――でないと駄目なんです
めんどいのが続きます。
全裸がいた。
夢ならば覚めて欲しい。
だが覚める事はなく、全裸の初代勇者は語り続けてきた。
「世界樹の切り株に来て欲しい。そこで伝えたい事がある」
『前もそんな事を言ってたけど……どうしてまた突然?』
「力が補充されたからな。だから少しだけ余裕が出来たんだよ」
『補充って? へ?』
前回と同じ、夜空に立っているような空間で、俺は初代勇者から語り掛けられていた。相変わらず初代は全裸、俺の方は自分の姿が見えない不思議な状態。
「君が大剣を破壊しただろう? あれには精神の宿った魔石が使われていたんだよ。そしてそれを破壊した時に宿っていたモノを吸収したんだよ、世界樹の木刀が」
『あ~~! あの時かっ』
モロ心当たりがあった。
完全に熱くなっていて気が付かなかったが、確かにあの時、荒木が落とした大剣を破壊した。
反撃に使われないようにと破壊したつもりだったが、まさかそれで再び初代勇者と会う事になるとは予想外だった。
「いいかい? 僕の元に来るんだ。そうすれば全てを話――」
「全てってなん――あ、朝……。――ったく、言い逃げかよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、俺以外のヤツは皆が忙しそうだった。
力によるボレアス奪還なので、街の住民が困惑しないようにと、間を置かずに奪還成功の宣言をする事となっていた。
厳しい情報統制を敷いていた訳ではないので、それなりに情報が流れている。
昨日ガレオスさんと飲み食いした時も、店内はその話題で持ちきりだった。
今回の奪還は好意的に捉えられており、あとはどれだけそれを上げるかだった。
そしてその為のパレード。大勢の勇者に支持される形のパレード、きっとそれは勝ち確定のようなモノだろう。
素人目線だが、これ以上ボレアスが無駄に荒れる事はないように思えた。
不安要素は、要石のような精神が宿った魔石が無いこと。
荒木の発言と、夢に出て来た初代の発言から、精神の宿った魔石が無くなったのは確定だろう。
そして昨日の地上での魔石魔物湧き事件を考えるに、これから魔物絡みでは荒れるだろうと予測出来た。
だが赤城とドライゼンもその辺りは把握しているだろうし、すでに何かしらの対策を考えているかもしれない。
もしかすると、すでに動いている可能性もある。
「はぁ~」
深い息を吐きながら、俺は窓に肘をついて外をぼ~っと眺める。
朝食を済ませ、今は自分の部屋で暇を持て余す。
「来いか……」
間違いなく行った方が良いのだろう。
行けば色々とわかる事もあるはず、特に今回の精神が宿った魔石の件。
もしかすると解決策を知ることが出来るかもしれない。
「やっぱ行った方がいいよな……ん?」
外では大勢の人がわっちゃわっちゃとしている。
これから新領主のお披露目を兼ねたパレードの為か、誰もが忙しく動いている。
そして遠くの方に、葉月と橘の姿が見えた気がした。
彼女たちは勇者なのだから、きっとパレードに参加するのだろう。
ゆうしゃの俺と違って……。
「ハァ~……ん?」
少しいじけた思考に捉われていた時、俺の部屋の扉がノックされた。
一応警戒し、腰に帯木刀して扉を開くとそこには、一人のメイドさんが立っていた。
「え、えっと……」
「んん?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
怯えた様子を隠し切れないメイドから、ラティが俺の事を呼んでいると伝えられた。
必死に目を合わそうとしているが、見えない圧力にでも押されたかのように目を逸らすメイドさん。
もしかすると、荒木との戦いでも目撃されたのかもしれない。
腰に止めてある木刀を、怯えた様子でしきりに気にしていた。
メイドに案内され、俺は早乙女が泊まっている部屋、ラティがいる場所にやってきた。
扉の前で、ラティが一人で待っていた。
( ん? あれ? )
俺の記憶では、女性陣の勇者が張っているはずだと思ったのだが、よく考えてみれば、勇者たちは赤城に頼まれてパレードに参加だった。
「あの、お呼びしてしまって申し訳ありません、ご主人様」
「いや、それは別にいいんだけど……」
俺はそう言って扉の方に目を向ける。
正直なところ、何故呼ばれたのか気になって仕方なかった。
「あの、ご主人様にお願いが御座います」
「うん?」
「どうか、サオトメ様に会ってあげてください。そして……取り払ってください」
「へ?」
ラティからの願いは、早乙女に会って励まして欲しいと言うモノだった。
そしてそれは、今でないと駄目らしい。
橘が居ると、男性は近寄らせてくれなくなるので、パレードに行っていて居なくなっている今しかないそうだ。
そして早乙女は現在もう目を覚ましているそうで、話すことは出来るらしい。
だが、例の件が尾を引いており、今も部屋でふさぎ込み、あまりよろしくない状態だと。
だから俺に励まして欲しいと言うのだが――。
「ラティ、男の俺は……あまり近寄らない方がいいんじゃないか? いつまでもとは言わないけど、今はそっとしておいた方が――」
「――あの、ある少女の話なのですが……」
「へ? うん??」
言葉を遮り、ラティが唐突に語り始めた。
その話とは、ある少女が男たちに襲われたが、すんでのところで助けて貰い、そしてその助けてくれた人に、心も救われたという話だった。
「ラティ……それって」
「あの、その少女は本当にギリギリでした……。でも救われました。だからその少女は拗れることなく、戻ることが出来ました」
ラティは誰かの事を話していた。。
俺は無言の相槌を打ち、その話の続きを促す。
「助けてくれた人。信頼出来る人……好意を抱いている人なら、そういった良くないモノを取り払えると思うのです。いえ、実際にそうでした。――だからご主人様、サオトメ様からも取り払ってあげてください。ヨーイチ様でないと駄目なんです」
「…………」
ラティの言い方は抽象的で、俺以外では首を傾げたかもしれない。
一部を除けば、ラティの言いたい事がよく理解出来た。
そう、一部を除けば……。
「ラティ、言いたい事は判ったけど……何で俺?」
そこが疑問だった。
確かに助けたのは俺とも言えるかもしれない。
だが、助けたのは皆とも言えるのだ。
そして俺は、早乙女にとって信頼が出来る人ではないと思う。
ましてや好意を抱かれているとは少々考えづらい。
全くのゼロとは思わないが、上限が10だとしたら2~3程度の好意だと思う。
だがラティは――。
「あの……わたしから言うべきではないと存じておりますが、あの……サオトメ様はご主人様に好意を抱いております。だから救ってあげてください、あの時のわたしのように……」
「――ッ!?」
――へ? 早乙女が俺に??
いやいやいや、ないよ……ね? いや、あの時……
思い出される様々な記憶。
そして最後のあの記憶。あの時早乙女は俺に縋っていた。
俺に何故か謝っていた、悲痛なほど必死に……。
「…………」
「どうかお願いします、ご主人様」
黙り込む俺にラティはさらに重ねてきた。
ラティは嘘を言っていない、それは彼女の全てから判る。
だから――ラティの言っていることは事実なのだろう。
だが普段のラティならば、ここまで踏み込んで行くことはなかった。
【心感】で解ったとしても、俺が望んでいなければ何も言うことはなかったはず。
だが――。
――ああ、そっか……
葉月の影響か、あの時の葉月の……
この変化の切っ掛けに心当たりがあった。
それは本当につい最近の出来事、あの時ラティは悔しがっていた。
葉月がアゼルに謝罪させ、それによって俺の心が少し晴れた出来事。
それを出来なかった己の事をラティは悔やんでいた。
ただ、早乙女と話す事によって良くなるのかは分からない。
これが正しい事なのか正しくない事なのか。
だがラティが望んでいるのであれば、俺は――。
「分かった、早乙女と話してくる」
「はい、お願いしますご主人様。……それと、少しだけ触れてあげてください」
「へ? 触れるって……えっと、それもその少女の体験談?」
「はい、そうです」
ラティは凛然とそう云い放ち、俺を部屋の中に入れたのだった。
閑話休題
俺は苦笑しながら部屋へと入る。
表情こそは凛々しかったが、ラティから流れ込んでくる感情は全く逆だった。
不安で一杯だったにもかかわらず、それでもと俺の背中を押してくれていた。
「うっし、行くか……」
入った部屋のもう一つ奥の部屋、寝室へと向かう。
女性が寝ている部屋なのだから、まず一声かけてから入る事にする。
「コンコン、すいません陣内ですが……早乙女さんはご在宅でしょうか?」
( なに言ってんの俺ー! )
ちょっと死にたくなった。
ラティに頼まれてやって来たのはいいが、よく考えてみれば早乙女に呼ばれてやって来た訳ではない。
寝室の扉の前でそれに気付き、俺はノックを口で言うというテンパリ気味を披露してしまった。
しかもその後の尋ね方も酷い。穴があったらなんとやら状態なのだが……。
「…………」
返事は無かった。
――あれ、返事がない? ……寝てるとか?
いや、中から物音は聞こえるな、
なら起きてはいるか……
短い逡巡の後、俺は意を決して入る事にする。
『入るぞ』と、一声掛けてから扉を開けて寝室へと入った。
「陣内……」
「……なにやってんだ」
部屋に早乙女は居た。
ただ、ベッドの上で横になっていると思ったのだが、彼女はベッドの上には居らず、ベッドの陰に隠れるようにしていた。
鼻から上、顔の上半分だけ覗かせた状態でこちらを窺っている。
その瞳には戸惑いの色が見えるが、怯えや嫌悪と云った拒絶の色は見えず、俺は一先ずホッとする。
「な、何よアンタ、勝手に部屋に入ってきて……」
弱弱しい声で言う早乙女。
学校の時とは正反対、もっと勝気なイメージだったが今は小動物の様。
まるでリスや子犬がオドオドしているようだった。
「えっと、あ~~、ちょっと話をしに来た。いいか?」
俺はどう切り出したら良いのか分からず、取り敢えずそう声を掛けたのだった。
すいませんっ!
続きは急ぎますので許してくださいっ
誤字脱字など教えて頂けましたら嬉しいです。
あれがアレで忙しくなるので、感想を全て返せなくなりそうです、
申し訳ないです;