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髪を解いた君は……

すいません~遅れました;

 ボレアスの街から旅立って六日後、俺たちはゼピュロス領へと入った。

 最後に渡った橋では、今までの渡った橋の通行料を徴収された。

 どうやら北側から来た者は、皆がその通行料を取られるようだった。

 

 一瞬、そんなのは横暴だと思ったのだが、よく考えてみると、それは当たり前のことだという事に気付いた。

 高速道路の使用料みたいなモノで、あの橋の整備だと考えれば横暴でも何でもないのだ。


 馬車一台分として銀貨20枚を支払い、俺たちは目的のシャの町に向かう。

 旅の間は、少々寝づらい思いをしたので、宿のベッドでゆっくり寝れると思うと気持ちが浮つく。


 途中に泊まれる宿が無かった訳ではない。

 所謂、旅籠的な建物がある小さな村などはあったのだが、狼人のラティはともかく、ハーフエルフのサリオが何か言われるかもしれないので避けてきた。


 ハーフエルフには、理不尽な迫害や、保護者、保証人無しでは街に入ってはならないなどの無茶苦茶な条例のようなモノがあった。

 つい最近廃止されたが、本当につい最近のことなので、公爵家が治める街ならともかく、それ以外の小さな村や町ではまだ伝わってないと考えて避けてきたのだ。

 

 だがシャの町は目的の場所。多少のトラブルがあるかもしれないが、俺たちは目的の為に町に入ることを決めていた。


 川に守られるようにして出来た町が見えてくる。

 遠目には、ちょっとした森に見えなくもないが、近づく木々を上手く利用した建物がチラホラと見えてくる。


 エルフ達が住まう森であって町でもある、シャの町に俺たちは辿り着いた。



         ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 川によって守られた町の入り口、少し大きめの橋をゆっくりと進む。

 門番の役目を務めている者がこちらに気付き、訝しむよう寄って来て声を掛けてきた。

「おい、ここは――あっ! お前達はっ」


 その男は、御者台に座っているサリオに気付き声を上げた。


 前回ここに訪れた時、サリオがハーフエルフという事で揉めたのだから、この男の反応は当たり前だろう。

 だからといって、前回と同じようにこっそりと入る訳にはいかなかった。


 今回、このシャの町に来た理由はサリオの母親の墓参り。そのサリオを隠したままでは無理だと判断した。

 しかしだからと言ってそう簡単にはいかない。ハーフエルフは蛇蝎の如く嫌われており、門番の男は、もう追い出す事しか考えていなそうな顔をしている。


 だが、『にしし』と笑いながらららんさんが、良い策があるから平気だと言っていたので、俺はそれを信じる事にしていた。

 その方法はまだ教えて貰っていないが……。


「また来やがって。この町はお前など――ん? それは……」

「ほっほ~う。これでも追い出すつもりかの~」

 

 ららんさんは、相手に見せつけるように一枚の紙を突きつけた。

 馬車の窓からでは、その紙に何が書いてあるのか分からないが、それを見せられた男の方は、『ここで待ってろ』と言って町長を呼びに走り去った。 


「ららんさん、それって?」

「にしし、一応もらってきたんよ。きっと必要になるからって」


 笑いながら、後ろに縛っている尻尾のような髪を揺らすららんさん。

 それはとても良い笑顔をしている。


「はい? 貰ってきた? 誰に……」


 ららんさんが見せた紙は、要は一種の命令書だった。

 街や村からの追い出す事や、ハーフエルフだから物を売らないといった、今までのように不当な扱いをしてはならないというモノ。 

 これによって俺たちは、堂々とシャの町に入る事が出来た。

 

 ららんさんが言うには、中央で行われた祝勝会で、ハーフエルフに対する条例のようなモノが撤回されたが、貴族達が治める街はともかく、シャの町のような小さな所はまだその報せが届いていないと判っていた。

 

 だから事前に、ノトス公爵であるアムさんと、西の大貴族であるアキイシ伯爵の署名が入った命令書を貰っておいたのだという。


 ノトス公爵家だけだと少々弱いらしいが、西においてアキイシ伯爵の名は絶大だったらしく、シャの町の町長であるタルカシャは、まさに掌を返したような状態で……。


「何だかなぁ~」

「あの、これは(いささ)か……」

「……うぅ」

「ささ、こちらへどうぞどうぞ」

「行くで、さりおちゃん」


 俺たちは、町長に案内される形で共同墓地へと向かっていた。

 馬車は預かってもらい、俺たち4人は町長の後を歩く。以前は眉を顰めていた町長だが、今はとても良い笑みを見せている。


 ( こうまで変わるとは…… )


 町長はハーフエルフ(サリオ)を厄介だと思っていたはずだが、分かり易い事に、権力にはあっさりと屈した様子だ。

 だが、さすがに心の底から鞍替えした訳ではないようで、よく見てみると、微妙に口元がひくついていた。


「……ラティ」

「あの、やはり完全に納得している様子ではないようです……」


 ラティの判定はグレーだった。

 ただ、『一応、敵意だけは無いようです』とも言ったので、案内と見せかけた騙し討ちという可能性は無さそう。

 しかし今はそれよりも……。


「うう、落ち着かないですよです」

「だな。ったく、どんだけ暇なんだよ、この町の連中は」

 

 俺は周りを見回す。

 前回訪れた事がある俺たちの事を覚えている者が多いのか、それとも命令書のような物を持って来たからなのか、やたらと野次馬が多かった。

 近寄って来る者はいないが、木の陰に身を隠すようにしてこちらを窺い、何かひそひそと話し合っている。


 あまり良い気はしないが、だからといって散れとは言い辛い。

 相手の立場からすれば、いきなりやって来た者がハーフエルフを連れて来て、そして大貴族の署名付きの物を持って来たのだから、多少は警戒もするし興味も引くのだろう。


「ラティ、しっかりとフードを被って下を向いてて」

「はい、ご主人様」

 

 俺はラティに、出来るだけ顔を晒さないように指示をした。

 彼女の持つ【魅了】は非常に厄介な仕様。

 【煽犯】(ウォークライ)があるお陰で、惹かれ過ぎた者が馬鹿をやらかす危険性があるのだ。

 

「サリオ、お前はフードを取れ」

「ぎゃぼー! ジンナイ様っ、あたしを囮に使おうとしてませんかですよです! 酷いです! 差別ですよです!」


「気のせいだ。ほら、あれだ、案内とかされているのにフードとか被っていたら失礼だろ? そんな感じだ。だから取れ」

「なるほどなるほろ――って、全然納得出来ないですよです! ラティちゃんにはフード被れって言ったのにです」 


「喧しいっ、フードを外せ」

「ぎゃぼー! ジンナイ様が無茶苦茶ですよです!」


「アイツ等の目線でラティが減るだろっ! だからお前が――」

「がぉーん! 本音が出やがったですよ! それにあたしはもうジンナイ様の奴隷じゃないですよです」


 サリオの言う通り、サリオはもう俺の奴隷ではないのだが、今までの関係が染みついた為か、どうしてもサリオを雑に扱ってしまう。

 そしてサリオの方も、俺を『様』付けて呼んでいた。

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ俺とサリオ。

 しかし、それにも関わらず、いまだに視線はラティへと集まっている気がした。

 前に訪れた時よりもレベルが上がり、そして綺麗になったラティ。

 さてさてどうしたら良いかと、俺は次の一手を考え始めた時、一人のエルフが前に出て来た。


「サリオ……」


 前に出て来たエルフの男は、前回、世界樹の切り株がある森への案内役を務めたタルンタだった。

 そして俺の記憶が確かならば、この男はサリオを買い取りたいと言ってきた。

 しかもそれは、サリオを利用したいからという理由ではなく、もっと別の理由で……。


「サリオ……」


 言い募るように寄ってくるタルンタ。

 ちと面倒になるかと、俺はサリオを庇うつもりで立ち塞がろうとしたが――。


「よう、また会ったのう……タルンタ」

「え? アンタは?」

「ららんさん?」

「ほへ? ららんちゃん?」


 俺よりも先に動いたのはららんさんだった。

 小さい体でサリオを庇い、不敵な笑みを浮かべてタルンタと対峙した。


「なんやのう、オレの事を忘れたんか? 前はそっちから声を掛けて来たってのに」 

「は? 俺はアンタの事なんて知らな――ッ!!?」


 目を見開いて凝視するタルンタ。

 そのタルンタの視線は、ららんさんへと固定されていた。

 もっと正確に言うならば、縛ってある髪を解いたららんさんを凝視していた。


(あ……)


 ららんさんの姿にちょっと違和感を覚える。

 なんとららんさんは、後ろで縛ってある髪を解くと、後ろ姿が小さい女の子に見えたのだ。

 多分、離れた場所からららんさんを見たら、きっと勘違いをするだろう。


「このロリ○ン野郎が」


 ららんさんが、普段とは違う邪悪な笑みを浮かべ、侮蔑を込めた声音で言い放ったのだった。

 

読んで頂きありがとう御座います。

宜しければ、感想やご指摘など頂けましたら嬉しいです。

あと、誤字脱字なども……。

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