それは願いであり、祈りだった
明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いますっ!
森に入った俺たちは、泊まる場所を確保する為に、ラティの実家を目指した。
森に入った直後、あるトラブルが発生したのだ。
ららんさんが試験的に導入した、衝撃緩和の付加魔法品の効果が、馬車の車軸に対し予想以上の負荷を掛けていた事が分かったのだ。
バキリと音がして、不審に思い馬車をチェックすると、馬車の車軸に亀裂が入っているのが見えた。
このまま乗り続ければ、車軸が完全に砕けてしまうとの事で、少しでも負荷を減らす為に、御者台に乗るららんさん以外は馬車を降りて歩く事となる。
寝る場所としても利用していた馬車なので、処置を終えるまでは使えなくなった。
屋根を求め、俺たちはラティの実家を目指す。
外で雑魚寝が出来ない訳でもないが、出来る事なら屋根と壁が欲しい。
俺とラティは、車軸の負担を少しでも減らす為に、馬車を下から持ち上げるようにして歩く。
完全に浮かして歩くのはキツいので、少しでも負荷を減らす程度に持ち上げる。
サリオもそれに協力すると言ったのだが、如何せん背の高さが足りないので、馬車に積んでいた荷物を抱えられるだけ抱えて、よっちらよっちらと歩く。
最初はららんさんが荷物を持つと言ったのだが、レベル的にはサリオの方が適任なので、ららんさんには御者役を頼む。
ここでふと疑問が浮かんだ。
サリオはレベル100を超える超高レベル者。だが、そこまで力があるようには見えなかった。
流石に同じ背丈の者に比べれば力はありそうだが、レベルが100を超えているという割には、そこまで力があるようには見えなかったのだ。
STRの示す数値は、力の強さと聞いている。
ならばもっと力があっても良さそうなのに、数値ほど力があるようには見えなかった。
本当に今更だが、STRなどのステータスの数値に疑問を持った。
自分のステータス【力のつよさ】は、数値が上がれば、その分だけ力の強さを実感出来た。
いま支えている馬車も、全力を出せば簡単にひっくり返す事が出来る。
元の世界にいた時は、当然そんな力はない。
( 個人差とかあんのかな? )
俺はそんな疑問を浮かべながら、ラティの実家へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あちゃ~、ちょっと参ったのう」
「む、結構ヤバい?」
「ああ、思ったよりマズイのう。折れるってより振動で砕けそうな感じや。添え木とかしてどうにかなるモンじゃないのう」
ららんさんは、潜り込んだ馬車の下からそう告げてきた。
現在馬車の本体部分は、サリオの土魔法で作られた土台によって、所謂リフトアップされた状態。車輪は完全に浮いているので、車軸には負荷は掛かっていない。
「直すってのはキツい?」
「う~ん、やってみないと判らんのう。そもそもおれは彫金師やから、これを直すんは畑違いやのう」
「そりゃそうか……」
ボリボリと頭を掻く。
俺も木工は得意な方ではない。正確に木を切り出して、壊れた車軸の代わりを作るなど出来そうにはない。
俺は元樵なので、木を用意する事自体は出来るかもしれないが、刃物を使って切り出すのであれば、ラティの方が適任かもしれない。
俺はそんな事を考えながら、今日泊まる予定の家に目を向ける。
ラティが昔住んでいた家。
しっかりとした作りなのか、長年放置されていたはずだが崩れた様子は一切見えない。
ただ、長年放置された家なので、埃などといった汚れはあるので、今はラティとサリオが二人で掃除中。
「あ、あの、サリオさん。もう少し抑えていただけましたら……」
「あやっ、ちょっと強すぎたです? それならもうちょっと――」
「あ、そんな感じでお願いしますサリオさん」
「ほいほいです」
家の中から、ラティとサリオの会話が聞こえてくる。
「何やら楽しそうやねぇ、あっちは」
「このイセカイじゃ掃除機とかないからな。それにしても……」
風魔法を使ってのダイナミック清掃。
風系魔法を使って、二人は部屋の窓から埃を外へ吹き飛ばしていたのだ。
割れるような家具は無いらしく、確かに手っ取り早いとは思うのだが、少々大雑把過ぎる気がした。
「普通はこんな事に貴重なMPを使うなんてしないんやけどね。まあ、あの二人ならMPが余っておるから問題ないやの」
「そうなんだけど……」
意外にもららんさんは肯定派らしく、特に気にした様子はなかった。
俺はガタガタと揺れるログハウスを見ながら、ゼロゼロのたてがみを優しく撫でた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家の掃除が終わった後、俺たちは夕食をとり、順番に睡眠を取る事にした。
森の中に魔物の気配はしないが、一応見張りは必要だとした。
寝床の方は、部屋の中にベッドがあったのだが、長年放置されていたので、埃を風で吹き飛ばしただけではどうにもならず、その場しのぎの応急処置として、持ち込んだ毛布をシーツの上に敷いた。
明日も使うならば、水場でも見つけて洗濯する必要がありそうだった。
”アカリ”に照らされた閑静な森の中で、俺はいつもの日課をこなす。
サリオとららんさんは先に休み、俺とラティは見張り役。
「ラティ、スマンな家を使わせてもらっちゃって」
「あの、気にしないで下さい。特に何か…………ある訳ではないので」
「ああ……ありがとう」
気にしないでと言ってはいるが、やはり何か思うところがあるようで、少し言い淀むラティ。
言いたくないのであれば、当然、俺はそれを聞き出す気はない。
静謐な森に合わせるように、俺は安らかな気持ちで尻尾を撫でる。
結局、車軸の方はどうにもならず、取り敢えず明日考える事となった。
代わりの車軸を用意するしかないと、申し訳なさそうにららんさんが言っていた。
衝撃を相殺する付加魔法品は失敗だったと……。
もう馬車本体は諦めて、ゼロゼロに最低限の荷物だけを積んで、徒歩での移動を視野に入れるべきだろう。
一旦シャの町に戻り、そこで新しい馬車を手に入れるのもありだ。
馬車を引く馬はいるのだから、そこまでの金額にはならないだろう。
「あの、ご主人様。森の中ですから、代わりになる木があるのでは?」
「あ~、どうだろ……」
ラティは、撫でられている尻尾から、俺がいま考えていた事を読み取り、森の中なのだから代わりになる物がないかと提案してきた。
確かにそれは先程も考えた。
だが、そう簡単にいくモノではない事を知っている。
聞きかじり程度の知識だが、木材は切り倒してから水分を抜く為に、長い時間放置しないと木が反れるように捩じれてしまうと、そう聞いた事がある。
そんな木材を使って車軸を作るのは当然駄目だろう。
「……そう簡単にはいかないかも。切り出すのも難しいだろうし」
「あの、そうなのですか……」
「でもまあ、丁度良い感じの倒木があるかもだしな」
「はい、あると良いですねぇ」
そう言って辺りを見回す。
雄々しく生えている木々は、どれも幹の幅が2メートルは超える巨木ばかり。
都合良く倒木があるとは思えない。
( 丁度いい感じの枝でも落ちてないかな…… )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、俺たちは二手に別れて行動する事にした。
サリオとららんさん組は車軸の代わりとなる木材探し。
これはららんさんからの提案。意外と責任を感じているのかもしれない。
そこまで気にする必要はないと思うのだが、ららんさんに車軸の代わりになる木材探しを任せた。
一方俺とラティは、水場へシーツの洗濯に。
シーツ類は水で濯げば十分に使えると判断した。
そして――。
「こっちか?」
「あの、何も無いように見えるのですが……」
俺とラティは、水場でシーツを洗濯した後、それを木に吊るして干し終えると、今回の旅の目的である世界樹の切り株を探した。
何処にあるのか分からないが、世界樹の木刀がその場所へと誘導してくれる。
見えない糸に引かれるように、木刀が俺を導いていく。
「あっ」
「え……?」
突然景色が切り替わったかのように、少し開けた場所に超巨大な切り株が現れた。
大きな円卓のような切り株。
俺は引かれるがままに、その超巨大な切り株に木刀を添わせる。
『やっと来たね』
「ああ……やっと来たよ」
今度は世界が切り替わっていた。
前と同じで俺には身体がなく、視界だけがその場にあるような感覚。
隣に居たはずのラティの姿は見えない。
夜空のような空間に、俺は再び訪れた。
目の前には、これも前と同じで、全裸の男が空間に囚われている。
四肢が空間に呑まれるように束縛され、大手の宗教のシンボルのようになっていた。
『さて、何から話したらいいかな』
「えっと、呼び出すんなら、話す事を事前に決めておいて下さいよ」
首を傾げながらそう言ってくる全裸の男。
腕が自由なら、頭をポリポリと掻き出しそうな雰囲気。
『そうだな。まずは、僕が召喚された経緯から話すべきかな』
「……」
これはとても気になる事だった。
俺たちを喚んだ勇者召喚は、この初代勇者が作り上げたモノだと聞いている。
ならば、この初代勇者を召喚したのは誰なのだろうと……。
『ふむ、ちょっと長くなるけど、いいかな?』
「長いのか……」
『ああ、長いよ。そうだな~、約十万と八千文字程度かな? まぁ本一冊分ぐらいだな。――じゃあ話すよ』
「長ぇよ! もっと手短に話せ。大体この空間にいるだけでも力的なモノを消費すんだろ?」
『そうだね、それじゃあ見て貰おうかな。願いと祈りの物語を――』
「――があああああっ!?」
俺の頭の中に、凄まじい量の映像が流れ込んできた。数本の映画を同時に見せられるような感覚。
しかもそれが、一瞬の間に行われた。
脳が焼き切れてしまいそうな情報量が、一気に流れ込んできたのだった。
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