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西へ西へ

 西への道のりをゆったりと進む。

 いくつもの橋を渡り、西へと馬車を走らせる。


 ららんさんの説明によると、この川の多さが、北と西を上手に対立させていると言った。

 川の流れは、西から北へと流れている。そしてその水を水源としてお米を生産しているそうだ。

 領地の強さでいうと北側の方が上だが、様々な背景を加えた場合の力関係では、西側の方が上だとららんさんは言う。

 そしてこの川の多さが、西へとちょっかいを出すのを阻んでいるとも言った。


 風などを利用すれば、流れに逆らって西へと行けない事もないらしいが、基本的に速度は出ない。

 重いモノをゆっくりと運ぶ分には良いが、攻める為の兵を送るには速度が足りないらしい。

 そして当然、川によって遮られているので、陸路のルートも狭く限られ、非常に攻め難いとの事で、北と西では争い事というモノはほぼないそうだ。


 一方、逆側の東には行きやすく、北から脅しでしかない要求を突き付けられた事があるだとかないだとか……。

 

 俺はららんさんから、そんな地理的な事と、政治的な背景を教えて貰った。

 役に立つかどうかは分からないが、知っていて損をすることではないので、一応記憶の隅にそれらを留めておく。


 そう、俺は暇だったのだ。

 今までバタバタとした旅ならあったが、こういった余裕のある馬車旅というのは今まで無かったのだ。

 馬車に揺られて情緒がある旅といえなくもないが、やはり暇。

 それこそ幻想的(ファンタジー)な風景でも広がっていれば、それを眺めながら楽しめたかもしれない。だが広がっている風景は牧歌的だった。


 どうしても暇だったので、ららんさんからそういった話を訊いて暇を潰していたりしたのだ。

 そして今は、ららんさんとサリオは休憩時間、馬車の中で二人は眠っている。身体の小さい二人は、馬車の中のシートでも普通に横になれていた。


 だから俺とラティは、少々狭い御者台で身を寄せ合っていた。

 これはこれで悪くはないのだが、狭すぎて撫でるのが困難。一度ラティを膝に乗せて、ラティが手綱を握るという方法を取ったのだが、撫でられていると集中出来ず、上手く手綱が操れないとの事で、その体勢は却下された。


 今は二人で並んで座り、のどかな風景の中、ゆったりと馬車を走らせていた。


「むう、気分は行商人だな……」

「あの、行商人ですか?」 

 

「ちょっと林檎とか小道具が欲しい感じだな」

「あの、持ち込んだ食料の中に林檎は残念ながら……」


 俺のボケに対し、真面目に対応してくるラティ。

 ちょっと廓言葉を使って欲しいなどの悪戯心が湧くが、何となく似合わなそうだったので止める事にする。


「まあ、分かる人には分かるってヤツだから、ラティは気にしないでくれ」

「あの、そうですか、分かりました。…………あの、ご主人様」


「うん?」


 ラティにしては珍しく、瞳を少し泳がせるように逸らしながら俺に尋ねてきた。

 

「あの、いまさらとは思いますが、サオトメ様に一声掛けずに出てしまってよろしかったのですか?」

「いや、だって無理だろ? あの女、橘が会わしてくれないんだから。一応、一声掛けてから西に行きたかったんだけどな……って、珍しい気がするな、ラティがそういう事を訊いてくるのって」


 ( ホントに珍しいな、ラティがそんな事を訊いてくる…… )


「あの…………サオトメ様だけは違ったのです。彼女だけは、他の方と違って最初からご主人様、ヨーイチ様のことが好きだったので……その、あの……」

「……………………はい??」


「あの時はまだ【心感】の事を知りませんでした。ですが、【心感】の事を知った今なら解ります。あの時、一年以上前からご主人様に対して好意を抱いていたと」 

「いやいやいやいやいやっ!? あの時から? あ、アレか! 早乙女が下に落ちた時に助けたから、それでえっと、好意的な感情がって感じかな? なるほど、納得した」

 

――よくあるテンプレだな!

 助けてもらったから、ちょろっとした感じで好きになるちょろイン的な……。



「いえ、違います。その前から好意を持っておりました」

「へ? 前から……?」

 

「あの、ですから、その前からご主人様に対し好意を抱いておりました」


 今度は目を逸らさず、ジッと俺を見つめながらそう言ってくるラティ。

 その瞳は、責めるような瞳でありながら、同時に不安に揺れている瞳だった。

 

「あの、ですから……ですから……」


 心当たりのない浮気を責められているような気分。

 当然、早乙女に好かれていたという心当たりはない。さすがに蛇蝎のごとく嫌われていたとは思わないが、どちらかというと、嫌われていた方だという認識。

 

 あの時、堀の下に落ちた早乙女を助けたから、彼女から好意的な感情を、というのならば多少は納得が出来るが、ラティはその前からだと言うのだから、俺は思わず狼狽えてしまう。


「えっと……あ! そうだ! あの時、ほら、ボレアスの屋敷で早乙女の見舞いに行った時、俺が部屋を出た後すげぇ怒鳴り声が聞こえてきたけど、なんかあったの?」


 俺は頭をフル回転させて誤魔化す事にした。

 誤魔化すといっても、己の非を誤魔化すのではなく、ただ単に、どう答えたら良いのか分からなくなったからだ。

 

 そもそも、好かれていたという認識はない。

 だがラティは、もっと前から早乙女に好かれていたと言うのだ。

 【心感】持ちのラティが、その辺りを見極め損ねるとは思えない。100%とは言わないが、ほぼそうなのだろうと思う。

 だとしても、やはり首を傾げてしまう。

 しかしラティの方からしてみれば、元の世界の事は把握していないのだから、どうしても不安を感じてしまうのだろう。

 

 そして、とてもとても小っ恥ずかしい事だが、ラティは『他の方と違って最初から』と言った。

 ”他の方”が誰のことを差しているのか、今さら分からないつもりはない。俺は鈍感系ではないのだ。誰のことを差しているのか分かる。

 だからこそラティは、より戸惑っているのだろう。

 もっと前から俺に対し、好意を抱いている者が居たという事実に。


 しょうもない思考がグルグルと回ってしまう。

 脳が焼き切れそうになるぐらいフル稼働させる。そしてその結果、話を大きく脱線させて誤魔化す事にしたのだ。


「えっと、だから、なんか早乙女がラティに言ってたみたいだけど……」

「あ、あの……あれは……」


 ラティが再び揺れるように瞳を逸らした。

 俺は『よしっ!』と、心の中でガッツポーズをとる。

 昔、ある偉大なる船長が言っていた。『バリヤに勝てるのはバリヤーだけ』と。要は、何かに困ったのなら、同じ困ったモノをぶつければ良いという事だ。


 多分だが、対消滅エンジンとか相対性理論と同じようなモノだろう。

 

 上手く誤魔化せたのか、ラティがしどろもどろとなった――のだが。


「――ご主人様はわたしの…………とお伝えしたのです。だから駄目ですともお伝えしましたのです。サオトメ様に」

「ぎゃぼおお!! そんなん言ったのか!? だから…………」


 ラティが素直にそれを明かした。

 心の中で嬉しいと恥ずかしいが衝突事故を起こす。

 誤魔化す為に話を脱線させたら、脱線した先にN2爆雷を降下された感じだ。

 


           閑話休題(誰かがパクったです)


 

 その後俺は……。

 口で説明をして不安を取り除くのは困難だと思い。(自分でも何を言ったら良いのか分からないので)

 ラティを自分の膝の上に乗せ、そしてそのまま彼女の尻尾を撫でて、心の中の感情を晒すことで不安を取り除いた。

 

 ただ、尻尾を撫でられていた為か、ラティが手綱さばきを誤って馬車を大きく揺らしてしまい、中で寝ていたららんさんとサリオに怒られた。


 どうやら、寝ていたシートから落っこちたらしい。 


読んで頂きありがとうございます。

ちょっとまったり進行です。


宜しければ、感想など頂けましたら嬉しいです。

あと、誤字脱字も等々……

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