崩壊の訳
めんどうかいです=
勇者召喚。
それの始まりは、願いであり祈りだった。
一人の少年が、姉と世界の事を想い手を伸ばした。
一人の男が、美しい少女とその弟の為に手を取った。
それが最初の勇者召喚だった。
だが、そのあとに続いた勇者召喚には、願いと祈りは無かった。
あるのは、世界を護り続けるという使命。王族だけが背負う、贄を差し出し続ける呪縛となってしまったのだ。
そしてそれは今では義務となり……。
しかも――。
『勇者をこの異世界に喚び寄せる事によって、この異世界が崩壊するかもしれないんだ』
「ちょっと待ってください。え? だって勇者がいないと魔王倒せないんですよね? イセカイの人だけだとキツいって……」
『ああ、それは間違っていない。勇者が居なければ、魔王によって世界中が腐ってしまうだろうね』
「だったら何で?」
『そうだな、まず何から説明をしたら良いか……。うん、そうだ。さっきの脱線した話の続きになるけどいいかい? 力ってさ、何処から来るとおもう?』
「はい? ちからですか?」
『うん、力。例えばWSだったり魔法だったり、そういった力は何処から来ると思う?』
初代勇者は、WSや魔法などが何処からやってくるのかと問うてきた。
両方とも使った事のない俺にはいまいちピンと来なかったが、よくよく考えてみれば不思議な現象だ。
鉄をも容易く貫くWS。
鉄をも容易に溶かす魔法。
俺も槍で鉄板を貫く事は出来るが、それは優秀な装備と鍛錬、そして高レベルであろうステータスのお陰。これは並大抵の事ではない。
だがレベルの低い冒険者でも、WSさえ使えればそれに近い事が出来る。
言われて初めて気付く、どう考えても不自然だった。慣れてしまっていたから疑問に思わなかったが、あの力は一体何処から来ているのだろうと……。
『そうなんだよ。不自然過ぎるんだよね。そうだ、戦車とかが砲撃する動画を見た事ないかな?』
「また頭の中を…………えっと、戦争物の映画とかなら少しは」
『あ~~映画かぁ~。アレはちょっと違うな。よしっ』
「――あったまがぁ痛いぃ! って、ああ、そういう事か……」
強制的に見せられたのは、戦車が主砲を放つ映像だった。
凄まじい轟音と共に、戦車の砲身の先が火を放つ。
その部分は映画などで見た事があるが、戦車の周りは違っていた。
大気を震わせる轟音と共に、戦車の足元の地面までもが激しく振動していたのだ。
土煙が上がるなどというヌルいモノではなく。下から何かを叩き付けられたかのように土煙が舞っていた。
『――昔ね、戦艦大和ってのがあってね。それの主砲を射撃した際に、もし近くに人が立っていたら、主砲が放つ衝撃波で死んでしまうそうなんだ』
「あ、それ聞いた事があるな」
『そう、そうなんだよね。あれだけ高威力のWSや魔法を放ってもね、それ程反動が無いんだよね。普通では考えられないよね?』
――確かにそうだ……。
大剣とかは振り回して身体が持っていかれる事はあるけど。
弓の場合はほとんど反動がないよな……。
岩とか余裕で砕く砲撃のような一撃が、ほとんど反動無しで? いやでもっ。
「――えっと、それは此処がイセカイだからじゃ? さっきもそんな事を言っていたし……」
『うん、その可能性もあるね。だけどその場合は、逆に周りに衝撃が広がってもおかしくないんだ』
「そっか、そうなるのか……それなら何で?」
『それがさっき言った、『力』が何処から来るに繋がるんだ。これを見て欲しい』
「へ? 模型……? この異世界の!?」
俺の目の前に現れたのは、シャボン玉のような透明な球体。
そしてその球体の中には、元の世界の北の大地をふっくらとさせたような島が水に浮かぶ、とても精巧に出来たジオラマだった。
実際に上空から見た事は無いが、それでもこの模型は、異世界を模しているのだろうと分かった。
『その模型の下の方を見てくれるかな』
「え? 下の方です?」
模型の精巧な出来に、俺は感心して上から覗き込むように見ていたが、初代勇者はその下側、要は裏側を見ろと言ってきた。
俺はそれに従い、透明の球体の下側を覗き込む。
「光の渦? 流れ? なんですこれ?」
『それが”力”だよ。元の世界の物理法則とは違って、このイセカイではそこから力を引き出して様々なWSや魔法を使っているのさ』
「え? 引き出すって……?」
『そのままの意味さ。例えばさ、魔法で高温の炎だったり大量の水を作る事が出来るだろ? それらはさ、大地の下に渦巻く”力”を変換させる形で発現させているんだよ。だから反動もほとんど無いんだ』
「えっと……エネルギーみたいなモノがあって、それが魔法とかWSの元になっているって感じで?」
『うん、そしてね。その”力”を引き出す為にSPやMPが必要なんだ。要は、力を引き出す為の門を作る感じかな? そしてその門の大きさによってSPやMPの消費量が変わるんだ』
「門……」
『そう、門だよ。そこから引き出された力は、WSや魔法になるんだ。あっ、そうそう、君たちが最近やっていた”重ね”だけどね、あれって門に門を重ねる事になるから、ホントに一瞬だけ門が大きくなるんだ。それで通常よりも高い威力になるんだよ』
「あぁ、だから放出の場合は”重ね”が発生しないのか」
『うん、放出系WSは、WSを放った場所に門を作るからね。だから門が重なる事がないんだ。――で、話は戻るんだけど。実はその”力”が許容量の限界を迎えて溢れてしまうかもしれないんだ――』
「へ?」
初代は、その”力”が溢れてしまう理由を語った。
本来、大地の下に渦巻く”力”は増える事はなく基本的に一定量。
WSなどを使ったとしても、その力を顕現させた後は、また大地の下へと戻っていくそうだ。
魔物も元はといえば下に渦巻く力が形どったモノで、渦巻く”力”に負の感情が触れて汚染されて地上へと放出される。
そして倒されて、黒い霧となって大地へと戻る。
人が死んだ場合も同じで、その身体と魂は大地へと還るのだとか。
”力”は常に循環し続けており、人で喩えるならば血液のようなモノ。作物などもその”力”によって育っているだとか。
丸い箱庭のような世界は、一定量の”力”によって回っている。
だが此処で、勇者召喚というイレギュラーが起こった。
世界の外から、とても強い力を引き入れる事となったのだ。少しだけなら特に問題はない。だがしかし、それがずっと続くと話が変わるのだとか。
『知っていたかい? 僕が居た時代よりも魔物たちが強くなっているって。あとね、冒険者達が使うWSや魔法の威力も上がっているのさ』
「……その”力”ってのが前よりも増えたからか?」
『うん、正解。あとね、魔王も代を重ねる度に強大になっているんだよ』
「やっぱりか……」
話の流れからそんな気がしていた。
魔物が強くなっているのならば、それに似た存在である魔王もそうなのだろうと。
『別に今すぐって訳じゃない。でもね、そんなに遠くない先、このイセカイは溜まった”力”に耐え切れず崩壊する。……皮肉だよね、イセカイを救うはずの存在がイセカイを崩壊させるかもしれないんだから』
何処か遠くを見ているような、そんな声音で初代は言った。
掴み切れない心境。
初代勇者は、この状況を一体どんな気持ちで見てるのだろう。
『あ、そこまで気にしてないかな? というより、もう感情が希薄なんだよね……もう長い事ここに居続けているから。残っているのは、ただ守りたいという想いだけかな?』
「ホントに駄々洩れなんだな……」
『正直、この件は予想外だったんだ。まさか召喚された勇者がイセカイを破裂させるとは思っていなかったからね』
「あの、勇者が来るとそんなに溢れそうになるんですか? 召喚されても20人程度なんだし、そこまで影響があるとは思えないけど……」
『勇者の恩恵も影響が大きいんだ。それによって育った者も世界に大きく影響を与えるんだ。本来ならレベル30でも十分高いのに、100を超える者が大勢出て来るんだからね』
「へ? 育った冒険者も!? 何で……」
『恩恵によって規格外になるからね。本来ではあり得ない強さ。外からやってきた勇者から力を与えられる形になるからね……』
――へ? それって俺の場合はもしかして……。
あれ? 俺の恩恵ってかなりマズイんじゃ?
『そうだよ。君の場合は特にマズいね。本来、大人数は同時に育てる事が出来ないように調整しているってのに……まったく参るよ』
「マジか……」
『今すぐ崩壊するって訳じゃない。だけどね、このままでは崩壊するんだ。勇者と、その勇者に育てられた冒険者たちによってね。このイセカイは、空気を限界まで詰められた風船のような状態なんだよ』
読んで頂きありがとうございます。
すいません、説明回が長々と;