幼男
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ららんさんは、タルンタと話をつけてきたと言った。
タルンタがサリオに執着する理由は、サリオの持つ【幼女】の【固有能力】が原因だった。
要は、ずっと幼女のままであるサリオが都合良かったらしい。
ロリ〇ンに言わせると、サリオは至高の存在だとか。そんなアホらしい事を言ってきたそうだ。
ただ、ロリ〇ンの立場になって考えてみると、確かに『そうかもしれない』と思うところがあった。
成長や老いの無い存在。
実際のところ、何時まであのままなのか分からないが、少なくとも、他の者とは比較にならない程成長しないらしい。
長寿であるエルフのタルンタにとってそれは、とても都合が良いのだろうと。
「あ~~後な。流石にさりおちゃんぐらいだと11歳よりも下なんよ。だから手を出すとマズいんやけど、さりおちゃんって23やろ? だから、合法ロリってヤツで、それも都合がええって言うてたな」
「その言葉を言ったの絶対に歴代共だろっ! マジでアイツ等馬鹿なの? ファンタジーの世界を汚すんじゃねえよ!」
歴代共に懇々と説教をしたくなる。
本当にアイツ等は何をやっていたのだろうと……。
「あ~~、その言葉を遺したのって確か……9代目のシバ様だったかな? 確かそうだったはずやの」
「アイツかああああ!!」
――イリスさーーん!!
アンタは、なんつう男に惚れてんだよ!
マジで駄目だよ。ってか、結構悲惨な最後っぽかったのに……。
あれ? シバって確か彼女っぽいのが魔王になって……。
魔王になってしまったという彼女の勇者が、ひょっとしたらロリ系だったのではという疑惑が浮かぶ。
幽霊のイリスさんの姿は、立派な成人女性だった。
だからまさかと色々と浮かんでくるが、それを追求したとしても、本気でしょうもない事なので、俺はそれ以上考えるのを止める。
「――で、話は戻るけど、タルンタとは……」
「ああ、ちゃんと納得してくれたで」
そう言って『にしし』と嗤う、ららんさん。
とても無邪気な笑みなのだが、邪気がない訳ではなさそうなので、俺はそれ以上聞けなかった。正直怖い……。
しかし一方、疑問に思うところがあった。
それは――。
「ららんさん。何でサリオは、その……えっと……」
「あぁ~~、まあ言わんとしている事は分らんでもないよ。さりおちゃんはどっちかっていうと残念な子よね」
ズバリだった。
サリオはどう考えても残念な子。可愛いかと聞かれれば、そうかもしれないと答えるが、それは幼い姿だからの可愛さ。幼稚園児が可愛いのと一緒。飛び抜けて容姿が優れている訳ではない。
では性格は?
素直に喧しい系だと思う。
我儘をいうタイプではないが、健気に我慢するといった方ではない。
時々、イラっとする時もある。
( まあ、気を遣ってくれる時もあったが…… )
だがやはり――。
「そんなにサリオが……いいの?」
「にしし、直球やのう。…………まあ、分からないか、おれの抱えた悩みは――」
ららんさんは俺に語ってくれた。
サリオに対する想いを。
ららんさんもタルンタと同じで長寿のエルフ。
聞いた話では、エルフの寿命は百年から千年の間らしい。
極端に長生きする者もいれば、わりと呆気なく逝く者もいるそうだ。
だがそれでも人よりかは遥かに長寿であり、ハーフエルフもその特性を受け継ぐ事が多いらしい。
だから、ららんさんは――。
「さりおちゃんとなら、この先、一緒に居られるだろうからの……同じままで」
「……なる、ほど……」
ららんさんは、自身の【幼男】の事を結構気にしていたのだ。
普段、飄々としているのであまり気にしていないのかと思ったが、それは俺の勘違いだった。
歳を重ねても成長しない身体。
背は低く、とても幼い姿のまま。
その姿から舐められる事もあったそうだ。
しかしそれなら、舐められないように黙らせれば良いと、ららんさんは言った。
だがしかし、隣に並ぶ者となると、どうしても駄目なのだと。
隣に並ぶ者、要は人生の伴侶となると、こればかりはどうにもならないと……。
付加魔法品を使って成長出来ないかと考えた事もあったそうだ。
だが、【幼男】の効果を上回る物は作れず、【幼男】の効果を消す物も作れなかったと。
もう、【幼男】という呪いを背負って孤独を貫くしかないと考えていたそうだ。
元々【幼男】とは、老いを恐れたエルフが、必死になって願った末に発現した【固有能力】だと言われており、それがまるで呪いのように時々エルフだけに発現したのだという。
老いはしないが、成長も出来ない【固有能力】として……。
当然、人でも十分に厳しい事だが、永い時を過ごすエルフにとってそれは、とても寂しいモノなのだと。
「そんな中さ、一緒に同じ姿でいられる存在なんや、さりおちゃんは……」
容易に想像が出来る。
一人だけなら孤独に蝕まれるが、同じ者が一緒に居るのならばきっとそれは、救いとなるのだろうと。
「なるほどね……納得出来た。確かにそうか……」
「あ、でもな、じんないさん」
俺は感想をそう口にしたが、ららんさんはまだ続きを話した。
「さりおちゃんってさ、すっごいイイ顔で笑うよね」
「あ~~、笑うな。かなりのアホ面で笑うな」
( 泣く時も酷い顔で…… )
「おれみたいな嗤い顔と違ってさ、さりおちゃんは本当にイイ顔で笑うから…………たぶん、そこに一番惹かれたんと思う」
ららんさんが、初めて照れながら話した。
『にしし』な顔ではなく、はにかむように笑って視線を僅かに逸らす。
「なんていうか、裏表がないっていうかさ、感情をよく出すやろ? 嬉しかったら嬉しい、寂しかったら寂しいって感じでさ。だから安心するんよね、裏を勘繰る必要もないし。ホントに貴重なんよね……」
恋は盲目と言うべきなのか、ららんさんはサリオの残念な部分を好意的に捉えていた。
歳をある程度重ねた者が裏表のない性格など、ただ単に我慢の出来ないヤツである。
よくある会話で、『アイツは裏表のない良い奴』などの評価があるが。本当にその通りだと、相手に対し全く気を遣わない未熟なヤツだ。
極端な例を上げるとしたら、胸の大きな女性が居て、それを良いなと思い、胸をガン見したり鷲掴みにするようなモノ。
心の中でこっそりと秘めたりしないのだから……。
( …………小山かな? )
「ららんさん。もっとしっかりと考えるんだ。ららんさんらしくない勘違いをしている可能性がある。サリオはとても残念な子だぞ。悪い子ではないが、とてもとても残念な子だ」
俺は大事な友人を諭す。
人には、気の迷いというモノがある。
ららんさんの想いを否定するつもりはないが、ここはどうか正気に戻って欲しい。それは気の迷いだと。
「はあ、なんていうか、じんないさんらしいのう。まあ、そんなじんないさんだからこそ、さりおちゃんを預けたままでも安心出来るんやけどね」
諭す俺に対しららんさんは、呆れた表情でそう返してきた。
そしてその表情は、いつもの『にしし』に戻っている。
「取り敢えず、じんないさん。さりおちゃんの事は頼むで。あの子のままでいさせてやってや」
「へ?」
「今はまだ準備が出来ておらんからの。いつの間にかさりおちゃんの方が凄くなってしまったから、周りを黙らせるにはもうちっと準備が必要なんや」
「それって……」
「今日はここでおしまいや。そろそろ、さりおちゃんも起きる頃やろうし、夕飯の用意でも始めよか」
こうして会話を切り上げられ、俺はららんさんに急かされる形で夕飯の用意を始めた。
最後にららんさんが言い掛けた事。
それはきっと、サリオの立場の事だろう。
蔑まれていたハーフエルフから、どの貴族達からも注目され、しかも公爵の妹。
まさに逆転劇。
もしかするとこれは、いつかお芝居となって演じられるのかもしれない。
ハーフエルフの立場を変えた偉人として……。
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