気概
長いグダグダやっと終了
月が夜の7時を指してる
宿の一階にある食堂の入口には3~4人の野次馬が集まっていた。
そしてその野次馬の視線の先、金髪で後衛役の冒険者が声高々に告白している。
「ラティさん、私は貴方に惚れました。どうか私達と一緒に来てください」
俺の前でハーティが、首輪が無くなり驚きで立ち上がってるラティに向かって告白している。
一気に釣られて野次馬が増えていく。
「陣内、お前は彼女に相応しくない釣り合わない!」
彼らしくない口調で俺に言い放ってきた。
「って、まぁちょっと自分らしくない言い方だったかな。でも、これが自分の気持ちだよ陣内君」
ハーティが読み間違う事の無いように、荒々しい語気で言い放っていた。
それを聞いて俺が今一番関心のある事は、ラティの表情であった。
だが、怖くてラティの方を見ることが出来なかった。情けないことに見る勇気が無かったのであった。
そんな情けない俺に、ハーティは自分の想いを叩き突けてくる。
「陣内君、君は強くなれない。最初はレベルが上がればどうにかなるのかと思っていたが、レベルが上がっても君は全く変わらなかった」
「俺の何を見てそんな判断をしたんだよ!」
「もちろん、最近一緒に行った、魔石魔物狩りを見てだよ」
「――ッ!!」
「WSが使えないとかも致命的過ぎるし、戦いにも参加出来ていない」
「ふざけんな!WSがなくたって……」
「それが無いだけでも他の冒険者以下なんですよ?」
「俺なりの戦い方だってあるんだよ」
「自分にはその戦いを見せてくれませんでしたよ?ただ槍を構えてウロウロしてるだけしか自分には見せてくれませんでしたよ」
「俺に合わない戦い方だったんだよ!あの魔石魔物狩りは」
「そうなんですか、ですが自分はそれを見てません。自分は自分で見たモノで判断するんです」
――っんな、無茶な‥いくら何でも乱暴すぎる、
それで判断しただなんて、
「魔法も使えない、【固有能力】も一個しかない。陣内君がただの冒険者ならそれでも構いませんが、それがラティさんの主だなんて、まるで釣り合っていない。自分にはそれが許せない!」
( 俺がそんなに悪いのかよ、関係あんのかよ )
「そして、何より自分はラティさんに惚れたんだ!
惚れた相手の隣に納得いかない奴が立ってるんだ、勘違い野郎と言われても構わない
それでも男なら彼女を奪い去りたいものだろう?」
――惚れたら何でもありだってのかよ……
それなら俺だってラティに惚れてるんだよ、出会った時から……
「陣内君に言っても納得してくれないだろうから、彼女の奴隷と言う枷を外させてもらったよ」
「そうだ!?なんで奴隷を解放出来るんだよ!」
「簡単だよ、僕の【固有能力】の【解魔】と【魔効】で強化された、闇系解除魔法”ディスペ”を使ったのさ」
――解るかよ!
でも多分、解除系を強化して無理矢理奴隷を解除したんだろうな……
「後衛支援系には強力な【固有能力】なのさ、君との違いのひとつさ」
( うぜぇ、ここでもアピールかよ )
「だからラティさんにどちらかを選んで貰おう」
「っな!」
「ラティさんが僕を選んでくれて、それで陣内君が騒いでも良い様にみんなにも来て貰ったのさ」
――ちくしょう、コイツ自分が主人公とでも思ってるのか?
ああ、思ってるんだろうな、転生者って言ってたし、自分こそが主人公だって、
ざけんなよ、地味な支援魔法系役が主人公だと?
ちょっと戦闘プランが練れる指揮とか、あれ?ちょっと主人公っぽいな、
いやいや、ざけんな!眼鏡とかそれらしい杖とか装備してから出直して来い!
あ!でもイケメンか……アリって言えばアリか。
って誤魔化してみたけど、本当はラティの顔が見れない、
今、彼女がどんな顔をしてるのか怖くて確認が出来ない。
「ラティさん、僕と一緒に来て欲しい。君の事が好きなんだ」
少し芝居掛った仕草でハーティが再びラティに向かって告白をする、
そこで俺は、どんなに怖くてもラティの方を振り向かなくてはいけないという気持ちに突き動かされ、ラティの方へ振り向く。
俺はラティに、少しは信頼をされているとは思う。
ラティと一緒に冒険もしてきたと言う自信のようなモノはある。
だけど、俺に対して好意や恋愛感情のようなモノをラティが持っているかは。
残念ながら、その自信はさすがに無い。
死刑宣告を待つ罪人の気分にも似た感じでラティの顔を見る。
ラティの表情は、無表情で俺を見つめている。
ラティが俺のことを『好きです』や『愛してます』と言ってくれたら良いな……
なんて都合の良い事を考えてしまう。そんな事が無いのは解っている。
そんな都合の良い、甘い事をラティが言うはずが無い。俺には解る。
ラティが少し困った顔をしながら口を開く。
「何か最近お悩みだったのは、まさかソレですか?」
――少し違うけど……
情けない自分自身にちょっと悩んでました ハイ……
俺とハーティはラティの言葉を黙って待っている。
そして、ラティは困った顔から厳しい表情に変え、俺を見つめながら言い放つ。
「 貴方には、わたしの主でいてやろうと言う、”気概”は無いのですか! 」
ラティは好意や感情などに縋ることを許さず、己の意思だけで主であることを示せと言っている。
ラティはいつも通り厳しく、そしていつも同じに優しかった。俺は――
「俺はラティの主だ、だから……」
俺は振り向き、ハーティを見据えながら言い放つ。
「 お前にラティは やらねぇよ! 」
元々、俺の都合でラティに居て貰っているのだ、だから俺は自分の我を通す。
想いうんぬんは、今は後回しで。だが、何時かは……
「ハハハ……僕は勘違い野郎のピエロになったか。
ちょっと、いや……かなり悔しいな、それなら最後は道化らしく……」
ハーティは落胆の表情から、不敵な表情に切り替えて俺に言い放つ。
「ラティさんを賭けて自分と素手で勝負だ!」
――コイツは、
自分が主人公になれなかったから、今度は当て馬役をやってやろうってか?
後衛役が殴り合いを要求してくるとか、ちょっと潔いじゃねぇかよ……
「わかった、素手で勝負してやるよ!」
( ならば、俺もそれに付き合おう )
何時の間にか、宿の食堂には野次馬が溢れかえっていた。
その中には葉月や橘など、数名の勇者も混ざっていた。
「いくぞ――ハーティぃいい!」
「”さん”を付けろよデコ助野郎!」
( ソレ知ってるのかよ、やっぱ転生者なんだな )
俺とハーティの殴り合いが始まった。そう殴り合い、お互いに避ける事の無い。
「いい加減に沈め!」
――ッゴ!――
「僕は負けない!」
――ッボッコ!――
「ラティはやらん!」
――ッガ!――
「ラティさんを下さいお義父さん」
――ッベキ――
「余裕そうじゃねぇかよ!」
――ッドゴ!――
「何処に余裕があるって言うんだい!」
――ッド――
ヒートアップする殴り合い。熱狂する野次馬達。
「やっちまえ金髪!その気に食わねぇ、ハズレ者の倒しちまえ!」
「ざけんな!目つきの悪い方!そのイケメン野郎の顔を不細工にしてやれ!」
「賭ける奴いないかー!」
「いけいけ!デンプシーロールだ!イッケッメン♪イッケッメン♪」
( おい!野次馬の中に転生者混ざってねぇか? )
「陣内君、そろそろ切り札を使うよ!」
「なら、俺は残してる変身でも使うか」
ハーティが吼えながら突っ込んでくる。
「ッハァァァアア!!」
――ッガシ!!
ハーティが殴るのではなく、俺の顔面を右手で掴む、そして――
「ヒィィトエェーーンンド!!」
――ッボッフ!!――
ハーティの掌から爆発をした。顔が焼ける様に熱い、多分、焼けているのだろう。
「――ッガハ!!」
「これでも倒れないのかい……」
――コイツ、マジで俺を倒す気でいやがるな、ヌルくないな、
なんだかんだ言っても、やっぱりラティは諦められないってかよ……でも、
「男の意地で、お前にはやられる訳にはいかねぇ!」
「男の意地は女性の労りがあって成立するものなのですよ」
( ソレ、どっかで聞いたことあるな、それなら…… )
「それなら成立するだろうがぁ―!」
【加速】を使った勢いに、100%の力を通す為に、拳でなく掌底で打ち抜く。
「――ッズン!!!」
アホみたいな勢いでハーティが吹き飛び、人垣にぶつかりそれで止まった。
椅子や机を巻き込みながら、大の字に倒れたままのハーティが、呟く。
「ぐぅ‥東領に伝わる伝統の技まで使ったのに……自分の負けだよ」
「「「「おおおおおおおお!!」」」
野次馬が一斉に歓声と怒号を上げる。その野次馬の中から人影が俺に近寄ってくる。
「陣内君、平気!?今すぐ回復魔法唱えるね」
「陣内さん、回復魔法かけますね。ごめんなさい止めれなくて」
寄って来たの人影は、葉月と言葉であった。
顔に心地よい波動を感じる。焼けた皮膚が絹布で撫でられるように癒される。
「ああ、わりぃ、助かるよ?ありがとう」
二人に下手くそで不器用な感謝礼の言葉を言ってから、ハーティの方を見ると。
「いってぇ……ああ、でも回復魔法は今日は要らないよ。敗者なのに呆気無く回復までしたらもっと格好か悪いからね、今日はこの痛みで過すよ」
ハーティは仲間からの回復魔法を拒否していた。
「じゃぁ、自分はここで情けなく引き返すよ。君の勝ちだ」
ハーティはそれから一言も話さず、宿の食堂を去って行った。
今度はラティの方に視線を向ける。途中で葉月と言葉が無言で見つめ合っているのが見えた。少し気にはなったが、今はラティの方を見つめる。
「ラティ、また明日から頼むな」
「はい、ヨーイチ様」
俺がそう言うと、ラティは優しい微笑みを浮かべ返事を返してきた。
――ぐっは~、なんかグチャグチャ考えて、色々あったけど、
あの顔を見れたから、もうどうでもいいかな、
気概を持つか。なんか沁みたな……
まだ葉月と言葉は複雑そうな表情でお互いを見ているが、気にしないことにして、今は……
――ラティの赤い首輪が無くなったと言うことは、という事ですよ?
具体的に言うとすべて解決もしたし、階段を登れちゃう?【天翔】っちゃう?
「あの、ご主人様」
「っお、おうぅ」
「今日はお疲れでしょうから、すぐにお休みになって」
「おうおう」
「明日朝一で城下町に戻り、奴隷商で新しい首輪と再契約も済ましましょう」
「へ?」
「わたしの主である気概を見せて貰いますね」
「‥‥‥‥」
何を察したのか、野次馬共は大爆笑をしていた。『ざまぁ』とかも聞こえる。
――やっぱラティさんは厳しくて甘くなかったよ……
あれ?女の労わりどこいった?ないのかな?ないんだろうな……
頑張ったんだけどな……
読んで頂きありがとうございますー!
物語一区切りです、宜しければ評価など頂けましたら、幸いです




