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願いであり、祈りに応えた決意

遅くなりました。

『――こうして僕は、このイセカイにやって来たんだよ』

「……これが最初の勇者召喚」


 焼き付けるように見せられたモノは、初代勇者、御神木英雄がこのイセカイに召喚されるまでの経緯だった。


「ってか、夢の中じゃなんにも触れる事が出来なかったはずじゃ? 何で王子の手は握れたんだよ」

『ホント、何でだろうね。――でも思うんだ。あれはきっと、願いと祈りが起こした奇跡ってヤツじゃないかな?』


「っんな、ファンタジーじゃあるまいし……」 

『ファンタジーでしょ』


「うっ」


 心の中で肯定してしまう。

 見せられた映像には、『嘘』が含まれているとは思えなかった。

 流れ込んでくる感情も、真実だったのだろうとそう感じさせられた。


『じゃあ、次いくね?』

「ちょ、待ったっ! またさっきみたいな映像を見せられるか?」


『うん? そのつもりかな。そっちの方が手っ取り早いし』

「待った、廃人になるってのっ、あれを続けられるのはキツいって」


 ガチで本気で素直な気持ち。

 あれは頭の中が焼き付くような激痛だったのだ。

 とてもではないが、疲弊して今、あれをもう一度体験させられたら今度こそ完全に焼き切れる。精神が持たない。


『なるほど。【速考】や【並列】の【固有能力】があれば問題ないのだろうけど、確かにそれらが無いとキツいか』

「無ぇよそんなモン。俺が持っているのは【加速】だけだっての」


――あれか?

 【加速】で頭の回転でも速くしろってか?

 物理的に頭の回転を速くしろってのか? 上手くねぇんだよ、アホか!!



『はは、面白い案だね。物理的に頭の回転をって、なかなかいいセンスだ』

「なっ、いま考えたのは冗談だっての。頭の回転を物理的に速くしてどうすんだよ。脳がねじ切れるわっ」



『そうかい? 意外と悪くない案だと思ったんだけどね。シナプス間の伝達速度が上がるかもよ? まぁ流石に無理だとは思うけどね』  

「当ったり前だろ――え、あれ? 待ったっ、今それを……あれ?」


 余りにもスムーズ過ぎて全く違和感を覚えなかった。

 だが先程のは、頭の中(・・・)で言った事。それなのに――初代は。


『ここは特別な空間だからね。頭の中で考えている事もそのまま伝わるんだ』

「な、マジかよ……」


( は? 嘘だろ?)


『本当だよ』

「――ッ!?」


『じゃあ、話を続けるね』


 初代勇者は、俺の動揺など気にする事なく、話の続きを語り出した。

 死の床についた王子の手を取った初代は、そのままイセカイに顕現した。そして、呆気ないほど簡単に受け入れられたそうだ。


 王子が死の間際に、希望となる者を呼び寄せたと好意的に解釈されたそうだ。

 実際のところ、それは間違いではなく、本当に王子が引き寄せたようなモノだ。


 そして初代勇者は、【固有能力】の【創造】を駆使して、次々と戦う手段を創り出したそうだ。

 当時はまだ貧弱であったWS(ウエポンスキル)を、もっと強いWSへと作り変え、黒い霧(魔王)によって引き寄せられた魔物を次々と屠っていったのだという。


 他者とは違う、圧倒的な威力を誇ったWSは、魔物に怯え切っていた兵士たちに希望を見せ、彼らからの信用はすぐに得たそうだ。

 だが一方で、それを面白くないと思う勢力もいたようだが、それらは全て、王女アリスが取り払ってくれたと初代は言った。


 王子トリスタンが最後に呼び寄せた希望。

 王女アリスには、初代勇者がそう見えていたのだと。

 そして初代も、その想いに応え奮闘し、二人は……。


『いや~、ホント照れちゃうよ。――でも、仕方ないよね。彼女は本当に綺麗だったから』

「――っがあ! だから見せんなっての。頭が割れるように痛ぇよ!」


『え? だって疑ってたよね? いま疑っていたよね?』 

「くそっ、頭ん中が駄々洩れだからって」 

 

『信用してくれるなら見せる(・・・)ような事はしないよ』

「っちぃ、いいから続きを話せよ。分かったっての」


『じゃあ、続きを話すね。えっと――』


 初代勇者は、言葉だけでなく、時には映像も交ぜて続きを語った。

 彼は黒い霧を消滅させる手段を求め、東西南北の地下迷宮ダンジョンを潜ってみたり、何か見落としはないかと、各地の隠れ里のような村を訪れるなど、本当にイセカイ(世界)中を回っていたらしい。


 そして黒い霧である魔王の方は、北を制圧する時に一番使用されたWS(ウエポンスキル)カリバーを使って追い払っていた。


 攻撃用と言うより、遠距離から相手を吹き飛ばす事を重視した放出系WSカリバー。

 あのWSは、対魔王用に作られたWSだった。

 初代は、WS(カリバー)を【創造】で作り出し、冒険者や兵士たちに習得させ、黒い霧による被害を南側だけに抑えていたのだ。


 当然南からの反発はあったが、隣接する領地の西と東がその案を支持し、南には泣いてもらう事となった。


 その後も初代勇者は精力的に動いていた。

 魔王に応じるようにして湧く魔物を次々と倒し、新しいWSや魔法を作り続け、そして魔王(黒い霧)を消し去る方法を探し続けた。


 作られたWSと魔法は、それを習得する事が出来る者と出来ない者がいた。

 要は才能(センス)とも言うべきか、全員が習得出来る訳ではなかったようだ。特に強力なモノほど習得する事が出来る者は少なかったみたいだ。


 初代勇者は、強力なWSと魔法を使える者を従え、最終的には世界樹へと辿り着き、その枝が黒い霧を払う事が出来る事を発見し――


 世界樹を切り倒す為に開発したWS、世界樹断ちユグドラシルシィーヴァを完成させて世界樹を伐採した。


 その後、切り倒した世界樹から木刀を作り上げ、黒い霧を払った(・・・)……。



『――でも、それが失敗の始まりだったんだよね……』

「らしいな。なんか、世界樹がなくなったからどうとかこうとか聞いたぞ」


『うん、僕は少し焦り過ぎていたのかもしれないね。まさか世界樹が――』

 

 初代勇者の焦りとは、黒い霧の拡大。

 最初の頃はそれ程広くはなかったのだが、時を追う事に拡大していったのだ。


 これ以上時間を掛ければ、取り返しのつかない程広がってしまうと焦り、初代勇者は、唯一効果があった世界樹を使う事を決断した。


 そして黒い霧は無くなった。

 しかし黒い霧を払ってからしばらくした後、各地で異変が起きた。

 地上には湧かないはずの魔石魔物級が湧いたり、魔物を倒した直後に、倒したはずの魔物が湧くなどの現象が起きたのだ。


 最初は偶然だと、誰もがそう思いたかった。

 しかしそれは何度も起きてしまい、初代勇者は調査に乗り出した。


 原因を探るために、【鑑定】の最上位版ともいうべき【賢定】を作り出し、それを使って世界樹の切り株を視たのだ。

 

 初代は薄々だが気が付いていた。

 世界樹を切り倒してしまったことが何かしらの原因だったのだろうと。

 そして【賢定】で視た(調べた)結果、ある事が判明した。

 

 なんと世界樹は、このイセカイの流れを調整する存在だった。

 魔物の湧きを一定にする事や、倒した魔物がしっかりと霧散し、大地に吸収される事などを調整していたのだ。

 しかも――。


『黒い霧は完全に消えていなかったんだよ……』

「ぐう、そうみたいだな……」


 また映像を見せられる。

 不意打ちの激痛に呻き声がでた。

 

『イセカイに湧く魔物ってのはね、早い話がニキビみたいなモノなんだよ』 

「アンタの場合は吹き出物だけどな」


『……まぁ、そうだね。魔物ってのは、負のようなモノが膿んで出た感じかな? 早い話が嫉妬や妬みといった感情だね。それが形を得たのさ』

「……なら黒い霧。魔王は?」


『魔王は……癌かな? 恨みや深い憎しみ、もっと悪い感情が集まったモノが魔王だよ。ニキビ程度の膿みならば出してしまえばいい。だけど……』

「それなら癌だって一緒だろ? 摘出? って感じで切り取れば……」


『そう、それが問題なんだ。さっき話したよね? 世界樹は魔物の湧きを調整していたと。溜まった悪いモノを魔物というモノに変えて放出し、そしてそれが倒されたらまた大地に吸収する。その過程で負の部分が浄化されるのさ。まあ薄まるとも言えるかな?』


「あっ、まさか――」


『そう、魔王とは癌。決して薄まることはなく、そのまま残り続けるのさ。癌に侵されて変質した細胞のように、浄化される事はなく……』

「だから倒し切れないって言っていたのか……ん? いや待てよ? それなら消し去ればイイだろ? 【消滅】とかって【固有能力】を作り出して、それを使って魔王()を消滅させればイイだけだろ?」


『それを僕が考えなかったと思うかい?』

「へ? それなら……」


『いいかい? 僕の力は【創造】。クリエイターだったから発現した【固有能力】なのかもしれないけど。この【固有能力】は何かを変えるや、何かを創り出す事しか出来ないのさ』

「だったらそれで――」


『何かを消し去る。消滅させるといった事は出来ないんだ。だから、作り出してしまった【固有能力】や魔法を無くす事も出来ないんだ』

「無くす事が出来ないって……」


『だから僕は、自分が行ってしまった事に対するけじめとして、僕自身を楔としたのさ。世界樹の代わりを務める為にね』

   

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。

あと、すいません、感想返しが滞ってしまって;



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― 新着の感想 ―
[一言] ニキビと吹き出物は実質同じものなのに、 初代が何でわざわざ言い直したんだろう?とならずに通じるのは、 陣内の思考が読めるため、揶揄する意図が正確に伝わってしまうからか。
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