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名も無き牢獄の話

あ、新章『パレード』始まってました。

 勇者召喚は、イレギュラーである初代を抜かし今代で十二回目。

 召喚された勇者達は、誰もがイセカイの者に歓迎され、そしてその使命を果たすべく、命を賭して魔王と戦い打ち倒していった。


 そう語られていた……。


 それは決して間違いではない。

 過程と結末を抜かせば、まさにその通りなのだから。

 だが、その過程と結末を聞くと、その物語は違って見えた。


 勇者はイセカイの住人に歓迎されている。

 しかし、平民と貴族ではその歓迎の意味合いが違っていた。

 平民にとっては勇者は、世界を滅ぼす魔王を打ち倒す希望だが、貴族にとって勇者は、得る事が出来れば自分達の益となる存在。


 

 正直、その辺りの話はもう予想出来ていた。

 このイセカイに二年間もいるのだから、そういった陰の部分が存在している事を知っている。――所謂、政争。


 華やかで綺麗ではない、ドロドロとした部分。

 そういった政治の闇の部分に勇者達は、政争の具として利用される。

 そんな嫌な部分もあると覚悟していたが――もっと酷かった。


 メギトラの話によると、勇者達は魔王が発生する直前になると、出陣式の進行(パレード)を行い、中央(アルトガル)から出立するそうだ。


 勇者が全員集まり、歓声に包まれながら大通りを行進して南下する。

 そして少し南に向かった先にある、ある町で勇者達は待機するそうだ。魔王が何処で発生しても、迅速に動けるようにと……。

 

 表向きの辻褄は合っている。

 中央に待機しておけば、何処へ行くにも都合が良い。北でも南でも、中央に集まっていれば、すぐに向かう事が出来るのだから。


 そして戦力を分散させる事なく、魔王に対して勇者が全員(・・)で向かって行ける。


 そう、全員で魔王に向かっていけるのだ。



「――なっ!? じゃあ全員で囲んで?」

「そうじゃ、全員で……魔王を殺した(・・・)んじゃ」

「――ッ」


 老エルフ、メギトラの話には誰もが息を呑んだ。

 ラティとららんさんはともかく、サリオまでも驚きに言葉を失っていた。

 なんとメギトラは、勇者達が魔王となった勇者を殺した場面に立ち会った事があると言ったのだ。しかも2回も……

 

 3代目、4代目、6代目、7代目、9代目の勇者パーティに所属した事があり、9代目勇者の時に完全に心が折れて、この隠れ里に隠居したのだという。


 メギトラは3代目の時はまだ若く、情熱が溢れるままに勇者パーティへと参加。

 そして勇者の一人が魔王となり、その魔王は勇者達を全て退け、2年近く魔王として君臨したそうだ。

 しかし魔王となった勇者は、最後は自ら命を絶ち、魔王を終わらせたらしい……。


 時が過ぎ、4代目の時は、西にあった神木が魔王化。

 その時は聖剣を持った勇者が、一刀のもとに魔王を切り伏せたらしい。


 そして、6代目は勇者。7代目の時は勇者の仲間が魔王化。

 この時は、南の町で待機している時に魔王化したので、魔王化すると同時に魔王は殺されたそうだ。7代目も同じ。


 メギトラはその時の光景に心が病み、8代目の時は参加せず。

 だが9代目の時、勇者に乞われる形で、仕方なしに参加したそうだ。

 そして、魔王化した勇者を殺す事がもう嫌になり、自分が仕えている勇者シバにそれを伝え――最悪の結果になったのだという。


 幽霊のイリスから聞いた話を思い出す。

 要は、メギトラが勇者にそれを話した事により、その話を聞いた勇者が魔王化した勇者を庇ってしまったそうだ。


 そう貴族達は、勇者が魔王化する可能性が高い事を知っており、勇者達を一か所に集め、勇者が魔王化した場合は、魔王化した勇者を即座に殺すように仕向けたそうだ。


 頭に浮かんだのは魔石魔物狩り。

 強大な魔石魔物といえど、湧いた瞬間攻め込まれると意外に脆い。

 魔王化した勇者もきっとそうなのだろう。


 しかもメギトラの話によれば、その町は外へ出にくい作りになっているそうで、魔王化した勇者が簡単に逃げ出せないようになっているそうだ。

 大勢の兵士も配置して、魔王を包囲し、しっかりと殺せるように……。


「マジか……あの町が」

「あの、確かにあの町はそういった作りになっておりましたねぇ」

「ほう? 貴様らはあの町を知っておるのか」


「ああ、一度行った事がある」


 堅牢な要塞の様だが、廃墟と化しているあの町。

 北原が不完全な勇者召喚を行った町が、勇者達を集める町なのだという。

 確かにあの町は中央(アルトガル)から少し南の位置にあり、町の中は遮るような壁も多く、俺が北原を殺した後、逃走する際に苦戦した記憶がある。


 もし、途中途中に兵を配置されていれば、逃げ出すのは困難だっただろう。

 完全に包囲される前だから逃げ出す事が出来た。


 これが、”貴族達の真意”。

 秋音ハルが俺に伝えたかった事。


 そしてこれは――。

 

――くそっ、何だよこれっ!

 とんでもねえ事だぞ! こんなの……簡単に洩らせる話じゃねえぞっ!

 もしこれを迂闊に話したら……。



 疲れきり、何処かやけっぱちな表情を浮かべるメギトラ。

 俺はその老エルフにお礼を言ってその場を後にした。そして馬車へと急いで戻り、【サイセイの里】を出立したのだった。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 


 

 メギトラの話は、決して洩らしてはならないレベルの話だった。

 エルフ達は、過去の出来事を語ることを禁じられている。ロリコンのタルンタは、何故禁じられているのか分かっていない様子だったが、俺はメギトラの話を聞いてその理由が分かった。


 今日聞いた話は、絶対に勇者達に洩らしてはならない話だ。

 勇者達が知ればきっと反発するだろう。

 少なくとも、素直に出陣式の行進(パレード)には参加しないだろう。

 

 メギトラは出陣式の行進(パレード)の事を、死地へと向かう行進だと吐いていた。

 確かにその通りだ。事実を知っている者からすれば、そうとしか見えない。


 そしてこの話は――。


「エルフ達がヤバいよな……」

「……はい。そう思います」


 俺とラティは、馬車の車内から御者台の方へと視線を向ける。

 ららんさんはエルフ。まだ歳が若いので平気かもしれないが、歳を重ねたエルフ達の場合は、メギトラから話が洩れたと知られたのならば、全員消される可能性がある。


 この話は、それ程の情報だ。

 もしかすると、エルフ達が森に住む事を強要されているのは、歴代共の負の遺産(ふざけた価値観)だけではなくて、その勇者達との接触を減らすのが目的なのかもしれない。

 

 書物に残すだけなら、いくらでも真実を変える事が出来る。

 だが長寿のエルフは、実際に見てきた事実を語る事が出来る存在。

 そんな貴族の意図を知らない若いエルフ達は、掟だからと昔の出来事を語らないだろう。あのロリコンのように……。


 そして百歳以上のエルフは、貴族の意図を理解しているだろうから、同族の為に、絶対に口にする事はないだろう。


 だがメギトラは――。


「……もう疲れ切っていたのかもしれないな」

「あの……はい、そんな感情の色をしていました。そして嘘も言っておりませんでした」


「くそ、秋音のヤツ、俺にこんなの押し付けやがって」


 もしかすると秋音ハルは、自分が調べて知ったその情報の重さに耐えかねて、己の偽装を見破った俺に、気まぐれでこの話を聞けと言ったのかもしれない。


 正直、本当の真意は測りかねるが、少なくともヤツは俺を巻き込んだ。

 こんなクソ重い話に――。

 

「あああっ――ったく、俺にどうしろってんだよ」

「…………」


――どうすんだよコレっ。

 簡単に話せねえぞ? こんなの八十神(馬鹿)とか(バカ)が知ったら……。

 ああああっ、まさかアムさんもこれを知ってんのか? それと……。



「………………あのジジイは知ってんだろうな」

「あの、私もそう思います。きっとご存知かと」


「だよな……あっ! だからあの時っ」


 ギームルの事を思い出すと同時に、ギームルと交わした会話の内容もふと思い出した。


 魔王と戦う為に、中央(アルトガル)へと向かう途中で聞いた話。

 あの時、ギームルは――。


「……用意してあるプラン(作戦)って、この事だったのか」


 あの時のギームルは、何かを隠しているような顔をしていた。

 何か後ろめたい、そんな表情を一瞬だけ見せていた。


――そりゃ隠すか……。

 魔王(勇者)を勇者で袋叩きにする作戦なんて言える訳がねえ。

 ん? だからあんなにお粗末な作戦だったのか? あの時の戦いは……。



 ギームルが宰相の職を下りたとはいえ、魔王に対しての対応が酷すぎだった。


 最初は、無能な宰相と将軍がトップだから酷いのだと思っていた。

 だが、よく考えてみれば、その下の部下まで無能ではなかったはずだ。


「あのクソジジイが……」 

 

 クソジジイを罵倒したい衝動に駆られる。が――。


「ああああ、くそっ。もっかい初代に会うぞ。あのおっさんも問い詰めないと。知ってるはずなのに黙っていやがったな」


 ららんさんが言っていたある言葉の意味が、いま痛い程分かった。

 ペラペラと喋る時は、その裏に、本当に隠しておきたい事があるのだと……。


 ギームルはこれを隠しておきたかったのだろう。

 そして初代の方も、きっと何かを隠している。俺に話した事が全て真実だとしても、間違いなく何か(・・)を隠している。


「くそ……」

「……ご主人様」


 不思議な痛みが心に走る。

 切ない、残念、悔しいなどといった、寂しさを感じる痛み。

 怒りではないのに、腹の底の方から、刺すような痛みを帯びた感情が湧き上がる。


「あっ……」


――そっか……。

 俺は意外と信用してたんだな……。


 あのジジイを……。



「……ご主人様」

「ラティ……」


 気が付くとラティが、俺の頭を抱えるように優しく抱き締めていた。

 ラティの頬が、俺の頭を優しく撫でる。

 

 とても、とても心が凪いでゆく……。


「ありがとう、ラティ」




 この後、俺たちは世界樹の切り株がある森へと馬車を飛ばした。

 そして再び初代に会いに行った。



 だが、世界樹が俺に応じる事は――無かった。

  

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら幸いです。


あと、誤字脱字も……。

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