もう起きない様に……
デート投票にご協力頂けましたら幸いです。
期間は一週間。
https://twitter.com/2nbZJdWhppmPoy3
早乙女の件は心底ホッとした。
荒木に対しての怯えようから、トラウマが全くない訳ではないが、深刻な疵ではなさそうだった。
少なくとも、身体への傷は無さそうなので本当に良かったと思えた。
しかしそれは結果論でもあった。もっと酷い事になる可能性の方が高かったのだ。
そしてこれは、早乙女だけでなく他の女勇者に降りかかる問題だと思えた。
実際に葉月や言葉も似たような目に遭っている。
だから俺は――。
「ギームル、ちょっと話がある」
「ほう、お前から訊ねて来るか」
俺はギームルを探し出し、そしてヤツを問い詰めたのだった。
「ギームル、ひとつ確認したい。アンタなら知って――いや、把握してたんじゃないのか? 早乙女が囚われているって。だから俺からその話を聞いた時、アンタは特に疑わずに信じたんじゃ? 用心深そうなアンタにしちゃあ不自然だ」
「……ほう」
客間の一室を借り、俺はギームルと対峙していた。
ギームルは俺の問いに対し、僅かに感心した素振りを見せる。
「どうなんだギームル」
「ふむ、誤解がないように先に言っておく。……二割じゃ、二割程度把握しておった。だから確信を持っていた訳ではない。そんな薄いモノで動く訳にはいかなかったからな」
「――ッチ、やっぱりか……」
あの時はバタバタしていて気付かなかったが、いま考えてみると不自然だったのだ。このギームルが俺の話を鵜呑みにするなど。
そしてギームルならば、スパイのような者を使って多少なりとも調べているはずだと。
「で? それをわざわざ確かめに来ただけか?」
「ぐっ、この野郎……」
簡単にそう言ってのけるギームルに、めらりと怒りが込み上げてくる。
だがギームルだけが悪い訳ではない。
俺などは、そんな事一切気にしていなかったのだから。
――くそっ、
俺にギームルを責める資格は無ぇ……
だから、
「ギームル、アンタは前、俺に言ったよな? 『勇者を抑える者』になれだっけか? 確かそんな感じの……。あれって色んな意味が込められているよな?」
「ほう?」
「あれは、勇者絡みの問題を解決しろって事だろ? 今回の件みたいな」
「だとしたらどうする? ――ジンナイよ」
ギームルは俺を試すように言い放ち、目を細め、凍てつく視線にて俺を射貫いてきた。
気弱な者ならば、息でも止まりそうな視線に晒される中、俺は自分の決意を口にする。
「全部寄こせっ! また勇者達が……アイツ等が泣くことがないように、全部俺に寄こせ!」
「ほう? 『全部寄こせ』とは……良いのだな?」
「ああ、アンタなら分かるんだろ?」
完全に言葉が足りないやり取り。
だがこのジジイが相手なら、これで十分だと俺は言い放った。
僅かに笑みを見せるギームル。
コイツの駒になるのかもしれないが、それでも構わないと思えたのだ。
――もう……
もう二度と御免だ、あんなのは……
今回のように、知り合いの女勇者に何かあるのはもう御免だと。
葉月の時と言葉の時はギリギリ間に合った。
だがあれは、事前にその情報を知れたから何とかなったのだ。
もし遅れていたら、アイツ等に何かあったのかもしれない。
そして今回は、たまたま運が良かっただけだ。
荒木にキスをされたかもしれないというだけで、あの早乙女があそこまで取り乱したのだ。
もしそれ以上の事があったのならば、早乙女は舌を噛み切っていたかもしれない。
そして今後も、またその様な事があるかもしれない。
葉月、言葉、早乙女、他には伊吹などにも……
だから俺は――。
「――何か分かったらすぐに寄こせ」
「ふっ、良かろう。全部貴様にくれてやる。まずは……エウロスじゃ。長男に続き次男も亡くなった。どうやら事故があったらしい」
「へ?」
「それでな、三男坊の意向でちと方針が変わったようじゃ。イブキ様はしばらくの間、東には行かせん方が良いじゃろう」
「マジか……」
「どうやらこの前の祝勝会で……まあこれ以上言わんでも分かるじゃろう?」
「くっさらせぇ! マジかよっ!」
――あの祝勝会かっ!
確かにあの時は貴族連中が集まっていたが、
……それで伊吹を?
「それとな、勇者ヤソガミ様にも――」
「あ、野郎連中はいい。野郎は自分で何とかしろだ」
「……ふむ、そこまでいくといっそ清々しいなジンナイよ。では、勇者ではない野郎の方はどうかな?」
「うん? 勇者じゃない方?」
閑話休題
「この建物の中じゃ」
「……ここに入れられてんのか」
俺はギームルに連れられて、のぞき窓の無いトーチカのような建物の前に立つ。
無骨さを感じさせるドーム状の屋根が、この建物の目的を物語っている。
「そうじゃ、この中にフユイシ伯爵が収監されておる」
「フユイシ伯爵が……」
俺はギームルに、フユイシ伯爵に会ってみたらどうかと言われた。
よく考えてみれば一度も面識はなく、それなのに執拗に俺の命を狙ってきた北の大貴族。
何かが得られるとは思えないが、それでも会ってみたいと思った。
一体どんな奴なのだろうと。
「行くぞ」
「ああ……」
出入り口は一か所だけで、警備の兵士にステータスプレートを見せ、俺たちは建物の中へと入った。
飾り気が一切ない廊下を進み、分厚い扉を開けて、俺はフユイシ伯爵と面会する。
「コイツが……?」
約10畳程の真っ白な部屋に、両脚を鎖で繋がれた男が壁際にある椅子に座っていた。
生気のない目をこちらに向け、僅かに身体を強張らせる。
「そうだジンナイ、こやつがフユイシ伯爵だ」
「これが……」
「…………」
フユイシ伯爵の感想を述べるとしたのなら、それは――。
( おい、なんか普通の人……? )
大貴族の一人なのだから、ギームルレベルとまでは言わなくとも、それなりに威厳を感じさせ、オーラ的なモノを放っていると思ったのだが……
( ――なんかその辺に居そうな普通のオッサンだな )
「……ふん、なんだジロジロと見おって」
「…………」
放たれた声にも威厳がなく、見た目の通りの凡人な声。
フユイシ伯爵の印象は、元の世界の駅などにいる、何処にでもいそうなすだれ頭の普通のオッサンだった。
( これが、フユイシ伯爵……? )
「ワシを嘲笑いに来たのか、陣内」
台詞まで凡庸。
本当にその辺に居そうなオッサンなのだが、一つだけ違和感を感じる。
「ワシの息子を殺しただけでは飽き足らず、ワシも殺すのか」
「…………」
俺はその違和感を確かめるべく、黙ってフユイシ伯爵を観察し続けた。
一方フユイシ伯爵の方は、黙ったままの俺が気に食わないのか、そのまま罵倒や愚痴のようなモノを放ち続けてきた。
『お前さえ居なければ』『邪魔をしおって』『くたばれ』『小僧が年寄りに歯向かいおって』『何故ジャアが死んでお前が……』などと、本当に、本当に凡庸な台詞ばかり吐いていた。
だが途中から、とても気になる事をフユイシ伯爵は言い出した。
『何故銃が上手くいかんのだ』『あれも上手くいかんし』『なんでここは違うんだ』と、ブツブツと言い出したのだ。
ギームルはそれを聞いて首を傾げる程度の反応しか見せなかったが、俺にとっては驚きであった。
そして先程気になった、なんとも言えない違和感の正体が判る。
このフユイシ伯爵は、三雲組のハーティと同じ”転生者”なのだと。
愚痴のようにブツブツと言っていた内容は、この異世界で、元の世界の科学技術を再現しようとして、ことごとく失敗したというモノだった。
『強度は足りているはずなのに……』『光が何故……』など色々と。
知らない単語も多かったが、銃を作ろうとして失敗した事と、レンズを作り光を集めるのが上手くいかなかったなど言っていた。
もしかするとフユイシ伯爵は前世で、科学者か技術職に就いていたのかもしれない。
だが話を聞いているうちに、俺は段々とイライラしてきた。
この目の前の男は、ただひたすら不満ばかり吐いているだけ、俺たちは部屋に入ってからほとんど言葉を発していない。
聞きに回って観察してみようとは確かに思ったが、この状況は想定外だった。
これはただ世の中に対し、不満ばかり吐いている酔っ払いと変わらない。
とてもではないが、実は裏で糸を引く者がいるや、何か深い訳があり、その信念のもとに動いていた感じではなかった。
「……こんなのに俺は狙われていたのか」
思わずポツリと漏れてしまう本音。
本当にポツリと呟いた一言だったのだが。
「おおお、お前が! お前がああ! お前がワシのたったひとつの偉業を捕らえたのだろうが! 巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな!」
「――ッ!? 偉業?」
突然激昂するフユイシ伯爵。
叫ぶだけでなく、身体全身を使うようにして吠えていた。
「やっと出来たワシの子供を、我が息子のジャアを捕らえよってっ! どこぞの娘を犯した? はっ、それがどうしたっ! 死んだ訳でもあるまい。それなのに何故殺されなければならない! 巫山戯るな巫山戯るなふざけんなああ! ジャアはやっと出来た子供だったのだぞ! ワシがこの世に残せる唯一のモノになるはずだったのに、それをお前が――ッガゥ!」
激昂して立ち上がり、俺へと詰め寄ろうとしたフユイシ伯爵は、繋がれている鎖に足を取られ前に転倒した。
倒れた時に顔でも打ったのか、鼻から血を流しながら俺を睨みつけてくる。
俺はそれを上から見下ろしながら、『もう出よう』とギームルに声を掛け、その部屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ずっと引っ掛かっていた事があった。
何故フユイシ伯爵は、勇者保護法に引っ掛かるような事や、魔王戦にも非協力的だったのが謎だった。
もし勇者たちが敗北すれば、この異世界が滅ぼされるかもしれないのだから。
そしてほとんど全ての件が、とても上手く行くとは思えない事ばかりだったのだ。
後先を全く考えていないような、要はヤケクソ気味。
そしてその真相は、本当にただヤケクソなだけだった。
やる事が上手くいかず、そして一人息子が死んでしまった為、もうどうなってもいいや的な感じだった。
何ともはた迷惑な、本当に害しかないオッサン。
もしかすると本当は違うのかもしれないが、そんな事はどうでもいいと思わせるオッサンだった。
( あ…… )
ここでふと思う。
フユイシ伯爵家には当初、女勇者の柊が行く予定だと聞いていた。
だがフユイシ伯爵は、女勇者ではなく、荒くれ者の荒木を選んだとギームルは言っていた。
貴族の価値観では女の勇者の方が価値があるはず。
だがそれを選ばずに、男の勇者の荒木を選んだのだ。
もしかすると、単に操り易いから荒木を選んだのかもしれない。
異世界人ではない、転生者だからこその判断。
「……どうでもいいか」
「む? なんじゃジンナイ?」
「いや、何でもない……」
知ったとしても、どうでもよい事がわかった気がしたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
現在某作業中で、ちょっと更新が滞るです;
感想への返信が全部に出来ない状態ですが、全て読ませて貰い励みになっています。
宜しければ、ドンドン感想を頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字も……