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決着の餅つき

急ぎましたよー!

この流れは鮮度が大事ですからね。

一つ前の話に、ちょっと追加があります。

 視界が赤黒く歪む。

 何故俺を求めない。何故俺を拒絶する。


 何故、何故奴には……陣内には縋るっ。



 もういい。

 手に入らぬのなら。奪われてしまうのなら……もういい。


 届かぬ想いなど、砕けてしまえばいい。






 荒木が吼え、世界樹断ちユグドラシルシィーヴァの体勢に入った。

 だが荒木の前には、ヤツを守るように黒獣隊の奴らがいる。

 

 避けられる空間を瞬時に探る。

 薄暗いがとても豪奢な部屋。壁は荒木の世界樹断ちで破壊されているが、一部の壁と天井は崩れずに残っている。


 あの威力の前には、ただの壁など障害物の意味をなさない。

 あれは避けるしかない一撃。ラティとガレオスさんなら上に飛ぶなりして避ける事が出来るだろう。

 だが後ろには、いまだ鎖に繋がれたままの早乙女と、さっきの世界樹断ちの時に巻き込まれたと思われる、メイドらしき女性が二人倒れている。


「もう全部要らねぇええ! 全部消し飛んじまえ”世界樹断ち”!」 


 横薙ぎの一閃。

 全てを断ち切る圧倒的な刃が、俺たちの前に広がった。

 声を発することも出来ずに、黒獣隊の奴らがそれに呑まれる。


 俺は腰を落とし、木刀を掲げるように構える。

 世界樹を伐り倒したと言われるWS(ウエポンスキル)を相手に俺は、世界樹の木刀で迎え撃つ。


 勝算がある訳ではない。

 だがここで、避けるという選択肢もない。

 後ろには早乙女がいる。気を失って倒れている者たちがいる。

 そして何より、俺を信じ、俺に期待している大事な人がいる。


 彼女から感情が流れ込んでくる。

 気概を、期待をと、様々なモノが俺を支え奮い立たせる。

 

 迷うことはない。

 掲げた木刀の切っ先を前方へと向け、覚悟と共に咆哮する。


「リベンジの時だあああ! 穿て世界樹の木刀(ラーシル)!」


 空間を歪めながら飛来する純白の斬撃に、俺は世界樹の木刀を突き立てた。

 

 身体を貫くように激痛が走る。

 指から手首に、手首から肘に、肘から肩と背中に圧倒的な衝撃が駆け抜ける。

 

 指が木刀を握ることを止めようとする。

 腕がもう無理だと信号を送ってくる。

 肩が耐え切れず勝手に外れようとしてくる。

 膝が激痛に挫け、今にも屈しようとしている。

 身体中に振動の波が広がり、首から頭へと諦めが這い上がってくる。

 圧倒的な力が、視界を絶望で埋め尽くしてくる。


 荒木の放った世界樹断ちは、一瞬にして俺を打ちのめした。


「っあ、があ――!?」


 背中に視線を感じる。迷わぬ視線を感じる。

 世界で一番大事な人が後ろにいる。心底惚れた想い人が、俺のことを見つめてくれている。

 微塵にも疑わず、俺のことを見つめ続けている。


――はっ、こんなんで諦めて堪っか、

 好きな女の目の前で、意地を張れないようじゃ――男じゃねえええっ!


 

「――っだっらあああ!」


 諦めや挫け、そういったモノを男の意地で捩じ伏せて、俺は木刀を前へと突き出した。


 空間を歪める程の斬撃が、木刀に穿たれている所から正されていく。

 歪んでいた空間が、綺麗に正されてクリアーになっていき、横に広がっていた純白の斬撃が、突風のような轟音を立てて消し飛んだ。


「は? はあ!?」


 信じられないモノを見たといった表情を浮かべる荒木。

 俺はその荒木へと即座に駆け出す。


 世界樹断ちが防がれた事がまだ信じられないのか、荒木は棒立ちのまま。

 俺がその隙に間合いに入ると、荒木はやっと意識を引き戻し、ようやく大剣を振り上げた。

 多少は慌てた様子だが、その表情は余裕を取り戻していた。

 きっと先程自分を守った支援魔法を信じているのだろう。

 先程と同じように、爆ぜて防いでから、またEXカリバーでもするつもりなのだろう。


 だが、いま俺が握っているのは――。


「っらあ!!」

「――ぐごっ!?」


 刹那の三連撃。

 右脇腹、左肩、右腕の順に荒木を打ち抜く。

 薄い氷でも割ったかのような、そんな手応えが伝わってくる。きっと魔法か何かの防御壁でもあったのだろう。


 顔を大きく歪め、右手から大剣をこぼし、荒木は片膝をついて俺を不思議そうに見上げた。

 『何故防御が発動しない』、と思っているのだろう。


「ふんっ」


 俺は荒木が落とした大剣の腹を木刀で叩き、その大剣を砕きへし折った。

 そして視界の隅では加藤が、荒木に何か強化魔法でも掛けようとしていたが、ラティが音も無く駆け寄り無力化していた。


「この、クズがぁ……」

「クズはてめぇだっ!」


 俺は荒木のアゴを蹴り上げ、ヤツを仰向けに倒す。

 ズカズカと近寄り、俺はヤツの腹にドンと腰を降ろし、馬乗りとなって荒木を見下ろした。


「てめえ、早乙女になにしやがった」

「どけよテメェ、なに俺に乗ってや――っがぁ!?」


「質問に答えろクズ」


 俺は木刀の柄で、荒木の顔面を強打した。

 鼻にヒットしたのか、ヤツの鼻から血が流れる。


「答えろ」

「テメェ、調子に乗ってンじゃ――っぐふ!」


「答えろ」

「テメェ、俺に指示をし――っぎぃ!」


「答えろ」

「うるせぇ――ごうえっ!?」


 眉間、目の下、口の中を木刀の柄で突いた。

 下の前歯が、今の打ち付けで何本かへし折れた。


 口からダラダラと血を流しながら、俺の腹を荒木が叩いてくる。

 それなりに力がこもっているようだが、結局は腰の入っていない突き。黒鱗装束はそれを受け止め切っていた。


「まっへじぃんない。くひが――がああ!!」

「なに言ってんのか分かんねぇよ。しっかりと話せ」


「なにもひてねえ、なにもひてねえよ」

「ああ? 何もしてねえってか? あんだけ怯えさせておいて――てめえはっ!」


「っがあああ、いてえ、まった、まっへ(待って)くれ――がふっ!」


 もはや語る言葉はない。

 俺は無言で木刀の柄を振り下ろし続けた。


「まっへくれ、頼む――いっがああがぃ!」

 

 目の上、眉毛の辺りを擦り付けるように打った。


「わうった。おえがわうかったか――らああが!?」


 アゴを砕くつもりで振り下ろす。


「はなしぇない、はなしぇないから、っおごぼ!」


 喉に柄を押し込む。


「だれかとめへくれ! だれ――がああああああっ」


 前歯を柄で強打し、2本以上の歯をへし折る。


「ゆうひて――あああっ!いがいぃ……」


 俺は淡々と木刀の柄を振り下ろした。

 荒木は流せるモノを全て垂れ流しながら、何かを必死に叫んでいた。

 だが俺はそれを無言で聞き流し、荒木の顔面を満遍なく打ち続けた。





「も、もう……かんべんしてくえ……」


 何分間叩き続けたのか分からないが、爬虫類を連想させる荒木の細い目が、形の悪いジャガイモのように腫れた顔に埋没していた。


「ハァ……」


 少し息が上がり、俺は深呼吸をして息を整える。

 すると荒木が、ここぞとばかりに口を開いてきた。


「わ、わうかった……きょふこにあやまう……。しゃざいすうから……」

「――ああああああ!? 謝罪するだあ!? ふざけんなっ! てめえを視界に入れただけで怯えたんだぞ! それを謝罪だあ!? お前の謝罪なんか毒にしかならねえよ! 二度と姿を見せんな! 近寄ろうと思うんじゃねえええ!」


「っが! まっへ! たのう、もうゆうひてくえ」


 再び火が点いた俺は、連打で荒木を打ち付けた。

 もう叩いてない場所はない、腫れていない所がない顔を、もう一周するつもりで叩こうとした。が――。


「ダンナ、ダンナ! これ以上は不味いって。さすがに死んじゃいますぜぇ」

「陣内っ! もういいだろう! それ以上はやり過ぎだ」


 俺は両腕を、ガレオスさんと八十神に組むように掴まれた。

 顔を上げて周りを見れば、他にも葉月と橘が来ていた。


「ダンナ、もういいでしょう? これ以上は勇者保護法に引っ掛かるでさぁ」


 ガレオスさんの言う通りだった。

 確かにこれ以上やると、俺が勇者保護法違反になるだろう。

 だから俺は――。


「わかった、もう少し加減して殺る」

「ダンナっ!? アンタ全然わかってないだろ! しかも最後の方、なんか殺気がこもってやしたぜ?」

「いい加減にしろ陣内。訳を聞いて見逃していたが、これは見過ごせん」

「陣内! アンタ殺されそうになったからって恨み過ぎよ。由香が言うから黙っていたけど、限度ってもんがあるでしょ? アンタ小さいよ?」



 俺は力を一割程度加減して、柄を振り下ろそうとした。

 腕を掴まれ、周りがぎゃんぎゃん言っているが、俺は強引に腕を振り上げ、荒木の顔面に向かって――。


「ご主人様! どうかお願いがあります」

「……ラティ。……それは今じゃないと駄目な事か?」


 苛立ちを纏った声音でラティに返事をする。


 彼女にこんな声音で返したのは初めてかもしれない。

 だが、それだけ抑える事が出来なかったのだ。

 それだけの事を荒木はしてきたのだ。そしてそれが解らぬラティではない。


  だから、『今じゃないと駄目な事か』と問うたのだが……。


「はい、今でないと駄目です、ご主人様」

「…………」


「どうかサオトメ様を、落ち着ける場所に運んであげてください」

「――えっ?」


 ラティの願いに、俺の思考が一瞬止まる。

 しかしすぐに再起動させ、俺はラティに言う。


「ラティ、だってその早乙女は……その……えっと男っ――異性は近寄らない方がいいんじゃ? だって、その……」

「いえ、ご主人様でなければ駄目です」


 ラティはそう言い切り、腕に早乙女を抱いてこちらに寄ってきた。

 よく見ると早乙女は、言葉(ことのは)に借りた地味なローブに包まれていた。

 彼女の服装を考慮して、ラティがやってくれたのだろう。


 俺は立ち上がり、ラティから早乙女を受け取る。


「ご主人様、サオトメ様をお願いします」

「あ、ああ……」


 早乙女は荒木に、何か良くないことをされたのだろう。

 何をされたのか察したくはないが、彼女のあの態度を見るに、何かが……。


 だから同じ(異性)である俺は、早乙女に近寄らない方がいいはず。

 ラティだけでなく、葉月や橘もいるのだから、彼女たちに任せた方が良いはずだ。

 だがラティは俺を指名した。   


 きっとこれには意味がある。

 この手(・・・)のことを、ラティが軽く考えるはずがない。

 奴隷時代の時や、北原に襲われたラティが軽く見るはずがないのだ。


 だから俺はラティを信用し、早乙女を腕に抱える。

 そしてラティに先導されて俺はこの場を後にしたのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

感想返しを解禁したいと思います。

宜しければ、感想やご指摘、ご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

デート回投票は、11月1日開始予定です。

ガチ勢とネタ枠、同時予定です。



あ、2巻発売します。(予定

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に橘様はぶれねえな、本人は身の危険とか何もなく、 気に入らないってだけで人の事を殺そうとしておいて。 「~アンタ殺されそうになったからって恨み過ぎよ。~」 とか、勇者の中でも特に心の棚…
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