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パタぱた

面倒回の続き~

レビューありがとうございますっ!

レビューのお陰か、新規で見てくれる方が増えた気がして嬉しいです。



「ぐふぅぅううう」


 ついオッサンくさい吐息が洩れる。  


 俺は自分の部屋のベッドで横になり、目を閉じてゆっくりと深呼吸した。


 やれる事はやった、言うべき事も言った。そして二人にそれを承諾させた。

 それがキチンと成されるかは分からないが、少なくともギームルならばやるだろうと思えた。


「もう後には退けないな……」


 俺は横になりながら、先程交わした会話の内容を思い起こす。

 要求した内容は、勇者を全員魔王化という土俵に上げる事と、地下迷宮ダンジョン探索の費用を出して貰う事。


 そして……何人かの勇者を、このノトス公爵家に滞在させる事。


 葉月と言葉(ことのは)は、価値が高いという点では間違いなく魔王候補。

 もしかすると、【聖女】や【女神】といった、神聖そうなモノを持っているので、魔王化の候補から外れるかもしれないが、俺にはそれを確かめる術がない。


 だから俺は、勇者達全員の価値を上げる事を要求した。

 捕らえられている荒木も、最後の集合時にそれなりの武器を持たせれば、強引に奴の価値を上げられる。

 荒木の使う世界樹断ちは間違いなく価値がある。連れて行く時は、腕を縛ってしまえば問題はないはず。


 それにもしかすると、かなり希望的な観測になるが、性格の悪いヤツが魔王化の条件かもしれない。

 そういう点では綾杉も候補となる。何処へ行ったのか行方不明だが……。


 あとは木刀の効果を信じるだけ。



 俺は、とても酷い事をしようとしている。

 どうせ巻き込まれる運命なのだから、その運命(流れ)を利用しようとしている。


 とてつもなく酷い事だ。

 だが――。

 

「絶対にやってやる」


 決して怯まぬように、誰もいない部屋で俺は自分に言い聞かせる。


 魔王化の候補には俺のラティも入っている。

 下手をすると、ラティが最有力候補かもしれない。

 

 俺はギームルに、狼人が迫害される理由を問い詰めた。

 森のエルフ達のように、貴族の都合で迫害されている可能性があると睨んだのだ。きっと貴族の思惑が絡んでいると……。


 だがしかし、ギームルからの答えは違うだった。


 ならば本当に獣耳が立っているのが原因なのかと問うと、これは推測だがと前置きをし、少し間を置いてからギームルは語った。


 狼人が迫害されている理由は、貴族の意図ではなく、狼人以外の獣人達の意図ではないかとギームルは言った。


 ギームルはアキイシ伯爵家の次男。

 そのアキイシ家は代々収集家なところがあるそうで、武器や防具などといった装備品だけではなく、芸術的な文化や、過去の事が記述してある物も集めているそうだ。


 脚本家のシェイクを支援しているのも、その趣味の延長らしい。


 そしてギームルは、その過去の出来事が記述してある書物を読んだ事があるそうで、その時に、魔王化した者のリストを見た事があるのだという。


 当然、世に出してはならない書物類。

 ただ、所持しているからといって罪に問われる事はないらしく、公表さえしなければ咎められる事はないそうだ。

 

 そしてその魔王化したリストには、狼人族の冒険者の名が二つあったという。


 8代目と11代目。その時代は、狼人族の冒険者が魔王化。

 当然その情報も規制されたはずだが、勇者と冒険者では扱い方が天と地の差。

 勇者だから敬い神聖化して、誰もが勇者の魔王化の事は伏せたが、一介の冒険者が魔王化した場合は違う。

 

 魔王化したのは、その狼人の冒険者が悪いという流れに。

 そしてその流れで、狼人族も悪とし、『犬型の獣人の獣耳はタレているべき』という勇者の発言に乗っかる形で、他の獣人達が狼人族を排除するようになったのではと、そうギームルは言ったのだ。


 昔の記述によれば、狼人族は勇者達にとても人気があり、他の獣人族には良く思われていなかったらしい。

 最古の資料には、初代勇者が直々に力を授けた種族とも記述してあったそうだ。


 本当のところは分からないが、それでも過去の記述を見るに、狼人は嫉妬によって(おとし)められた可能性が高いとの事。


 そして他にも、他の獣人は勇者の子を身籠った事があるが、狼人族にはそれがなく、それも迫害の要因に繋がったかもしれないとも付け足した。


 全てはギームルの見解。

 狼人が貶められた理由を知るというのも大事だが、今は――。


「絶対に、ラティは魔王化させねえ……」


 嫌な予感と共に、あの時の言葉が俺の脳裏をかすめる。


「北原の野郎、俺が魔王の手下だあ? ふざけやがってあのクソ野郎が。魔王化避けの盾にもならねえヤツが……って、ふっ」


 自分で殺しておきながら無茶を言うと自嘲する。

 そして次に、何か大事な事を忘れている気がしてきた。

 とても大事な事。すぐにやらなくてはいけない気がするのだが、ギームルとのやり取りで脳が一杯一杯なのか、その大事な事が思い出せない。


 ( 何だっけかなぁ~……まあいっか )


 取り敢えずやるべき事はやった。

 勇者の招集と、地下迷宮ダンジョン探索の費用の約束。

 そしてアイツ等の滞在……。


「ノトス公爵のアムさんには面倒掛けるな……それに良かった……」 


 ひとつだけホッとした事があった。

 俺はアムさんに騙されているかもしれないと思っていた。だがアムさんが貴族の思惑の件を知ったのは、本当につい最近との事だった。


 父親である元ノトス公爵を、幽閉とも言える形で、屋敷の離れに閉じ込めようとした時に聞かされたと言っていた。

 

 元ノトス公爵の幽閉。

 アムさん曰く、外に出すと害しかないので幽閉したと言っていた。

 本当に幽閉しただけなのか気になるところだが、深く追求するのはヤクイと勘が告げていたので、俺はそれ以上聞かなかった。


 俺が部屋に入った時、アムさんとギームルが対峙するように話し合っていたのは、その”貴族の思惑”を俺に話すべきかどうかという相談だったらしい。


 アムさんは話すべきだと言い、それに対しギームルが危険だと諫めていたのだとか。

 ギームル曰く、その話を俺が知ると、俺の命が狙われる危険性があると……。


 俺はその話を聞いて、心が少し晴れた。

 もしかするとそれは虚偽で、上手く誤魔化しただけという可能性もあったが、ラティからの合図は、”嘘”は無いだった。


 本当に良かったと安堵した。俺はアムさんに騙されていなかったのだ。

 

 その安堵から眠気がやって来たが、部屋の外、廊下の方が騒がしくなってきた。


「ん? 誰か来た?」


 荒々しい声が微かに聴こえてくる。

 一瞬、敵か何かと思うが、もしそうならラティが真っ先に反応するはず。

 今この部屋に彼女は居ないが、何かあればやって来る。

 そう思っていると――。


「あ、あの、お待ちくださ――」

「――うる――ぃ」


「んん!? ラティと一緒に来る?」



 ラティの声も、その騒がしい何かに混ざっていた。

 聴こえてくる足音は複数。そしてとうとうその騒がしいのは、俺の部屋の前までやって来た。


 俺が身体を起こすと同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。


「陣内っ! アンタこの子の親だろ! この子はアンタの子供なんだろ!」

「へ?」


 扉を蹴破るようにやって来たのは、勇者早乙女京子だった。

 そしてその早乙女は、可愛さの結晶、天使とも言える存在を俺に突き付けるように見せてきた。


「あ、モモちゃんっ!」 

「あうぅ――あぷぁっ!」


 脇を持たれて突き出されたのが嫌だったのか、モモちゃんはむずがりそうな顔を見せた。だが俺の顔を見ると、瞬く間にその顔を綻ばせる(マジ可愛い)


 天使のような笑みで、パタパタと懸命に腕と脚を振るモモちゃん(マジ天使)


「モモちゃーん、帰って来たでちゅよぉ。ごめんよ忘れてて」

「あぷぅ?」

「あ、陣内っ!」


 俺は、早乙女の手からモモちゃん(マジで天使)を奪い取り、モモちゃんの顔をしっかりと見つめながら鼻を擦りつけた。

 とても嬉しそうに目を細めるモモちゃん(とても可愛い)


「陣内……やっぱアンタがその子の父親なんだね?」


 地獄の底から聞こえてくるような、そんな怒りを内包した声音。

 その恐ろしい声に引かれ、そちらに目をやると、目をつり上げて怒っているが、だけどとても寂しそうな顔をした早乙女が立っていた。


 ( その子の親……か )


 俺はそう問われ、抱いているモモちゃんに意識を戻す。

 モモちゃんは紅葉のような手を伸ばし、俺の顔をペタペタと触れてくる。

 俺はされるがままにしていたが、モモちゃんを抱っこしているとある事に気が付いた。


 ( あ……重くなってる )


 モモちゃんは前よりも重くなっていた。

 約一キログラム程だろうか、モモちゃんはしっかりと成長していた。


 ( そっか、一カ月近く会ってなかったか…… )


 この重さはただの重さではない。

 そこいらのオッサンが太って増えた一キロとは訳が違う。

 とても、とても尊い一キログラム。

 

 この重さは、とても尊い重さ……。


 ( ああ、ウルフンさん…… )


 本来なら、この重さを噛み締める事が出来るのは別の人だった。

 だがもう……その人達はこの世にはいない。この尊い重さは、あの二人のモノだったはずなのに……。


「ぐっ……」

「え? 陣内? アンタ……?」


 鼻の奥の方がツンとする。

 瞳の下の方から何かが湧き出そうになる。


――くそっ、

 ウルフンさん、何で……何で……くそっ!

 


 モモちゃんにはもう親がいない。

 肉親と呼べる人も……居た気はするが多分いない。

 だから俺が――。


「ああ、そうだ。この子は俺の子だ。俺の子供のモモちゃんだ」


――ウルフンさん、俺がしっかりとモモちゃんは育てます、

 絶対に育ててみせます、だから……見ていてくださいっ。



 俺は部屋の窓から空を見上げ、心の中でそう宣言した。

 絶対に育てて見せると――。


「陣内、本当にアンタの子なんだね?」

「ああ、そうだ、文句あっか?」


 再度確認してくる早乙女。

 何故かわなわなと泣きそうな顔をしている。

 学校の時の、ツンとした表情とは大違いだった。


「やっぱり、じゃああの子が、あの奴隷の子が母親なのね! いつ作ったのよ! あっ!? まさかあの時、既にお腹の中に……」

「うん? 何を言って……へ?」


 早乙女は、ラティの方を睨んでいた。

 何と表現したら良いのか、怒りと悲しさを合わしたような顔でラティの方を睨んでいた。

 睨まれたラティがおずおずと声を出す。


「あ、あの……」

「何よ! あの時言った事はそういう事なの!? だからあんな事を言ったのか!」


「い、いえ、そういうつもりで言ったのではなくて……」

「あの時、あたしと――の邪魔をしたのはそういう事なんだろ! もう子供を産んだんだからお前のモノっていう事なんだろ!」


 その場にいた者が、一斉にラティへと目を向ける。

 突撃してきた早乙女に気を取られていたが、俺の部屋にやって来た者は他にも居た。

 早乙女、ラティ、モモちゃん以外にも、葉月と言葉、それとレプソルさんも居たのだった。


 皆の視線に晒されるラティ。

 しかしラティは慌てる事はなく、落ち着いた口調で話す。


「あの、早乙女様。わたしは狼人です。だから、人の、ご主人様の子供を身籠る事は出来ません」

「何を言って――えっ……?」


「はい、ですから狼人と人の間には子供が出来ないのです。だからその子はわたしの産んだ子ではありません。その子は、ある事故で両親を亡くした子なのです。そしてそれをご主人様が引き取ったのです――」


 ラティは、モモちゃんを引き取った経緯を早乙女に説明した。

 どうやら早乙女は、モモちゃんの耳と尻尾を見て、俺とラティの子だと勘違いしたらしい。

 

 

「ってか早乙女、何でお前がノトスにいんだ?」

「――そっ……れは…………だって……だって……」

「あ、あの、ご主人様……」

「陽一君……それは……」


「あっ……」


 誤解は解けたが、何故早乙女がノトスにいるのかが気になり、俺はついそれを口にしてしまった。

 そしてそれを口にした後、失敗したと気付いた――。


「……だって……だって……」


 涙ぐむ早乙女を見て、俺は自分が言ってはならない失言をした事に気が付いたのだった。

  

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字も……ありましたら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] だってだってなんだもん [一言] あれですよあれ、主人公の下積み時代が終わって成功者になるとですね。 ああジンナイさんいや別に特に深い意味はないけど、 ちょっとモモちゃんを巻き込まないとこ…
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