初代勇者雑談
まだ面倒なのが……
――待て待て待て待てっ!?
えっと、いま聞いた話を統合すると……あれ?
俺がもし陣内組を拡大させると、このイセカイが崩壊するの?
え、ゆうしゃな俺が魔王様?
初代勇者の話は、予想外の方向へと進んでいた。
最初は、”俺”が異世界を救う的な流れだと思っていたのだが、気が付くと何故か、”俺”がイセカイを滅ぼす流れになっていた。
もしかするとこれは、俺に自害しろと遠回しに告げているのかもしれない。
( まさか……俺が槍使いだから? )
『違うからね? 槍使いは自害するって、まったくどんな認識なんだか……』
「良かった、違うのか――って、一体何を俺に伝えたいんですか? 真の勇者召喚やら力やら、そんでもってイセカイが崩壊するって話に飛んで」
『ああ、すまない。実はね、久々の会話が思いの外楽しいんだ。だからついね………………だから、もうちょっと付き合って貰えるかな?』
「へ?」
初代勇者の語りが続いた。
より正確に言うならば、二周目に入ったともいえた。
そしてそれは三周目にも突入した……。
要は、先ほど話した内容を少し変えて、もう一度話し始めたのだ。
それはもう止まる事無く、しかもちょっとでも理解が遅れようモノなら、即座に激痛を送って来やがった。
そして新たに語られた物理法則の話では、元の世界と異世界では光の性質も違うと教えてもらった。
元の世界とは違い、イセカイでは光に熱はほとんど含まれていないらしい。
例えば、虫眼鏡で光を集中させたとしても、それによって火が点く事など無いそうだ。
他にも、光は単純な明るさとして存在しているので、強い光で眩しいといった事もないそうだ。
暗い場所からいきなり明るい場所に出れば、目が慣れておらず、眩しいと感じる事はあるが、閃光弾のような目潰しをする事は出来ないだとか。
これを聞いて俺は、サリオの超”アカリ”のことを思い出す。
あれは確かに眩しいとは思ったが、だからといって特にキツイとは思わなかった事を。
勇者召喚に関しては、初代勇者は結構気を遣ってくれていた事が分かった。
まず楔の件。
これは、召喚された勇者が冷遇されたりしないようにとの配慮だとか。
誰もが勇者に好意を抱き、勇者の行動全てを是とするように。
予想外だったのは、召喚された勇者が思いの外『負の遺産』を遺した事と、勇者との間に出来た子供が楔に対する抵抗を得た事。
その結果、貴族達には楔の効力が十全に発揮されなくなったと初代は言った。
恩恵の件は、納得したくないが納得した内容だった。
勇者達は、召喚される途中で、楔や祝福などが得られるのだという。
これは初代勇者が作り上げた、勇者召喚の儀式に組み込まれているモノで、どの勇者にも等しく与えられているのだと。そう、ゆうしゃの俺にも……
だが――。
【STR】は、ステータスの上昇率。
【DEX】は、勇者専用のWSとSP値。
【VIT】は、恩恵の効果範囲。
【AGI】は、レベルの成長速度の上昇。
【INT】は、勇者専用の魔法とMP。
【MND】は、勇者専用の【固有能力】。
【CHR】は、勇者の楔の効果範囲。
となっており、俺の場合は――。
【力のつよさ】は【STR】。
【すばやさ】は【AGI】。
【身の固さ】は【VIT】。
となっているので、恩恵に関しては問題無かったのだが、それ以外は全て得ることが出来なかったのだ。
ただ、【身の固さ】などになっているので、想定していた以上の効果になったかもしれないと告げられた。
【固有能力】についても教えてもらう。
【聖女】や【女神】には意外な補正能力があり、老いに対してとても強いらしく、仮に百歳になったとしても外見は三十前だとか。
ただ、寿命は変わらないらしい。
他には、【心響】が想定以上だったと初代は語った。
この【固有能力】は、人の心に強く訴え響かせる能力。
これは勇者の楔の効果と相まって、とても強い効果を発揮したと初代は分析したのだ。
初代曰く、王になれる能力だと……。
俺はこの話を聞いて、あの時の違和感の正体が分かった。
思い返してみるとその通りだった。下元がやって来ると、その場の空気が一気に変わっていたのだから。
【心響】によって、恐ろしいほど勇者の楔の効果が発揮されていたのだという。
脱線したり元に戻ったりと、初代の話はコロコロと変わる。
時には話が飛んで、木刀の話になったりもした。
俺はその時にふと思った。何で最初から木刀を通して俺に語り掛けなかったのだろうと……。
それを思い浮かべると、初代勇者はすぐにそれも説明してくれた。
木刀は最初の頃、眠っているような状態であり、とてもではないが、俺に語り掛けられる程の力は無かったそうだ。
だが、元王妃の幽霊を払った時や、北原が発動させようとしていた勇者召喚の魔法陣を破壊した時に、その力を吸収していたのだという。
これも思い返してみると確かに吸収していた気がする。
普段は弾き飛ばすようにしていた木刀が、あの時は吸収していた。
あれは元からイセカイにある力ではなく、初代勇者の血を引いている者たちだからだそうだ。
特に勇者召喚の魔法陣には、直系である王女から力が流れ込んでいたので、かなりの力を蓄える事が出来たのだとか。
あれで世界樹の木刀が完全に目を覚ましたと初代は言った。
そしてあの出来事の後、俺は非常に危険な状態だったのだと初代は告げてきた。
危険な状態とは、俺が魔王候補になっていたという事。
俺には魔王に成れる資格があったらしく、逃亡生活中、俺の上には魔王から糸のようなモノが垂れ下がっていたそうだ。
もしあのままだったら、俺は間違いなく魔王になっていたのだという。
だが、魔王からの糸に絡め取られる前に、俺が世界樹の木刀を手にした事によって、その絡め取ろうとした糸を弾いたそうだ。
俺はこの話を聞いて、魔王が何処にいるのか初代に尋ねた。
この問いに対して初代は、魔王は遥か上空に漂っていると答えた。
魔王は癌のような存在。
その癌のような存在を、大地の下の”力”の渦に戻してしまうと、まさに癌が転移するように汚染が広がると予測が出来たので、魔王は遥か上空に隔離したと教えられた。
遥か上空、約二百キロに薄く薄く拡散するように魔王は散っており、それが百年間掛けて集まるのだとか。
時々報告で聞いていた魔力の渦とは、その渦自体が魔王だったのだ。
それを聞いて俺は、先ほどの模型に目を向ける。当然模型なのだから、渦となっている魔王は見えない。
そこである事に気付く、外側である透明な球体の内側に、薄っすらと時計が見えた事に……。
これも尋ねてみると、返ってきた答えは予想通りだった。
薄っすらと見えたのは太陽。
要は、外側の外皮が回ることで、俺たちの見上げている空が動いていたのだ。
本当に天動説だった。
イセカイの空が青いのは、光が屈折してレイニー散乱がどうたらこうたらではなく、空の模様をした外皮のようなモノがあるからだった。
早い話が動くスクリーンだ。
三代目はこれを利用して、太陽を時計にしたのだとか……。
このイセカイは、球体の中に作られた箱庭だった。
もうパンクしそうな程、新たな情報を教えられる。
初代勇者は、一通り吐き出した後、これからが本題だとばかりに声音が切り変えた。その気配に、俺も心を引き締める。
『さて、そろそろ本題に入るね』
「ふう、やっとかい……」
最初は敬意を払っていたが、そろそろそれも切れ始めた。
だが正直なところ、初代から語られる話は、とても貴重な情報ばかりだった。
それを知ることが出来た事にだけは感謝する。
『単刀直入に言う。世界樹の木刀を使い、魔王を完全に消滅させてほしい』
「え……でも、何か追い払うことしか出来ないとか言っていたような」
『うん、普通なら追い払うだけだね。倒す事は出来ても消滅させる事は出来ない。だけど、消滅させる事が可能なWSを創り出して欲しい』
「待ったっ! だって俺は……WSが使えない」
『それは知っているよ。そのステータスだからね。でも、僕ならそれを作り変える事が出来る』
「あっ、そうか。ステータスをさっきみたいに作り変えれば」
思わず力んでしまう。
どんなに練習しても、一度も放つ事が出来なかったWSを放てるのかもしれないのだから。
俺がWSを放てない理由は、SPが無いので門が作れない。
SPさえあれば、俺にもWSが――。
「――でも、そんな都合良く消滅させるWSを作れるモノなんです? もし作れるんだったら、元からそれで消滅させていたはずだし……貴方が」
『うん、その通りだね。でも僕には何かを消し去るといったモノは作れなかったんだ。多分、【創造】の影響だろうね。だけど君は違う』
「違う?」
『君は僕と同じで、一人の少年の無垢なる願いと祈りで召喚された勇者だ。君と僕は、同じ勇者召喚なんだよ』
そんな話は聞かされていた。
直接ではないが、その話を俺は聞いている。アイリス王女の弟が、勇者召喚に巻き込まれる形で俺を召喚したと。
だが思う、それが何だと。そんなモノは関係無いと思うのだが……。
『それとね、君は気付いているかい? 君はこのイセカイから隔離された存在だって事が』
「はい? 隔離? 確かにステータスプレートとかは他とは違うけど……」
『おかしいとは思った事がないかい?』
「へ? 何を」
毎度毎度ながら戸惑ってしまう。
確かにおかしいとは思う事は多々ある。だが、そのおかしいとはステータスの事。しかし逆に、おかしいから納得出来る部分もあった。
【INT】が無いので、魔法に対して一切抵抗が出来ないなど、おかしいとは思うが、納得が出来るモノばかりなのだから。
『君は僕と同じ、真の勇者召喚ではあるけど、その途中の過程は僕が作り上げた勇者召喚なんだ。だからかな、他の勇者たちとは完全に異なる部分があるんだよ。君はこのイセカイと隔離されているんだ。他の言い方をすると、君だけ別のゲームをやっているに近いかな?』
「おおおおおおぉぉ、ああっ、確かにそうだろうな!」
言われなくても分かっている。
それはもう、本当に当初からそう感じていたのだから。
皆が最新作のゲームをプレイしている中、自分だけレトロなゲームをやっているような感覚。それなのに、舞台は一緒という……。
『ん、ちょっと認識が違うかな? その隔離ってのはね、影響を一切受けないとも言えるのかな? 例えば殴られたり魔法を掛けられたり、そういった直接的なモノは隔離出来ないけど、他の間接的なモノの影響は受けないんだ。一人だけルールが違うともいうべきか……要は【固有能力】などの影響を一切受けないんだよ』
――んん??
えっとどういう事だ? 【固有能力】の影響を受けない?
間接的だから? えっとどういう事だ? それがなんで……。
『ザックリと言うね。イセカイと隔離された存在だから、イセカイの理に囚われる事なく、相手を消滅させる事が出来るかもしれないんだ。イセカイの理に完全に囚われていた僕には出来ない事だ』
「あ~~、ふわっとですが解った気がします。でも、【固有能力】の影響を受けないてのがイマイチ……」
『おや? 不思議に思った事はないのかい? 君は直接的で無い【固有能力】は一切届いていない事に』
「え? えっと、だからその直接的で無い、間接的な【固有能力】ってのが……イマイチなんの事か」
自分でもどう説明したら良いのか分からない。
だがこの空間では、俺が思っている事が伝わるので、初代はその言葉足らずの質問にしっかりと答えてくれる。
『だから、さっき話した【心響】とか定番の【魅了】。他には偽装とかそう言ったモノは、全て君には効いていないんだよ?』
――は? え?
俺には魅了が効果がない? え、それってもしかして……。
初代の言葉に、俺は完全に固まってしまったのだった。
読んで頂きありがとうございます。
色々と解禁です。お答え出来る質問にはお答えします~
感想などなど。
すいません、忙しく返信が全て返せず申し訳ないです。
全て読ませて貰って、励みなっています。