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願いであり、祈りに応えた先……

面倒な説明かい~

 初代勇者は、世界樹の代わりを務める為に様々な準備をしたそうだ。

 

 まずは黒い霧(魔王)の対策。

 魔王が近い将来再び発生する事が予想出来た。これは魔物が湧くのと同じで、止める事の出来ない現象。


 黒い霧となってまた発生するのか、それとも別の形で発生するのか分からないが、間違いなく発生するだろうと。


 初代勇者が居れば問題はない。

 だが、初代勇者がいつまでもいる訳ではないし、そんなにポンポンと魔王が発生されては困る。

 ならば、魔王が湧くのを調整すれば良いとなった。

 

 だが、ずっと抑えたままだと、それがどんな結果になるか予測がつかないので、ガス抜きのように、百年置きに湧くようにする事にしたのだという。


 次はその魔王を倒す者の用意。

 倒せる者が居れば良いが、百年後に都合良く倒せる者がいるとは限らない。

 それなりに強い者はいるが、初代勇者と比べると格段に落ちる。


 初代勇者の言葉で言うならば、『スロット数が足りない』。

 スロットとは、パソコンなどのメモリースロットのようなモノ。

 大した事のない【固有能力】なら、スロット数をあまり必要としないが、強力な【固有能力】の場合は、多くのスロットを必要とする。WSや魔法を習得するのも同じだとか。


 だから初代勇者は、この世界を救い続ける為にある決断を下した。

 それは勇者召喚を作り上げること。


 自分の子供、要は自分の遺伝子を軸に、自分が居た世界へと道を開き、そこから強制的に連れてくる(召喚する)という術を作り上げたのだ。

 そうすれば自分と同じ程度のスロット数を持った者を継続的に用意する事が出来る。


 初代勇者は、あまりにも身勝手といえる方法を選択した。

 このイセカイを守る為に……。


『……だけど、その為に僕は子孫を巻き込む事に』

「その辺り考えていなかったのかよ……」


『ああ、全く考えていなかった訳じゃないけど、どうにも実感が無くてね。どこか甘く考えていたよ。――自分の子供たちが、アリスには本当に悪い事をしてしまった』

「ってか、【創造】だっけか? そんなチート能力があったんなら何とかなったんじゃねぇのか? そんな面倒な事をしなくても……」


 俺の素直な感想だった。

 全てを把握している訳ではないが、初代の持っている【創造】は万能だと思えた。だから俺はそう尋ねたのだが――。


『あ~~、ちょっと勘違いしている。いいかい? 僕がチートなんじゃなくて、この異世界(イセカイ)がチートなんだよ』

「へ? このイセカイがチート? 何を言って……?」


『ふう、じゃあ説明するね。えい』

「――があああ!? っだ、から……くそっ、そういう事かよ」


『そうなんだよ。ステータスプレートに表示されているのは、その者の強さを示す表示ではなく、その者をどれだけ強く出来るかの表示なんだよ』


 見せられた映像(モノ)は、初代勇者の頭の中(知識)だった。


 そして見せられた知識とは、ステータスプレートの事と、このイセカイの仕組み。

 

 ステータスプレートに表示されているモノは、その人にどれだけステータス()を上乗せ出来るかを示しているのだった。

 

 少し考えてみれば当たり前の事。

 赤子のSTR3と、成人男性のSTR3が、同じ力の強さのはずがないのだ。

 その者に対し、【STR】、力の強さが3足されるという意味だ。


 もっと厳密にいうと、その3とは上限であり、普段からしっかりと力を使っていないと、3という数字分の恩恵は受けれず、2程度の恩恵にしかならないらしい。

 さらに付け足すと、寝たきりの状態などの、全く動いてない場合は、1程度まで下がるのだとか。


 そして【固有能力】も、このイセカイ(世界)から授けられるモノ。

 勇者などがチートなのではなく、それを授けるイセカイの方がチートだったのだ。


「……だけどさ、その【固有能力】を使えるんだったら結局同じだろ? だったら――」

『いや、【創造】はそこまで万能じゃないんだ。簡単にいうと、無機物とか命の概念が無い物なら作り変える事は出来るけど、生物とか有機物は作り変える事が難しいんだ。作れるとしたら……子供ぐらいかな? 嫁さんが必要だけど』


 初代の言葉に、一瞬ラティの顔が浮かぶ。

 だが今はそんな時ではない。俺はすぐに切り替える。


『世界樹だって一度切り倒す事で木材にして、その後、超圧縮して木刀に作り変えたんだから。もし何でも作り変える事が出来たのなら、生えたまま上手く作り変えたさ』

「何だか凄いんだか、扱い難いやら。他には何を(・・)作り変える事が出切るんだよ」


『そりゃあ生き物とか植物以外さ。例えば――これとか』

「へ? え……これって……ん? おい、まさか!」



名前 陣内 陽一

【職業】 ゆうしゃ 


【力のつよさ】103

【すばやさ】109       

【身の固さ】 102

【EX】『武器強化(中)赤布』『魔防(強)髪飾り』

【固有能力】【加速】

【パーティ】ラティ101 サリオ113 ららん11

 

 ―――――――――――――――――――――――――


『何か職業の所に【】が無かったからね、だからカッコ(【】)に作り変えたのさ、非童貞をね。どうだい僕の【創造(クリエート)】は?』

「貴方は神かっ!」


 俺の弱点ともいえるふざけた表示が、初代の【創造】によって作り変えられた。

 これでもう俺は無用な恥をかく事がなくなる。

 少し調子の良い話だが、俺は初代勇者としっかり向き合う事にする。


『ぶはっ、面白いね君は。感謝の感情が溢れ出ているよ』

「そ、そりゃそうだろ……しかし、ホントに作り変えられるんだな。ステータスプレートにまで干渉が出来るとは」


『このイセカイは元の世界とは全く違うからね。ステータスプレートだってゲームの中ならよく見るけど、元の世界じゃ無いから余計に特別に思えたんだろうね。あっ、そうだ』

「はい? 何です?」


 俺は初代勇者に敬意を払う事にする。

 斜に構える事はせず、もっと真摯な気持ちで向き合う。


『ちょっと話は脱線するんだけど、このイセカイって、元の世界とは物理法則とか科学法則が全く違うって知ってた?』

「へ? 法則が違う?」


『そうなんだよ。例えばだけど物の落下速度、自由落下ってのはみんな同じだろ? 空気抵抗が無い状態ならみんな同じってヤツの』

「えっと、要は引力ですよね? え、それが違うとか?」


『そうさ、違うんだよ。このイセカイでは、物体は下に落ちるっていう法則によって下に落ちるんだ。だからね、物によって落下速度が違ったりすんだ』

「へ?」


 初代は、このイセカイの物理法則のようなモノを教えてくれた。

 

 物が下に落ちるのは、物は下に落ちるという法則があるから落下する。

 重い物ほど速く落ちるし、MPが多い者ほど速く落ちるとも言った。


 ただ、落ちる速度が速い訳であって、MPが多いからといって、その分体重が増す訳ではないそうだ。


 ひょっとすると、俺が何回も落下して生還出来たのは、MPが全くない為、落下速度が緩かったのが理由なのかもしれない。


 他には、火を起こすのに酸素が要らないなどもあった。

 正確にいうならば、そもそも酸素すら無いだとか。俺たちが呼吸している空気は、酸素によく似た別のモノらしい。

 

 元の世界とは全く違う物理法則。

 空気抵抗なども、【AGI】の数値によって変わるだとか。

 【AGI】の数値が高い者は、空気抵抗などの影響をあまり受けず、数値が低い者より速く動けるとも教えてもらった。


 そして他にも驚いたのが、爆発などの衝撃も、元の世界とは全く異なるとの事。

 筒の中に火薬を詰めて、それを爆発させれば、その爆発エネルギーは空いている方へと抜けていく訳ではないのだとか。

 他にモンロー効果などといったモノも、このイセカイでは存在しないという。


 爆発エネルギーは、等しく周囲に散るらしい。

 早い話が、仮に鉄砲などを作ったとしても、火薬が破裂するとそのまま銃身が破裂するだとか。


 余程硬い物で作れば別なのかもしれないが、鉄で銃を作った場合は、元の世界で喩えると、普通のガラスで弾丸と銃を作るようなモノだとか。


 引き金を引けば、まず間違いなく破裂する。

 

 この話を聞いて、俺はフユイシ伯爵が吐いていた不満を思い出す。

 元の世界と法則が違うのだから、元の世界を基準に作ったのでは上手くいくはずがない。あの男は、全く無意味な事を続けていたのだろう。


 

『――どうだい、ちょっと面白い話だろう?』

「滅茶苦茶重要な事ですよ? 大体、【天翔】だってまさか、引っ張る力を一時的に遮断していたなんて……」


 ラティがよく使う【固有能力】の【天翔】。正確には【全駆】だが、これにも凄い秘密があった。


 【天翔】を発動させた瞬間は、下へと引っ張られる法則()を遮断しているらしく、通常よりも楽に動けるようになっているのだとか。

 

 喩えるならば、一瞬だけ無重力状態。

 だからラティは、易々と高い塀などを超えたりしていたのだろう。

 しっかりと認識している訳ではないので、その事には気付いていないだろうけど、きっと無意識にそれを使いこなしている。



『ああ、話が脱線し過ぎたね。そろそろ話を戻すよ』

「はい。――で、チートなイセカイを上手く使って勇者召喚を作りあげたと?」


『うん、その認識で間違っていないね』

「なるほど……」


 初代勇者は、黒い霧(魔王)を倒す為とはいえ、世界樹を切り倒してしまった責任を取る為に、自身を楔として世界樹の代わりを務める。

 

 そして魔王が再び発生しても問題がないように、勇者召喚という対応策も遺す。

 

 自分の子孫に負わせる形で……。


 酷いヤツだと思う。

 だが一方で、責任感があるとも思えた。少なくとも、今だけではなく、後の事もしっかりと考えていたのだから。


 きっと王女の方も、このイセカイを護る王族の使命として、それを受け入れたのだろう。自分達の子孫が贄となる未来を……。


 納得は出来ないが、少しだけ理解は出来た。

 二人は、共に世界を守り続ける事を選んだのだ。


『でもね……今度はその勇者召喚が、この異世界(イセカイ)を滅ぼすかもしれないんだ』

「へ? 何で……?」


『やっぱり紛い物の勇者召喚じゃ駄目だったんだろうね。純粋な願いと祈りではない勇者召喚では……』

「? 一体何が」


 初代勇者は、今までにない程の暗い声音で告白をしてきた。

 重く重く、暗く暗く。そんな仄暗い声音で――。


『……駄目だったんだ。王族の使命だとか、そんな呪いのような呪縛の勇者召喚では、このイセカイを救い続ける事は出来なかったんだ』

「…………」



『そう、真の勇者召喚でないと、この異世界(イセカイ)は救えないんだ』 

  

読んで頂けてありがとうございます。

宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

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