのは、相手の意思は関係なしに連れていく事だけど。”俺の所に来い”ってのは、相手にそれを選ばせているって事なんですよ」
「ふぇ、それって、それって……」
早乙女は完全に遊ばれていた。
反応が露骨過ぎると言うべきか、もうバレバレで酷い状態。
流石にこれは可哀想なので、一応助けてやりたいのだが――。
「なぁ早乙女、そろそろ――」
「陣内っ、アンタは黙ってて。いま大事な事を聞いてんだからっ」
( っがああ! このコイツはあああ!! )
早乙女本人がそれを許さないのだ。
俺が助けに入ろうとした事を察している二人は、早乙女からは見えない位置で肩を震わせて笑いを堪えている。
「ったく、コイツは……」
『実は揶揄われているんだぞ』と、教えてやりたい。
だがそれで恥ずかしい思いをするのは早乙女だけ。これはどうすべきかと悩む。
学校の時はこんな事は無かった。
スクールカーストには収まらない孤高な一匹狼。
射貫くような鋭い視線と、誰も寄せ付けない凄みを帯びた威圧感。
同い年の男子などは歯牙にも掛けない、それが早乙女だった。
だが、今回の相手はベテラン冒険者。
早乙女の鋭い眼光も、それなりの修羅場を潜って来ている連中には通用せず、早乙女は、喰い付きたくなる話題をチラつかされて、面白いように翻弄されていた。
「あれ? なんか外が騒がしいな」
「ん? 確かに何か騒がしいな。何かあったのか?」
「そんなのいいから。それで、コイツが教会に乗り込んだんだな」
話をしていると、突如店の外が騒々しく、何か争い事が起きている大きな音がした。しかし早乙女はそんなモノは関係無いと、話の続きを二人に求めた。
「あ、ああ……それからな――」
いつの間か、今度は早乙女の方が押す流れになっていた。
早乙女のもの凄い喰い付きに、コマンダーさんの方が少し引いている。
俺はそれを眺め、もうどうにでもなれと放置しながら、ある事を考えていた。
それは一時は心配した、早乙女の男性恐怖症の件。
喰って掛かるように話を聞いていく姿勢を見るに、どうやらその心配は無さそうなので安心する。
( 良かった…… )
「――えっと、それで東では……あの子が?」
「ああ、貴族に捕まってたな、コトノハ様は」
尚も話は続き、次々と話をしていく野次馬ども。
そこで俺はふと思った。何処からその話を仕入れて来ているのだろうと。
その場には居なかったはずの話まで知っており、誰からその話を聞いたのが知りたくなった。
後でそいつに制裁を加える為に……。
「えっと、コマンダーさん。何処からその話を仕入れて来たんです?」
「うん? そりゃあ人から聞いたりとか……後は、芝居かな?」
「――はい!? 芝居ってあの芝居?」
「ん? そうだが? 中には俺ら色々と協力したヤツもあったな。ほら、竜の巣の時とか、シェイク氏には色々とネタを提供してやったぜ」
「ああ、あったな! オレもある事ない事を話してやったわ」
うんうんと、したり顔で肯く二人。
いい仕事したぜ的な雰囲気を醸し出しているが、絶対に悪ノリの延長だろう。
「お嬢ちゃん、知ってるかい? コイツってある脚本家に気に入られて――」
「そうなんだよ。そんで色んな劇に使われてんだぜ」
「たぶん見た事あんじゃないかな? 黒くて槍持ってるヤツのモデルはコイツなんだよ」
「聖女様のは教会がうるせぇから芝居にはなってねえけど。コトノハ様のヤツとか、やたらと女を助け出すってのが多いな」
「最近じゃ、何処でもゴタゴタにすぐ巻き込まれるから、【トラブル野郎】って二つ名が増えたな」
「うぉい! それ知らねえぞ! アンタらだろ、それ作ったのっ!」
台本のような二人のやり取りを見ていたが、ふざけた二つ名がまた出て来たので、我慢出来ずツッコミを入れる。
しかも最初は、『あれ? ちょっとカッコイイ?』と思ってしまったのがとても悔しい。
「あぁ~~、そういや一つだけ違うのがあったな」
俺のツッコミなど意に介さず、コマンダーさんが何かを思い出しそれを口にする。
「ほら、『全ボレが泣いた』って触れ込みのヤツ。あれだけは逆だったな」
「あ、それ知ってる。前にそれ観た事があんな。確かにジンナイっぽいのが出てたな」
「――ッッ!!」
「あっ」
露骨に肩を震わせる早乙女。
この反応は今までとは違い、話に喰い付くような素振りは見せず視線を下へと落とした。
コマンダーさんとストライカはこの反応に訝しむが、逆にそれが興味を引いたのか――。
「確かぁ、弓乙女の勇者様が下に降りて助ける話だったな」
さらに肩を震わせる早乙女。
その反応を見て話を続けるストライカ。
「そうなんだけどな、あの話って北のお偉いさんの指示で作ったらしくて、真相は違うらしいんですよ」
「んん? 違うって何が?」
顔を俯かせ、耳まで真っ赤になる早乙女。
正面に座っている俺には見えているのだが、横に立っている二人には見えていないのか、その話をさらに続ける。
「えっと、違うって言うか、逆らしいんですよ」
「んあ? 逆? 逆ってどういう事だストライカ?」
「ええ、本当はジンナイの方が助けに入ったんだって、えっと確か…………ドミニクさんが言ってたのか? だから逆なんだとか」
――そうだったああああ!
そうだよ、ドミニクさんはあの時いたんだ!
だから知って――あ、やべっ!
早乙女がもう限界突破をしそうになっていた。
【鑑定】阻害用の眼鏡の奥はもう完全に涙目。今にも『くっ殺せ!』とか言い出しそう。
「あの~~、ストライカさん。そろそろその話はもう……」
グロッキー状態の早乙女にタオルを投げ込むべく、俺はこの話題を切り上げようと声を掛ける。が――。
「弓の乙女様か、そういやボレアスでジンナイに…………えっ?」
「ん? どうしたストライカ? お嬢ちゃんに何か………………――あっ」
完全に止めるのが遅すぎた。
さすがに早乙女の只ならぬ様子に気が付いたのか、ストライカが早乙女の顔を横から覗き込んだ。
そして自分達が、『お嬢ちゃん』と呼んでいたのが誰なのかようやく気が付く。
目の前に居るのが勇者早乙女だと気付き、固まってしまったストライカの視線に釣られ、コマンダーさんも顔を覗き込み、同じように固まる。
とても痛ましい沈黙。
他の野次馬達は何があったのかと訝しむ中、『うぅぅ』と早乙女の嗚咽だけが漏れる。
「やべっ! 俺っち用事があったわ~。じゃあそういう事で」
「あ~~~今日は階段で待ち合わせだった~もう行かないとだあ」
迷う事無く撤退を開始する二人。
危機回避能力が高いというべきか、それとも無責任野郎だと罵るべきか、代金を支払いそそくさと逃げて行った。
こちらとしても、奴らに残ってもらってもどうしようもないので、俺はそれを見逃した。
解散の空気になり、集まっていた他の野次馬達も散るように席へと戻る。
俺は今にも爆発しそうな早乙女の様子を窺う。
ここで早乙女の正体がバレると流石にマズい。間違いなく大騒ぎとなり店側に迷惑を掛ける事になる。
下手をすれば、一度も行った事のない階段を全員に奢るハメとなる。
それだけは絶対に回避しなくてはならない。
だが、何と声を掛けたら良いのか分からず、どうすべきかと早乙女を見つめる。
普段は冷たい印象の切れ長の瞳が、今は見る影もなく、羞恥の色に染まっている。
( なんか話してみると印象が全然違うな…… )
何人も寄せ付けぬ孤高の一匹狼。
それが今までの印象だった。だが今は、その抱いていた印象がガラッと変わった。
――ん~、何て言うか、マジで残念なポンコツだな、
これが早乙女京子か……
才色兼備とまでは言わないが、それに近い雰囲気を彼女は持っていた。
見目麗しく、何でもそつなくこなしそうな神秘さがあったが、案外中身は残念系のポンコツなのかもしれない。
そんな事を思い浮かべていると、初代ポンコツの事も思い浮かべた。
ただ、初代のポンコツの方は、ガッカリ系のポンコツ。
「……サリオを思い出すな」
「ほへ? あたしを呼んだですよです?」
「へ?」
いつの間にか、俺たちの横にサリオが居た。
しかも――。
「じんないさん。もう掃除は終わったから外に出ても平気やで」
「へ? ららんさんまで!? それに掃除って?」
「ハヅキ様とコトノハ様からお願いをされたのですよです」
「うん? 掃除を?」
「あ~~えっとのう、要は邪魔者の掃除やの」
『にしし』な嗤い顔でそう囁くららんさん。
周りに気付かれぬよう、小さい声で”掃除”という単語を使った。
「なるほど……掃除ってのはそういう事か」
「うん、だからもう外に出ても平気やで。つっても、もう日が暮れ始めておるがの」
窓から外を見ると、ららんさんの言う通り日が暮れ始めていた。
どうやら俺たちは、時間を忘れて話をしていたようだ。
「帰るぞ早乙女。街案内になってなかったけど、今日はもう終わりだな」
「……うん」
小さく肯く早乙女。
どうやら多少は落ち着いたようで、顔と耳からは赤みは引いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時刻は丁度17時。
日が傾き出しているので、帰り道は働き手や買い出しから戻る者たちでごった返していた。
サリオとららんさんは、他に用事があるからと、店を出てからすぐに別れた。
なので今は、俺と早乙女だけ。
「おら、帰るぞ。俺はモモちゃんをお風呂に入れないといけないから」
「……うん」
蚊の鳴くような小さな声で返事をする早乙女。
どうやら早乙女は、素の状態じゃない弱気モード中。
取り敢えず帰ろうと思ったが、早乙女は何故か俯いたままでトボトボと歩く。
俺の後ろを歩いてはいるが、このごった返した大通りを、前を向かずに歩くのは少々危険。
誰かにぶつかって眼鏡と帽子が取れようものなら、ただでさえごった返している大通りは更にカオスとなるだろう。
「ああ~~、もうっ。おらっ、行くぞ」
「えっ、陣内……」
俺は早乙女の手を取って歩き出した。
このような行動は俺らしくないが、この弱気モードの早乙女はどうしてもほうっておけない。
ボレアスでの救出時の時の泣き顔がチラついてしまう。
だから今だけは、取り敢えず手を取って引いてやる。
――ふう、良かった……
どうやら本当に掃除は済んでいるみたいだな、
ちょっと迂闊だったかな、
女性の手を取って歩くなど、嫉妬組にとっては間違いなく制裁対象行為。
もし嫉妬組が見張っているのならば、奴らは我慢出来ずに襲ってくるはず。
だがそれが無いという事は、本当に排除済みなのだろう。
( しかし、何で葉月と言葉は……? )
どうにもそれが疑問だった。
何故あの二人はそんな事を頼んだのだろうと……
――あの二人に頼まれて動いたって事は、
信者組か? 確かにあの連中なら嫉妬組でも押さえられるな、
嫉妬組を上回る勢力の信者組。
しかも嫉妬組の中には信者組が潜んでいるので、信者組が本気で動けばひとたまりもない。
竜の尻尾亭に居る時、途中で外が騒がしかったのはその為だろう。
分析をしながら歩いていると、急に手を引かれて俺は足を止める。
「……早乙女?」
「…………」
ごった返していた大通りはもう抜けていた。
少し先にはノトス公爵家の正門が見える、もう人通りは少ない場所。
だから俺は、早乙女がもう手を離して欲しいという意味で止まったのかと思った。
だが彼女は、俺の握った手を一向に離す気配は無く……。
「陣内。アンタは誰でも助けるの?」
俺の手を強く握ったまま、早乙女は俯いた状態でそう尋ねてきた。
「……誰でもって訳じゃねえよ。アイツ等を助けたのだって知り合いだったし、助けて貰った事だってあるし。それに葉月の時は、そうなった原因は俺にあったみたいだし」
早乙女はハッキリと何かを聞いて来ている訳ではないが、きっとこの事だろうと思い、俺はあの二人を助けた理由を話した。
「じゃあ、あたしを助けたのは…………何で」
「……そりゃ知ってるヤツだし、助けない理由は無いだろ」
「それだけ?」
「…………」
「ねえ、アンタはそれだけの理由であたしを助けたの?」
「…………さあな」
『そうだよ』と、言えなかった。
それを言うとコイツが泣き出しそうな気がして言えなかった。
「ねえ、陣内。あたしはアンタを――アンタを……」
早乙女は、がばっと顔を上げて俺の顔を見つめる。
濡れた瞳で俺を見つめ、必死に続きを口にしようとした。
読んで頂きありがとうございます。
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