鬼(覇)の居ぬ間に
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「んっ……」
「…………」
正直なところ拍子抜けだった。
だが一方で、何となくだが理解出来たところもあった。
フユイシ伯爵には、この異世界に愛着というモノがなかったのだろう。
前世の記憶があるのに、前世とは違う世界で、そして前世で学んだ知識が上手くいかない世界。
前世の知識や記憶はなく、ただ純粋に貴族として生きてきたのであれば、この異世界の事をもっと考えられたのだろう。が――。
――無責任なクソ野郎だったな、
同情とかする価値も無ぇ、処刑されるべきだな、
ギームルは間違いなく処刑すると言っていた。
ある程度の聞き取り調査を行った後は、大々的に公開処刑を執行すると。
( 処刑か…… )
処刑という言葉で、もう一つの事を思い出す。
それは、囚われていた早乙女の身の回りの世話をしていた二人のメイド達の事。
その二人は母娘で、夫の立場を人質にされていたそうだ。
要は荒木に脅されて、秘密裏に早乙女の世話をしていたのだ。
だがそれは勇者保護法に反する行為。絶対に許される事でない。
しかし荒木には逆らえず、囚われた早乙女を助ける事はなく、言われるがままに彼女の世話をしていたのだという。
ギームルは俺に尋ねてきた、まるで何かを試すかのように、『あの二人はどうする?』と――。
明確に言葉にはしていないが、助けるかどうか暗に訊いてきたのだ。
倫理的、人道的に考えるならば、これは助けるべきなのだろう。しかしそれは、勇者たちを危険に晒す行為に繋がるのだ。
フユイシ伯爵は公開処刑される。
これは警告であり、そして戒めにもなる。
勇者保護法に背けば、例え伯爵であっても、等しく処刑されるのだと知らしめる為に。
俺が許される事で緩くなった鉄の掟を、再び締め直す行為なのだ。
だから俺は――、『助けない』と答えた。
『任せる』などといった、どちらにも取れる返事ではなく、『助けない』と明確に。
きっとあの母娘も処刑されるだろう。
当然同情はするが、同情が出来ない部分もあった。
あの母娘は、早乙女を捕らえていた鎖を解く鍵を所持していた。
だからあの時、ガレオスさんは早乙女を青い鎖から開放出来たと言っていた。
火事などの緊急時の為に荒木から渡されていたらしい。
だからあの母娘は、何時でも早乙女を逃がす機会があったのだ。
だが逃がす事はせず、与えられた仕事を全うしていた。
俺は他の勇者たちの為に、その母娘を見捨てることを選択した。
正直、心が痛む。
だがしかし、あの時の泣きじゃくる早乙女の事を思うと、とても助ける気にはなれなかった。
そしてここであの母娘を救うという選択は、間違いなく勇者保護法を緩くする事へと繋がるのだ。
またエウロスの嫡男みたいな馬鹿が湧くかもしれない。
ギームルからの情報では、既に湧いている様子だが……。
俺の返答にギームルが、『そうか』と短く答えたのが気になった。
もっと何か言ってくると思っていたのだが、ギームルは特に何も言わなかったのだ。
「――ふう、なんかモヤモヤすんなぁ……」
「んっ……あのご主人様」
「うん? なにラティ?」
俺の膝元で、鼻にがかった切なげな吐息を漏らしていたラティが、ふと思い出したかのように尋ねてきた。
「あの、先程話して頂いた、ギームル様に言った『全部寄こせ』とは、勇者様に関わる情報の事ですよねぇ?」
「ん? そうだけど? 何でまた? それ以外に無いだろ」
いつもの日課をこなしている俺を見上げながらラティが尋ねてきた。
パレードを終えて急ぎ戻って来た橘は、ラティが早乙女に俺を会わせた事を知り、それに激怒してラティを早乙女の警備から追い出したのだ。
見張りに呼んでおいて追い出すという行動。
ラティにも非があるが、ちょっと身勝手過ぎないかと思わないでもないが、これによりラティが解放されたので、俺的には良しとした。
「他の意図はないですか。そうですかそうですか……」
( ラティさんが二回言った? 何か大事なことなの!? )
撫でているラティの尻尾から、安堵の感情が俺に流れ込んでくる。
どうやら俺の返答は間違いではないらしい。だが何故か、『全く……』といった溜息なような感情も流れてくる。
もっと深く探ろうと、ラティの尻尾をより撫でようとしたが。
「あの、西には向かわれるのですか?」
「あっ……」
ラティが唐突に話題を変えて、さり気なく尻尾を遠ざけた。
するりと手から抜けてゆく尻尾さん。
「ああ、一応、行こうかと考えている」
尻尾さんに逃げられたので、俺は髪と耳を撫でながら答えた。
「んっ、そうですか……あの、サリオさんはどうするのでしょうねぇ」
「あ、ああ……」
サリオはもう俺の奴隷ではない。
今回の遠征ではいつも通り一緒に行動をしていたが、これからはサリオは自由なのだ。
俺たちが西に行くとしても、サリオに強制することは出来ない。
今もサリオは赤城からの依頼により、超強大”アカリ”を作り街を照らしている。
夜通しの馬鹿騒ぎがし易いように、そしてドライゼンをより好印象にする為に、それは行われていた。
「もう一緒に行けないのでしょうか――ッんぅ……寂しいですねぇ」
「ああ……」
――そうだな……
もうサリオとは……何か変な感じだな、
アイツが居なくなると思うと……
俺はその後も日課をこなし続けた。
ラティを撫でながらの報告と相談。そして彼女からの意見に耳を傾ける。
いつもなら葉月辺りが部屋を訪ねて来たりするのだが、今日は早乙女の護衛という事で橘に呼ばれている。今日は来ることは無いだろう。
尻尾さんを再び梳くように撫で、片方の耳をコリコリと撫でながら、もう片方を食むりながら俺は全力で堪能する。
遠征などのゴタゴタで、この日課の時間をあまり取れていなかった。
俺もそうだが、ラティの方もそれに不満を抱いていたのか、いつもよりも甘えてきている気がする。
普段よりも密着した完全完璧頭撫で。
膝に頭を乗せて身体を寄せて来ているので、すねに心地良い柔らかさを感じる。
「ラティ……」
「…………」
堪え切れない熱を込めて彼女の名前を呼ぶ。
その熱に従い、俺は手を髪から首筋に、そして鎖骨の下へと――。
「――あの、人が来ました」
「へ? えええ!?」
俺は心底情けない声音で返事してラティを見る。
ラティの方も残念がっているのか、犬のような耳と尻尾がしゅんと垂れ下がっている幻視が見えてくるほど彼女は残念がっていた。
そしてラティの言う通り、誰か来たのかノックの音がする。
「あ~~、ジンナイいるか? ちょっと会って欲しい人がいる」
「ん? ドライゼンか?」
わっちゃわっちゃしていた部屋にやって来たのは、ボレアス公爵となったドライゼンだった。
ドライゼンはそのまま扉越しに話し続けてくる。
「ジンナイ、俺の妹……ミレイに会って欲しい」
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