罠あ?
作戦は上手くいっていた。
木刀による地雷撤去からの奇襲攻撃。
全て上手くいったと思っていたのだが……。
「ちぃ、どうなってんだよっ」
「あの、まさか罠でしょうか? ……ですがこの感情は?」
「ぎゃぼーー! 北の魔石魔物さんですかです!?」
――クソっ、
上手くいったと思ったけど、実は罠に嵌められたのかよ、
まさか魔石魔物を湧かせるだなんて……
…………しかし、どうやって?
「野郎ども! 身構えろ、デカブツ共が来ンぞ」
「後衛組、位置取り注意しろ。いきなり後ろに湧くかもしんねぇぞ」
「ホークアイ! 他に魔石を仕掛けてないか探せ」
「分かった。まず後衛の後ろ側から確認する」
俺たちは即座に迎撃態勢へと移った。
フユイシ側の大半は無力化したが、新たな戦力として魔石魔物が加わったのだ。
どんな連携を組んでくるのかは不明だが、決して油断は出来ない。
そしてどうやって魔石魔物を操るのかも不明。
もしかすると、【固有能力】で【魔使】とかそんな感じの、魔物使いのようなヤツがいるのかもしれない。
もし本当にそんなのがいるのならば、そいつを真っ先に押さえなくてはならないと考えていると――。
「あの、ご主人様。なにか様子が変です。もしかするとこれは……」
「ん? ラティ? 様子が変って何が?」
「あ!」
「――がああああああああああああっ!?」
凄まじい悲鳴が上がった。
それは恐怖による悲鳴などという、そんな甘いモノではなく、今まさに生命の危機、命が齧り貪られている者でないと上げられない悲鳴だった。
「お、おい! どういうことだ!? なんで湧かした相手が襲われてんだ!?」
「また行きましたっ」
「ぎゃぼぼおおおお! プ、プスラッターですよです!」
サリオが慌てて間違ったことを言っていたが、今はそれどころではなかった。
二足歩行するワニのような魔物が、束縛魔法によって身動きの取れない黒獣隊の男を、その大顎で頭から齧りついているのだ。
そしてその横では、どう見てもミノタウロスにしか見えない牛頭の魔物が、別の男の首を掴み、力任せに地雷原へと放り投げた。
地雷原へと放り出されたその男は、青い火柱のようなモノを上げて爆散する。
「なっ!? 一体何が!? あれって味方とかじゃないのか?」
「あの、これはもしかすると――」
「――うあああああああああああっ!! 来るな来るな来るなああ!」
悲鳴の上がった方に視線を向けると、そこにはカマキリのような鎌を持った魔物が、悲鳴を上げて身動きの取れない男に襲いかかる瞬間だった。
切れ味の鈍そうな鎌が、身動きの取れない男に振り下ろされる。が――。
「シィィ―ルドバァアッシュ!!」
「小山!」
大盾を薙ぐように振るい、振り下ろされた鎌を弾き返す小山。
「状況はよくわからないけど、でもこれは駄目だ。オラには見過ごせない」
小山は腰を落とし、身動きの取れない男を護る姿勢を見せた。
その背中は、一歩も退くつもりは無いと語っている。
「――っは、さすが熱血系の馬鹿だ。それにこれは相手も予想外のようだな」
「はい、この動揺を見るに、この状況は相手も予想外のようです。……視たところ、これは何も知らない様子です」
ラティの言う視たとは、フユイシ側の兵士の感情の事だろう。
そして『何も知らない様子』とは、事前に何も聞かされていない事を指している。ならばこれは、”事故”なのだろう。
魔石地雷は、本当に地雷として置いただけ。
その魔石が地下迷宮に置いた魔石と同じ現象を引き起こしてしまったのはイレギュラー。本当に予想外の出来事なのだろう。
本来、地上では起きないはずの現象。
精神の宿った魔石が設置されている地下迷宮だけで起きる現象だと聞いている。ならばこれは――。
――ああ、そうかっ!
ああああああっ――くそっ! その石が無いから不安定になったのか!?
そしてこれだけの魔石が置かれて、そんで木刀で霧散させたから……
これは推測だが、筋が通っている気がした。
精神の宿った魔石に何かがあり、そして不安定になったところに大量の魔石が置かれる、そしてそれが霧散して消えていった。
その霧散していった魔石が呼び水のような役目を果たし、そして魔石地雷に魔物が宿る……。
「赤城! 束縛を解除しろ。多分だがこれは事故だ。意図してやった事じゃない、きっと事故なんだ。さすがにこれは寝覚めが悪すぎンだろ?」
「了解した。確かにこれは僕も嫌だな。柊さんも解いてくれ」
赤城と柊は拘束魔法を解除した。
白い花が、淡い光の粒子となって消えていく、それに捕らえられていた者たちは全員自由となった。そして。
「一時休戦を提案する! こんなに魔物が湧いた状態で争っている場合じゃない」
「わ、分かった。確かに争っている場合じゃないな」
ドライゼンの呼びかけに、リーダー格らしき者が同意を示す。
しかし、呼び掛けたのは”一時休戦”。共闘ではないので、俺たちとボレアス側は二つに分かれて応戦した。
こちらとは対岸側、元俺たちがいた方にも魔石魔物が向かい始めた。
アゼルたちが魔石魔物と対峙する。
「あ……」
退くことはなく、果敢に魔石魔物と交戦するアゼルたち。だが旗色は悪く、いま以上魔物が増えると危険だと見えた。
「マズいぞ、アゼルの方が押され――って、あっちは言葉だけか!?」
――ヤバい、裏目った、
誰か助けに行かないと言葉が、
俺たちは言葉だけ残してきた。
地雷原突破は迅速に動かねばならない、少しトロそうな言葉には留守番して貰ったのだ。
アゼル達に任せたが、これは危険だと感じ、俺が向かおうかと思ったが。
「嫉妬組っ! お前らで編成組んで向こう側のフォローを頼む。陣内組単位では動けない、全員で動くと崩れる」
「了解! マスタングリーダーより通達、マスタングゼロゼロからナインナインまで私について来いっ! コトノハ様を守りに行くぞ。 タンゴチームはこの場を死守、ハヅキ様を守れ。ジェラシーワン、お前はミクモ様に付け」
レプソルさんの指示により、謎の連携の見せる嫉妬組。
嫉妬組のメンバーは、陣内組だけではなく、三雲、伊吹、小山組にもいるようで、各自が迅速に動いた。
嫉妬組は、俺が木刀で切り開いた道へと戻る。
だがその道は、立ち塞がるように一体の牛頭がいた。
「僕も手伝う。咲き誇れ! 守護聖剣ディフェンダー! さぁ道を切り開けええ!」
「はああっ!?」
椎名は聖剣の結界を動かし、結界で柵のようなモノを作りあげて、魔石魔物が道に入り込まないようにした。
そして立ち塞がる牛頭の魔石魔物に向かって。
「邪魔だあああああ!!」
なんと椎名は、結界の一つを長細い菱形にして、その上に立ちサーフィンのような姿勢で、そのまま飛んで行ったのだ。
乗っていた結界を魔石魔物に突き刺し、それによって怯んだ牛頭にトドメを刺す椎名。一瞬にして牛頭の魔石魔物を黒い霧へと変えた。
「いくぞっ! シイナ様に続けえええ」
「「「「おおおおおおおっ!」」」」
椎名の後を、嫉妬組が追う形で対岸へと向かっていく。
それはとても頼もしい光景なのだが……。
「アイツ……聖剣を使いこなし過ぎだろ」
「あの、あれがあの方の本来の姿なのかもですねぇ」
「ほへ~なのですよです」
――本来の姿か……
まぁ確かに間違ってないかもな、椎名は学校じゃあそんな感じだったし、
…………ドルドレーとアファって嫉妬組だったのか、
俺はそんな感想を浮かべ、対岸へと駆けて行く嫉妬組を眺めていると。
「ダンナ、行きやすぜ」
「へ? ガレオスさん? 行くってどこに?」
いつの間にかやって来たガレオスさんは、周囲を気にしつつ続きを話してきた。
「この混戦に乗じて行きやしょう。サオトメ様が囚われている可能性がある場所はアゼルから聞いています。それにあっちも行くようですぜ」
「へ? ドライゼンと蒼月?」
「アカギ様はここから動けないようですから――」
ガレオスさんは手短に説明してくれた。
要はこの混戦のうちに、二つの目的を果たしてしまおうと言うのだ。
一つは早乙女の保護。
もう一つはフユイシ伯爵の確保。
少しシビアな判断だが、公爵令嬢であるミレイの保護は後回しらしい。
そして広範囲束縛系魔法が使える赤城はこの場に。柊も当然この場に待機。
全体の指揮はレプソルさんが執り、割ける戦力だけで動くとなったのだ。
「――じゃあ赤城、サリオを頼むぞ」
「ああ、彼女は切り札だからな。それにノトス公爵の妹さんだしな」
「まかせるですよです! ジンナイ様も頑張るです」
俺はこの場を他の者に任せ、早乙女が囚われているであろう場所へと向かった。
いま、俺と一緒にいるのは5人。
ラティとガレオスさん、それと伊吹組の3人だけ。
広い敷地を俺たちは駆ける。
先頭は俺、魔石地雷があったとしても、世界樹の木刀があれば対処が出来るから。
「あ、見えてきやした。たぶんあの建物が――あ!?」
「アイツは……」
ガレオスさんが示した建物の前には、武装した集団が待ち構えていた。
黒色で統一された鎧、そのうちの一人は、身の丈までありそうな大剣を構えながら俺を睨んでいた。
「陣内ぃぃ! ここで勝負だああああ! てめぇをぶっ殺してやるっ」
そう宣言してきたのは、漆黒の鎧を身に纏った勇者荒木冬吾だった。
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