願いと祈りを果たす為に……
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やっと……
――おいおいおいおいおいっ!
マジか!? マジなのか? それって……えっ?
毎度毎度情けない事だが、俺は指摘されてから気が付く。
ラティには一目惚れだった。
そして激しく湧き上がった独占欲。
【魅了】と【犯煽】の事を聞いた時、とても残念に思ったと同時に、納得もした。
だからまったく疑っていなかった。その後の事――。
下元の【心響】、秋音の偽装らしき【固有能力】。
もしかすると俺が気付いていないだけで、知らないうちにそういったモノを遮っていたのかもしれない。
もう朧気にしか覚えていないが、一番最初、王の間で王女と会った時も、もしかすると何かを遮っていた可能性がある。
みんなノリが良いなと呑気に思っていたが、あれは王女が持つ【固有能力】に、勇者達は全員惹かれるように従っていたのかもしれない。
――あ、そういや八十神は速攻で落ちてたな……。
ん? 葉月もそうか? って事は魅了系じゃなくて【心響】か?
……俺には魅了が効かないのか。それなら、それならっ。
『お~い、僕の話を聞いているかい? うん、全く聞いてないね。それならこれで――』
「――っがああああああ! 聞いてるっての! アレだろ? アレ」
『……。――!」
「ぐがっ! 分かった、分かったから。もう止めてくれ」
この空間では身体が無いのに、俺は息を切らすように吐く。
激痛と共に見せられたのは、初代勇者からの依頼だった。
初代勇者は、俺に世界樹の木刀を使って魔王を消滅させろと見せてきた。
魔王を消滅させる事が出来るWSを作る、これが必須だと告げてきた。ただ木刀を使って払うのではなく、完全に消滅させるのだと。
これは、イセカイに住む現地の者では出来ず。外から来た勇者でないと出来ないのだと……。
『ずっと待っていたんだよ。得意武器に木刀を持つ勇者を……。しかしまさか、それが僕と同じ真の勇者召喚とはね。これは運命なんだろう、ここまで偶然が重なったのなら、きっと出来るはずだ。魔王の完全消滅を』
「で、その為に力が必要だから、それを回収しろか……」
見せられた映像には、その為の手順も映されていた。
俺がWSを使えるようになるには、俺のステータスプレートを書き換えないといけない。だがしかし、そう簡単に書き換えられるモノではないそうだ。
括弧を増やすなど、大した事でないモノなら容易に書き換える事が出来るが、良いモノに書き換えるには、それなりのモノを差し出さないと書き換えられないらしい。
等価交換というべきか、俺のステータスプレートを書き換えるには、膨大なエネルギーが必要なのだという。
そしてそのエネルギーを得る為に、初代勇者は、精神が宿った魔石からそれを回収して来いと言ったのだ。
そもそもあの精神が宿った魔石は、魔王を百年ごとに発生させる装置。魔物の湧きを調整させる役目もあるが、本来の目的はそちらがメインだとか。
5か所に散った精神の宿った魔石が、上空の魔王を上手く拡散と凝縮をさせているらしい。
そして初代は、魔王を消滅させた後なら、魔物の湧きを調整する手段があると言った。
それは、世界樹の木刀を元に還す事。
当時は無理だったが、自身が楔となった今なら可能らしい。
だが、魔王を消滅させるまでは、木刀を元に戻すことは出来ないと……。
『頼むよ、彼等に会って”力”を回収してきてくれ。そうすれば僕が機を見て君のステータスプレートを書き換える』
「マジか……。またあの地下迷宮の一番奥まで行かないといけないのか――って、あのダンジョンって広がってたよな!? やべぇ、すげえ大変なんじゃ……」
かなり気分が滅入る。
前回でも一週間以上掛かったのだから、今回はもっと日数が掛かるだろう。
個人ではほぼ不可能。複数の勇者の協力が必要となってくる。
『すまないね、このイセカイの為に、何とか達成して欲しい』
「イセカイの為にね……。ちょっと気になったんだが、何で貴方はそこまでする? 自身を世界の楔にして、こんな永い時間を独りで……」
素朴な疑問だった。
初代勇者は、王女と王子の願いに応える形でイセカイにやってきた。
そしてその願いに応え、黒い霧である魔王を倒した。
その過程で世界樹を切り倒してしまったので、その責任を取って楔になったと聞いた。
責任感があるとも言えるが、それだけでこの永い時を耐えられるとは思えない。
だから俺は、それを初代に尋ねた。
『――うん。そうだね……僕がここまで頑張れるのは……彼女の為さ。王女アリス、アリスが愛したイセカイだからね。だから僕はこのイセカイを護りたいのさ。正義感とかそんなカッコいいモノじゃなくて、もっとありふれた理由だよ。アリスの為に僕は此処にいるんだよ』
「ああ……すげえ納得出来た。確かにそうだな、俺もそうだ……」
心に浮かんだのはラティの笑顔。
俺はラティの為に頑張っている。
最初は王女の為にという想いもあったが、今は間違いなくラティの為だ。イセカイの事など知らん。今もラティの為に俺は戦い続けている。
( あとは……モモちゃんの為かな? )
俺は初代の言葉にとても納得が出来た。
ラティの為、その過程で魔王を倒そうと思っているのだから……。
『ああ、とても可愛らしい子だよね。そう言えばその子は【蒼狼】持ちだね。とても懐かしいなぁ……僕が中二病全開で作り上げた【固有能力】』
「へ? 【蒼狼】を!?」
初代の意外な発言に、俺は思わず喰い付く。
確かに俺は、今、ラティの事を思い浮かべた。しかしここで初代が、ラティの事と【蒼狼】の話をしてくるとは思わなかった。
『【蒼狼】は僕が作ってある人物に授けた【固有能力】なんだよ。【固有能力】のコンセプトは大食いさ』
「へ? 大食い? そんな感じの【固有能力】じゃなかったような……」
『ああ、大食いってのは、名前の元となったフェンリルの事さ。北欧神話で聞いた事がないかい? 神をも喰らう大狼って』
「あ、知ってる。でもそれが大食いって……?」
『うん、食うといっても喰らうの方かな? 要は、他の【固有能力】を喰らう【固有能力】って感じかな? あれだよ、スキルを奪う系の【固有能力】だね』
「あああっ! だから【固有能力】をちゃんぽんしたような性能になってんのか! つか、マイナスとなる【固有能力】まで喰らってんぞ!」
『あはは、悪食なのかもね。懐かしいな……これを授けたアイツはどうなったんだろ。ロートシルトだったけかな~。……まぁそんな事より、彼女の事を大事にしてあげなよ。とても大事な子なんだろ?』
「ああ、当たり前だ。――あっ、そういや聞きたい事があった。【蒼狼】って凄い価値があるんだよな? それって――」
『――すまない、そろそろ時間だ。じゃあ頼んだよ』
「待ったっ! これは大事な……」
景色が一瞬で変わっていた。目の前に広がるのは深く静かな森。
視界を少し下げれば、そこには巨大な切り株が存在している。
「あの、ご主人様?」
「あ、ああ。戻って来たのか――ッ!!?」
「あの、どうなさいました? 酷く心が揺れているようですが……」
ラティが横から俺の顔を覗き込んでくる。不安そうに眉をひそめ、彼女は俺の瞳を見つめてくる。
視界に映るラティが、いつも以上に愛おしく映る。
揺れる瞳が、愛らしい口元が、輝くような亜麻色の髪が、その全てが愛おしい。心の底から彼女を抱き締めたいと思えてくる。本当に愛おしい……。
ほんの少し前、初代勇者に尋ね損ねた、【蒼狼】持ちが魔王となる資格があるかどうかなど、何処かに消えていく。
ベラベラと全てを話してくれた初代勇者。
ららんさんが前に言っていた言葉が頭に過ぎる。知っておいた方がいいが、出来れば知らないでおきたかった話……。
得体の知れない不安感が広がっていたのだが、今は、胸を張ってラティに、『好きだ、愛している』と言いたくて仕方なかったのだった。
もう怯える事も、後ろめたい気持ちなど一切無く――。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら嬉しいですっ!
あと、誤字脱字も……切に。