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もうこれデートじゃねえの?

遅くなりました~;

 

 俺は嫉妬組に追われ、この街のセーフティーゾーンとも言える場所に駆け込んだ。


 その場所は【竜の尻尾亭】。

 この街の冒険者がよく利用する店だ。

 そして【竜の尻尾亭】がセーフティーゾーンとも言える理由は、この街に滞在する上位冒険者達による協定(ルール)があるから。


 【竜の尻尾亭】の特徴の一つに、多少のトラブル程度では出禁にならないというモノがある。

 荒くれ者が多い冒険者達。一応マナーの良い奴もいるが、大半は力が全てな脳筋ばかり。酒に酔って暴れるなどは日常茶飯事で、当然酒場()の方から出禁を言い渡される者が多い。


 そしてその出禁という対策を取る店は大体が優良店。

 料理が美味く酒の質も良い。他には料理の値段も高くないなど、利用者側からすれば良い事ばかりの店。

 

 当然そういった店なので、荒くれ者の冒険者を相手にしなくてもやっていけるのだ。むしろいる方が売り上げ低下に繋がる。


 だが逆に、どんな荒くれ者でも受け入れるという店は、料理や酒、接客する従業員が最低クラス。そして微妙に値段が高い。


 だから料理も美味く、働いている従業員もピカイチな【竜の尻尾亭】には、どんどん冒険者達が集まっていた。

 

 普通ならば店は荒れるはず。荒くれ者ばかりが集まり騒ぐのだろうから……。

 だがここである変化が起きた。


 その変化とは、超高レベルの冒険者達の登場。

 陣内組や三雲・伊吹組などの、レベル80を超える冒険者も集まるようになったので、その店で暴れようものなら即座に潰されるようになったのだ。


 そしてその上位冒険者達は、その貴重な酒場を乱さぬように自分達も戒めた。

 店に迷惑は掛けないように、店内での身内同士の争いはご法度となり、もしこれを破った者は、その協定に入っている80人を超えるメンツ全員に対し、お高い方の階段を奢るという罰が課せられる事となったのだ。


 その金額は、金貨にして50枚は余裕で吹き飛ぶほど。

 しかもその後は、所属している勇者にチクられるという罰も待っている。

 店側は、壊した物の弁償さえしてくれれば良いと言っていたのだが、何故か不思議なノリのような流れでそうなったのだった。

 

 もう【竜の尻尾亭】で騒ぐような馬鹿は、この街に来たばかりの奴だけ。

 ノトスを一カ月ほど離れてはいたが、そのルールはしっかりと残っている様子で、嫉妬組の連中は俺たちが店に入ると姿を消した。


 これで問題が解決した訳ではないが、取り敢えず落ち着く事が出来る。

 もし完全に包囲されると流石に厄介だった。


 それに……そう、俺でなければ見逃していただろう。

 練度の低い者が交ざっていたのか、俺からでも見える位置でハンドサインを送っていたヤツがいた。

 

 そのハンドサインは、『包囲殲滅戦術』の合図だった。 

 獲物に対し、十倍の戦力で包囲してから強襲する作戦。

 そしてこの作戦は、嫉妬組の連中がもっとも得意としている戦術で、しかも奴らには(嫉妬組)慈悲がない。もし囲まれたらと思うとゾッとする。

 

 俺自身も、その慈悲のない作戦に参加した事があり、裏切り者(レプソル)羨ましい者(レプソルさん)、他には過剰な幸せな者(レプさん)に正義の鉄槌を下した事がある。


 そう、レプソルさんは定期的に制裁を下されていた……。


「いらっしゃいませ、ジンナイ様。えっと今日は……」

「ああ、ミミアさん。今日は二人で。目立たない端の方の席で頼む」

「…………」


 俺と早乙女は、レプソルさんが制裁を下される原因であるミミアに案内されて、目立たない端の方のテーブルに向かう。


 色素の薄い白い肌と青みがかった白髪。

 男の保護欲をかき立てる愛らしくあどけない顔立ち。

 そして、伊吹に匹敵するであろうふかふかさん。 

 

 エルフ族が芸術的な美だとするならば、、兎人族は成人雑誌や薄い本から飛び出してきたような愛らしい美。

 

 俺はミミアに料理の注文をしながら、次回のレプソル狩りに参加する事を決めた。




          閑話休題(ヤツは許さん!!)




 仕方なしで入った【竜の尻尾亭】、俺の注文した肉ジャガ定食がお気に召さなかったのか、早乙女は肉ジャガ定食に眉をひそめていた。

 やはり上の方の肉ジャガ定食を頼むべきだったのかもしれないが、今は眉間のしわが取れて何とか話が出来た。

 

 俺は食事をしながら、出来るだけ自然に早乙女に話し掛ける。

 しかし俺は、上手く会話が出来る方ではない。 

 ラティと話す事はあるが、あれはどちらかというと報告連絡相談(ほうれんそう)。会話が弾むといった事はない。サリオの場合も似たようなモノだ。


 だから俺は、楽しい会話といったのは苦手。

 しかも女性と二人だけとなるともっと難易度が高い。そういったリア充に必須なスキルは持っていない。

 なので俺は、相手から話を聞くだけのスタイルを選択した。

 こっちに来てどんな事があったなど、囚われていた期間の事は避けつつ、この異世界(イセカイ)の印象などを早乙女に訊ねた。


 これはガレオスさんから習った対処方法。

 女性とは、自分の事を聞かれて嫌に思うヤツは少ないそうだ。

 勿論、嫌いなヤツに何かを聞かれるのは嫌だが、そうでないのならわりと上手くいくと言っていた。俺が階段に行った時に困らないようにと教えて貰った事。


 今はガレオスさんの助言に縋る……。



 ガレオスさんが言った通りなのか、早乙女は意外にも上機嫌で話をしてくれた。


 異世界(イセカイ)に来てからの日々や、貴族達がどう扱ってくれたなど。他には、どういった経緯でノトスに来たのかも話してくれた。

 どうやら早乙女は、俺がボレアスを出立した後、橘と衝突したようだった。


 そしてその衝突の理由は過剰な干渉。

 どうやら橘にとって早乙女は、窮地から助けてあげた哀れな女の子という認識だったらしく、自分の庇護下に置こうとしたそうだ。

 一緒にゼピュロスに行こうや、助けてやったのだから従え的な態度だったらしい。

 その過剰な干渉に嫌気がさしてきた頃、俺と会えないように橘が面会謝絶にしていた事が発覚し、早乙女の『勝手な事をするな』と、橘の『私は貴女の為にやってあげた』との主張がぶつかり合い、早乙女はボレアスを飛び出したそうだ。


 しかし早乙女には護衛となる者がいないし、荒木の件があるので男性が近くにいるのはマズいとなって、葉月、言葉(ことのは)、三雲、伊吹が護衛に付き、守られながらノトスにやって来たのだという。

 

 一方、男性陣の勇者達は全員ボレアスに残ったそうだ。


 送ってくれた葉月達には一応感謝している様子だが、早乙女の様子を見るに、しっかりと面と向かってお礼を言ったかは疑わしい。

 元から人と関わりを持つ方ではなく、スクールカーストでも欄外といった感じ。学生時代、誰かとつるむといった事もなかった。 


 コイツはこんなヤツだったなと思い出していると、何となくだが学校に通っていた時の事を思い出す。

 そして、こいつは素の状態だと口調が男っぽくなる事も思い出す。


 ( あれ? 何か懐かしいな…… )


 同級生なら、葉月や言葉(ことのは)とも普通に会話を交わしている。

 だが二人との会話では、学生時代を懐かしく思い出す事はほぼ無かった。

 思うに、スクールカースト最上位である葉月との会話は、カースト最下位であった俺にとってはファンタジーの部類だったのかもしれない。 


 そして言葉(ことのは)とは、学生時代一度も会話を交わした事がない。……とはいえ、早乙女ともそれほど会話を交わした事がある訳ではない。


 薄っすらと記憶に残っているのは、稀に「おい」と声を掛けられた時の事。

 だが何か言い出す前に、大体が荒木に邪魔をされた気がする。

 

 ( あの時から荒木は…… ) 



「ねえ陣内……今度はあたしの方から聞きたいんだけど……アンタの事を……」

「ん? 俺の事を?」


 このぶっきらぼうな口調が懐かしいと感じていると、今度は早乙女の方から訊ねてきた。


 『ねえ陣内』と歯切れの悪い尻つぼみ。これが『なあ陣内』だったら素なのだろうが、『ねえ』という事は、早乙女的に少し緊張しているのだと判る。

 

――ちっとは俺も成長したって事かな?

 って、当たり前か。ギームルとか厄介な連中を相手にしてんだし、



 最近、格上ばかりを相手にしていたので、素直に感情を出す早乙女は読み易いと感じる。


「……まあ別に良いけど。でも俺は面白い話とか――」

「――なんであの女がいるの?」


 突然気温が下がったような、そんな空気が早乙女から放たれた。


「いきなりなんだ? それにあの女って誰だよ? ラティの事か? それなら――」

「葉月だよ葉月。いつも周りからちやほやされているヤツだよ」


「ちやほやって……まあ間違ってないか。元の世界でもこっち(イセカイ)でも確かにそんな感じだな」

「あと、あの根暗のボインも。何で根暗ボインの言葉(ことのは)までいんだよ……」

 

「ボインって……それもう死語だろ。――つか、居るって何処に居んだ? 店には居ないぞ? ずっと入り口の方は警戒してたし」

  

 俺はそう言って店内を見回した。

 もしかして最初から店に居たのかもと思い、店内を見回したのだが――。

   

「違う。この店(・・・)にじゃなくて、何でノトスに居るのかって意味」

「へ? さっき護衛をしてもらって一緒に来たって言ってたよな……?」


「ああああっ、そうじゃないっ。何であの貴族の家に泊まっているんだって事。しかもなんか普通に家に帰って来たって感じだったし。部屋も用意されてたし、あの赤ちゃんの事も知ってたみたいだし……それに……それに」

「ああぁ、えっと……ほら、貴族の家の方が安全だからかな~。うん、多分そんな感じ」


「それに、何であの二人はアンタの事を下の名前で呼んでんの?」

「へ!? そ、そうだったかなぁ……」


 本気で気まずい。

 これは何と答えたら良いのかと戸惑う。

 これがラティの事ならば、『俺の奴隷だから』で済ませられた。

 正直、その奴隷という言い訳も酷いとは思うが、ここは異世界なのだからどうとでも言い様はある。


 だがあの二人は違う。

 あの二人は俺と同じで召喚された者で、しかもほとんど交流は無かった。 

 それを早乙女は訝しんでいるのだろう。


なあ(・・)陣内。学園のアイドル様は同じクラスだったけど、根暗の方は違ったよなあ? いつの間にそんなに仲良くなったんだ」

「いや、それは……」


 突然やって来た謎の窮地。

 ここ最近、”貴族の思惑”の件で悩んでばかりだったので、この街案内は良い気晴らしになると思っていた。

 

 注意すべきは嫉妬組だけ、そう思っていたのに……。


「おかしいよなぁ、あのボインに助けて貰った事はあるみたいだけど、何であんなに…………………………仲がイイ感じになってんだよ」

「――ッ!?」


 俺はここである可能性に気が付いた。

 早乙女はこのノトスにやって来るまでの間、あの二人と一緒だったと言った。

 だから彼女達から何かを聞いているかもしれない。


 そしてそもそも、この早乙女の問いに何と答えたら良いのか全く分からない。


 二人がノトス公爵家に居るのは色々とあった結果。

 その色々(ゴタゴタ)に俺は深く関わっており、しかもその二人からは好意を寄せられている。 

 姓でなく名前の方で呼ばれているのもその延長だろう。


 もしこの状況を喩えるならば…………無い。

 そこまで複雑な状況ではないが、ちょっと喩えが浮かばない。

 しかもこの状況を言葉にして説明するなど、小っ恥ずかしく悶死する。


「いや、えっとその……」


――うぇええええ!?

 何て答えればいいんだこれ!? あれ? マジでどうしたら……

 いや、落ち着け俺。何か上手い言い方があるはずだ、


  

「…………………………無ぇな」

「あん? アンタ一人でなに言ってんの?」


 元から凄みのある目を、より険しくして言ってくる早乙女。

 その目は、正直に話すまで逃がさないと語っている。


――くそっ!

 まさかここでギームルクラスの威圧を放ってくるヤツがいるとは、

 ちぃっ、何て説明をしたら……



「おう、脚狩り。今日は珍しく瞬迅と一緒じゃないんだな」

「あ、コマンダーさん」


 俺に声を掛けて来たのは、三雲組の冒険者コマンダーさんだった。

 いぶし銀の冒険者コマンダーさんは、俺とラティ、あとサリオの事も二つ名で呼ぶちょっと変わった人だが、嫉妬組に所属していないまともな方。


 俺がラティ以外の女性と居るのが珍しいのか、声を掛けて来た様子。

 ひょっとするとこの状況を打開してくれるかもしれないと、俺はコマンダーさんにそう期待する。


「ええ、ちょっと訳ありでして、ちょっとノトスの街を案内してたんですよ」


 俺はそういって早乙女の方に目を向ける。

 第三者が居れば、早乙女は葉月と言葉(ことのは)の件の追求を止めるかもしれない。それにコマンダーは下手に人を揶揄うタイプでは無いはず。俺はそんな淡い期待と共に、今の状況を話そうとしたのだが――。 

 

「すいません、今の”脚狩り”ってコイツの事ですか?」

「へ?」


 早乙女は、俺を指差ししながらコマンダーさんにそう訊ねた。

  

「あん? ああ、そうさ。脚狩りってのはジンナイの事だが」

「何でコイツが脚狩り何て呼ばれているんですか?」


「ほう、聞きたいかい? お嬢ちゃん」

 

 ニヤリとするコマンダーさん。

 早乙女は現在変装をしているので、コマンダーさんは彼女が勇者だと気付かず、物怖じしないで語りだした。

 しかも楔の影響はしっかりと受けているのか、それはもうペラペラと話し始める。


 早乙女はコマンダーさんの話にかぶりつく。

 何が面白いのか、聞き漏らすまいと真剣に聞いている早乙女。

 一方俺の方は、何とも居た堪れない気持ちだった。自分の事を他人に語られるというは、何とも気恥ずかしい。


 出来る事なら、今すぐ語らせるのを止めさせたい。 

 だがしかし、先程の質問をされるよりかは断然マシ。


 なので俺は、仕方なしと、自分の事を語られるのを耐えていたのだが――。


「お? ボッチ・ラインがラティちゃん以外と一緒にいるなんて珍しいな」

「――な!?」

「……ぼっち? ライン?」


 新たに話し掛けて来たのは、伊吹組の冒険者ストライカ。

 彼はボッチ・ラインの二つ名が気に入っているらしく、俺の事はいつもそれで呼ぶ。

 

「それもコイツの事?」


 早乙女の問いに、ストライカは笑顔で肯き、ボッチ・ラインと呼ばれるようになった経緯を聞かれてもいないのに話し出した。


 誇れる武勇なのかもしれないが、やはり何処か気恥ずかしい。

 だが、先程の話が蒸し返されるよりかはマシだと判断して我慢をした。



 が、それは先を見通せないゆえの誤りであった。

 その二人からは、他の二つ名の事や、他の様々な出来事が語られた。

 そしていつの間に、他にも何人かがそれに参加してきて、まるで暴露大会のように盛り上がった。



 そして語られた出来事(武勇伝)の中には、葉月と言葉(ことのは)を助けた時の事も含まれていたのだった。 

 

   

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想や早乙女さんの応援など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も宜しければ……

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